Interview & Report

「香川手袋」 ラボ展 2016A/W Collection -疾駆-

「香川手袋」 ラボ展 2016A/W Collection -疾駆- レポート&インタビュー

MBFWT 2016 A/W [RELATED EVENTS - Other]

日本有数の手袋産地である香川県東かがわ市で、2014年に誕生した「1888手袋ラボ」。
手袋が持つ可能性と手袋の未来を考えるプラットフォームとして、歴史のなかで培われた技術をベースに感性を磨き、実験的な活動を行い、常に革新的なものづくりに挑んでいる。

※疾駆:従来の“シック”ではなく、既成のディテールを洗練し、過剰にアレンジしていくことで、トレンドに寄り添いながらもmade in KAGAWAらしい物づくりの未来を示す実験的な表現。

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香川県東かがわ市を中心とした手袋企業有志によって、2014年に結成された「1888手袋ラボ」による実験的な手袋ブランド「香川手袋」。この春、3シーズン目を迎え、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 A/Wと連動して、渋谷ヒカリエ8F CUBEにて、「『香川手袋』ラボ展 2016A/W Collection –疾駆–」を開催した。
2016年A/Wシーズンに向けた研究成果のお披露目となった本展の模様を、「香川手袋」のクリエイティブディレクターを務める山口壮大氏、「1888手袋ラボ」の参加事業者のインタビューと共にレポートする。

 

香川県東かがわ市は、1888年から続く手袋の一大産地で、レザーやニットから最先端の高機能繊維までありとあらゆる素材を扱い、繊細で卓越した製造技術により、スポーツや消防などの機能的な製品をはじめ、高品質な手袋を生み出してきた。国内の手袋生産の約90%のシェアを誇る東かがわ市の手袋メーカーたちが、手と手袋が持つ可能性を切り開くプロダクトを作り出すプラットフォームとして、山口壮大氏をクリエイティブディレクターに迎え、2014年にスタートしたのが「1888手袋ラボ」。そして、その成果として生まれた手袋ブランドが「香川手袋」である。長い歴史を持つ産地だからこそ培われてきた技術とノウハウをベースに、集まった有志企業は、県外のクリエイターたちと共同して、異素材や異ジャンルとのコラボレーションなどの実験的かつ革新的なものづくりに挑戦している。

「香川手袋」2016A/W Collectionのテーマは“疾駆(しっく)”。ベーシックをよりシンプルにしていく従来の“シック”ではなくディテールを洗練させ、過剰にアレンジしていくことで、ファッションのトレンドに寄り添いながらも「made in KAGAWA」らしいものづくりの未来をプレゼンテーションする狙いがある。会場には今シーズン参加した東かがわ市の14社によるさまざまな技術が、斬新なデザインにより引き立てられ完成した計32型の新作が並んだ。

ゴルフや野球、スキーなどのスポーツ手袋を得意とする企業は、精密さや動きやすさといった機能性をファッション手袋に落とし込んだ。また、繊細な職人技を強みとする企業では、細かなパッチワーク、ステッチワークを施した手袋など、手仕事の限界に挑むようなものづくりを披露した。さらに、香川県讃岐地方の「讃岐かがり手まり」、青森県津軽地方の「青森こぎん刺し」、福島県会津地方の「会津蒔絵」、日本に古来より伝わる「墨流し染め」など、各地の伝統工芸の技法を生かした芸術性の高いクリエーションにも挑戦した。

会場では香川県内のサウンドメーカーによる躍動感溢れる音が流され、熟練の職人がピンセットを使って精巧に手袋を縫う工程など、製造現場の映像が放映された。

東かがわ市は、国内最大の手袋産地である一方、近年は生産拠点の海外移転や技術者の高齢化といった課題に直面していた。組合に所属していた手袋メーカーたちが参画して立ち上がった「1888手袋ラボ」のプラットフォームを通して、新興海外メーカーとの差異化を図り、付加価値の高い商品を生産して新たな需要を掘り起こし、後継者育成をして地場産業を盛り上げていくというビジョンがある。「香川手袋」のウェブサイトには、「技の研究」をテーマに手袋の職人が異業種の職人を訪ねる活動や、義手のための手袋を作る研究では、手袋メーカーの技術者が電動義手メーカーを訪れて意見交換するなど、最新の研究活動も公開されている。3シーズン目に入り、参画企業も20社に拡大した「香川手袋」は、手袋の未来を見据えて前進していく。

「香川手袋」クリエイティブディレクター山口壮大氏

 

