中島 輝道 × 中臺 隆平 Terumasa Nakajima x Ryuhei Nakadai
TELMA デザイナー × RIVER Inc. クリエイティブディレクター
中島 輝道
2010年アントワープ王⽴芸術アカデミー卒業。卒業コレクションが評価され、「Christine Mathys賞」および「Louis賞」を日本人として初めてダブル受賞し、同コレクションがアントワープ市内にあるセレクトショップLouisのウィンドーディスプレーを飾る。これを機に同年、DRIES VAN NOTEN に入社し、ドリス ・ヴァン・ノッテンのアシスタントとしてウィメンズデザインを担当。その後、⽇本的な物作りを学ぶ為に帰国し、14年に ISSEY MIYAKE へ⼊社。⼀枚の布という概念から独⾃のシルエット表現と国内産地との素材開発を学ぶ。2022年春夏コレクションより「TELMA」を発表。
中臺 隆平
1978年東京生まれ。’03年多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業、同年博報堂入社。’10年ゴールドスミス大学大学院修士課程修了。デザイン会社Land Ahoy Design Ltdとブランディング会社Anyhow Ltdをロンドンで設立。’19年に日本でRiverを設立。JAGDA賞’18 女子美術大学 非常勤講師。
国際的な視点と20年以上の経験を元にブランディングから広告、ウェブ、エディトリアル、パッケージまで多岐にわたる分野で一貫したクリエイティブを行なっている。
TELMA
[ Website ] https://telma.jp/
[ Instagram ] https://www.instagram.com/telma.jp/
RIVER Inc.
[ Website ] https://river-inc.com/
[ Instagram ] https://www.instagram.com/riverincdesign/
コロナ禍でモノトーンになってしまった世界に彩りを加えたいという想いから派生し、始動した「TELMA」。2022春夏コレクションからスタートし、今年NEXT BRAND AWARD 2025を受賞。西と洋の要素を融合させた独自のクリエイションに今後のさらなる活躍が期待されている、そんな話題のブランドを率いる中島輝道デザイナーと彼を良く知るクリエイティブ・ディレクター中臺隆平さんに対談形式で話を聞いた。
-お二人はどのようなご関係なのでしょうか?
中薹氏:中島さんがブランドを始める前に共通の知人に紹介してもらい、ブランドロゴ、ウェブサイトのデザインを担当しました。仕事面ではその接点のみですが、普段僕がブランディングワークをやっていることもあり、現在も引き続きあれこれお互い話を聞くような関係です。
中島氏:中薹さんはアートディレクションやイメージコントロールする仕事をされているプロフェッショナルで、過去の作品含めてとても信頼を置いています。
中薹氏:僕の業界ではデザインと言っても、ファッション、プロダクト、建築とは違って、情報を題材として扱い、誰かの代弁者になることが多いので、今も中島さんの気持ちに寄り添って中島さんのアイデアを代弁していく関係でいられたらなと考えています。
中島氏:お互いロンドンにいたことがあり、文化背景に対する理解が近い。日本人として海外で苦労した経験や葛藤があるので、自分の想いをどう言語化、ビジュアル化して表現するかという感覚や日本に対する問題意識が同じように感じています。
-日本に対する問題意識とは?
中島氏:情報化社会になる以前の物質的な時代において、日本人はものづくりや暮らしに対する準備や姿勢、所作が丁寧で真面目で素晴らしかったと思っています。今は忘れ去られてしまった、こういう繊細な視点を持ってものづくりをしたいと考えています。
中薹氏:中島さんがやろうとしているのは、服だけのデザインに留まっていない。一般的には地味で伝わりづらい側面でもある産地や産業まで含めてデザインしようとしている。中島さんとデザインについて話していると、洋服の話ではなくて、消えゆく産地や文化の話になっていくんです。そういう社会的、産業的な問題を、キラキラしたファッションのど真ん中で解決していこうとする「矛盾」が唯一無二な存在だと思います。TELMAは、エレガントでありながら革新を続ける「ズレ」があるブランドです。
中島氏:TELMAは文脈を捉えたものづくりの上で、新しい視点を生み出す美しい洋服を作っています。プロフェショナルとして洋服を作って売るわけなので、むやみに奇抜さを選ばず、しっかりとした文脈があった上で、着てくださる方に新しい価値を提供する責任があると考えています。
中薹氏:洋服には長い歴史があるから、作法や型があるカテゴリーですよね。そうしたクラシックな文脈にありつつも、それだけではないのがTELMAだと思います。
—エレガンスな軸をぶらさない上で新しい視点、価値を与えるクリエイションには、どのようなインスピレーション源があるのでしょうか?
