ウミット・ベナン Umit Benan
AmazonFWT 2017 S/S SPECIAL PROGRAMS
1980年、ドイツ生まれ。トルコ人の両親を持ち、イスタンブールにて幼少期を過ごす。テキスタイル関係の仕事をしていた父親の影響で、幼少期から、80年代の個性の強いファッションや、当時の男らしさを象徴するスタイルに囲まれた毎日を送る。90年代は、母国を離れてスイスの全寮制高校へ進学。10代後半の多感な日々を海外で過ごしながら、当時のコントラストや重ね着のスタイルに触れる。
高校卒業後はボストンの大学へ進学し、マーケティングと広報を専攻。アメリカ滞在中にファッション・デザイナーになることを決意して以来、夏のミラノを度々訪れてはドローイングの技術の習得に励む。大学での学位取得後にミラノへ移住し、インスティテュート・マランゴーニでファッションを学ぶ。その後の数年間は、ロンドンのファッション名門校であるセントラル・セントマーチン芸術大学でスタイリングを、ニューヨークのパーソンズ美術大学でパターンメイキングを学ぶ。
その後イスタンブールに戻り、父親の元でテキスタイルの技術をじっくりと習得した後、マーク ジェイコブスや、ソフィー・テアレ、リファット・オズベックといったウィメンズ・ブランドでの勤務を経て、2009年に自身のメンズ・ブランドであるウミット・ベナンを設立。2回目のコレクションでは、イタリアのアルタローマ社とVOGUE誌が主催する若手デザイナー支援アワード“Who’s On Next”の受賞ブランドに選出される。2011年から2013年まではイタリアの老舗メゾンであるトラサルディのクリエイティヴ・ディレクターに就任。メンズウェアとウィメンズウェアの両方の既製服とアクセサリーのデザインを手がける。
2012年に日本で「最も優れた国際的なメンズウェア・ブランド」に選出されたことを受けて、2014年にウミット・ベナン世界初となる旗艦店を東京にオープン。それに続き、メイドインジャパンのカジュアルラインナップである「ONIKI(オニキ)」を設立。現在では、パリのファッション・ウィークでもショーを行っている。
Amazon Fashion Week TOKYO 2017 S/Sでスペシャルプログラムとして、内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部事務局の協力のもと(*)、東京では初めてとなるランウェイショーを行ったウミット・ベナン。トルコ人の両親を持ち、ドイツで生まれ、欧米でファッションを学ぶというユニークな経歴を持ち、その多国籍な文化的背景が反映された独創的なクリエーションによって、未来のメンズファッションシーンを担う存在と目されている気鋭のデザイナーに、インタビューを行った。
(*)オリンピック・パラリンピック基本方針推進調査 文化を通じた機運醸成試行プロジェクト
本プロジェクトは、内閣官房オリンピック・パラリンピック推進本部事務局の委託により、平成28年度オリンピック・パラリンピック基本方針推進調査として実施しています。 大会成功にむけて注力が必要となる重点分野の1つとして「多彩な文化を通じた日本全国での大会の開催にむけた気運醸成」を設定した上で、伝統的な芸術から現在舞台芸術、最先端技術を用いた各種アート、デザイン、クールジャパンとして世界が注目するコンテンツ、地域性豊かな 和食・日本酒その他食文化、祭り、花火、工芸等の文化イベントを対象に、海外への発信力とその効果について、事前に課題分析し、オリンピック・パラリンピックの成功のための事前試行・調査プロジェクトに位置づけています。
先日、東京では初めてとなるランウェイショーを行いましたが、まずは東京のファッション・ウィークの印象についてお聞かせください。
今回、東京でショーを発表することができて幸せな気持ちですし、非常にエキサイティングな体験になりました。また、皆さんに歓迎していただき、盛り上げていただいたこともあり、ストレスなくコレクションを発表することができました。東京のファッション・ウィークの印象としては、これまで発表してきたヨーロッパに比べ、落ち着いた雰囲気があると思います。
「A Mexican Guy Living in Texas(テキサスに住むメキシコ人)」という今シーズンのテーマは、どのような経緯で生まれたのですか?
