坂本 政則 Masanori Sakamoto DELTRO代表/アートディレクター、デザイナー
MBFWT 2016 S/S & 2016 A/W Key Visual Creator
1972年静岡県生まれ。デザインファームDELTRO代表。アートディレクター/デザイナー。1999年よりフリーランスとして活動を開始し、以後、企業、ファッション、アニメ等様々なジャンルのアートディレクション、デザイン、プログラミングを担当。2009年にテクニカルディレクター/プログラマー村山健と共に株式会社DELTROを設立。デザイン/テクノロジーによる表現を主軸にメディアとフィールドを縦断。物事の本質や感動を伝えるべく活動を続けている。カンヌ国際広告賞、クリオ賞、D&AD賞、One Showなど国内外の広告賞を多数受賞。クライアントワーク/プライベートワーク問わず、オリジナルタイプフェイスの制作を積極的に行っている。
代表作として「Intel® The Museum of Me」Webサイト、「Honda Road Movies」アプリ、ファッション/スポーツではUNIQLOやNikeなどのプロモーション、フォント開発では「au INFOBAR iida UI用欧文フォント」、アニメ作品のWebサイトでは「攻殻機動隊SAC」「交響詩篇エウレカセブン」「ギルティクラウン」などがある。
[ URL ] http://deltro.jp/
Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 S/Sのキービジュアルを手がけたデザインファーム「DELTRO(デルトロ)」の坂本政則氏は、Webサイトをはじめ、主にオンスクリーンメディアの分野で活躍するアートディレクターだ。ファッションにおけるクリエーションの過程を、独自のアプローチで視覚化したグラフィックと映像を制作した坂本氏に、その意図や舞台裏、これまでのキャリアなどについて話を伺った。
MBFWT 2016 S/S キービジュアルスペシャルサイトは こちら
*音量にご注意の上、アクセスしてください。
-Concept-
The Difference of Ideas
ファッションデザインしかり、
モノづくりをする人々にとっての「アイディアの根源」は、
その人自身のこれまでの経験の中から生み出されるもの。
目にするモノ、触れるモノ、様々な動植物、人との出会い、
場所、体験―。
それらの中から、ある何かに着想を得ることで、
初めて目に見えるモノへの実体化がはじまる。
これらアイディアの根源は、
抽象的でプリミティブな頭の中のイメージの
原石にはじまり、
いくつかの工程と要素の組み合わせを経て、
美しく機能する完成体へと削り出されていく。
そこではフォルムの原型があり、
マテリアルの質感やディテールがあり、
発想の転換があり、取捨選択が生じる。
まだ見ぬ何ものにも縛られない、
無数のアイディアの根源を、
ファッションデザインにおける
正当なアプローチとは異なる、
服のようでいて服ではないオブジェクトとして実体化させ、
人との融合を試みる。
現実世界では成立しえない非現実性を存分に加えることで、
想定外の現象が偶発し、また新しい気づきを与える。
ファッションデザインをテーマに、
モノづくりのプロセスで起こりうる
様々な事象自体を可視化する。
クルマはファッション同様、
自分自身のライフスタイルの象徴であり、
それを映す鏡でもあるという観点から、
ビジュアルシンボルとしての高い存在感を与えるべく、
エクステリア全てにミラーコーティングを施している。
-Staff-
■CREATIVE & ART DIRECTOR / DESIGNER
坂本 政則(DELTRO)
■PRODUCER
田崎 佑樹(WOW)
松井 康彰(WOW)
■MODEL
松岡 モナ(IMAGE)
■PHOTOGRAPHER / DIRECTOR OF PHOTOGRAPHY
鏑木 穣(SIGNO)
■STYLIST
Yoshi Miyamasu(SIGNO)
■HAIR ARTIST
CHINATSU(SIGNO)
■MAKE-UP ARTIST
耕 万理子(SIGNO)
■VISUAL ART DIRECTOR
大賀 頌太(WOW)
■VISUAL ART DESIGNER
高岸 寛(WOW)
■PRODUCTION
WOW
SIGNO
■CG / MOVIE EDIT
WOW
■MUSIC
dajistudio
-衣装協力-
Boots:Yohji Yamamoto
Pierce:flake
-ヘアプロダクツ-
ロレアル プロフェッショナル/エルネットピュール
ロレアル プロフェッショナル/バランス 3 スタイリング ムース エクストラハード
