Interview & Report

Kazuhiro Takakura

Kazuhiro Takakura 高倉一浩

@IZREEL

神奈川県出身。大学卒業後、(株)ワールドに入社。営業や生産、MDを担当する。2003年5月にブランド設立。2007年9月JFWにデビュー。当時はレディスも展開していたが、後にメンズのみにフォーカス。現在、古着のリメイクブランド、フェイカーも手掛ける。

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力強くてセクシー、モードなのに程よく男くさい服。国内外で高い評価を得ているメンズブランド、@IZREEL(イズリール)を手掛ける高倉一浩さんは大手アパレル出身。さまざまな実体験を重ねながら、ブランドビジネスの本質を追求する彼のインタビューは、これから自分でブランドを立ち上げようと思っている人や、壁にぶつかっている人も必見。

高倉さんがデザイナーになろうと思ったきっかけは?

高倉:理系の大学に通い、新卒でアパレルに就職しました。最初は営業をやって、希望を出して生産に異動し、MDへ。常に作るものと、自分が本当に欲しいもののギャップを感じていましたね。でも、選んで貰った以上は、会社の役に立ちたいと思っていたので、すぐ辞めようとは思いませんでした。11年間働いて、ある程度ビジネスの全体像が見えてきたところで独立。退職する2、3年前からブランド設立を意識して、いろいろなケーススタディをしていました。

 

@IZREEL(イズリール)というブランド名の由来は?

高倉:”Is Real”というスラングで遊んだ造語です。洋服のリアリティを素直に出したかったし、大手のビジネスに対するアンチテーゼでもあった。素材にこだわり、手間を惜しまず、売れるかどうか分からないけど、ただ美しいものを作りたい。そう考えたとき“リアル”というキーワードは絶対外したくなかったんです。以前よく言われていた、現実的に着易い服を意味するリアルクローズではなく、自分がお店に行って上代で買いたいかっどうかという方の “リアル” です。

ブランドコンセプトを教えてください。

高倉:定義は東京ラグジュアリーストリート。もう20年以上も前の事ですが、僕が10代後半から大学生だった頃は、古着がとても流行っていて、僕もデットストックのヴィンテージを探したり、集めるのが大好きでした。でも、社会人になると古着を着て会社に行く事はできないから、当然ジャケット、パンツ、ネクタイというスタイリングに。そこでドルチェ&ガッバーナやアルマーニ、ヴェルサーチなど、イタリアのハイエンドブランドとの出会いがあった。そういうのを数年間、たくさん買って着続けていました。アメリカの古着に感じる土っぽいものと、モードにある洗練されたセクシーな匂いっていうものの両方に、ある一定の期間に渡って深く関わったことによって、東京の良さに気付いたんです。この街のストリートとラグジュアリーを掛け合わせたミックスカルチャーは世界1。結構思い切ったことをするのが東京らしく、面白いと思いました。

ヴィンテージのネクタイを解体して、シャツのパーツにしている。量産できる1点ものをコンセプトに作製しています。(高倉さん)

出展審査の厳しいブレッド&バターやピッティ・ウオモにも積極的に参加していましたが、海外と日本でどんな違いを感じましたか?

高倉:海外のバイヤーが買い付けるのは “ブランドらしいもの”、日本のバイヤーは “売れるもの”。海外のバイヤーはオーナーバイヤーが自分の責任で判断して、その場でオーダーする。日本の大手企業のバイヤーはサラリーマンなので、オーダーを持って帰って、発注をファックスしてきます。どちらが良い悪いではなく、全然やり方が違います。

 

海外の展示会に出たことによって、どんなメリットがありましたか?

高倉:ミラノのダントーネ、フィレンツェのルイザ・ヴィア・ローマ、香港のハーヴェイ・ニコルズやLAのエイチロレンゾなど、一生懸命やっていたときは海外の取引先が20件ほどありました。しかし、それがあまり日本のビジネスに反映されなかった。要は向こうで売れて完結なんです。一方で、日本のバイヤーは完全に成熟している。皆さん自分で選べるんです。先ほど日本のバイヤーが“売れるもの”を買い付けると言いましたが、都内のセレクトショップのバイヤーは、海外で通用しているブランドだからといって、安易に飛びつくこともない。だから物を作っている立場としては、日本のバイヤー向けに分かりやすい行動をしないと、日本のビジネスは大きくならないというのを途中で感じて、それで東コレに参加しようと思ったんです。

高倉さんが今、夢中になっていることはありますか?

高倉:ゴルフです。もともとスポーツが好きなんですが、ゴルフは下手でも、やったことが点数で出る。性格的に数字で縛られるのが好きなんです(笑)。年間100ラウンドくらい回っていて、打ちっぱなしにも行っているので、週2、3日はクラブを握っている計算になるかもしれません(笑)。
ゴルフはビジネスの側面からも注目しています。日本の消費は今、完全に成熟している。場面が設定されていないものの消費は、もう低価格しかないんです。お金を貯めてロレックスやベンツを買おうと思っている人は、最近あまりいない。それよりも、釣りとか、ゴルフとか、パーティとか、オケージョンのはっきりした場面での自分のドレスアップや楽しみっていうことには興味がある。世の中全体を見ると、僕がやっているハイストリートファッションっていうのは、正直売れていない。これからガンガン売れるとしたら中国など、これから目覚めていく国しかないと思うんです。
2011年春夏から、イズリールのゴルフウェアをやります。「普段はちょっと……」というインパクトのある服も、ゴルフでなら着られるから。しかも、デザイナー本人がゴルフをやって、上手じゃないと説得力がない。自分がゴルフを徹底的にやって大好きになって作ったもの、というのが僕にとっての “リアル” なんです。

注目している人は誰ですか?

