栗野 宏文 Hirofumi kurino 株式会社ユナイテッドアローズ上級顧問 クリエイティブディレクション担当
FACE A-J ディレクター
1953年にNYで生まれ1歳からは日本で育つ。
大学卒業後、ファッション小売業界で販売員、バイヤー、ブランド・ディレクター等を経験後、1989年にユナイテッドアローズ創業に参画。販売促進部長、クリエイティブディレクター、常務取締役兼CCO(最高クリエイティブ責任者)などを歴任し、現職。
2004年に英国王立美術学院(RCA)より名誉フェローを授与。LVMHプライズ外部審査員。音楽好きでDJも手掛ける。2011年よりツイードラン・トウキョウ実行委員長。イタリアのポリモーダ・フィレンツェ校にて2020年度、マスター・クラス卒業生のメンター。
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Rakuten Fashion Week TOKYO 2020 S/Sに初参加し、2021S/Sシーズンで2回目の参加となった”FACE A-J”プロジェクト。 “Fashion And Culture Exchange. Africa-Japan”を意味し、アフリカと日本のファッションやカルチャーを紹介する本プロジェクトのディレクターとして参画している栗野宏文氏に、今回のファッションショーやプロジェクトスタートの経緯を伺った。また長年業界を牽引されている立場から、ポスト・パンデミックを見据えたファッション業界に対して、現在の率直な意見もお聞きした。
今回で2回目の参加となりました“FACE A-J”について、プロジェクトを始められた経緯を聞かせてください。
FACE A-Jは、アフリカと日本のファッションとカルチャーの積極的な交流を通じて文化的、経済的発展を両者にもたらすことを目標として2019年にスタートし、昨年は東京とナイジェリア・ラゴスでイベントを開催しました。ユナイテッドアローズで2013年から国連のEFIとコラボレーションしアフリカ発のクラフトワークを商品化するブランド“TEGE”を始めるなど、アフリカは僕が今注目している場所です。このプロジェクトは、そんなアフリカにルーツを持つ東京在住の女性の二人組ユニット“Awa Tori”から相談を受けたことをきっかけに、アフリカで日本の若手デザイナーを、日本でアフリカの若手デザイナーを紹介して、ファッション&カルチャーエクスチェンジしたら面白いのではと提案したのが始まりです。
昨年は東京タワー下で、カルチャー、特に音楽にポイントがおかれたショーを開催されましたね。
東京のショーのメインは“民謡クルセイダーズ”に日本のデザイナーの服を着てもらうという演出でした。その演奏シーンの映像と音楽をバックにラゴスではショーを開催しました。ラゴスでは、“ALARA”という近年で僕が最も感動した、素晴らしいセレクトショップを会場にしました。サンローランやマルニが並ぶ店内において、特に目を惹いたブランドがナイジェリアの“WAFFLESNCREAM”で、今年のコレクションは彼らとのコラボレーションから生まれたものです。今回東京でイベントを開催できたのも、昨年の第一弾があったからですね。WAFFLESNCREAMは、西アフリカにおいて最初で唯一のスケートショップとして、地域のスケーターやアーティストと協力し、アフリカにスケートパーク建設を目指している素晴らしいブランド。ALARAでも彼らの商品を買って、彼らのショップ視察でもまた商品を買ってしまうほど、魅力的でした。
今回の発表では東京、ナイジェリアの“スケートボード”カルチャーが大きなファクターになっていました。
身体能力やアート性の高さから、ナイジェリアのスケートボードは、とにかくかっこいい。そして、東京オリンピック2020からスケートボードが公式種目になることもあって、国内でも盛り上がっているスポーツですよね。スケートボードは、都会から生まれたスポーツで、ミュージシャン、アーティスト、俳優なども輩出する多層的なカルチャーとしての側面も持っていますし、ファッションに深みを生んでくれるものだと思います。世界に発信するべき東京の良さって、街にカルチャーがあることだと思っていて、スケートボードは東京のカルチャーを楽しんでもらえる要素でもあります。
コロナ禍での発表となりましたが、イベントを実際に開催されていかがでしたか?
