Interview & Report

マイ・フイ・トン・トラン

マイ・フイ・トン・トラン Mai Huy Thong Tran

AmazonFWT 2017 A/W 海外ゲストインタビュー vol.1

「OUKAN(オウカン)」設立のきっかけは、2011年7月に開催されたメルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク ベルリンにて「東京楽団」と銘打たれたチャリティ企画。それは東日本大震災直後にマイ・フイ・トン・トランが40人の親しい日本人デザイナーを招いて、ベルリンで各々のコレクションを披露するファッションショーとして開催されたもので、まもなくして大きなプロジェクトへと発展した。ファッションに対する日本のユニークでアヴァンギャルドな取り組み方やライフスタイル関連の商品を継続的にドイツ市場に展開するため、フイ・トンが日本のブランドを披露するための空間として「OUKAN」を設立し、コンセプト・ショップとして2011年秋に開店した。Kronenstrasse 71という住所にヒントを得て、その日本版ということで、当初は「OUKAN71」という名称だったが、その後「OUKAN」に改名。欧州、特にドイツでの展開を望む日本人デザイナーに対して、コンサルティングや質問に答えるなど、当初から支援を行なっている。「もっとも洗練されたショッピングエリア」とされるFriedrichstrassの古いけれど美しいビルにショップを構え、300平方メートル、2フロアの店内にはファッションやライフスタイル、インテリア商品を取り揃えている。オーナーでありバイヤーでもあるマイ・フイ・トン・トランによって、「OUKAN」はベルリンで最もアヴァンギャルドなスポットとしての地位を確立しています。

Amazon Fashion Week TOKYO 2017A/W開催に合わせて、ドイツ・ベルリンにあるセレクトショップ「OUKAN(オウカン)」のマイ・フイ・トン・トラン氏が、JETROの招聘により来日した。東日本大震災のチャリティイベントをきっかけに、日本のブランドを中心に取り扱うコンセプトストアとしてスタートしたこのショップのオーナーであり、自らのルーツをアジアに持つ彼に、東京の印象や日本ブランドの魅力、ベルリンのファッションシーンの現在などについて聞いた。

 

来日は今回で2回目とのことですが、JETROの招聘によって来日が決まった時の感想を聞かせてください。

実は昨年も JETRO に招いていただき来日しましたが、それがこれまでの人生におけるベストの海外滞在になったので、今回の来日が決まった時は非常にうれしかったです。世界のファッションセンターのひとつである東京のファッション・ウィークを訪れることができ大変光栄ですし、パリなどでは見つけることが難しい日本のブランドに触れられる良い機会なので、とても期待しています。

 

東京の街やファッションに対する印象を教えてください。

例えば、ファッション・ウィークのメイン会場のひとつでもある渋谷は非常に多くの人たちが集まる場所ですが、日本の人たちは礼儀正しく控えめな方が多いからか、街のあらゆる場所で色々なことが起こっているにも関わらず、衝突が生まれたり、問題が起きたりしないところが素晴らしいと感じています。私が住むベルリンも、東京と同様に個性的な若者たちが集まっていて、自分がしたいことを実現できる街という点は共通していますが、ベルリンでは時に自分という存在が大きくなりすぎて、衝突を引き起こすことがあります。また、東京の人たちはファッションに対して大胆ですが、ただ奇抜なだけではなく、自分に似合うものを理解しているところが素晴らしいと思います。

 

ベルリンにあるショップ「OUKAN」についても教えてください。

アヴァンギャルドな商品を中心に据えているコンセプトショップで、現在は約半数が日本のブランドで「132 5. ISSEY MIYAKE」、「DRESSUNDRESSED」、「T.A.S」、「DETAJ」、「Aquvii」、「NO,NO,YES!」などを取り扱っています。OUKANは、東日本大震災のチャリティイベントがきっかけで生まれました。私は長い間ファッション業界で働いていて、日本人の同僚や友達がたくさんいますが、2011年に東日本大震災が起こり、日本の仲間たちに電話で様子を聞いたところ、日本という国全体の雰囲気が落ち込んでいることがわかりました。そこで、つながりのある日本のファッション業界に対して何かできないかと考え、若いデザイナーを支援するイベントを行いました。それがOUKANのスタートであり、その当時に出会った日本のブランドを今も数多く展開しています。