タマリス/ヘアフィニゴールドSF
ジョンマスターオーガニック/シャインオン
MBFWTのキービジュアルのデザインコンセプトを教えて下さい。
はじめに、コンセプトの文章がやたら長くてすみません(笑)。簡潔に言うと、ファッション・ウィークが、ブランドの新しい洋服やコンセプトを発表する場であることから、服づくりの過程で生じる発想の転換や取捨選択、マテリアルやカラーの組み合わせなど、洋服として実体化する前のイメージを視覚化することをテーマに設定しました。以前、人体に対して、コンピューター上で演算処理されたオブジェクトが合成されるようなビジュアルイメージをつくりたいと漠然と考えていたこともあり、洋服のようでいて洋服ではないオブジェクトを人間と融合させたビジュアルを、グラフィックデザイナーの視点からつくっていこうと考えました。
坂本さんは、オンスクリーンメディアのデザインを手がけることが多いと思いますが、それらの仕事と今回のプロジェクトでは何か違いはありましたか。
オンスクリーンメディアのデザインは、全体の設計を通して世界観をつくっていくところがありますが、今回は、一枚のビジュアルの中にどれだけクオリティを凝縮できるかというミッションだったので、他の仕事とは少し違う意識で臨む必要がありました。とはいえ、今回も映像的な考え方が起点になっていて、ひとつのフォーマットのもとに展開されていく映像をつくり、それを一枚の絵として切り出してキービジュアルにするというイメージがありました。
今回のキービジュアルの動画版をファッション・ウィーク初日に公開されるそうですが、そちらについても聞かせて下さい。
ビジュアルデザインスタジオWOWのプロデューサーである田崎佑樹さんにはじめにお声がけをして、そこからスタジオやモデル、カメラマンやスタイリストらの撮影スタッフをキャスティングしていきました。今回のビジュアルでは、CGが重要な要素だったのでWOWのクリエイターに協力していただきながら、歩いているモデルの身体を包み込むオブジェクトが、さまざまなに変化していくような、映像ならではの不思議な存在感を表現することを意識しました。dajistudioの吉田健二さんが手がけた音楽との組み合わせも、MBFWT 2016 S/Sの開幕を期待させる躍動感のあるものになったと思います。
モデルには、国内外で活躍されている松岡モナさんを起用されましたが、その経緯についても教えて下さい。
まず、日本(東京)で開催されるファッション・ウィークということもあり、東洋人としての個性があるモデルにしたいという思いがありました。また、オブジェクトを合成していくことを考えた時に、手脚がスラっと長く、少し脱力したようなポーズすらもさまになるような人が良いんじゃないかと漠然と思っていました。そういう話をしている中で、WOWのプロデューサーの松井康彰さんから松岡さんを提案していただき、自分のイメージとピッタリだったんです。スケジュール調整はギリギリまで難航しましたが、モデルからスタッフまで自分がベストだと思う方たちと撮影に臨める体制が整ったことで、「後は自分の腕次第」というプレッシャーがのしかかってきました(笑)。
ビジュアルづくりの上で、「東京」というキーワードは意識されましたか。
さほど考えませんでしたが、キービジュアルでは、モノトーンで幾何学的なオブジェクトとグラフィックを起用しつつも、印象の強いキーカラーを使用することで、ポップなイメージを演出することを心がけました。結果として、ある側面の日本(東京)らしさは表現できているのではないかと思います。
坂本さんのこれまでのキャリアについてもお伺いしたいのですが、デザインに興味を持つようになったきっかけを教えて下さい。
モノをつくることは子どもの頃からずっと好きでした。メカデザインやプラモデルのパッケージ、様々なロゴタイプ、レタリングされた文字などにかっこよさを覚えたりもしていましたが、デザイナーという仕事があり、自分自身が目指せる道として認識できるようになったのは、二十歳をゆうに超えてからでした。高校卒業の頃には、ヨーロッパのビンテージスクーターに夢中になり、モッズさながらにランプやミラーをたくさんつけて走り回ったり、その時代の音楽やファッション、海外プロダクトの美しさや広告グラフィックに惹かれる中で、デザインというものをより意識するようになりました。
左:Ringo Sheena “FROM NIPPON TO THE WORLD” / App, Website / Art Direction, Design, Logotype, Typeface, Programming (Website)
右:iida UI 3.0 for INFOBAR A03 / Typeface / Design
(http://deltro.jpより)