高倉:石川遼さん。若いのに出来過ぎでしょう(笑)。同じ時代を生きているクリエイターにトムフォードやマルジェラがいますが、僕は彼らと同じレベルで仕事が出来るというプライドがなければ、この仕事をやってはいけないと思う。きっと彼らは僕の作品を見て嫉妬しているに違いない、と思えるくらい(笑)。事実はどうであれ、気位として、今やっている自分の仕事にケチをつけないことが大切。日本のデザイナーだから海外のデザイナーよりも下で、売れているブランドだから云々……と、自分で自分の序列を決めないこと。屁のツッパリですよ(笑)。

 

今後、どんなブランドにしていきたいですか?

高倉:イズリールという鋭い存在感を活用してマスビジネスをしたい。たくさんの人に自分が美しいと思うものを広めていきたいので、”器” と “人” を持っている企業とのタイアップや、業務提携といったチャンスがあれば積極的にやっていきたいです。

すでに具体的に進んでいる業務提携の話はありますか?

高倉:2011年春夏からザ・スーツカンパニー(青山商事)とディレクションの契約をして、コラボレーションスーツを限定販売します。それと同時に、ザ・スーツカンパニー内にあるプライベートブランドのデザインもやることになりました。スーツは上下で¥28,000くらい。すごくいい素材を使って、パターンはこちらから出して、いい工場で作っている。ザ・スーツカンパニーの生産背景を持って出来るスーパープライスですよね。今の時代、安くていいものは当たり前。僕らのように、安くできないものを作っていくとしたら、値段は高いかも知れないけどここにしかないとか、どうしても欲しいとか理由のあるものしか通用しないし、逆にいうと、中途半端な「安けりゃいい」とか「この程度でいいだろう」的なものも絶対に通用しない。完全に品質が保たれた上で、それに見合う以上のびっくりプライスが付いていて、さらにプラスアルファが求められていると思います。ザ・スーツカンパニーのお客さんはプライスから入ってくる若い人がメインで、きっとイズリールを知らない人がほとんど。そういう人に知ってもらってどういうチャンスが生まれるかが楽しみです。
よく驚かれるのですが、イズリールは僕含め社員2人、ショップ(渋谷パルコ)のバイト3人のとても小さな会社。単に物を仕入れて売るのではなく、自分のソフトを切り売りしていくことが、デザイナーとして生きて行く一つの手段だと思います。

もっとたくさんスタッフがいそうなイメージでした!

高倉:よく言われます(笑)。昔は雑誌に載せるためにいわゆるショールームにプレスをお願いしていたんですけど、今はもう直接スタイリストさんたちも来てくれるので、やめてしまいました。経費は押さえたいので、自分たちで出来ることは自分たちで動かないと。コレクションはお金をかけてやりますが、他は体裁なんて気にしなくていいでんすよ。今42歳ですが、独立した一社会人として思うのは、途中つまらないプライドがあったらやっていけないということ。決してヤケクソになるということではなく、何が来てももう大丈夫っていう感じです。

 

まさにアニキ肌!慕われていそうですね。

高倉:イズリールの顧客は “自立した男” が多いように思いますが、”自立したい男” も寄っておいで、という感じです(笑)。僕の服が着る人の気分を盛り上げたり、勇気を与えることが出来たら素晴らしいと思う。この立場で仕事をする使命ってそこなんですよね。大きく言えば、世のため人のため的な解釈に繋がるんですけど。結局一貫した自分の使命感がないと、自分がやる意味がないし、お金を稼ぐ理由もない。ただお金を稼ぐってなると、必ずどこかで折れちゃうんです。それを他の人にも伝えるっていうのは、使命が見つかった人の責任。ファッションビジネスはファッションを通じた人間ビジネス。コミュニケーションが最も大事だと思っています。

最後に、まもなく発表される2011年春夏コレクションについて、少しだけ教えてください。

高倉:テーマは聚楽(じゅらく)。戦国武将など昔の人たちは、和よりも洋に対する憧れが強くて、かなりやんちゃな衣装や物が好きだったらしいんです。今回表現したいのは、その時代にある荒々しい豪華さ。今の日本のファッションにおいては決して主流ではないけれど、男の本心には強いものとか、豪華なものに憧れるところが必ずあると思うんです。ただ、今はそれをあからさまにすることができないから、蓋をしているだけで。それをちょっと開放して、思い切ったことをすることで前が拓ける! というメッセージに繋がって行きます。US ラグスやニューエラの別注アイテムもお楽しみに!

INTERVIEW by YUKI MIURA

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