Interview & Report

大島 慶一郎 Keiichiro Oshima

大島 慶一郎 Keiichiro Oshima グラフィックデザイナー、アートディレクター

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 S/S & 2019 A/W Key Visual Creator

東京生まれ。東京藝術大学美術学部デザイン科卒業。幾つかのデザイン事務所を経て、株式会社サン・アド入社後、宇宙カントリーの立ち上げに参加。2006年よりフリーランスとして活動開始。LUMINEや渋谷ヒカリエ等商業施設のビジュアルディレクションに携わる仕事を中心に、矢野顕子をはじめとするCDジャケットデザインや、文化出版局「装苑」のロゴタイプ、本誌面のデザインを手掛ける。写真を用いたグラフィックデザインを軸に、ユーモアのあるビジュアル表現を得意とし、活動の場は広告、ファッション、音楽、宣伝美術など多岐にわたる。

周囲の反応や評価に惑わされず、自分の価値観を尊重することの大切さを、「私も、ひとつの文化だ。」というコピーとともに伝えるAmazon Fashion Week TOKYO 2019 A/Wのキービジュアル。昨シーズンに続き、このビジュアルのクリエイティブディレクションとアートディレクションを担当した大島慶一郎氏は、写真を主体としたユニークなビジュアル表現を武器に、ファッション、音楽、アート、広告など幅広い分野で活躍する気鋭クリエイターだ。そんな大島氏に、2シーズンにわたって手がけたファッション・ウィークのキービジュアルについてはもちろん、これまでのキャリア、デザインやファッションの醍醐味など、さまざまな話を伺った。

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W Key Visual

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W キービジュアル(メインカット)

まずは、Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W のキービジュアルのテーマについて聞かせてください。

事前に主催者側から今シーズン打ち出していきたい方向性について、キーワードをいくつかもらい、自分の中で解釈して表現したのが今回のビジュアルやコピーです。好きなものにのめり込むことや自分の判断を肯定することをポジティブに伝えていくことをテーマに据え、自分を中心に世界が回っているということを、惑星をイメージさせるビジュアルで表現することにしました。
そして、以前から親交があった現代アーティストの中村哲也さんに依頼し、食事から移動まですべてがこの中で完結できるような未来の洋服をイメージした球体のオブジェを制作していただきました。

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W Key Visual

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W Key Visual

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W Key Visual

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W Key Visual

Amazon Fashion Week TOKYO 2019 A/W キービジュアル(全カット)

今回のキービジュアルにおいて特にこだわったポイントを教えてください。

昨シーズンのキービジュアルはさまざまな要素を詰め込んだものだったので、今回は逆にできるだけミニマルに、ほどよく力が抜けたビジュアルを通して、メッセージをシンプルに伝えることを心がけました。2シーズンともにビジュアルとコピーの連動を意識しましたが、コピーライターの岩崎亜矢さんの力によって伝えるべきメッセージがよりわかりやすく、強いものになったと感じています。

撮影スタッフのキャスティングについてもお聞かせください。

基本的には、2シーズンとも同じメンバーで制作しましたが、まずカメラマンの田島一成さんに関しては、以前撮影をご一緒した際、非常に丁寧に作業を進められる方で、さまざまな提案もしてくださったので、自分の想像を超えるビジュアルを撮っていただけると期待し、依頼しました。ムービーは、グラフィカルな表現が非常に得意で、以前ファッションビルのお仕事をお願いしたこともあった中村剛さんに協力を仰ぎました。大先輩にあたるお二人からは撮影に際して非常に鋭いご意見をいただき、それらを上手く取り入れながら進めていくことができたと思います。また、スタイリストの飯嶋久美子さんはこれまでもよく仕事をしている仲でしたが、的確な判断力に加え、ものがつくれるという強みもあるので、今回も色々な期待を込めてお願いをしました。

 

ファッション・ウィークのキービジュアル制作ということについて、何か特別な意識はありましたか?

これまでもファッション関係の仕事をする機会は多かったのですが、例えば、ファッション誌などの撮影は良い意味でノリが軽く、現場の雰囲気次第でどんどん変化していくところがあります。一方でファション・ウィークは日本を代表する公式なファッションイベントなので、強いメッセージを発信するということに注力しました。他のファッション関係の仕事に比べると撮影の前に固めていった部分が多かったのですが、その背景には単にカッコ良い、面白いだけのビジュアルに終わらず、後々振り返った時にもしっかりと意味が感じられるようなものにしたいという思いがありました。

メッセージの発信という点では、ムービーも大きな役割を果たしていますね。

はい。今シーズンのムービーでは、モデルの江原美希さんの周囲を、彼女の引力に惹き寄せられるようにさまざまなアイテムが回っているという設定を考え、中村剛さんに表現していただきました。この映像によってスチール写真やコピーの意味がより明確になり、メッセージの厚みが出たと感じています。

 

キービジュアルを制作する上で、舞台となる東京という都市の個性を表現することは考えましたか?

