Interview & Report

守屋 貴行 Takayuki Moriya

守屋 貴行 Takayuki Moriya クリエイティブ・ディレクター/プロデューサー

Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 S/S Key Visual Creative Director / Producer

大学時代から大手広告代理店や制作会社でインターンを経験し、卒業後は映像プロダクションロボットで多くのナショナルクライアントの映像制作やアーティストのMusic Video制作を手がけながら、WEBやアプリの企画・制作・プロモーションまで幅広く担当。
2013年に株式会社Brutoを設立し、WEB・アプリ・映像制作を軸に人工知能開発など幅広い領域のプロデューサーとして活躍。
2016年にはアートとビジネスのより良い関係が築けるような新しい映像ビジネスを構築するため、株式会社NIONを設立。
アートフィルム「KAMUY」をアート・バーゼル・マイアミ・ビーチで発表するほか、渋谷スクランブル交差点街頭ビジョンでの世界的アーティストソフィ・カルのインスタレーション作品の放映や、江之浦測候所でのケルシー・ルーのライブ企画など、アートの力が最も発揮される場所と方法を的確に探し出し、ビジネスの流れに載せるプロデュースの仕事は新しい映像ビジネスの姿として大きな注目が集まっている。
そして2019年には、今までにはない新たな領域でのビジネス展開を目論み、バーチャルヒューマンをプロデュースする会社、株式会社Awwと、Persona株式会社を設立した。

日本で最初にバーチャルヒューマンカンパニーAww(アウ)を設立し、imma を筆頭に多くのフォロワーを持つバーチャルヒューマンを世に送り出している守屋貴行氏。バーチャルの分野はコロナが追い風となり、ますます注目されるが、守屋氏のもとには連日、世界中からオファーが入ってくるという。 バーチャルヒューマン界を牽引する守屋氏が、Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 S/Sのキービジュアルのプロデュースとクリエイティブディレクションを担当。キービジュアルのテーマとして「TOKYO METAVERSE(仮想世界)」を掲げた意図や制作過程について、さらに常に時代の先端をいく守屋氏のこれまでの活動を振り返りつつ、バーチャルを軸にしたメディアやファッション分野のこれからを語ってもらった。

まずは、今回のキービジュアルのテーマ「TOKYO METAVERSE」について、このテーマに行きついた経緯を教えていただけますか?

「TOKYO METAVERSE」はコロナによる外出自粛期間中に考えついた言葉で、その期間もimmaちゃんや plusticboy など僕が手掛けているバーチャルヒューマンに関する問い合わせが世界各国から毎日10件以上あったり、様々なライブもオンラインになっていき、どんどん自分が思い描いていたバーチャルの世界が加速していくのだなと感じていました。リアルの世界にバーチャルが溶け込んでいる状況です。例えば、日常にxR(VR、AR、MRなどの総称)を通してCGのキャラクターがいるイメージでしょうか。2Dや3Dのアニメのキャラクターとも共存する、この世界を僕は「TOKYO METAVERSE」と呼んでいて、それが広範囲に点在していくのが「MULTI METAVERSE」になります。

なるほど。だから、今回のようなモデルキャスティングになったわけですね。

はい。日常の生活の中に人間もいるし、バーチャルヒューマンもいるし、アニメのキャラクターもいる。こういった世界を三ツ谷さんにファッションフォトグラファーとして撮って欲しかったんです。三ツ谷さんの作風は面白くて、すべての被写体を別々に撮っているため、バラバラの状態で、それらを再構築していくという手法です。それが今のバーチャルっぽいなと思いました。今回のキービジュアルは複雑な作り方をしていて、人物とCGキャラ、アニメキャラを、同じ場所、同じフラッシュで、つまり同じシチュエーションで撮ってそれを再構築しました。実は当初のイメージと違ったところがあり、再撮影をした素材もあったのでその点は苦労しましたが、最終的な素材で合成したら、面白くなったので結果的に良かったなと思っています。

動画も面白いですね。まるでデザイン作業中のモニターを覗いているような感覚です。

動画でも静止画同様の世界観を表現したいと思いました。うちの会社もそうですが、リモートワークでは自宅など外部にあるパソコンで会社にあるパソコンを遠隔操作するため、会社は無人なのにパソコンの画面だけが動いている状態になります。そのリモートワーク感を映像にしたら今っぽいし面白いのではないかと思い、三ツ谷さんがフォトショップで作業している過程を動画収録して編集して、キービジュアルの動画版として仕上げました。それが街中のモニターや会場の巨大なデジタルサイネージなどで流れていたら、「今、作業しているのかな?」と目を引くのではないかと思います。

守屋さんは、学生時代から大手広告代理店や制作会社でインターンを経験されて、卒業後は映像プロダクションに入社し、いわゆる“制作畑”でキャリアを積んでいらっしゃいますが、この業界に興味を持ったきっかけを教えてください。

昔からものづくりが好きだったので、大学時代に広告代理店や制作会社でインターンをしていました。2000年代前半で、SNSのようなものが出てきた頃、FacebookやTwitterが世に出る数年前です。当時としては変わっていたと思いますが、ずっとケータイ電話ばかり見ているような学生でした。最初はコピーライターを目指していて、広告代理店への就職を考えていましたが、ゆくゆくはコンテンツをつくる人、つまりコンテンツプロデューサーになりたかったので、広告代理店ではできないかなと思い、映像制作会社に就職しました。僕は経営学部だったので、周りからは驚かれましたね。美大生が就職するような会社だったので。でも、学生時代に経営やマーケティングを学んだことは、プロデューサーになってから生かされていると思っています。

