Interview & Report

ヘンリック・ヴィブスコフ

ヘンリック・ヴィブスコフ Henrik Vibskov/「HENRIK VIBSKOV」デザイナー

AmazonFWT 2018 S/S参加ブランド

1972年デンマーク出身。2001年セントラル・セント・マーチンズを卒業。彼のクリエイティブな才能はファッションのみならず音楽や映像にまで渡り、在学中からフィルム作品を手掛け賞を取るなどその名を轟かせていた。ロンドンのTHE FUTURE MAP EXPO、NYのSOTHEBY GALLERY, PS1-MoMA、パリのPALAIS DE TOKYO など幅広く作品を展示しており、ロンドン、コペンハーゲンを拠点に2002年よりロンドンファッション・ウィーク、現在はパリファッション・ウィークにおいても作品を発表。フランスのイエール国際モードフェスティバルでは、デンマーク人として初選出されている。現在ではパリファッション・ウィークをはじめ、海外での印象的なインスタレーションや空間作りでもよく知られている。パリファッション・ウィークの公式スケジュールでショーを行う唯一のデンマーク人デザイナーである。

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遊び心あふれるクリエーションやポップなテキスタイルなどで日本にも多くのファンを持ち、アートや映像、音楽など幅広い分野で創作活動を行っているデンマーク出身のデザイナー、ヘンリック・ヴィブスコフが、Amazon Fashion Week TOKYO 2018 S/Sに参加し、ヒカリエホールでランウェイショーを開催した。日本では初めてとなるショーを、建築現場の作業員をランウェイに登場させるというユニークな演出で見せたデザイナーにインタビューを行った。

 

HENRIK VIBSKO

日本に来るのは今回で何回目ですか?

もう10回くらいは来ていると思います。最初の来日は、セントラル・セント・マーチンズを卒業してすぐの頃で、それ以降、仕事で何度も訪れています。今回は家族も一緒に来日していて、今回のショーにも招待しましたが、1年前のパリでのショーの時に、会場に来ていた息子がキャットウォークを走り出してしまったことがあり(笑)、今回は後ろの列に座らせました。 私はデンマークでカフェも経営していて、そこでアイスクリームも売っていますが、子どもたちが私の仕事をデザイナーではなくアイスクリーム屋さんだと思っていた時期もあったので(笑)、子どもたちにショーを見せるのは、父親がどういう仕事をしているかを肌で感じてもらう良いきっかけになると思っています。

 

今回、東京でファッションショーをすることになった経緯を教えてください。

ちょうど東京のファッション・ウィーク直前の時期に、金沢21世紀美術館で行われる「日本・デンマーク外交関係樹立150周年記念展」の関連プログラムでインスタレーションをすることが決まっていました。その後、せっかくならファッションショーもしようということになりました。日本では以前からさまざまなお店で商品を取り扱っていただいていて、ブランドにとって非常に大事なマーケットでもあるので、しっかりと自分たちの存在をアピールするためにも、多くの人たちにお越しいただく機会をつくるべきだと考えました。

 

先日ヨーロッパで発表された2018春夏コレクションを、改めて日本でプレゼンテーションするにあたって、どんなことを意識しましたか?

すでに発表していたコレクションを再構成するという難しさはありましたが、以前に東京の街を歩いている時に、あるアイデアが浮かんで・・・。それは、工事現場で働いている方たちにランウェイに出てもらうというものでした。モデルなどファッションの世界の人たちと、業界には縁遠い一般の人たちを同じステージに上げることで、お互いの違いを認めつつ、リスペクトし合うということができないかと考えたのです。

 

工事現場で働いている日本の人たちというのは、普段ヨーロッパで暮らしているヘンリックさんからすると新鮮に感じられたのですか?

