Interview & Report

Front Row(バイヤー)

Front Row(バイヤー) ハーマン・シャー

MBFWT 2015 S/S 海外ゲストインタビュー vol.3

 

Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2015 S/S 会期中に、シンガポールのセレクトショップ「Front Row(フロントロウ)」から、Herman Shah(ハーマン・シャー)氏が来日した。国内外30を超えるブランドを取り扱い、シンガポールのファッションシーンを牽引する存在である同ショップのバイヤーに、昨今、各方面から熱い視線が注がれているシンガポールにおけるファッションの状況や、日本のファッション、文化についての印象などをお伺いした。

 

来日は何回目ですか。

今回が初めてです。JETROさんの招聘で来日が決まった時は、普段はルックブックやラインシートを通してしか触れられなかった日本のブランドのデザイナーに直接会えると思い、非常にワクワクしました。

 

ショーをご覧になっていかがですか。

全体的にクオリティが高いと思いました。ショー自体が一般に向けて開かれている印象で、学生さんなども一緒になってデザイナーをサポートしようとしている雰囲気を感じました。また、来場されている人たちは非常に礼儀正しく、とても良い印象を持ちました。

 

東京の街や文化については、何か感じたことはありますか。

東京は、すべてが非常にコンパクトにまとまっていて、仕事をする上でも居心地が良い街だと感じました。また、日本でものづくりをされている方たちは、素材や品質に非常に強いこだわりを持っているという印象を受けました。来日してから何人かのデザイナーとお会いしましたが、中には120年もの歴史を持つ老舗企業の方もいて、ブランドが育んできた伝統や、洋服の背景にあるストーリー、ものづくりへのこだわりなどを直接伺うことができ、大きな気づきが得られました。

 

東京のストリートファッションについてはいかがですか。

来日する前は、インターネットからの情報くらいしかなかったので、日本の方たちが実際にはどんな洋服を着ているのか注目していたのですが、想像していたほどカラフルではなく、意外にコンサバなファッションが多いように感じました。ただ、基本的に日本の方たちはとてもファッショナブルですし、それぞれのスタイルから何かしらのグループに属しているように見えることがとても興味深かったです。つい先ほども、隣を走っていたタクシーに、金髪に長い爪をしたロリータ・ファッションの女性が乗っていて、「これからどこに行くんだろう」と不思議な感覚になりました(笑)。

 

シンガポールの方たちのファッションには、どのような傾向がありますか。

シンガポールのファッションは、日本ほど幅は広くないと思います。若い人たちの多くはストリートブランドを、年齢が高い人たちはラグジュアリーブランドを好む傾向があります。また、その中間に位置する人たちの間では、ベーシックで軽い素材のジャケットなどを主軸にしたスタイルがトレンドになっています。

 

ハーマンさんが働いているFront Rowについても教えて下さい。

シンガポール国内の若手デザイナーを育てることを目的に、2005年にオープンしたセレクトショップです。来店されるお客様は、地元の方と観光客の方が半々で、年齢層は18歳から55歳までと非常に広く、それに合わせた多彩な商品構成になっています。オープン当初は、10~15前後のシンガポールブランドのみを展開していましたが、年々海外ブランドも取り入れるようになり、現在では35ブランド前後を取り扱い、そのうちインポートが5、6割を占めています。

 

バイイングの際に大切にしていることは何ですか。

まずは、ショップの雰囲気に合う商品かどうかという、フィーリングの部分を大切にしています。また、品質の高さはもちろんのこと、価格とのバランスも重要です。デザイナーの出身国などにこだわりはありませんが、ブランドとしてのコンセプトをしっかり持っているかということも重視しています。

 

買い付けのために海外に行かれることも多いのですか。

そうですね。ファッションは移り変わりが激しいものですし、ブランド側が提案するものも、私たち自身がほしいと思うものも移り変わっていきます。そのため、定期的に海外に足を運び、新しいトレンドを取り入れながら、自分たちのショップに合うものを探してくることは大切だと考えています。

 

近年はファッションの分野においても、アジアへの注目度が高まっていると思いますが、個人的に注目をしている国はありますか。

まず、アジアのファッションというのは常に日本がリードしてきたと思いますし、多くのアジアの国々は日本を真似するところから始まっています。日本以外の国を見てみると、特に近年は韓国という国に注目すべき何かがあると感じています。すでにシンガポールで人気を集めている韓国のストリートブランドなどもありますし、今この国で何が起こっているのかを見に行かなければいけないと思っています。

 

シンガポールの国内ブランドは、どのような状況にありますか。

私たちが若いデザイナーの洋服を扱い始めた頃は、まだ市場に受け入れる準備ができていなかったので、はじめは大きな投資をしていく必要がありました。その後、市場は徐々に育ってきているとは思いますが、もともと国内のマーケット自体が小さく、国内ブランドを扱っているショップの数も多くはありません。こうした状況の中で、シンガポールのブランドは、インポートブランドよりも安い価格で洋服を提供していく必要があると思いますし、大きな成功を収めようと考えるのであれば、海外に出ていくことが必須です。そうなるとどうしても資金が必要となり、大きな資本力を持っているブランドが有利になるというのが現状です。

 

シンガポールのショップにはどのような傾向がありますか。

シンガポールは土地が少ないので、日本のように買物をするために色々な場所を歩いて回るということはなく、ほとんどのお店はショッピングモールなどの中に入っています。ちなみに、今回のファッション・ウィークに合わせて、同じシンガポールから「Surrender(サレンダー)」というショップのバイヤーも来日していますが、私たちはともにショッピングモールではなく、ラッフルズ・ホテルの中にショップを構えており、ロケーションに非常に恵まれていると感じています。

 

最後に、Front Rowの今後の展望や、ハーマンさんご自身の夢などがあればお聞かせください。

年末に新たなライフスタイルストアをオープンさせる予定で、そこではファッションだけではなく、食や本、雑貨などを扱っていく予定です。これまで、シンガポールにはこうした業態はなかったので、私たちにとって大きなチャレンジになりますが、ファッションからライフスタイルを提案していくショップのパイオニアになれればと考えています。また、私個人としては、海外に滞在する機会をつくってみたいですね。やはり今回のように海外に来て、色々なものを見たり聞いたりすることは貴重な経験になりますし、シンガポールはまだ、ファッションという面では進んでいる国とは言えないので、より多くの刺激が得られる場所に行ってみたいと考えています。

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INTERVIEW by Yuki Harada

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