Interview

「香川手袋」クリエイティブディレクター
山口 壮大氏
スタイリスト/ファッションディレクター

今シーズンのテーマは、職人さんや工場が一番得意とすることをシンプルに引き出そうという視点から「シック」というキーワードが浮かびました。デザインをミニマルに整合していくという考え方のシックではなく、ものづくりに潜んだ荒々しさを素のまま過剰に表現したらどのようなものが生まれるだろうという発想から、単純なミニマルではないという意味を込めて、漢字の「疾駆」にしました。
月に一度のペースで東かがわ市の各工場に通い、それぞれの企業が持つ得意な技術を生かせるように、技術とデザインを行き来しながら、落とし込みを探ってきました。産地企業が培ってきた技術力とポテンシャルはすごく高いので、それをファッションの文脈に置き換えながら引き出していき、手と手袋の持つ可能性を拡張していきたいと考えています。また、義手のための手袋や、宇宙用の手袋など、ファッションの外にも積極的にアウトプットを行い、培った技術を逆輸入的にファッション衣料に提案していけたらとも思っています。
かなり作り込んで値の張るアイテムも動いていることから、シーズンを追うごとにお客さまの良い反応を実感しています。今後は、このプロジェクトを海外にも展開していきたいと思っています。

 

友國 誠二氏
日本手袋工業組合 代表理事/株式会社トモクニ 代表取締役 社長

遡ること1888年、大阪でメリヤス手袋の縫製を行っていた地元の先人が帰郷し、現在の東かがわ市で手袋の製造を始めたことが香川手袋の発祥です。以来、約130年の歴史を持つ世界的にも有数の手袋産地となりました。
長い歴史の中で、多くの会社が立ち上がり、高い職人技術を育んできました。私もその技術の高さを理解してきたつもりでしたが、「1888手袋ラボ」で新しいチャレンジを重ねていく中で、組合事業者の技術の数々を目の当たりにして、東かがわのものづくり技術の高さを改めて確認しています。産地の未来を考えて、香川の手袋のブランド化については、長い議論を積み重ねてきましたが、2014年にようやくスタートに踏み切れたという形です。クリエイティブディレクターとして加わっていただいた山口さんは、産地内の人が持っていない感性と発想をお持ちなので、東かがわの作る技術とうまく融合して良い形でプロジェクトが進んでいると思います。
「香川手袋」ブランドをきっかけに、手袋産地である香川の認知度を上げて、今後は、若い技術者も呼び込んでいきたいと思っています。

 

「1888 手袋ラボ」参加企業
平田 哲也氏
平田商店

当社は革手袋の製造に特化していて、革の仕入れから縫製まですべての工程を手掛けています。今回は「パッチワーク×シープスキン」、「コサージュ×シープスキン」、「ハンドメイド×クロコダイル」の3点を製作しました。パッチワークのアイテムでは、デザインのグラデーションに合わせて、片手だけで300枚以上もの細かいパーツをカットして、ひとつひとつ縫い合わせました。製作には両手合わせて6日間もかかりますが、他にはない手袋を完成させることができました。コサージュのアイテムでは、花弁を1枚ずつ縫い合わせましたが、細いワイヤーを入れて層を作って花弁の立体感を表現したりと、これまでに試したことのない実験的なチャレンジを繰り返して商品化していきました。また、こういった新作ができても、個々で展示会は開くことは難しいですが、「1888手袋ラボ」のメンバーがいたからこそ、ここまでやってこられたと思っています。
「香川手袋」を通して、地元香川が手袋の産地であるということをアピールし、手袋業界が活性化することを目指していきたいです。

 

「1888 手袋ラボ」参加企業
大西 美和氏
株式会社イチーナ 商品部

私は、ニット製品の企画、自動編み機のプログラミング、サンプル生産を担当しています。今回は「アラン×ノーシーム」、「フラワー×ノーシーム」、「二重構造×ノーシーム」を製作しました。通常業務では、生産性を考慮して、できるだけリスクの低い生産方法にプライオリティが置かれてしまい、実験的な編み組織や技術への挑戦が難しい状況です。「1888手袋ラボ」のプロジェクトでは、これまで世に出せなかったけれど、データとして蓄積してきたような技術や素材サンプルを提案させていただきながら、形にすることができました。
編み機のプログラミングは手袋の柄を少し変えるだけで、機械がエラーを起こしてしまうので、プログラムを大幅に組み直す必要があるため、多いもので100回近く試作を繰り返しました。今回も展示会の1週間前まで工場にこもって機械とにらめっこしていました。今後も、山口さんの頭の中にあるコンセプトやアイデアに応えて、弊社がストックしてきた技術や素材をどんどん掘り起こし、新しい素材開発や実験にもチャレンジしていきたいです。

 

 

平田商店作「パッチワーク×シープスキン」。片手分で300枚以上のパーツをカットし、1枚ずつミシンで縫い合わせている。片手分だけで、熟練の職人の手作業で3日間もかかる。

(株)イチーナ大西さんが手掛けた「アラン×ノーシーム」(左)と「フラワー×ノーシーム」。アランは、島精機のニットマシンを使い、無縫製かつ立体感のある仕立て。フラワーは、異なる色の糸を引き揃え、花モチーフの配色をそれぞれ変えるような編み方を実現した力作。

INTERVIEW by Shinya Miyaura

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