最近、私はテキサス州とメキシコの国境付近をよくドライブしているのですが、それがインスピレーションソースになっています。アメリカとメキシコの間にはさまざまな難しい問題があり、特に国境付近ではそれが顕著ですが、こうした課題はこの2国間に限らず、アジアを含む世界各地にあることだと思います。今シーズンのコレクションには、そうした問題に対する政治的なメッセージが含まれています。ただ、メッセージを発信するためにコレクションを発表しているわけではなく、自分がインスパイアされたものが自然と洋服のデザインに反映され、結果としてメッセージを持つものになっているのです。
今回のように旅からインスピレーションを得ることが多いのですか?
基本的には、日常を通して自分の中に入ってきたものから気になることをピックアップしていますが、旅が私をインスパイアしてくれるものであることは確かです。特にここ5、6年ほどは、アメリカのハイウェイを走ることが多いのですが、ほとんど人もいない広大な大地を車で走っていると、頭の中が非常にクリアになります。こうした体験は、私に物事を深く考える時間を与えてくれますし、そこから着想を得ることも多いです。
さまざまな国の文化がミックスされたハイブリッドなクリエーションがウミット・ベナンの特徴だと感じますが、やはりこれはご自身のバックグラウンドが関係しているのですか?
その通りです。特に私が惹かれているのはラテンカルチャーで、過去にはコロンビアやキューバ、アルゼンチン、ブラジル、メキシコなどの国々からインスパイアされたコレクションを発表しています。私は、周囲にラテン系の人たちが多い環境で学生時代を過ごしてきましたし、ラテンの人、音楽、カルチャーは常に身近な存在です。一方で、私が生まれたドイツをはじめヨーロッパの文化をコレクションに取り入れることは少なく、トルコやインド、モンゴルなどのエスニックカルチャーの方により魅力を感じます。ただし、私のクリエーションは伝統的なメンズウエアをベースにしているので、イタリアに関しては話が別なのですが。
ウミットさんのルーツであるトルコの服飾文化からも影響を受けていると思いますが、これらの特徴を教えて下さい。
例えば、ゆったりとしたシルエットのサルエルパンツは、もともとトルコの民族衣装です。また、カフタンという伝統的な衣装やフェズと呼ばれる帽子などもよく知られていますが、これらはソフトな素材、独創的なパターンやシルエットが特徴です。長い歴史を持ち、クラシックでありながら非常にファッショナブルでバランスが取れたトルコの伝統的なファッションは、これまでの私のコレクションの中でも度々フォーカスしてきました。実は、常日頃からたまにはトルコに戻りたいと考えているのですが、次がいつになるのかはまだわかりません(笑)。
空手の道着に着想を得たアイテムなどもつくられていますが、日本の服飾文化にはどんな魅力があるとお考えですか?
私はその国独自の伝統的なスタイルや衣装が好きですが、特に日本には長い歴史がありますし、着物のテクスチャなどにインスパイアされることは多く、それらは私の仕事にも反映されています。日本に来る時は、伝統的な文化に触れることができる京都に足を運ぶことも多いです。
一方で、現代の日本のファッションについてはどのような印象をお持ちですか?
日本のストリートファッションは、原宿に代表されるような奇抜なスタイルが世界的によく知られていますが、私にはやや過剰に感じられます。しかし、同時に伝統的なブリティッシュスタイルにデニムなどのワークウエアをミックスした独自の着こなしも見られ、これは他には見られない素晴らしいスタイルだと感じます。また、アメリカンウエアに影響を受けた日本のスタイルも非常に良いですよね。
日本のファッションブランドの中でお気に入りはありますか?
