Norito Takahashi 高橋 紀人
インテリアデザイナー Jamo Associates 代表取締役
インテリアデザインを学んだ後、アイアンワークス&デザインオフィス、EXIT metal work supply の立ち上げメンバーとしてキャリアをスタート。自ら鉄を扱いながら、プロダクトデザイン、そしてインテリアデザインに没頭する。2000年、当時フリーランスでスタイリストとして活動していた神林千夏と共にJamo Associatesを設立。インテリアデザイン、環境デザイン、プロダクトデザインを担当。
2004年に手がけたLOVELESS(2004-2008)で、それまでのセレクトショップの概念を覆す圧倒的な空間を創り上げたJamo Associates・高橋 紀人氏。その後も、OPENING CEREMONYやTHE CONTEMPORARY FIXをはじめ、数々の人気ショップの空間デザインで話題をさらってきた彼は、先日、フィレンツェで開催された「VERSUS TOKYO」においても、盟友 吉井 雄一氏とともに斬新なクリエーションを世界にアピールした。10年以上に亘り、各ブランドや企業から絶大な信頼を得ているJamo Associatesの秘密に迫る。
高橋さんが空間デザインの仕事をするようになるまでの経緯を教えて下さい。
高橋:90年代後半に、ハンガーやフック、スチール家具など、主にアパレル関係の鉄の造形物を作るEXIT metal work supplyという会社の立ち上げに参加し、4年くらいやっていました。当時は、家具など単品の発注を受けていたのですが、まだ僕たちも若かったので、もっとこうした方がいいんじゃないかとか、色々茶々を入れながらやっていて(笑)、それが意外と評判が良かったんです。そのうち、「こいつら便利だな」と思われ始めたのか、徐々にデザインの領域が広がっていき、気づいたらお店を丸ごとやって欲しいという依頼も受けるようになったんです。
Jamo Associatesはどのようにして始まったのですか?
高橋:僕がEXIT metal work supplyからデザイナーとして独立した後、以前からの友人で、雑誌や広告でインテリアのスタイリングをしていた神林 千夏と、意気投合し、デザイナーとスタイリストという違う業種のふたりが、感覚や情報、プロジェクトを共有しながらやっていったら面白くなるんじゃないかということで、2000年にJamo Associatesを設立しました。
ファッション関連の空間デザインのお仕事が多いですが、もともとファッションに興味はあったのですか?
高橋:そうですね。僕が上京した頃は裏原カルチャーが盛り上がっていて、自分もよく遊びに行っていました。
ファッション空間をデザインしていく上で、大切にしていることがあれば教えて下さい。
高橋:実際に空間に来るお客様や売場のスタッフのことを大切に考えます。例えば、新しいショップの立ち上がりには、ブランドの各セクションの人たちから工事業者まで色々な人が関わってくるので、その人たちの和を乱さずに、みんなのテンションを上げていくということもとても大切なんです。ショップというのは、あくまでも洋服を売るための装置なので、その商売が成り立たないといけないのですが、まずは売場に立つ人たちがアガれるような空間にしたいという思いでやっています。そのアガった状態というのは、新しい洋服を着た時に思わず笑顔になるような感覚に近い気がします。そういう空間を作れれば、結果的にお客さんにも足を踏み入れてもらえるようになるのかなと思っています。
各ブランドの世界観や時代感などを表現していく必要もありそうですね。
高橋:そうですね。僕がいつも大切にしているのは、しっかり観察をすることです。そのブランドや会社のことはもちろん、経済のことなども含め、まず始めにできる限りの情報をインプットしてから、何を出していくかを考えます。時代の流れもあり、少し前に比べると、完全にお任せしてもらって空間を作っていくような仕事は少なくなってきています。最近は、用意されたお題に対して、いかに優れた編集をしていけるかということが大切になってきている気がしていて、そこでポイントになるのが、観察だと思うんです。だから、観察力を鍛えるということだけは日々心がけています。
観察力を鍛えるためにどんなことをしているのですか?