その頃は、ファッションから影響を受けることはなかったのですか。
高校時代がちょうどバンドブームだったこともあり、自分の中でファッションというのは、音楽と強く結びついたものでした。パンクやモッズ、ロッカーズなど、その時聴いている音楽によって、ファッションや髪型がコロコロ変わるような若者で、スーツにモッズコートを羽織ってベスパに乗ったり、リーゼントにロールアップジーンズを履いてVWビートルに乗っていた時代もありました(笑)。逆に最近は、ファッションに対してはできるだけミニマルな印象を保つように意識していて、シンプルな白シャツにパンツといったスタイルがほとんどで、ブランドとしては、マルタン・マルジェラやサカイ、HYKE、あと知人が立ち上げたALOYEなどが好きです。デザイナーとして影響を受けたファッションデザイナーは特にいないですが、エディ・スリマンのデザインや写真は好きですね。
左:NIKE+ FUELFEST – Battersea Power Station, UK / Event, Projection, Installation / Art Direction, Design, Programming (Projection)
右:au ODOROKI No.1 “FULL CONTROL YOUR CITY” / TV commercial, Event, Website, App / Planning (Digital), Art Direction (Typography, Digital), Design, Logotype, Programming (Website)
(http://deltro.jpより)
デザイナーとして活動をはじめ、DELTROを起ち上げるまでの経緯を教えて下さい。
機械設計事務所を営む父の期待もあり、工業高校機械化卒業後、同系列の専門学校にも進みましたが、道半ばで挫折し、目標を見失ったまま知り合いの眼鏡店で働くようになりました。その後、ガソリンスタンドで働いていた時期もありましたが、改めて自分が好きなことを考えた時に、ようやくデザインというものが見えてきて、知人から紹介してもらった印刷所で働き始めました。そこでコンピューターによるアプリケーションの使い方をひと通り習得し、独学で自分のWebサイトを作り、公開するようになりました。それを見たドローイングアンドマニュアルの菱川勢一さんに声をかけていただき、大手企業のプロモーションサイトの仕事を依頼され、それをきっかけに1999年に独立してデザインの仕事を始めました。そこからはフリーランスで企業サイトや、アニメの公式サイトの制作などをするようになり、2009年に村山健とともに株式会社DELTROを起ち上げました。
左:Adobe & Creators Festival “Font Me” / Event, Installation, App, Website / Art Direction, Design, Typeface, Programming (Website, Typeface, Print Que)
右:+J FALL/WINTER 2011 THE FINAL COLLECTION / Website / Planning, Art Direction, Design, Technical Direction, Programming
(http://deltro.jpより)
DELTROになってから、仕事の内容は変わりましたか。
企業のプロモーション関連のプロジェクトに関わることが多いので、フリーランスで仕事をしていた頃と大きく変わってはいませんが、プロジェクトのより上流から関わっていけるようになりました。DELTROでは、デザインを僕が、プログラミングをテクニカルディレクターの村山が主に担当していて、デザインから実装までセットで請け負うケースが多いので、必ず2人で話し合って方向性を詰めていくようにしています。
最近の仕事の方向性や、今後の展望などについて教えてください。
近年はプロモーションにおけるオンスクリーンメディアの多様化がめまぐるしく、イベントと連動したインスタレーションやアプリをつくる仕事なども増えています。異業種同士の密接な連携による新しいプロジェクトも活発化している中、DELTROとしての特性を存分に活かせるプロジェクトに関わっていきたいと考えています。また、自社プロジェクトとして、サービス、プロダクト、映像など、作り手としての野望は限りなくあり、それらにも積極的に取り組んでいきたいと考えています。
MBFWT 2016 S/S キービジュアル動画版
Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto