Interview & Report

クラウディオ・ベッティ

クラウディオ・ベッティ Claudio Betti / イタリアバイヤー協会 副会長

AmazonFWT 2018 A/W 海外ゲストインタビュー vol. 3

イタリアバイヤー協会 副会長

Amazon Fashion Week TOKYO 2018 A/WにJETROの招聘で、イタリアバイヤー協会の副会長を務めるクラウディオ・ベッティ氏が来日した。彼は、1976年にイタリアで創業した老舗ブティック「SPINNAKER」の経営者でもあり、今回はショーの観覧のほか、日本の若手デザイナーの海外支援を目的とした「若手デザイナー支援コンソーシアム」のオープニングイベントへの登壇やブランドの視察なども行った。イタリアバイヤー協会についてや東京のファッション・ウィークの感想、日本のファッションブランドが世界で活躍するためのアドバイスなどを聞いた。

 

Claudio Betti

若手デザイナー支援コンソーシアム オープニングイベントにて

来日は何回目になりますか?

日本には数え切れないくらい来ています。初来日は20年前で、それから10年間ほど、年に数回のペースで来ていましたが、今回は10年ぶりの来日です。イタリアバイヤー協会は日本のファッション産業や東京のファッション・ウィークにも注目していて、昨シーズンまでは代表が来ていましたが、今回は「君の視点で日本のファッションを見て、意見を聞かせて欲しい」と命ぜられて、来日することになりました。

 

イタリアバイヤー協会とは、どのような組織でどんな活動をされているのですか?

イタリアバイヤー協会は、イタリア主要都市のラグジュアリー系のセレクトショップのオーナーを束ねる非営利団体で、2000年に創設されました。その中で、「THE BEST SHOPS」という小売店のサービスや質の向上を目的としたプロジェクトを運営しています。THE BEST SHOPSは、独自性のある商品やサービスを提供することがショップとして重要であるという本協会の精神を表明しています。約500店舗が対象となりますが、その中で厳格な審査によって100店舗を選定し、THE BEST SHOPSとして認証しています。国内のショップの活性化のために、海外の新しいブランドの発掘やデザイナーをスカウトすることも我々の役目で、今回こうして来日しています。

 

クラウディオさんはショップの経営者でもいらっしゃいますよね?

私はSPINNAKERというイタリア国内で15店舗と、オンラインストアを展開しているグループブティックを経営しています。設立は1976年ですので、ラグジュアリー系セレクトショップの先駆け的な存在かと思います。日本のユナイテッドアローズやビームスに近いかもしれませんね。世界各地からバイヤーが当社のウィンドウを見に来るので、セレクトショップのインフルエンサーのような位置づけでしょうか。日本は東京がファッションの中心地であり、そこからトレンドが広がっていく感じかと思いますが、イタリアはエリアによって好みやテイストが違うので、ファッションの嗜好が幅広いのです。そのため、我々のようなセレクトショップは各エリアに合ったトレンドをつくる役割も担っています。「SPINNAKER(スピネーカー)」とは、ヨットで風を受けて動力にするメインマストのことです。私自身も家族もセーラーなので、この名前にしました。実際に我々の店舗は、イタリアのアラッシオやポルトフィーノ、サンレモ、サンタマルゲリータなど、海岸沿いの美しいリゾート地にあります。

 

今回の来日では、どちらに出掛けましたか?

六本木や表参道、中目黒などのセレクトショップと、神田明神にある「Y.&SONS」に行きました。 Y.&SONSではNorwegian Rainの別注の着物の上にも着られるコートを買いました。ちょうど私の中で、ノルウェージャンレインのフィッシャーマンスタイルと着物がミックスしたレインコートを作りたいと思っていたところでした。

 

東京のファッション・ウィークは、他の都市と比べてどう思われますか?

