Interview & Report

ブルース・パスク Bruce Pask

ブルース・パスク Bruce Pask 「バーグドルフ・グッドマン」メンズファッションディレクター

MBFWT 2016 S/S 海外ゲストインタビュー vol.1

「バーグドルフ・グッドマン」メンズファッションディレクター/ブルース・パスク

Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 S/Sの開催に合わせ、ニューヨークを代表する高級百貨店「Bergdorf Goodman(バーグドルフ・グッドマン)」のBruce Pask(ブルース・パスク)氏がJETROの招聘で来日した。世界中のファッションデザイナーたちにとって特別な存在であり、2013年に公開されたドキュメンタリー映画「ニューヨーク・バーグドルフ 魔法のデパート」などによって、日本における認知度も高まっている同店のメンズファッションディレクターが見る日本のファッションとは?日本のブランドやファッション・ウィーク、ショップに対する印象や、気になるファッショントピックスなどを伺った。

bergdorfgoodman_com

Bergdorf Goodman公式サイト

まずは、日本の文化やファッションについて抱いているイメージをお聞かせ下さい。

日本には、過去に2度撮影の仕事で来ているので、今回が3回目の来日になるのですが、以前から日本に対する憧れをずっと持っていました。実際に日本に来たことでさまざまな経験をすることができましたし、伝統を尊重しながら、豊かな文化が育まれているということを強く感じましたので、今回の機会を与えてくれたJETROには感謝しています。 日本のファッションについては、デニムをはじめ、アメリカが失ってしまった技術やスタイル、文化が継承されているということが素晴らしいですね。また、今回の滞在中に、明治神宮に足を運ぶ機会があったのですが、このような伝統的な場所が、原宿のような小売店が多く集まっているエリアと融合し、ひとつの街が形成されているということも日本の特徴だと思います。

 

今回の来日ではどんなところに足を運ばれたのですか。

いくつかのファッションショーと、多くの小売店を主に回りました。私たちバーグドルフ・グッドマンは、ラグジュアリーの分野において世界トップを争っている百貨店だと自負していますが、日本の小売も非常に優れていて、それぞれに個性を感じます。ヴィジュアル面にこだわったお店がとても多く、新しい商品の見せ方を通して、お客さまにさまざまな角度から洋服を選んでいただくということを大切にしているのだと思います。

 

東京のストリートファッションについてはいかがですか。

今回の来日で特に感じたことは、先端的な素材を取り入れた新しいスタイルのファッションが広がりつつあるということでした。一方で、イギリスやアメリカからの影響を感じさせるダンディなメンズファッションも見られ、それらがミックスされていることがとても興味深いですね。

 

東京のファッション・ウィーク全体の雰囲気として、何か感じることはありましたか。

ファッションショーを行う目的というのは、ヴィジュアルを通して世界にメッセージを発信するということだと考えていますが、それがしっかり実現されていると感じましたし、よくオーガナイズされたファッション・ウィークだと思います。メイン会場の渋谷ヒカリエはアクセスも良いため、たくさんの人たちが集まっていて、注目度やエネルギーの高さを感じました。

 

世界各地のファッション・ウィークを回られていると思いますが、ショーを見る時にはどんなことを大切にされていますか。

今、私たちの店舗にある商品と比べた時に、何が新しいのか、ワクワクするような感情を引き起こしてくれるのか、ラグジュアリーな雰囲気があるか、ということなどを意識しながら、最終的にはお客さまに提案した時に喜んでいただけるかということをジャッジのポイントにしています。ショーでは特に見せ方の部分に注意を払って見ていますが、メンズウエアに関しては、ファッションショーではあまり強調されにくいディテールが非常に大切になってくるということも事実です。