そうですね。工事現場で働く方たちが着ている作業服というのは、非常に日本的なものだと思いますし、とても興味があります。同時に、タイプこそ違えど、ファッションというのはある意味ユニフォームを着ているようなところもあるので、それらを共存させてみたいという考えもありました。以前から、プレスやバイヤーなどファッション業界の人たちだけに向けてショーをすると、得てしてつまらないものになってしまうと感じていたので、今回はより幅広い観客に楽しんでいただきたいという思いから、このような形でショーをすることにしました。

 

初めて東京でランウェイショーを行った感想を聞かせてください。

会場にお越しいただいた方たちの反応は非常にポジティブなものでした。そして、何よりも感心したのは、ロジスティクスから演出に至るまで日本のチームのみなさんが非常に協力的なことで、プロダクションをスムーズに進めることができました。いつもショーを行っているパリよりもずいぶん気持ち良く仕事ができたと思います(笑)。

 

今回のコレクションは「睡眠」がテーマになっているそうですが、その理由について教えてください。

以前「エクササイズ」をテーマにショーをしましたが、その時にあるパフォーマーがステージ上で眠ってしまったんです。会場に最初のお客さまが入ってきてからショーが始まるまで1時間半ほど時間があったのですが、その間パフォーマーたちは横になった状態で待機している必要があり、そのまま眠ってしまったんです(笑)。この出来事がきっかけとなり、チームのみんなで眠るというのはどういうことなのかということをさまざまな角度から考え、それをコレクションに落とし込んでいきました。

 

毎シーズンのテーマも、このような出来事がきっかけに生まれることが多いのですか?

そうですね。ファッション業界は非常にサイクルが早く、パンケーキを焼くように次々と新しいアイデアやアートワークを出していく必要があります。その中で、このような進め方が自分には合っていると感じますし、明確なテーマがあると、こうしてコレクションについてお伝えする時にも、みなさんに楽しくお話しすることができます。私が教育を受けたセント・マーチンズでもコンセプトの大切さを教えられてきたので、その影響も大きいと思います。現在は私も学生に教える立場にありますが、彼らにもどうしてこのような表現に至ったのか、その理由をしっかり説明できることの大切さを、自分の経験をもとに伝えています。

 

毎回プレゼンテーションに工夫を凝らしていますが、ブランドにとってランウェイショーはどのような場だと考えていますか?

ひとつの空間に1000人以上を集めて、音楽や照明、演出などを通してクリエイティビティを表現するショーというのは、ファッション業界ならではのものですよね。例えば、家具などのプロダクトを発表するためにこのようなプレゼンテーションをすることはないですし、ファッションの世界ならではのこの表現方法が私はとても好きです。すでに長年クリエーションを続けてきていますが、常に自分を鼓舞し続けていかなければ、表現はつまらないものになってしまいます。そうした点でもファッションショーは非常に大切な機会になっていますし、今回のように一般の人たちを巻き込んだり、ステージ上に大きな造作物を設置したり、毎回さまざまな方法を考えながら新しい挑戦を続け、自分のパッションを表現していきたいと考えています。

 

 

ヘンリックさんはファッションに限らず、さまざまなフィールドで活動されていますが、今後クリエイターとしてやってみたいことなどがあれば教えてください。

したいことは山ほどあります(笑)。私は、常に10くらいのプロジェクトを同時進行していて、最近ではバレエやオペラの衣装をつくったり、日本の金工職人とコラボレートしたプロジェクトなどを進めています。また、自分たちのスタジオを移転するという大きなプロジェクトも控えていますし、エキシビションや音楽活動などもありますね。もちろんコレクションの発表も続けていきますし、常にさまざまなプロジェクトが並行して進んでいることが自分にとっては心地良い状態です。自分のブランドを始める時にセント・マーチンズの恩師から「少なくとも10年間は続けなさい」と言われました。ブランドを認知してもらい、お客さまを獲得するためには最低10年はかかるということでしたが、気づけばもう15年以上ブランドを続けています。今もこの仕事が好きですし、自分が楽しめている間は続けていきたいと考えています。

 

HENRIK VIBSKO

 

Interview by Yuki Harada
Interpretation by Aiko Osaki

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