Interview & Report

ニック・ウースター&ロブ・ヤング

ニック・ウースター&ロブ・ヤング Nick Wooster & Robb Young

MBFWT 2014-15 A/W 招聘者インタビュー

Nick Wooster / ニック・ウースター
ニーマンマーカス(Neiman Marcus)、バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)のファッションディレクターを経て、現在は「プロジェクト ウースター(Project Wooster)」と「ギルト マン(Gilt Man)」のアドバイザーとキュレーターを務める。ラルディーニ一(イタリア)、Il Cotso(韓国)、ユナイテッドアローズ(日本)と手を組みコラボレーションも積極的に行っている。インスタグラム、TwitterなどSNS発信はファッション業界人、ファッション感度の高い人々から多くの支持を受けている。

Robb Young / ロブ・ヤング
世界的に知られたファッション・ジャーナリスト スージー・メンクス(Suzy Menkes)と並んで、ロブ・ヤングは、10年間にわたり「インターナショナル•ヘラルド•トリビューン」に貢献しているファッション・ジャーナリストである。ロブの記事はFinancial Times、BBCや英国版ヴォーグに掲載されている。また、ジミー・チュウやアレキサンダー・マックイーンなど英国を代表するブランドをメンバーに有するNPO法人ウォルポールなど、グローバルでラグジュアリーな顧客のコンサルタントも務めている。

ニック・ウースター

[ URL ] http://nickwooster.com/
[ Instagram ] http://instagram.com/nickwooster
[ Twitter ] https://twitter.com/NickWooster

ロブ・ヤング
[ URL ] Facebook page

Mercedes­Benz Fashion Week TOKYO 2014-15 A/W開催期間中に、ニック・ウースター、ロブ・ヤング両氏が経済産業省の招聘によって来日した。ニューヨークの高級百貨店「ニーマン・マーカス」「バーグドルフ・グッドマン」でメンズ・ファッションディレクターを務め、2011年に独立してからは、メンズファッション界のアイコン的存在として、さまざまなブランドやショップとコラボレーションを行っているニック氏、インターナショナル・ヘラルド・トリビューン紙のファッションエディターを長年務め、有名ジャーナリスト、スージー・メンケス氏の片腕としても活躍し、現在ではラグジュアリーブランドのコンサルティングなども手がけるロブ氏。世界的に知られるファッション業界の重鎮ふたりに、これまでの活動や日本のファッションの印象などについて伺った。

 

これまでのご自身の活動について、お聞かせください。

ニック:私はもともとショッピングが好きで、いかにして他の人より良い方法や価格で洋服を買うことができるかということばかり考えていて、最初はそこにビジネスの機会があるとは思っていませんでした。私のキャリアは、バーニーズニューヨークのバイヤーからスタートし、その後いくつかのメゾンでデザインの仕事などをした後に、バーグドルフ・グッドマンのメンズ・ファッションディレクターになりました。2011年に独立し、現在は私のキャリアの最終段階として、世界各国のブランドや小売店のコンサルタントなどを主に手がけていて、日本でもユナイテッドアローズと仕事をしています。これまでに多くの素晴らしい機会を与えて頂き、それを楽しんでいますが、同時にこの世界には大変なことも多く、デザイナー、ジャーナリスト、バイヤーなどどんな職種においても、その分野のマスターになるためには、さまざまなステップが必要だということを日々感じています。

ロブ:私は大学で政治経済を学んでいて、当時は、ファッションやアートなどクリエイティブな分野には特に興味がありませんでした。学生の頃、国連でインターンをしていた時に面接をする機会があったのですが、私はそこにクラブウエアのような服装で臨みました。当然普通はスーツにネクタイという格好をすべきなのですが、もともとルールに従うことが好きではなかったんです。これから先、ルールに順応しながら仕事をしていくのか、それとも自分の新しい人生を見つけるのかという岐路に立たされた私は、ファッションジャーナリストの道に進むことになりました。このように、だいぶ変わったキャリアのスタートだったのですが、その後雑誌やメディアのエディターの仕事などをするようになり、ここ10年くらいはブランドのコンサルティングなども請け負っています。

 

nick

現在の仕事のどんなところにモチベーションを感じていますか。

ニック:私の動機は常に変わらず、洋服そのものです。その洋服を通して、アメリカ、ヨーロッパ、アジアなどに行くことができることは私の仕事の大きな醍醐味です。最近は、パソコンやスマートフォンなどによって、世界中がひとつのマーケットプレイスになっていると言えますし、興味深いアクションが起こっているところに足を運び、ソーシャルメディアなどを通して、それらを共有していけるということは素晴らしいと感じています。

ロブ:私の場合は、洋服のディテールについてはあまり言及できませんし、商品そのものに焦点を当てているわけではありません。もう少し俯瞰した視点から、ブランドのストーリーテリングやナラティブの部分、または財務的な部分などについて考えていくことが私のモチベーションになっています。

 

今回、経済産業省の招聘で来日が決まった時にはどんなことを考えましたか。

ニック:こうした機会を頂いたことに大変感謝しています。先程もお話ししましたが、最近はTwitterやInstagram、Tumblrなどのソーシャルメディアを通して、自分が目にしたものや経験したことを、同じ関心を持つ多くの人たちと共有することができます。今回は1年ぶりの来日になりますが、私の経験をオーディエンスたちと共有していきたいですし、また、私が日本で買い物をすることによって、少しでも経済的な支援ができればということも考えています。