映像制作会社を退社された後は、次々と新規事業を立ち上げられるとともに会社も興されていますね。

映像制作はクライアントありきでBtoBのものづくりになりますが、BtoCでつくりたいものをつくってマネタイズする方法はないかなと模索したくなって、映像制作会社を辞めました。28、29歳の時で、周りではゲームやITなどベンチャーを立ち上げている友人が多かったので、その影響も大きいですね。僕も幼馴染であった赤坂くんが立ち上げた株式会社エウレカの立ち上げに少し関わらせてもらい、そのあと前職を辞めてから途中でジョインしました。BtoBをしながらBtoCを成立させたいと考え、在籍当時エウレカでつくっていたのが恋愛・婚活マッチングサービス「Pairs」です。まだオンラインデイティングという概念がない頃でした。同じプロデューサーという肩書きでしたが、映像制作会社の頃とはまったく違う脳みその使い方をして働いていました。会社的としては統計学を組んで、ユーザー100万人をどうやって獲得するかというようなことばかり考えていました。そういったビジネスを延長させたいと考え、2013年に株式会社Bruto(ブルート)を設立し、ウェブメディアと自社アプリを制作していました。

バーチャルの分野に進出されるのはその後なんですね?

はい。当時、CG制作会社の役員もしていましたが、クリエイティブを使ったIPビジネスをしたいと考えていました。ピクサーやディズニーのような企業が日本にはまったくないなと。そんな時、現在Awwで一緒にやっている岸本(浩一)くんが5年ほどヒューマンプロジェクトというCGでどれだけ精巧に人間をつくれるかという研究開発をしていて、そこに僕が企画として出したのがimmaちゃんでした。そうして2018年にバーチャルヒューマンプロジェクトを正式にスタートさせ、昨年Awwを設立しましたが、まもなくしてコロナが起こり、それが追い風となって一気にバーチャルが加速したと感じています。その流れで、バーチャルファッションデザイナーのAsuをつくり、それを運営するのがPersonaです。

昨年から国内外でバーチャルヒューマンを起用する企業が増えている印象ですが、その背景には何があると思いますか?

2010年代初頭からマスが薄れ始め、SNSが出てきたことでメディアが大きく変わり、遂にマスがなくなりました。SNSがメディア化されましたが、もうそろそろSNSもユーザーが疲れてしまって、勢いが弱まってくるのではないかと思っています。次は「コミュニティの文化」が来るのではないでしょうか。例えば、数万人のフォロワーがいるインフルエンサーでも知らない人はたくさんいますが、特定のコミュニティには人気がある。そんなコミュニティがたくさん生まれていき、そのコミュニティがまとめられていくのではないかなという気がしています。バーチャルヒューマンが認知され始めたのは、メディアが個になったことが大きくて、それに合わせるように「究極の答えをつくる」ということを掲げてimmaちゃんをつくったということもあります。バーチャルヒューマンが注目されるようになった一番のきっかけは、このようなメディア転換が起こったことではないでしょうか。

バーチャルヒューマンに対するユーザーの意識や反応も変わってきていますか?

世代によるバーチャルヒューマンの受け入れ方の違いというものは感じています。昨年、ゴーギャン版のカバーの『サピエンス全史』が発売されましたが、そこに「認知革命から人類の進化とフィクションが始まった」というようなことが書かれていますが、実は今も同じで、特に若い子たちは何を信用するか、何が実在するか、といった判断基準が大きく変わっていると思います。僕の世代では、特撮から見ているので「スター・ウォーズ」のヨーダが人形であることを知っていますが、今の10代、20代は生まれた時からSNSによる情報とCGが溢れ返った世の中で、いきなりフルCGを見ているため、僕ら世代よりCGやバーチャルに対するハードルがめっちゃ低いんですよ。だから信じる対象もちょっと違っているなと感じます。

つまり、バーチャルヒューマンが発信することやCGによる映像も、現実に実在するものと分け隔てなく信用されているということですね。

そうですね。現在、immaちゃんのフォロワーは27万人ですが、未だにCGではないと思い込んでいるファンもたくさんいますし、メキシコでは壁画として巨大に描かれ神のように崇められています。例えば彼女が何かをしますと言ったら、支援してくれる人がたくさん集まるだろうなという感覚はあります。バーチャルヒューマンをやっている上で掲げているのは「真実はどこにもない」というテーマで、それにもつながります。

ファッション業界のオンライン化やデジタル化は早い方ではありませんでしたが、ここ数年で、BtoC、BtoBでの活用事例が増えていると思います。今後、ファッション業界はデジタルによってどう変わっていくと思いますか?

次に大きく進化するタイミングは、人間がバーチャル化された時ではないかと思っています。実は、個人的にはオンラインやバーチャルのファッションショー自体にはあまり関心がなく、その先に展示会があって、さらに試着ができて、即購入できることが大切だと思っています。現在サービスを休止していますが、ZOZOTOWNからZOZOSUITがリリースされた時に「体形を簡単に数値化できるとは!」と非常にワクワクしました。つまり、CGで簡単にアバターの体をつくることができ、3Dスキャンで顔のデータを採って体と合成すれば、高性能のアバターをつくることができるんです。例えばファッションショーをVRなどで観て、フィナーレ後にドアが出現し、それを開けると展示会会場になる。僕らは高性能なCGの洋服もつくっているので、それがラックに掛かっていて、VRで手に取ったり、アバターが即座に試着することもできて、さらに髪型も瞬時に変えられて様々なスタイリングを楽しむことができる。その横に購入ボタンがあって翌日届くのであれば、絶対利用したいですよね。今はまだバーチャルはショーなどの表現でしか活用されていませんが、インフラとして活用されればファッション業界は革命的に変わると思います。

Interview by Sonoko Mita
Photography by Yohey Goto

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