Interview & Report

SAVE THE ENERGY PROJECT

SAVE THE ENERGY PROJECT プレゼンテーションレポート&インタビュー

MBFWT 2016 A/W [RELATED EVENTS - Special]

「SAVE THE ENERGY」=「エネルギーを守ろう」
とても身近な問題であり、海外のファッション業界では既に大きなテーマでもあります。日本ではもっと意識しなくてはならない課題の一つです。
今回の「SAVE THE ENERGY PROJECT」のテーマは、世界的に日本が誇る素材、デニム。
本プロジェクトでは、今後も定期的にファッション・ウィークの舞台でプレゼンテーションを行う予定です。

Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 A/Wの開幕初日、経済産業省資源エネルギー庁が主催する新企画「SAVE THE ENERGY PROJECT」のローンチイベントが、渋谷ヒカリエ ヒカリエホールAで開催された。
気鋭の映像ディレクターである柿本ケンサク氏による映像が披露され、プロジェクトのアンバサダーを務める井浦新氏によるプレゼンテーションが行われた。
本プロジェクトが掲げる“「SAVE THE ENERGY」=「エネルギーを守ろう」”というテーマは、海外のファッション業界ではすでに大きなテーマに位置付けられてきているものである。プレゼンテーションの模様を柿本氏、井浦氏のインタビューと合わせてレポートする。

 

SAVE THE ENERGY PROJECT

「SAVE THE ENERGY PROJECT」は、ファッションに関わる分野での省エネルギーへの取り組み、そこから生まれた製品・流通・サービスを推進し、ファッッションを通じて賢く、かっこよく「生活者の省エネ力」を取り上げることを目的としている。ローンチとなる今回は、日本が世界に誇る素材であり、各企業が独自に省エネ活動に取り組んできた“デニム”に焦点を当てた。

会場となるヒカリエホールには、多くの記者や業界関係者が詰めかけ、定刻を少し過ぎた時、会場が暗転。まもなくすると柿本氏制作による映像がスクリーンに映し出された。井浦氏のナレーションと呼応するように、エネルギー消費量の現状や、衣服を作るうえで発生する地球環境への負担を示すグラフが分かりやすくイラスト化され、テンポ良くスライドしていく。「省エネ力」という概念に沿って、省エネに参加しているブランドの服を買うことで、誰もが省エネに参加できるということを提案した。

次に、広島県福山市に工場を構え、国内のブルーデニム生産の約50%を担うカイハラ株式会社の代表取締役会長 貝原良治氏のインタビューが流れた。同社は、ボイラーから出た余熱を利用して水を温めるなど、コジェネレーションシステムを導入している。貝原会長は「これからは地球環境の問題と向き合わずしてものづくりはできない。」と映像内で語った。

続いて、岡山県倉敷市に工場を構える、豊和株式会社の専務取締役 田代雄久氏のインタビューが流れた。同社は3年前から省エネのための熱交換システムを整備して、排水熱を利用して染色・加工用の水を温めている。これによって、年間200万円分のガス代が節約されているという。また、ジーンズの加工で発生する軽石や泥を産業廃棄物として処理するのではなく、肥料としての再利用化に取り組んでおり、ダメージ加工の工程では、通常はブラスト機という砂噴射で加工するのに対して、環境負荷を考えレーザー加工機でダメージ加工するようにした。

 

 

約7分間の映像が上映された後、静まった会場の中心に立ったアンバサダーである井浦氏にスポットライトが向けられた。

 

SAVE THE ENERGY PROJECT
SAVE THE ENERGY PROJECT

「今日は難しいお話をするつもりはありません。せっかくお話をする時間をいただいたので、この会場にいるファッション業界に携わる皆様の声を聞かせていただきたいです。」と、井浦氏はマイク越しに静かに語り始めた。10代後半からファッションの世界に入り、自身でも「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」を手がける井浦氏は、“ファッションの魅力”、“ファッションのかっこ良さ”について、業界関係者で埋まった会場を巻き込んだインタラクティブなプレゼンテーションを試みた。突然の展開であったが、井浦氏の熱い語りがけに対して、TOKYO FASHION AWARD 2015受賞デザイナーである「sulvam」の藤田哲平氏をはじめ、会場に集まったメディア関係者、デザイナーからも声が挙がった。

 

SAVE THE ENERGY PROJECT
SAVE THE ENERGY PROJECT

SAVE THE ENERGY PROJECT

カイハラで織られた生地に「SAVE THE ENERGY PROJECT」のロゴが付いたジャケットを羽織った井浦氏。このプレゼンテーションではなく、アパレル内外にこのプロジェクトが広がり出した時が本当の意味でのスタートになると力を込めて発言し、プレゼンテーションは閉幕した。

 

 

 