中島氏:夕日や雲であったり、観劇や小説の一文だったり。そうした心が動く「衝動」的な要素から、今の自分はどんな気持ちなのかを見つけていく作業から始めて、自分含めて洋服を着てくださる皆さんの気持ちに今寄り添えることってどんなものだろうとアイデアを進めていきます。一方で、僕には天の邪鬼な部分もあるから今存在しているものとは違う視点や見過ごされているような要素を見出したいというエゴイスティックな面も持っていると思います。
中薹氏:中島さんは、クリエイションの始まりから商品として世に送り出すエグゼキューション部分まで全て一人でやっていて、全てにこだわりを持っている。デザイナーやクリエイターは自身の感情をうまく拾えずアウトプット出来ない人も多いから、中島さんの「衝動」を形にする熱意はすごいなと思います。
中島氏:プロフェッショナルになればなるほど視野が狭くなりがちで、業界のルールに縛られることがあります。なので、良し悪しを自分の感覚で完結させないように、あえて自分が苦手だと思う分野から物事を捉えて視野を広げるなど、意識してゼロな感覚で「衝動」を得られるようにしています。
中薹氏:僕の仕事の場合は、合議制で物事の判断をしていきますが、TELMAの場合は中島さん自身がブランドなので、中島さんが感じることに合わせてブランドも変わって行くのも魅力ですね。
中島氏:実は、次の25AWシーズンからパリで展示会を始める予定があり、TELMAの表現も変えていこうと考えています。自分の衝動から始まったクリエイションだったとしても、最終的に受け取ってくださる方が美しいと思ってもらえるものにならないといけない。僕は頭で理解して買いたくなる洋服よりも、感情で買いたくなる洋服を作っているので、海外市場での展開を考えた際も、海外の方の装いのシーンや感覚値に沿ったTELMAらしさを出していきたいと考えているところです。
中薹氏:僕も海外展開しているファッションブランドを複数サポートしていますが、インディペンデントな規模で海外で戦って行くのは本当に大変ですよね。海外でTELMAらしさを突き詰める上では、中島さんは「日本人であること」を意識しますか?
中島氏:日本の産地、素材という要素と、日本人としての考え方、センスを表現することは海外で大切かなと思っていますね。三宅一生さんや高田賢三さんのように、日本の本質的な良さを伝えることができたらと考えています。
—NEXT BRAND AWARDを受賞されて2024年9月には初めてのランウェイショーを開催されました。今振り返ってみて、ショーはいかがでしたか?
中島氏:ショーは10分間の魔法がかかったコミュニケーションツールであり、チーム全体で行う総合芸術で、エンターテイメントであると改めて感じました。人が着ることで完成するTELMAの洋服を360度の視点から見ていただく演出にし、ブランドのエッセンスを表出させる狙いがありました。結果、多くの方に見ていただける機会になり、様々なリアクションをいただける場になりました。
—2025年3月にもRakuten Fashion Week TOKYO 25A/Wにて発表予定がありますが、どんな構想をお持ちでしょうか?
中島氏:巧みに言葉が話せないからこそ、洋服に自分の想いや考えを込めて作り、その気持ちが着た人にどう伝わるかというプロセスを生み出すのがファッションデザイナーの仕事だと僕は思っています。そうしたファッションデザイナーとしてどんな表現がふさわしいのか、次のプレゼンテーションに向けて追求しているところです。伝えたいことをTELMAらしく伝えられる表現方法への挑戦をしたいと考えています。
中薹氏:どんな挑戦になるのか楽しみ!
-デザイナーとしてお二人が今後挑戦してみたいことはありますか?
中薹氏:今もホテルのブランディング仕事は多いのですが、建築やインテリアを自身で手掛けてみたいですね。
中島氏:僕も近いですね。TELMAはファッションを軸にしたデザイン活動ですが、僕自身元々インテリアをやっていたので、垣根を超えてクリエイションが交わることに興味があるので、装う場所を作るような、広義な意味でのデザインもやっていきたい。また、今は国内産地との取引のみですし、メイドインジャパンなものづくりをしていますが、国内外の産地を掛け合わせてハイブリッドなものづくりをするとか、日本の文化と世界の産地や技術を融合させるような、世界中の手仕事をTELMAとして交差させていけたら面白いなと考えています。効率的なサプライチェーンのあり方とは異なりますが、あえてもっと非効率なダイナミックな方法であってもビジネスとして成立するものづくりに挑戦していきたい。手編みでもイタリア、中国、日本だと仕上がりが全く違います。イタリアはゆるゆる、中国はギチギチで、日本は真面目な感じで、国民性や個性があって面白い。それらの手仕事にアフリカの糸と組み合わせたりして自由な表現を楽しんでみたい。
中薹氏:中島さんは洋服のスペシャリストだけれど、洋服だけに留まらない広い視座を持っているのを感じますよね。アウトプットは、もしかしたら洋服の形をしていなくてもいいのかもしれない。
中島氏:人が着たいと思うような、人が着た時に美しく見える洋服を作りたいという気持ちはありますし、ブランドを支えてくださっているファンの方々がこれからも喜んでくださる洋服を届け続けたい。コロナ禍でモノトーンになってしまった社会に彩りを添えたいと始めたブランドですが、これからの時代において服を着る、楽しむ、味わう意味を見出せる場づくりをこれからは取り組んでみたいです。
Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Daichi Saito