ビジュアル配信がメインとなることに関しては、昨年のラゴスでのショー実施の際からVRを使うこと等構想していたことだったので、特に影響はありません。フィジカルな面で言うと、今回はMIYASHITA PARKのスケートボード場で発表する予定でしたが、雨のため会場を急遽変更し、アフターパーティ会場のPIZZA SLICEにランプを組み立てて開催しました。限られたスペースとなってしまったため、招待したスケーターたちも滑りにくさを当初は感じたようですが、会場に隣接するH BEAUTY&YOUTHでは、コレクションのポップアップショップもやっていましたし、このイベントとの相乗効果があり結果的に良かったと思っています。
コレクションルックを着用したスケーターは皆とてもクールでした。
現在国内外で活躍しているトップスケーターを12名呼んで、ウェアを着用してもらいました。モデルよりもリアルで、モデルよりモデルらしかった。いつもお客様のリアリティに近づきたいと思っていて、以前、原宿のとんちゃん通りでコシェのファッションショーを開催したときは、モデルはストリートキャスティングで選びました。
バイヤーの立場として、コロナ禍におけるファッションショーやイベントをどのように捉えていらっしゃいますか?
着用することで良さが伝わるブランドもありますし、世界観の表現としてランウェイショーが必要なブランドも確かにあります。ですが、バイヤーはルックブック、ラインシート、生地見本さえあれば発注は可能ですし、ビジネスは成立します。会場には行っていませんが、JennyFaxのVRを使った2021S/Sプレゼンテーションは、リアルなショーでは出来ない面白さが追求され、とても可能性を感じました。フィジカルか、デジタルか、の二択ではないなと。また、僕自身はファッションショーにヒエラルキーは必要ないと思っていて、いろんな人がいろんな形で観られるものになればいいですよね。日本のファッションは、欧米と違って、自分のお金で洋服を買う人が支えているので。
今年の8月に著書「モード後の世界」を出版されましたね。この時期に敢えて出版された経緯をお聞かせください。
コロナ禍における出版となりましたが、フィガロジャポンでの連載をベースにタイムレスな内容として執筆してきたものでした。ここ10年間で、健康、食、コミュニケーションが生活者の優先される事柄となり、新型コロナウィルス禍(COVID-19)という国難を迎えている今、ファッションどころじゃないでしょうという雰囲気があります。ですが、これから生活者個人が強くなるためにおしゃれは絶対に必要で、今ここで誰かが言わなきゃいけない。COVID-19が拡がり、今後のファッションはどうなる?ファッション業界はもうアウトじゃないかと言う声が大きい中で、ポスト・パンデミック時代にファッションは生き残る価値があるものとして答えを出している本です。
ポスト・パンデミック時代を迎えるファッション業界に必要なこととは何でしょうか?
まず、ファッション業界は他責のしすぎであることを自覚するべきです。コロナのせいで潰れるのではなく、コロナ前から潰れる理由があるわけです。アパレル危機だと騒ぐ前に、不動産業や旅行業が、この機にサービスを異なる形で転換させていった様に、ポスト・パンデミック時代に合わせた行動をファッション業界も取らなくてはなりません。国内生産が出来てデリバリーに遅れが出ない日本ブランドがUAでも売れ行き好調ですし、これからが日本のファッション業界はチャンスなのです。
ファッションの優先順位が落ちている中で、お客さまが今後お金を出して買いたいと思うファッションとはどのようなものなのでしょうか?
“サステナビリティ”、“ダイバーシティ”、“西洋的価値観の衰退”が重要になります。また、サステナビリティにも関係しますが、トピックとして“農業”にも注目しています。洋服はもともと農産物ですし、国内の農業自給率を高めることはファッション産業にも恩恵があります。プルミエールビジョンでも、食べる羊のスキン、ウールの提案があったり、トレーサビリティはファッションにも関係しています。ファッションと農業に接点を作っていくことで、新たなケミストリーが生まれ、面白い展開ができるのではないでしょうか。
Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Yohey Goto