Interview & Report

Kaie Murakami

Kaie Murakami ムラカミ カイエ

SIMONE INC.代表 クリエイティブディレクター

株式会社三宅デザイン事務所で三宅一生に師事。「ISSEY MIYAKE」他プロジェクト指揮。2003年グローバルブランディングカンパニー、SIMONE INC.設立。国内外多数のファッション、ビューティ、ラグジュアリーブランドのクリエイティブディレクション、コンサルティングを手掛ける。デジタルメディアに精通したマーケティングロジックと洗練されたアートディレクションの融合は他業種からも評価が高い。NY ADC、GOOD DESIGN AWARD他受賞。文化事業を通して災害復興に貢献する SAVEJAPAN! PROJECT 発起人を務める。

2012年春夏シーズンから、新たにスタートする「Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO(メルセデス・ベンツ ファッション・ウィーク 東京)」で2シーズンにわたり、キービジュアルのクリエイティブ・ディレクションを担当するのは、ムラカミカイエ氏。三宅デザイン事務所を経て、現在 SIMONE の代表として、数々のファッション、ビューティ、ラグジュアリーブランドのクリエイティブ・ディレクションを手がける。国内トップクリエイターたちによる制作チームを編成し、ファッション・ウィークの新たなブランディングに臨んだ。そのキービジュアル制作の現場や今後の日本ファッション界の課題など、様々な話をうかがった。

今回キービジュアルのクリエイティブ・ディレクションを手がける上で、どんなことを意識しましたか?

ムラカミ:これまで15年ほど国内外のファッション産業に従事してきました。その間、日本のブランド勢が海外で一定の評価を集めているにも関わらず、ファッション・ウィークとしては、ミラノ、パリ、ニューヨーク、ロンドンなどに比べ評価がなかなか上がらないという状況を見てきました。今回からメルセデス・ベンツがメインスポンサーとなり、グローバルマーケット上での展開を期待されるこのタイミングでその価値や存在感をどこまで向上させることができるか、命題はシンプルでした。ファッションはいまや日本が発信できる強力なカルチャーであり、基幹になりうる産業の一つです。震災後の状況下で日本のブランド力低下が懸念されはじめているいま、その一端として果たすべき役割は大きくなっているように思います。JFWには、過去に様々な分野のクリエイターが関わってきましたが、今回はファッション分野で活躍する人間自らが、グローバルな客観性と経験軸を元に漠然としていたTOKYOファッションの方向性を定義づける必要性も感じていました。

Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2012 S/S Key Visual

jacket: BALMUNG
skirt: ATSUKO KUDO
rompers: jazzkatze
shoes: NORITAKA TATEHANA

tops: FUGAHUM
jacket: PHENOMENON
pants: PHENOMENON
belt: DRESSEDUNDRESSED
studs belt: DRESSEDUNDRESSED
leggings: GARTER
socks: ATSUKO KUDO
shoes: PHENOMENON

bodysuits: ATSUKO KUDO
pants: ハトラ
corset: ATSUKO KUDO
suspenders: G.V.G.V.
shoes: SOMARTA×NORITAKA TATEHANA

shirts: ato
tops: DISSBORN
vest: DRESS CAMP
pants: G.V.G.V.
leggings: PHENOMENON
suspenders: ATSUKO KUDO
socks: ATSUKO KUDO
shoes: ARMED
body accessories: A LABEL by JIN OKUMA
bracelet: G.V.G.V. private property

制作チームには、ファッション業界で活躍するトップクリエイターたちが集まりましたね。

ムラカミ:今回はまず Erotyka(米津智之+Tiffany Godoy)に声をかけました。彼らは、東京と世界の2つの軸を意識しながら、ファッション文脈の中で “いま” を表現できる数少ないクリエイターだと感じています。ADを兼務する自分がこういった呼びかけをすること自体かなり稀なのですが、今回はコンセプトメイクからフィニッシュまでのプロセスを幾つものレイヤーで慎重にフィルタリングする必要があると考えた結果です。Erotyka とフォトグラファーの土井(浩一郎)さんの組み合わせは早い段階からイメージしていて、そこからスタイリスト、ヘアメイク、モデルを彼らと話し合いながら決めていきました。今回のチームは、海外拠点で活躍するスタッフの視点と経験則を活かしたかったこともあって、かなりスペシャルな編成になりましたね。それぞれが高い技術と優れた感性を持っているので、撮影はピンと張り詰めた緊張感がありながらも、とてもスムーズに進みました。賛否両論あろうと思いますが非常に有意義なプロジェクトになったと思います。

