Interview & Report

RakutenFWT 2020 S/S & A/Wキービジュアル制作スタッフ 座談会

RakutenFWT 2020 S/S & A/Wキービジュアル制作スタッフ 座談会 佐野方美 / 小山田孝司 / 進藤郁子

佐野方美/フォトグラファー 小山田孝司 /スタイリスト 進藤郁子(SHISEIDO)/ヘア&メイクアップアーティスト

佐野方美/フォトグラファー
「写真新世紀」にて2000年度 優秀賞を受賞、同年フォトグラファーデビュー。ポートレートやファッションを得意とし、エディトリアルや広告、近年はMVなど映像も手掛けている。自身で撮りためたランドスケープやスナップなどを中心にまとめた写真集「slash」を2017年に月曜社より発表、展覧会も開催するなど、表現活動も精力的に展開している。KiKi inc.所属。

小山田孝司 /スタイリスト
1985年埼玉県生まれ。ドレスメーカー学院 ファッションビジネス学科卒業。
在学時よりファッションディレクター山口壮大氏に師事。学院卒業と同時に高円寺キタコレ「はやとちり」を後藤慶光と立ち上げる。現在は、国内外の雑誌を中心に広告・カタログ、アーティストのスタイリング等、幅広く活躍中。ザ・ボイスマネージメント所属

進藤郁子(SHISEIDO)/ヘア&メイクアップアーティスト
2007年入社、資生堂トップヘアメイクアップアーティスト。資生堂によるプロのヘア&メイクアップアーティスト育成スクール「SABFA」卒業。
ファッション誌や美容誌、ルックブックの撮影や、ニューヨーク、パリ、東京でのコレクションのヘアメイクのほか、美容師向けのセミナーなど幅広く活躍。資生堂のブランドでは「マジョリカ マジョルカ」を担当し、宣伝広告のヘアメイクや商品開発に携わる。
東京のストリートファッションなど、感度の高いミレニアル世代から支持されるヘアメイクに定評があり、多くの女優やタレントから指名での依頼を受けている。また、「ジャパン・ヘアドレッシング アワーズ(JHA)」をはじめとしたさまざまなヘアコンテストで賞を獲得し、国内外のヘアショーにも多数参加。

佐野方美/フォトグラファー
[ Website ] https://www.masamisano.com/

[ Instagram ] https://www.instagram.com/ggsanoo/

[ Twitter ] https://twitter.com/sanomasamisano

小山田孝司 /スタイリスト

[ Website ] https://kojioyamada.com/

[ Instagram ] https://www.instagram.com/oyamadakoji/

進藤郁子(SHISEIDO)/ヘア&メイクアップアーティスト

[ Website ] https://hma.shiseido.com/jp/member/shindo/

[ Instagram ] https://www.instagram.com/ikukoshindo/

河村康輔氏ディレクションのもと、2シーズンにわたって同じメンバーで制作されたRakuten Fashion Week TOKYOのキービジュアル。先日の河村氏インタビューに続き、今回はフォトグラファーの佐野方美氏、スタイリストの小山田孝司氏、ヘア&メイクアップアーティストの資生堂・進藤郁子氏の3名に、キービジュアル制作の背景や、シューティングにおけるスタッフ間のコミュニケーション、ランウェイショーにおけるスタイリストやヘアメイクの役割などについて語ってもらった。 [実施日:2020年2月21日]

皆さんには2020 S/Sと2020 A/Wシーズンのキービジュアル制作にご協力いただきましたが、まずは今シーズン(2020 A/W)の高橋ララさんをモデルとして起用したビジュアルのお話からお聞かせください。

佐野: 今回は、明るい絵が欲しいというオファーや、河村さんのアナログコラージュが後から加わるという前提があったので、抜けが良い場所で昼間にロケ撮影をしようというところから考えを膨らませていきました。その中で、匿名の惑星に異星人が降り立つというストーリーを設定し、小山田さん、進藤さんには、「美しすぎる異星人」というキーワードをお伝えしたんですよね。

