Interview & Report

YUANN

YUANN YUANNフィルム&アートディレクター

Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 A/W Key Visual FILM & ART DIRECTOR / DP

上海出身、東京を拠点とする映画監督であり、東京にてビデオ制作、デジタルエクスペリエンス、ブランディングを行うkidzfrmnowhereの創設者。ファッションやアートを中心に映像、ディレクション、グラフィックにいたるまでさまざまな肩書きを持ち、ワールドワイドに活躍している。

Rakuten Fashion Week TOKYO 2021 A/Wキービジュアルのクリエイティブ・ディレクター&プロデューサーを務める守屋貴行氏と共に、フィルム&アートディレクターを務めたYUANN氏。ONITSUKA TIGERやVALENTINOなどのファッションフィルムを手がけるほか、アーティストや職人など幅広いジャンルの映像を生み出しているYUANN氏に、キービジュアルテーマの表現方法や日本人デザイナーの魅力、ファッション分野における今後の期待などを伺った。

 

【Key Visual:1】ステレオタイプの概念から飛び出したワンダーランドの世界

− 今イベントのキービジュアルのクリエイティブ・ディレクター&プロデューサー守屋貴行氏とコンセプトやテーマなどを共に考案し、その世界観を映像で表現したYUANN氏。今期のテーマ「DREAMY – METAVERSE REAL」を、ポジティブな脳内トリップと位置付けて作品作りに挑んだという。

「今は、コロナの影響によりいろんなことが制限されている日々が続いています。疲れてしまって、前向きになれないこともある。でも、だからこそ、バーチャル(妄想)でも現実社会においてもイマジネーションを働かせて、自分がどう豊かになっていくかというのが試されている時期でもあると思うんですよね」

 

−「DREAMY – METAVERSE REAL」の映像では、自然と動物が共存する大地、作物が生まれる農地、都会を謳歌する人々などさまざまなシーンが映し出され、ファッションの枠を超えた世界が広がっている。

 

「今回の作品は現実社会にある固定概念から逃避して、ワンダーランドに迷い込んだというコンセプトで作りました。ファッションを切り口に、今まで見たことのないスケール感を感じてもらいたいなと思って。コロナの影響を考えたとき、当然ネガティブなことの方が多いし、気を付けなければいけないこと、制限しなくてはいけないことが増えています。でもそれだけじゃなくて、デジタル社会を後押しした部分もある。働き方改革もそうで、効率が良くなった部分もありますよね。ネガティブな部分だけに目を向けるんじゃなくて、思考を少し変えたら、世界が平和になれる側面も持っていると僕は思うんです」

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【Key Visual:2】ありのままの情景を映した映像美

− バーチャルの世界へと逃避し、ワンダーランドを表現したYUANN氏。幻想的な世界だからこそ、今、その瞬間に巻き起こる現象をダイレクトに投影したと話す。

「地球を感じる大地から都会的なイメージまでいろんなシーンを撮っていますが、その場で起こるグルーヴ感を大切にしました。モデルと動物を同じ空間で撮ったものはリアルな情景をそのまま映しているし、夕陽でピンクに染まった空も湿った土の色も合成は一切なし。作り込んでやっていたら撮れなかったと思います」

 

− 新しい価値観が生まれている今、さまざまな場面を映し出すリアルと幻想的なシーンが、自分にとって居心地の良い場所がどこなのか、自分を解放してくれるファッションはなんなのかと、問いかけているようにも映る。

 

「1枚に定まっていない、いろんなシチュエーションでいろんなテンションで組み上げられた一つのストーリーなので、観る人の状況によっていろんな見方ができる作品になっているかもしれませんね。スケール感とDREAMYを映したスペクタクルが目に止まっていただけるとうれしいです」

 

 