SAVE THE ENERGY PROJECT クリエイティブ・ディレクター:
柿本 ケンサク氏
演出家/映像作家/写真家

最初に「SAVE THE ENERGY PROJECT」の概要を聞いたとき、正直一般的には難しく、とっつきにくいテーマだと感じました。そういった第一印象もあり、映像制作にあたっては、今回はネガティブなことはできるだけ表現しないでおこうと思いました。最近はエコやサステナブルといった言葉を頻繁に耳にしますが、そういった単語イメージから入ってもらうのではなく、もっと身近な問題として認知してもらい、ファッションを通して楽しみながらこのプロジェクトに参加してもらいたいと思い、プロジェクトチーム皆で話し合って企画を詰めていきました。省エネに対して、何かを我慢して取り組むのではなく、自分が共感できてかっこ良いと思えるモノやコトを身の回りにつなげるように、無理なく向き合っていって欲しいです。
最近、食べ物ではどこの産地の誰が作ったという“見える化”が進んでいますが、衣服でも製造工程や作り手の顔の“見える化”ができると、「SAVE THE ENERGY PROJECT」の骨格がさらにはっきりしていくのではないかと思いました。制作に向けて、カイハラさんと豊和さんの工場で全工程を見させてもらいましたが、デニムのユーズド感をレーザー機による画像処理で表現する技術など、想像していなかった場面に大変驚きました。そういった自分自身でも衝撃だった風景を中心に映像をつないでいきました。皆さんには、映像を通して、ポジティブなメッセージとして「省エネ力」を感じていただけたら嬉しいです。


SAVE THE ENERGY PROJECT アンバサダー:
井浦 新氏
俳優/「ELNEST CREATIVE ACTIVITY」ディレクター

「SAVE THE ENERGY PROJECT」は自然や地球環境までも意識してものづくりをしていきませんか、と提案するプロジェクトです。現在のファッションを否定するわけではありませんが、僕自身、ものづくりに関わらせてもらっている立場としても、早くて安くて大量生産のものづくりは時代遅れではないかと考えてきました。ファッションの魅力とは、“誰かの何か” になれること、服というモノを通して着る人の精神に訴えかけられることだと思っています。今は、作り手が作りたいものだけを作る時代ではなく、作りたいものを踏まえて、社会に向き合わないといけない時代に入っていると思います。作り手の意識はもっともっと向上していくだろうし、着る側としてもファッションは単におしゃれだけを追いかける時代ではなくなっています。ファッションの持つ楽しさや本当のかっこ良さというのは、表面の見える部分だけでなく、背景や精神の見えない部分にこそあると思っています。
「SAVE THE ENERGY PROJECT」の概念は、特別新しいことではなく、そもそも日本人のものづくりの精神に根付いている考え方だと思います。そして、これからは「SAVE THE ENERGY PROJECT」のロゴが、例えばウールマークのように日常の服にそっと入っているのが当たり前となって、これからのファッションの基準になることが理想です。そのためにも、このプロジェクトは、ファッション・ウィークに出るデザイナーズブランドだけではなく、アウトドア、スポーツ、ストリート、アパレル業界全体に広がる必要があります。メディア関係者にもこのプロジェクトを楽しく広げていくお手伝いをしていただきたいと思っています。これから、ファッション業界が新しい価値観を持って、未来に進んでいけたらと願っています。


三牧 純一郎氏
経済産業省 資源エネルギー庁 省エネルギー・新エネルギー部 省エネルギー対策課
課長補佐(企画調整担当)

経済産業省では、これまで省エネ法による規制、省エネ型の設備への更新、トップランナー制度や広報による省エネ行動の促進などを行ってきました。経済産業省資源エネルギー庁として、ファッション分野でのプロジェクトを進めるのは、これが初めてとなります。
ファッションを通して、一般の方にも向けてプレゼンテーションができないかと考えていたのが本プロジェクト発足のきっかけでした。
「SAVE THE ENERGY PROJECT」では、国と民間が協力して、ファッションを通じて消費者に対し、「省エネ力」の高い商品の選択を訴求して、間接的に事業者のさらなる省エネを促進していきます。こうした省エネの取り組みが関係事業者のビジネスに発展することでファッション産業の活性化にもつながり、業界全体に省エネ効果のある取り組みが根付き、大きな省エネ効果が実現することを目標としています。
今後は、これまでの対策に加え、さらなる省エネの取り組みの掘り起こしを進めていくために、業界ごとにできる独自の省エネ対策を強化していきます。民間の省エネ力が拡大することにより、エネルギー使用量の削減が実現して、同時にビジネス成長を実現していくことが求められています。「SAVE THE ENERGY PROJECT」ローンチの第一弾は、“デニム”がテーマ素材でしたが、デニム以外の素材への広がりや、メーカーだけでなく、アパレルや小売との連携、また「SAVE THE ENERGY PROJECT」のロゴが入った商品が買える仕組みや、デザイナーとメーカーが協業していくことで、衣服を作るプロセスも見せていきたいです。そのためにも、今後もファッション・ウィークと連携して、プロジェクトを進めていきたいと思います。


INTERVIEW by Shinya Miyaura

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