キービジュアルのコンセプトを教えて下さい。

ムラカミ:日本の様式美が持つ普遍性と、現在の「TOKYO」が放つモダンさ、FUTURE感を、グローバルなファッションの流れの中でいかにビジュアライズし立地させるかということを考えました。今回のターゲットは世界中のコアなファッションカルチャー支持層、そしてTOKYOを代表する若くてアグレッシブなモードからドメスティックブランドまでを横断できるファッションコア層です。過去にとらわれずポジティブに東京のファッションを迎えてくれる彼らのWEB上での影響力と拡散能力は素晴らしく、その期待に応えられるビジュアル作りを意識しました。それら前提条件から「静的」「POP」「グラフィカル」「シンメトリー」「彫刻」などのキーワードが出てきたのですが、表現の段階になると、土井さんの力は大きかったですね。彼は1枚の写真のために膨大な数のカットを集積、融合させていくのですが、この作業は日本人に組み込まれたセンシティブなDNAあってのものだし、実際にそれが世界的な評価にも繋がっている。テクノロジーを駆使しながら職人的な技術を織りまぜ、シンプルで強い感性でまとめ上げる手法は、日本人クリエイターとして世界の壁を突破するひとつの答えを提示していると思います。

スタイリングには、すべて国内ブランドを使っているのですか?

ムラカミ:そうですね。現在の日本、東京のファッションの原動力は、世界中のモードからヴィンテージまでを集めることを可能にしてくれた経済的な恩恵と、服にこめられた社会的価値やカテゴリーなど全てのルールを取り払ってミックスする編集能力から成り立ってきた印象があります。今回は、春夏のスタイリングを考えるにあたって、「No Rules」「Energetic」という二つのキーワードを抽出しました。そして海外で評価が高まりつつある日本人によるアップカミングなブランドも意識的にとりいれています。これから先、国内は市場縮小が避けられない状況ですし、我々日本人はグローバルなマーケットでどうサバイブしていくかを、深く考え行動していかなければなりません。その為にまず西欧のファッション文化の中でいかに自分たちを必要とされる存在に意味づけるかが重要で、実際それができているブランドは評価され始めています。ネットの力によって情報回遊性が高まっているいま、改めて自分たちのブランド価値を見出し、積極的にプレゼンテーションしていくハングリーさ。いま日本に必要なアグレッシブなメッセージをビジュアルに組み込みたかったですね。

ただ洋服を作るだけではなく、それをいかにプレゼンテーションしていくかということも、今後はより重要になっていきそうですね。

ムラカミ:そう思いますし、それは今後のファッション・ウィーク全体の課題でもあると感じています。今回はキービジュアルのみでの参加でしたが、日本には優れたファッション産業のインフラがあり、Web、デジタルサイネージなどのテクノロジーも発達しているので、それらを駆使したプレゼンテーションは何よりも東京らしく、強力な手段になりえると考えています。もちろん、ここ(東京)に訪れてもらうことが第一ですが、まずはいま東京で起きていることを世界中の方に認知してもらうためにデジタルメディアを使い積極的に「伝えていく」ことが重要です。もちろん、Webですべてを完結させればいいわけではありません。ファッションウィークは、そのインダストリーの頂点にある「祭り」であり、また「サロン」としての重要な機能があることに変わりありません、最終的にそこでの結びつきがこの業界を活性化させていく潮流の一つであることは否定できませんから。ファッションというカルチャーがそもそも「衣服」と「現象」の両側面で成り立っていて、更に複雑化していくなか一元論で語ることはもはや不可能です。「クリエイティビティ」という言葉にはすでに情報としての価値や発信力を伴った創造性がないと通用しない時代になってきていると思っています。

ムラカミさんは、ビジュアル面からファッションをプレゼンテーションしていく仕事が多いと思いますが、ファッションフォトなどのビジュアル表現も、大きな過渡期を迎えているように感じます。