ヨウジヤマモトは大好きです。ヨウジの洋服はブラックのイメージが非常に強く、私自身はそこまで黒い服ばかり着ることはないのですが、山本耀司さんのデザイナーとしてのスタイルは素晴らしいと感じます。ファブリックやパターン、シルエットなどすべてが良いですし、リアルクローズとしてのバランスも取れています。また、コムデギャルソンは、プロダクションからマーケティングなどのストラテジーまで、ファッション企業として素晴らしいと感じます。また、彼らの次の世代になりますが、サカイやカラー、ビズビムなどもパワフルで素晴らしい服づくりをしていますよね。
現在はミラノを拠点とされていますが、イタリアはクオリティの高いテキスタイルの産地と言われています。日本のテキスタイルについてはどういう印象をお持ちですか?
実は父がテキスタイル関係の仕事をしていて、その影響でファッションの道に進んだということもあります。確かにイタリアのテキスタイルは良質ですが、日本のテキスタイルも非常に素晴らしいと思います。例えばカシミアなら、イタリアでは100%で使うのが普通ですが、日本では他の生地とミックスして使うイメージがあります。これは良い意味でとても大胆ですよね。私に限らず、日本のテキスタイルを使いたいと思っている世界のデザイナーはたくさんいると思いますが、輸入コストで非常に高くなり、なかなか使えないのが現状だと思います。
最後に、今後、日本のマーケットに向けてどんなアプローチを考えているかをお聞かせください。
日本のカスタマーは非常にハイレベルで洗練されています。街中にいる人たちがみんなプロのバイヤーやデザイナーのように感じられるほど、ファッションに対する豊富な知識と情熱を持っています。そうしたカスタマーに対して、できる限り直接コミュニケーションを取れるようなアプローチをしていきたいですし、同時に限られたショップとエクスクルーシブな関係を築いていきたいと考えています。
Interview by Yuki Harada
インタビュー番外編:囲み取材のコメントから
日本素材について
日本素材をリスペクトしています。プロフェッショナルな人にしか分からないかもしれませんが、日本素材には繊細な魅力があります。私は触ったらすぐ日本の素材と分かります。今回のコレクションでもシャツ生地とジーンズ生地は全て日本製です。
イタリアは伝統的な素材を作り続けているため、イタリアのカシミアやウールは世界的に最高ランクと言えるかもしれません。一方、日本には、最高級のカシミアに化学繊維を混ぜてハイブリッドな素材を開発するメーカーがある。新しいことにどんどんチャレンジしていて、素材開発のクリエーションのレベルは非常に高いと思います。ただ、日本では商社など中間に入る企業が多く、それらを経由して海外に届けられるため、とても高額になってしまう。私は直接、日本で繊維工場のリサーチを行うルートを持っているので、日本の素材メーカーをぜひ紹介してもらいたいと思っています。私のように素材にこだわる海外デザイナーにとっては、その方が金銭的な援助よりもずっと喜ばれると思います。
東京のファッション・ウィークについて
まず、ニューヨークのファッション・ウィークはファッションを消費する場という印象で、ミラノは古い手法で行っているためか、あまり新しさを感じません。パリはやはり世界のファッション・ウィークの最高峰ですが、ワクワク感はあまりないかもしれません。東京のファッション・ウィークは、スタリスト、PR、プロデューサー、バイヤーなど、ファッションに関わるすべての人たちの個々のファッションレベルが高く、常に新しいファッションを作り上げているように感じます。そのため、東京でショーをすることは刺激があるし、ドキドキします。今回、東京でショーができると決まった時、自分の中のクリエーション意欲が高まりました。
The making of UMIT BENAN 2017 S/S collection show in AmazonFWT
“Welcome dinner for Umit Benan”
今回の東京での初のショー開催を記念して、銀座のフレンチレストラン「アジル(ARGILE)」の協力のもと、ウミットさんを囲んだ歓迎会を開催しました。ショーを数日後に控え、決起するとともに、ショースタッフやサポーターたちとの親睦を深めました。(ウェルカムドリンク協力:獺祭(旭酒造株式会社))
【協力店情報】
アジル(ARGILE)
東京都中央区銀座5-4-6 ロイヤルクリスタル銀座 7F
TEL 03-3575-5115
http://www.argiletokyo.com/