例えばパリやミラノのファッション・ウィークでは街全体が動いている感じで、海外からもたくさんの人たちが訪れ、ホテルはすべて満室になり、レストランも予約でいっぱいになります。ファッションに限らず、様々な人たちが来ていて、この1週間はファッションを中心に経済が回っている感じがします。東京でも色々な場所で関連イベントなどが行われていますが、そこまで連動している感じがしません。街自体でファッション・ウィークのムードを盛り上げることは大事なことです。時間が掛ることだと思いますが、ファッション・ウィークはファッション以外の経済も動く良い機会だと思いますので、活用しない手はないと思います。

 

東京のファッション・ウィークのショーやコレクションについてはいかがですか?

ショーを拝見していて、デザイナーの皆さんが、自分のデザインに信念を持ってクリエーションしていることが伝わってきました。すべてのショーが上手にコーディネートされていて、裏側にあるアイデアもわかりやすく汲み取れました。ただ、ヨーロッパのブランドからの影響を強く受けていると感じた点もありました。私たちが求めているのは、ヨーロッパにはないような新しい要素を提示してくれる日本のブランドなのです。

 

印象的だったショーを教えてください。

まさに今日のTOKYO FASHION AWARDの受賞ブランドのショーを楽しみにしていて、まだすべて観ていない段階ですが、今朝のKUON(クオン)のショーは生地の使い方がとても印象的でした。刺し子や藍染など、日本の貴重な古布をテキスタイルとして取り入れているのが素晴らしかったです。日本らしさというアイデンティティは、コマーシャルにのせるというのは難しいと思いますが、そこをうまく伝統的なテキスタイルで表現されていました。HYKE(ハイク)はクリーンで日本人らしいカッティング、デザインに加えて、THE NORTH FACE(ザ・ノース・フェイス)とのコラボレーションなど、日本的な要素とコマーシャル性の組み合わせがとても絶妙で、素晴らしいと思いました。デザイナーがしっかりと独自のアイデンティティを持っていることは大切ですが、バイヤーとしては売れるものをバイイングしないといけないので、やはりコマーシャル性も大切です。日本では、セレクトショップがナイキやアディダスとのコラボレーションアイテムを展開しているのをよく見かけますが、ブランドの認知度を広げるには良い方法の一つだと思います。

 

今回のAmazonFWT参加ブランドに限らず、気になる日本ブランドはありますか?

昨日、アトリエを何件か訪問しましたが、Ujoh(ウジョー)は良いブランドだと思いました。あと、昨年ピッティ・ウォモにゲストデザイナーとして参加した sulvam(サルバム)も良いですね。メンズならばピッティ・ウォモはとても重要です。クラシックでフォーマルがメインの展示会ではありますが、メンズの展示会はここから始まりますし、たくさんのプロダクトが集まります。モードとしてコレクションを打ち出すにはパリやミラノのファッション・ウィークが有効かと思います。どちらが良い・悪いではなく、それぞれに特徴があって目的も異なりますので、ブランドによって必要なことを見極め、それに応じて使い分けるべきです。

 

日本ブランドが世界で成功するには、何が必要だと思いますか?

まず、日本での仕組みづくりが必要です。ファッションは変化がとても速いので、ショップ側もそれに合わせて急いでバイイングしなければいけません。パリやミラノには評判のショールームがあって、そこでセレクトされたブランドを効率良く見ることができますが、日本ではショールームはあっても、やはりショップやアトリエを回らないと良いブランドに出会えない感じがします。ファッション・ウィークは、有望ブランドが一堂に集まるという点で、バイヤーにとっては有効と考えています。 海外のバイヤーが日本ブランドに求めているのは、クールさやクレイジーさです。そして、デザイナーがきちんとアイデンティティを持っていること、伝統について語れることも大切です。これは私たちがお客さまに対しても同じことが言えます。先日、若手デザイナーへのメッセージとして「Coraggio!(勇気を持って)」という言葉を送りました。バイヤーたちが他の都市のコレクションを見た後で、心に引っかかるようなインパクトのあるコレクションを発表することは容易ではありませんが、勇気と自信を持ってクリエーションを追求し、海外へ挑戦してください。日本のデザイナーたちの飛躍を楽しみにしています。

INTERVIEW by Akane Fujioka

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