ムラカミ:一枚の写真だけでいまの社会にフィットしたものを提供していくことの限界は感じてますね。もちろん、素晴らしいフォトグラファーは世界中に多くいるし、表現上の可能性はまだあると思っていますが、仕事上、僕が全く同じ道を目指す必要性は感じていません。すでに確立されている文脈上をなぞることに興味はないし、そこに未来があるとも思えません。僕が前職(三宅デザイン事務所)を辞めて、SIMONE を立ち上げたきっかけも、映像やテクノロジーなど様々な表現によってファッションの可能性を広げていくということに挑戦したかったからです。必然的に「衣服製作」という工程以外の全てを、ワンストップのディレクションで行うというのが僕の理想的なブランディングです。ファッションの魅力の根源は「憧れ」や「羨望」であり、それを支えるのはクリエイションから産み落される虚栄と実像のマリアージュ、つまりはファンタジーです。もはや一概にどこかのパートだけを切り出して良質なブランドを形成していくのは難しい時代になるでしょう。ファッションは虚栄と実像、表現と機能など相反する事象を両立することによって初めてなし得る特殊なインダストリーです。実際我々のオフィスには、それを実現するためにWEBデザイナーやグラフィックデザイナー、プログラマーのみならずインテリアデザインや映像の他、ハイエンドなファッションコンテンツを提供するスタッフが在籍し、21世紀のブランド構築に不可欠なストーリーテリングをどう展開できるかを日々研究しています。

ブランディングの仕事をする上で、大切にしていることを教えて下さい。

ムラカミ:ブランディングというと、外向きな「繕う」作業というイメージを持つ人も多いと思いますが、実はとても内向きで地味な作業からのスタートです。一番大切なのは、そのブランドに流れている血や性格、周りとの違いなどを、どこまで探求していけるかということ。このコンセプトが破綻すると理解してもらいたい人の絶対数やコアファンに対しての理解浸透度に影響が出ます。今回のキービジュアルも同じ考え方で、まずはファッションの歴史を掘り下げた上で、その文脈辿りと個性の発見、世界的に共通する言語のなかから骨格を創り上げ、他との差異、そしていまの社会状況などの外的要因を検証し、最終的に「東京らしさ」という「血」を組み込み、ゴールに向かいました。

ムラカミさんは震災後「SAVEJAPAN!」を立ち上げ、ファッション業界を巻き込みながら復興に向けた活動もされていますが、これから先、日本のファッション産業にはどんなことが求められてくると考えていますか?

ミキリハッシンとは違って、ここには僕らのことを全く知らない人たちも不意に入ってくるわけですよね。だから極端な話、赤ちゃんからお年寄りまで、あらゆる人にプレゼンテーションできないとダメだなと思っています。もともと僕は、難しいことを難しいやり方でプレゼンテーションされてもあまり共感できないんです。日常にありふれているものがベースにあって、それを独自の形でファッションに昇華できているものにこそ共感できるので、「ぴゃるこ」でも身近にあるけど誰もがその美しさに気づいていないようなものを、しっかりアウトプットしていきたいと考えています。おもちゃや駄菓子を置いているのも同じ理由で、例えば、ゴム鉄砲に特別な遊び方なんてないですよね。でも、それがおもちゃになり得るのは、買った人それぞれが工夫して遊ぶことができるから。それはファッションにも言えることで、ただ服があるだけでは面白くなくて、それを着てファッションにできるからカッコ良いと思うんです。

やはり世界を意識したグローバルな展開というのが、今後の課題になりそうですね。海外を視野に入れていく上で、どんな意識が必要だと思いますか?

ムラカミ:必ずしも西洋文化に優位性があるとは思っていませんが、この分野でブランドが醸成していくプロセスを支えていくためには、まずその文化への理解を深めることと敬意を払うことだと思っています。ファッションには、西欧文明下で培われた長い歴史や昔からある決まり事があります。ベーシックな感覚をまずグローバルなファッション言語の上で築いた上で、最終的に日本人としての背景を武器にしながらそのコンテクストをあえて裏切ったり、新しいエッセンスを組み込んでいく。それが一番の近道だし、いまは必要なくともいずれかならずその壁に当たるでしょう。ビジネスも同様でしっかりしたベースを築かないと、いくら表現がどうのこうの言っても継続できないものはブランド化しない。ダブルスタンダードという言葉の意味や作法をどう解釈し行動していくのか。いま日本人に一番必要なことはこういった生き抜くための深い思慮と強い行動力ではないでしょうか。

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INTERVIEW by Yuki Harada

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