【Work】YUANN氏が大切にしているモノづくり

− アートディレクターの顔だけでなく、自身で映像を撮り、編集までもこなすYUANN氏。クリエイティブな映像を作り上げる中で、最も大切にしていることとは。

「日本の映画監督は、大半ファーストカットを切らない、編集室に入らないっていう縦割りのような構図があるんですが、僕はすべて自分で作れるような環境づくりをしています。以前、海外の有名なプロダクションが作ったすごくおもしろい映像を目にして、作品の編集を依頼しようと連絡をしたら、うちは監督が自分自身で編集をやっているので、編集だけの仕事は一切受け付けていませんって言われたんですよ。その時、自分の中の謎が解けたんです。いいものを作ろうとするならクオリティを保つ意味でも監督の意志が重要で、責任を持ってすべての工程をやらないとダメなんだなって」

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− カメラや編集の技術を持っているからこそ、現場で素早い判断ができるという。

「巨大なセットを作って撮影するときに、寄ったり引いたりとアングルを変えて撮影しても、見る人はあまり変化を感じない。だったらほかのセットや風景の映像と織り交ぜて2秒、3秒を贅沢に使う方がいいと思っています。自分が表現したい瞬間に観る人の心に刺さっていればいい。それが例え1.5秒でも」

 

−また、現場がワクワクするような空間を作ることも大切だと話す。

 

「何十テイクも撮っていたら演者さんもスタッフもテンションが下がっちゃいますよね。結局自己満足の映像を撮りたいんでしょって(笑)。だから僕は現場のテンポを大切にしています。役者の方にもスタッフにも楽しんでもらいたい。みんながワクワクする空間を作り上げなきゃ、いい作品はできないから」

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【Fashion:1】撮影を通じて感じた東京ブランドのクリエイティビティ

− 作品でモデルが着用しているのは、すべて東京ブランドのファッション。YUANN氏は、撮影を通して日本のファッションに変化を感じたという。

 

「羊の大群のシーンでモデルが着用したのはANREALAGEさんのドレスなんですが、アンリアルなワードローブだったからこそ、DREAMYのテーマにすごく合っていました。僕の印象としては、クラフトマン気質で職人のスピリットが宿っている“made in japan”のイメージが、昔と比べて少しトーンダウンしているような印象があったんですが、プリントに個性を出していたり、和モダンテイストを取り入れたりと、ブランドごとにオリジナリティが表現されていて、ミニマニムズを心がけて製作されているんだなと驚きました。今回携わらせていただいて、自分にとって、とても意義のあるものになりました」

 

【Fashion:2】流行を生み出す発信力とブランディングが大事

− 日本におけるファッション業界の発展について、一定レベルのデザイン性やクオリティの必要性と共に、新しいことに挑戦することが大切だとYUANN氏はいう。

 

「これまでのファッション・ウィーク東京では、ファッションを打ち出したキレイなキービジュアルでしたが、『DREAMY – METAVERSE REAL』では、ストリー性を持たせながらファッション性を取り入れるという試みに挑戦しました。今のような情報社会ではソーシャルメディアがメインになってくるので、パッと観て、“なにこれ?ファッション・ウィークだ。見てみよう”という仕掛けも用意しています。興味があるものはクリックしたりスワイプしたりとアクションを起こす。逆に興味がないと何のリアクションもない。僕は映像は3秒間が勝負と考えていて、3秒で見たいか見たくないかが決まってしまう。だからインパクトが欠かせない。でもその次はストーリーテイミングが必要になってくる。重要なのはどうやって人の関心を集められるか。これも楽しみながら挑戦することが大事だと思っています」

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− またYUANN氏は、コロナの影響によりデジタル化が進み、世界との垣根も無くなってきたと話す。

「海外ブランドのファッションフィルムを作らせていただいていますが、日本のブランドで制作しているところはほとんどありません。今はデジタルの発展によって垣根がなくなり、ありとあらゆる人が繋がれる時代。これからのファッション業界も、アイデアとブランディングと発信力次第だと感じています。iPhoneで撮影してもサマになるし、TikTokでもみんながおもしろい動画をどんどん発信していて、こうした小さいアプローチが大きな可能性を生むこともある。世界を巻き込んだ発想で新しいことにチャレンジしていくと、ファッションももっとおもしろくなるんじゃないかなって思います」

 

Interview by CRAING
Photography by Kenji Kaido

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