小山田: スタイリングに関しては、キービジュアルが渋谷の街にたくさん展開されることを想定した時に、インパクトがあってシンボリックなアイテムがほしかったので、東京タワーのようにも見えるリトゥンアフターワーズのヘッドピースを象徴的に使うことにしました。

進藤: このヘッドピースのインパクトがとても強かったですね。また、最初の段階では、河村さんのコラージュがどのような形で入るか想像ができなかったので、ヘアメイクの落としどころは少し迷いました。ヘッドピース同様にアヴァンギャルドな方向性にするべきか、あるいはエレガントな方向がいいのかを皆さんと話し合い、最終的には目元に赤のポイントを効かせたメイクにすることになりました。

小山田: 一方でムービーの方にはもう一人の登場人物がいたので、こちらはよりスペーシーな感じにしようと考え、バルムングドレスドアンドレスドのアイテムを組み合わせています。

佐野: 前シーズンのビジュアルでもアナログのビデオテープなどが小道具として使われていましたが、今回のムービーでは自分も小さい頃から見てきたVHSのような質感を出したくて、初めてHi8を使って撮影しました。進藤さんのメイクは強さがあるので、今回のような荒い画像とも相性が良いんですよね。

進藤: ありがとうございます。メインビジュアルが寄りのカットになったことは少し意外だったのですが、あのヘッドピースにすっかり心を奪われていたので、これはこれで良いと感じたし、ムービーにも佐野さん節がしっかり入った面白い仕上がりになりましたね。

小山田: そうですね。今回は河村さんのコラージュがどうなるのか想像ができず、そこが逆に楽しみだったのですが、あれだけ造形的なアイテムの見え方が、コラージュによって大きく変わったことがとても新鮮でしたね。

安藤ニコさんを起用した前シーズンのビジュアルについてはいかがでしたか?

佐野: この時は河村さんの方で、いつもの平面コラージュではなく、空間自体をコラージュしたいというアイデアがありました。その中で、VHSのビデオテープやブラウン管などを起き、さらに河村さんの映像作品を投影するという環境で撮影することになったんですよね。

進藤: そうでしたね。映写機で投影された映像がモデルの顔に当たった時にどう見えるのか、ということがメイクのポイントになりました。色味で考えていくと想像がしづらいところがあったので、その辺は現場で見ながら調整することにして、事前のミーティングの段階では、色味よりも艶っぽい質感を重視しようという話をしていました。

小山田: スタイリングでも映像が投影されることを想定して、白っぽい服やリフレクターなど反射する素材を使うということは事前に決めていました。ブランドとしては、ボディソングをメインで使い、そこにソマルタのボディスーツを合わせることにしましたが、たぶんこの2つのブランドを組み合わせて着る人はあまりいないんですね。僕は、相反するものをミックスするというのを常にスタイリングのコンセプトにしていますが、新旧のメディアが入り混じった撮影のテーマともピッタリ合致したなと感じました。

佐野: 2シーズンとも、制作チームみんなが河村さんの頭の中にあるイメージを汲み取っていったところがありましたよね。これまでも一緒に仕事をしてきた間柄で、こう投げかけたらこう返してくれるだろうという安心感があったからこそうまくいったのかなと感じています。

今回のキービジュアルでは河村さんによるクリエイティブディレククションのもとでのシューティングになりましたが、普段皆さんが手がけられているシューティングの流れや、スタッフ間でのコミュニケーションで重視していることなどを教えて下さい。

小山田: 撮影の目的によリますが、例えばファッション誌などの場合、洋服を見せることが目的になるので、スタイリストが最初にアサインされることが多いですね。そこからフォトグラファーらと打ち合わせをして大まか方向性を固め、それをヘアメイクの方にも共有するという流れになります。

進藤: 特殊メイクやウィッグなどが必要になる場合は私たちも早い段階で打ち合わせに参加しますが、それ以外の時は当日やその少し前にイメージを共有し、あとは現場で調整をしていきますね。

小山田: 僕の中で撮影のスタッフというのは共犯者というイメージなんです。例えば、あるスタイリングの中で絶対にここは見せたい部分があった時、それをフォトグラファーが切り取ってくれたりするとテンションが上がります。過去に佐野さんとご一緒した全6、7カットの撮影の時、4カット目にあえて変な洋服を入れたのですが、それにすかさず食いついてくれました(笑)

佐野: あの時は私もテンションが上がりました(笑)。洋服のことに限らず、何かしらスタッフ同士で通じ合えるものがあると撮影も楽しくなりますし、現場でもスタイリストがその洋服をどう見せたいのかということなどを撮りながら探っていくように心がけています。

一口に撮影と言っても、ファッションから音楽、広告までさまざまな分野があると思いますが、特にファッションシューティングにおいては、どんなことがポイントになるのでしょうか?