ブルースさんは、メンズファッションディレクターという肩書きですが、具体的にはどのようなお仕事をされているのですか。

バイイングからヴィジュアルまで、さまざまな部門と協力をしながら、あらゆる場面において一貫したイメージを展開していけるように全体を見ることが私の仕事です。そのため、バイヤーと一緒にショーに行ったり、商談に参加することもありますし、到着した商品を店内でどう見せていくのかということもヴィジュアルのチームとともに考えています。さらに、バーグドルフ・グッドマンが刊行しているマガジンのコンセプトやヴィジュアルイメージのコントロール、ニューヨーク五番街にあるウインドウディスプレイ、インスタグラムやブログに投稿する内容などにも目を配り、店舗イメージのクオリティ維持と統一感を持たせることを心がけています。

 

インスタグラムやブログなどにも力を入れていますが、これらのデジタルコミュニケーションについてはどのようにお考えですか。

バーグドルフ・グッドマンでは、スマートフォンが登場した頃から、デジタルコミュニケーションに力を入れてきました。私たちのお客さまは、店舗に来て商品を見たり、お買物を楽しむだけではなく、同様の体験を自分の自由な時間、場所で楽しみたいという欲求を持っています。そうしたニーズを鑑みて、いつでもバーグドルフ・グッドマンの世界観を楽しんでいただけるように、インスタグラムやブログ、オンラインストアなどのデジタルコミュニケーションを活用しています。コミュニケーションツールが多様化する中で、お客さまに満足していただける最大限のカスタマーサービスを提供していくということが、私たちの考え方です。

 

世界のメンズファッションの動きで、注目されていることがあれば教えて下さい。

今、メンズファッションの大きなキーワードとなっているのは、カジュアル化です。スニーカーが爆発的に売れるなど、スポーツというものがファッションの重要な要素を占めるようになっています。また、トレンドからは外れた話になりますが、ブログやSNSはもちろん、雑誌や新聞などでもメンズファッションが大きく取り上げられる機会が増えていることで、男性のファッションへの意識も変わってきていますし、自分がどんなファッションを求めているのかということが、より明確に分かる時代になっていると感じています。

 

日本のメンズブランドについては、どのような印象をお持ちですか。

日本のメンズブランドの多くは、伝統を大切にしながら、最新の技術や素材、パターンなどを取り入れることで新しいファッションを生み出そうとしていて、それは大きな魅力だと思います。また、ストリートウエアから最新モード、さらに、欧米の伝統的なスタイルを基調にしたものなどバラエティが非常に豊富で、それぞれのスタイルを尊重し合いながら、ひとつのシーンを形成しているということも非常に興味深いです。

日本のブランドが海外に進出する上では、どんなことが大切になるとお考えですか。

やはり大きな課題はサイズの問題です。つくり手側もそれは理解していると思いますが、やはり海外に展開する上では、サイズの対応をしっかりしていただく必要があります。また、ファッション・ウィークの時期の関係もあり、欧米のブランドに比べて納期が遅くなってしまうこともひとつの課題です。とはいえ、こうしたオペレーションの部分よりも大切なことはブランドのオリジナリティで、他にはない個性というものこそが、成功のカギになるはずです。

 

今回の来日では、日本のファッション業界関係者と交流する機会も多かったと思いますが、どんな収穫がありましたか。

先日参加したTweed Run TOKYOでは、ユナイテッドアローズの栗野宏文さんと同じグループで自転車で走ったのですが、そこで深いお話ができたことがとても印象的でした。また、私はかねてからビームスのファンで、先シーズンから「BEAMS PLUS」の商品を取り扱っているのですが、今回設楽洋社長を始め、チームの皆さまとお会いできたことも良い経験になりました。その他にもさまざまな店舗を訪問し、デザイナーやショップの方たちとのお話を通してさまざまなことを学ぶことができ、すでに私のノートは書き込みでいっぱいです。将来的に、バーグドルフ・グッドマンがどんなファッションを展開していくべきなのか、その中で日本のファッションが果たしていく役割とはどんなものなのか、ということを考える非常に貴重な機会になったと感じています。

 

 

Interview by YUKI HARADA

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