 

ショップ名の由来についても教えてください。

OUKANはそのまま日本語の読み方で王様の冠のことで、「T.A.S」のデザイナー・安藤哲也さんが提案してくれた名前です。私たちのショップは、ベルリンのクローネン通りというところにありますが、「クローネ(krone)」というのはドイツ語で「王冠」を意味しています。王冠には特権的なイメージがあり、同時にそこには「義務」という意味合いも含まれます。私は贅沢なことは好きではないですが、モード業界で働く上で一つの義務を背負っていると考えていて、それはそのブランドや商品がどこから来たもので、未来に向かってどう発展していくのかということをしっかり見届け、支援していくということと考えています。

 

ショップに来るお客さんの日本ブランドに対する反応はいかがですか?

この店には、アート、音楽、デザイン関係などのクリエイティブなお客さまが多いのですが、日本のブランドのフィロソフィーを知れば知るほど熱中してくれます。お客様には日本の新しいデザイナーについてもっと知っていただきたいですし、日本のブランドは何年も前から、インターナショナルブランドと肩を並べるに値するモードに対する哲学や考え方を持っているということをお伝えしたいと考えています。

 

日本のブランドやデザイナーのクリエーションの特徴はどんなところにあるとお感じですか?

まず、ディテールを愛する点、そして、品質が高いという点です。また、特にOUKANで扱っている日本のブランドは、一過性のトレンドに左右されず、持続的なクリエーションを展開しているところが多いと感じます。こうした点はドイツのブランドにも共通するところですが、さらに日本のブランドには遊び心があるということが重要なポイントです。

 

日本の伝統的なものづくりにも興味はありますか?

もちろんです。日本のつくり手たちは伝統を非常に大切にしている一方、常に新しいことを学ぼうとする姿勢を持っています。そうすることによって、それぞれのブランドやつくり手が、自分という存在を主張する言葉というものを獲得しているように見えます。例えば、日本人はパリのパティスリーの技術をあっという間に身につけ、さらにそこに自分のスタイルというものを加えています。だから、私は日本のケーキが大好きで、どのお店に行っても素晴らしいので、たくさん買ったり、試食をしてしまいます(笑)。私はベトナム人ですがドイツで育っているため、アジアの文化を客観的に見ることができると思っています。その中で、日本という国の文化には、非常に惹かれるものがあります。

 

一方で、OUKANがあるベルリンのファッションやものづくりにはどんな特徴がありますか?

ベルリンでは若いデザイナーたちが元気で、彼らの中にはファッション業界出身ではなく、ベルリンらしくエレクトリックミュージックやクラブシーンなどから出てきた人も多いです。今、ベルリンではストリートファッションが急成長していて、中にはショーに出るようになったブランドなどもあります。ファッション以外の音楽やカルチャーなどから影響やインスピレーションを受けているデザイナーが多いという点は東京と共通しているように感じます。

 

ベルリンは若いアーティストたちが多いことでも知られていますね。

そうですね。ベルリンには世界中から若い芸術家や音楽家、デザイナーたちが集まってきていて、彼らが自分の力を試すための実験場のような街になっています。まだ歴史が浅い街なので完成されていない部分が多く、アーティストたちが自由に活動できる余地も残されています。ベルリンは決して裕福な街ではないですが、若い人たちが商業化の波に流されることなく、時間をかけながら自分たちの力で成長していけるというのが良い点だと感じています。

 

最後に、東京のファッション・ウィークの印象や、日本での残りの滞在に期待することなどをお聞かせください。

私は年に4回パリに足を運んでいるので、それ以外の都市のファッション・ウィークに行く時間がなかなか取れず、比較できる対象が限られてしまいますが、ファッション・ウィークには、その都市全体の文化が表れているように感じます。パリと東京のファッション・ウィークの違いを説明するのは難しいですが、少なくとも東京のファッション・ウィークを見ていて感じることは、自分がほしいと思っているものがここにはたくさんあるということです。日本には多くの友人がいるので、彼らから新しい情報を仕入れながら、できるだけ多くのショーやショップ、ショールームに足を運ぶとともに、レストランや美術館などにも行って、多くのことを吸収したいと思っています。

INTERVIEW by Yuki Harada

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