佐野: 私の場合は大きな考え方はどの撮影もそう変わらず、オーダーに対して自分ができること、やりたいことをいかにすり合わせていくかを考えていますね。例えば、ファッションブランドのルックブックの撮影などでは、まずデザイナーのイメージやシーズンテーマがあり、それらと自分のアイデアをすり合わせて、新しいビジュアルをつくっていくことを意識しています。

進藤: ファッションの撮影では、洋服とヘアメイクの関係性に調和が求められているのか、それともコントラストを出した方がいいのかをまずは確認するようにしています。今回のような機会では、無難にキレイなヘアメイクにするよりは、自分の中でチャレンジをしていきたいという思いがありますが、とはいえ求められていないところでエッジを立たせて、ヘアメイクが前に出過ぎてしまうのはあまり良くないですからね。

佐野: 少し話が変わりますが、私が最初に進藤さんと仕事をしたのは、加藤ミリヤさんの撮影だったんですね。進藤さんが過去に手がけていた彼女のメイクが大好きだったのですが、初めてご一緒した仕事もとても感動的な仕上がりになりました。先ほどお話ししたルックブックの撮影にしても、このようなミュージシャンの撮影にしても、単独で何かを決めていくということはなく、チームで話し合いながらつくることがほとんどです。そうしたディスカッションから生まれるものはたくさんあるし、好きなブランド、アーティスト、スタッフとの仕事ほどアイデアが出てくる気がします。

小山田: スタッフ間のディスカッションにつながる話ですが、スタイリストには通訳という役割もあるのかなと思っています。例えば、ルックブックの撮影では、デザイナーが表現したいことを汲み取って、ヘアメイクの方にイメージを伝えることもあるし、ランウェイショーのオーディションで、ブランドの世界観に合うモデルを提案したりすることもあります。

進藤: 最近は信頼するスタイリストさんと一緒にショーの見せ方を考えるデザイナーさんも増えていますよね。ヘアメイクの方向性にしても、デザイナーさんがスタイリストさんらとともにつくりあげた世界観や表現したいテーマに対して、色々提案をしながら落としどころを探っていくことが多いですね。

ショーのヘアメイクは、どのような流れで進めていくのですか?

進藤: 資生堂の場合、約40人のアーティストが在籍していて、普段は別々で行動していますが、ショーの時だけはチームになります。その中で、チーフになる人がデザインの方向性を決めるわけですが、実現させたいヘアメイクイメージのディレクションとともに、チームのヘアメイクスタッフのそれぞれの役割分担を考えたりムード作りなどの面でも、チーフの力量が問われます。

小山田: 東京のランウェイのヘアメイクは、ヘッドピースなどを使ってつくり込んだものが多い印象があります。例えば、和装でも大きな髪飾りをつけたり、頭を大きく見せるようなところがありますが、そこから影響を受けているのでしょうか。

進藤: 統計的に見ると、実は日本のランウェイショーも圧倒的にナチュラルなヘアメイクが多いのですが、一方で加茂克也さんのような独創的な表現をされる方もいて、その印象が強いのかもしれないですね。これは洋服のスタイリングなどにも言えることですが、ヨーロッパではエレガントでクールなスタイルが好まれる一方で、日本はレイヤードやミックススタイルが得意で、その背景にはアニメなど独自の文化も影響しているのかなと個人的には思っています。特に私たちより下の世代は、ヨーロッパの文化やファッションへの憧れがそこまで強くないからこそ、今後は日本独自のヘアメイクというものがより多く生まれてくるのかもしれないですね。

Interview by Yuki Harada
Photography by Kenji Kaido

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