ロブ:私は日本に3年間住んでいた経験があるのですが、今回は6年ぶりの来日になるので、日本のマーケットの動向や消費者のトレンド、ファッションビジネスの現状などをアップデートできればと思っています。私はニックとは違い、ソーシャルメディアには少し乗り遅れているのですが(笑)、どちらかというと見たものを時間をかけて分析し、それらをドキュメント化してメディアなどに出していくことが多く、今回もそのような形で成果物を発表できればと考えています。

 

IMG_0434

おふたりとも日本のことはすでによくご存知だと思いますが、日本のファッションについてはどのように感じていますか。

ニック:私の場合は、常にメンズウエアというレンズを通してファッションを見ているのですが、日本はあらゆるタイプのメンズファッションに精通している市場で、ブランド、消費者ともに世界で一番レベルの高い国だと思っています。クラシックなヨーロピアンスタイルからスポーツウエア、ストリートファッションまであらゆる分野において、素晴らしい着こなしをしていますし、メンズファッションの全体像を俯瞰するにはパーフェクトな場所ではないでしょうか。

ロブ:日本に住んでいた時に、色々な街に行って、歩いている人たちのスタイルを眺めることが好きでした。例えば、渋谷の109の周りにいる人たちがどういう着こなしをしていて、どんな洋服を買おうとしているのかということを見ているだけでも非常に興味深かったですし、日本は無限のインスピレーションを与えてくれる場所だと思います。日本人のファッションに対する観点はかなり多様で、そうした自由さとカオス的な状況というものが、とても興味深いと感じています。

ニック:日本は、アメリカがすでに捨て去ってしまったものを再発見できる場所だとも言えます。例えば、ヴィンテージウエアについては、リーバイスやチャンピオンなどが日本で見直されたことがきっかけで、アメリカでも改めて注目されるようになったところがありましたし、キャピタルやビズビムなどのブランドのように、伝統的な技術や歴史と、新しいテクノロジーを同時に表現しているところが非常に興味深いと思います。そうした日本人のものづくりの精神や美意識というのは、私自身の考え方ともとても近いと感じています。

 

ファッション・ウィーク期間中には、日本の伝統的な技術を持つ職人や企業と、ファッションデザイナーがコラボレートしたENという展示会も行われていましたが、独自の伝統技術や美意識というものは、日本のブランドが海外に進出していく際の武器になると思いますか。

ニック:その国の文化や歴史、伝統的なものづくりというものを単にそのまま出すのではなく、新しいものに変えていくということが必要だと思います。先に挙げたキャピタルやビズビム、またはオクラなど、現代的な解釈で日本の伝統を表現できている例もすでにありますし、グローバルに展開していくことは可能だと思いますが、やはり大切なことは、世界の市場というものをよく理解するということです。

ロブ:伝統的な要素をファッションを通して提案していくということには多少のリスクも伴います。ニックが話したように、伝統的なものを新鮮な形でグローバライズしていくことができれば、ユニークな訴求ポイントになりますが、それが簡単なことではないことも確かです。

runway_00010_x[1]
99%is- 2014-15A/W

runway_00010_x[1] (2)
matohu 2014-15A/W

今回ご覧になったショーや展示会で印象に残ったブランドはありましたか。

 

ニック:私が良いと思ったブランドは99%IS-yoshio kuboで、ショーも洋服も素晴らしかったです。クラシックとアバンギャルドが共存していたMR.GENTLEMANも良かったですね。また、ATSUSHI NAKASHIMAのジオメトリックなデザインも美しかったと思います。

ロブ:ニックが挙げたブランドはどれも良かったですね。特に99%IS-は、ゴシックをサブカルチャーの域にとどめるのではなく、ラグジュアリーの領域にまで拡大させようとしている視点が明確に感じられ、非常に良かったです。また、私が見たmatohuのショーにはとても威厳があり、同時に消費者に対する明確なビジョンや提案もあって、非常に成熟度が高かったと思います。

 

今回の来日を通して、日本のファッションの現在について、どんな印象を受けましたか。

ロブ:マーケット面で大きな変化を感じたのは、アジア市場に焦点を当てているということです。これは日本に限らない世界的な傾向とも言えますが、日本のブランドやデザイナーたちが、東南アジア、東アジアの国々において、いかに消費者との関係を構築し、市場をつくっていくのかというところが、今後の関心事項になっていくのだと思います。現在日本の目は、ファッションの中心とされてきたパリやミラノというところよりも、近隣のアジア諸国に向けられているということが今回の来日で分かりました。

ニック:ロブが言うとおり、世界は今、アジアに目を向けています。これまでの日本は、欧米とも、他のアジア諸国とも違う立ち位置というものを、良い意味で享受してきたと思います。しかし、世界がひとつになりつつある現在は、大きな変化の時期だと感じています。それぞれの国の人たちや、その市場をお互いが理解し合っていくことがより必要になってきていますし、若い世代を中心にすでに実践され始めています。こうした動きがさらに進めば、経済も良い方向にいくのではないかと思います。

2shot_2

INTERVIEW by Yuki Harada

Go to Top