高橋:国内、国外の出張時などに、その街にあるものをよく見るようにしています。扉ひとつとっても、それをよく観察していくと、装飾や様式から色んなストーリーや、そこに住む人たちの気質、ライフスタイルなどが見えてくるんです。もともと僕は街を歩くのが好きなんですよ。空間をデザインする上でも、その環境の中でどういうものを出していくかが大切ですし、その空間が社会とどう関わっていくのかということを考えるのは面白いですよね。
ターニングポイントになったお仕事があれば教えて下さい。
高橋:やはり吉井さんとご一緒したLOVELESSですね。もともと神林に吉井さんと共通の知人がいて、その人を経由して初めてお会いして、LOVELESSの話を聞かせてもらいました。当時自分たちがやっていた他の仕事とは全然違い、発注の仕方が変わっていて今でも強く印象に残っています。最近は、空間に対して詳細までイメージをしっかり持っている人が多くて、具体的なヴィジュアルのイメージを渡されることが多いのですが、吉井さんの場合は、「○○というアーティストの音楽の空気感」というオーダーだったんです。実際にそのアーティストのライブに行くというアポイントもありました。その、音楽からイメージを膨らませていくという考え方が、当時の僕にとっては新鮮でしたし、それ以外の部分でもいい意味での驚きが多く、とても楽しかったですね。
LOVELESS青山
Photo:Kozo Takayama
その吉井さんのディレクションのもと、先日フィレンツェのピッティ・イマジネ・ウォモで開催された「VERSUS TOKYO」(TOKYO FASHION WEEK in ITALY事業)の会場構成も手がけていますね。
高橋:昨年秋にオープンしたTHE CONTEMPORARY FIXの香港店を手がけたのですが、その時のアイデアがもとになっています。香港のショップのテーマは「スポーツ」で、そこから「テニス」というキーワードや、洋服をフェンスにかけられるといいよねというアイデアなどが出てきました。香港のショップでも、今回と同じように人工芝を敷いているのですが、最初はフローリングの案も提案していたんです。でも、もっと「強い」ものにしたいという吉井さんの考えがあり、テニスコートを連想させる人工芝を使うことになりました。そして、今回のピッティでも、「VERSUS TOKYO」というネーミングがスポーツを連想させるものだったこともあり、香港で使ったアイデアを再編集したら面白いんじゃないかということになったんです。
昨年9月28日にオープンした「THE CONTEMPORARY FIX」香港ストア
Photo:Kozo Takayama
ピッティの会場では、発色の強い照明と人工芝のコントラストが良い効果を生んでいましたね。
高橋:吉井さんがポップでエレクトリックなものを好むこともあり、発色の良い白い光を使いました。普通に考えるなら、体育館を思わせるような照明などが妥当だと思うのですけど、単なる体育館でないということ、吉井さんの世界観を考慮し、相反するもので対比させています。
PITTI UOMOに出展した「VERSUS TOKYO」展示会場
Photo : Daisuke Kawachi
今後は海外の仕事もより増えていきそうですが、日本の作り手として意識していることはありますか?
高橋:これから世界はさらにフラットになって、時間の感覚やスタイルの均一化はどんどん広がっていき、そうなった時に残っていくのは、ディテールやクラフトだと思っています。日本の技術というのは海外では真似の出来ないような、独特なものなので、完成されたパッケージを持っていくだけではなく、もの作りのプロセスやディテールなども紹介していけると面白いと思うし、その辺は意識していきたいところですね。
最近手がけたプロジェクトや、今後やっていきたいことなどを教えて下さい。
高橋:最近では、BEAMS銀座のリニューアルや、anima(株式会社 ワールド)というスポーツアパレルのショップ、NY発で、以前渋谷のショップも手がけている OPENING CEREMONY SHINJUKU などを手がけました。OPENING CEREMONY SHINJUKU は2フロア構成になっていて、駅の改札を出てすぐの所にあるルミネ新宿店(ルミネ新宿店)1階フロアでは、生活雑貨などが売られていて、渋谷とは全く違う感じになっています。
2006年にインテリアショップCIBONEのために家具をつくったことや、2008年から神林がインテリア小物などをつくったこともきっかけになり、今後は自分たちから発信していくということもしっかり考えていこうと思っています。
anima
Photo:Kozo Takayama
神林さんが手掛けたbottle candle
Photo:Gorta Yuuki
OPENING CEREMONY SHINJUKU(ルミネ新宿 1F)
Photo:Jamo Associates
OPENING CEREMONY SHINJUKU(ルミネ新宿 2F)
Photo:Jamo Associates