それほど強くは意識しませんでした。東京で生まれ育った僕にとってここは特別なところではなく、あくまでも現実的な場所なんです。だから、海外から見た東京や日本のイメージというものをことさら意識することはなく、今の東京を切り取るということだけを考えていました。ただ、これまではファッションの仕事で外国人のモデルさんを起用することが多かったのですが、今回に関しては、日本人だからこそ伝えられるものがあるということを強く感じましたね。今回はモデルの江原さんに「私も、ひとつの文化だ。」というメッセージを代弁してもらったわけですが、彼女とは現場で色々なお話をさせてもらい、仮に外国人のモデルさんを起用した場合、日本語の歌と英語の歌を聴く時の差と同じくらい、伝わり方は変わってくるだろうなと感じました。

Keiichiro Oshima

2シーズンにわたったお仕事を振り返ってみて、どのような感想をお持ちですか?

改めて自由度の高いクリエーションの機会を提供していただいたと感じています。その中で、メッセージを伝えるという目的を明確にし、それをいかに達成するかというところに注力した2シーズンでしたが、もちろん別のアプローチもあるはずですし、その辺はぜひまた別の機会に取り組んでみたいですね。

これまでもファッションの仕事は多く手がけられている大島さんですが、もともとファッションへの関心は高かったのですか?

通っていた高校が私服だったことも関係があるかもしれませんが、周囲にオシャレな人が多かったことから自分もファッションに興味を持ち、ショップにもよく行くようになりました。高校まではずっとサッカーに打ち込んでいましたが、そういうわけで徐々にファッションの仕事にも興味を持つようになり、文化服装学院を受験して合格したんです。でも、結局進学はせずに、浪人して東京藝術大学に進み、デザインを専攻しました。正直、当時はデザインのことはあまりわかっていなかったのですが、高校でサッカーを辞めた時に、他に日本人が世界でも活躍できそうな領域や、自分が何かを残せそうなフィールドを色々と考えていく中で、もともと絵が得意だった自分にはデザインがいいんじゃないかと漠然と思ったんです。

LUMINE

ルミネバーゲン広告(2018年)

LUMINE Y

ルミネ横浜 西口ルミネ広告(2014年)

SOEN

『装苑』(2017年1月号/文化出版局)

WWD

『WWD』(2016年2月8日号/INFASパブリケーションズ)

 

現在は、広告、ファッション、音楽など幅広い分野でお仕事をされていますが、デザインの醍醐味はどんなところにありますか?

自分がつくりたいと思ったイメージが印刷物などの形になって、世の中に広がっていくことが面白いですね。以前アートディレクターの野田凪さんと働いていた時期がありましたが、つくり込んだ写真を軸にした彼女の表現というのは、それまでに見たことがないものでした。当時の僕は、カッコ良い広告や美しいグラフィックデザインは、ミリ単位の繊細な感覚がなければつくれないと思っていて、そうした資質がないと自覚していた自分にとって、野田さんのアプローチというのは希望や可能性が感じられるものだったんです。もちろん、野田さんのような爆発的な表現はなかなか真似できるものではありませんが、写真を軸にしたコミュニケーションというのは多くの人たちに届きやすく、色々な感想を返してもらえるところがあるんです。

EMOTION

Artwork

EMOTION

CHAI

Spotify広告(2018年)

愛しのアイリーン

映画『愛しのアイリーン』(2018年)

 

Keiichiro Oshima

その中で、ファッションという分野ならではの面白さがあれば教えてください。

自分が好きな方向性の表現をしやすい領域だと感じています。デザイナーの多くは、基本的にはカッコ良いものをつくりたい人種だと思いますが、僕はもともとあまのじゃくなところがあって、カッコ良さだけを追求することに少し照れくさくなるんです。それで、照れ隠しのためにちょっと変な要素を入れたり、面白さや怖さみたいなものを加えているところがあって、そうした柔らかい部分を残した表現がファッションと相性が良いのだと思います。僕は漫画などを読んでいても、何でも100点が取れてしまうような優等生の主人公よりも、サブのキャラクターの方に魅力を感じてしまうタイプなんです。端的に言うと、素直ではないということですが(笑)、そうした感覚が「美しいけど怖い」とか「カッコ良いけどどこか変」という自分の表現にも表れているのだと思います。ただ、こういうスタンスだとなかなかその分野のトップにたどり着くことは難しく、常に葛藤を抱えながら、前に進んでいる、という感じなんです(笑)。

Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto

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