児玉 裕一 映像ディレクター
Amazon Fashion Week TOKYO 2018 S/S & 2018 A/W Key Visual Creator
1975年生まれ。東北大学理学部化学系卒業。卒業後、広告代理店勤務を経て独立。以後フリーのディレクターとしてCM、MVなどの演出を手掛ける。2006年より「CAVIAR」に所属。2013年9月「vivision」 設立。
[ Website ] http://www.vivision.tv/
「東京事変」や「サカナクション」などのミュージックビデオ、大手企業のテレビCMなどで知られる映像ディレクター・児玉裕一氏が、先シーズンに引き続き、Amazon Fashion Week TOKYO 2018 A/Wのキービジュアルを手がけた。リオオリンピックの閉会式で行われたフラッグハンドオーバーセレモニーではチーフ映像ディレクターを務めるなど、日本を代表するクリエイターとして活躍する彼のキャリアや、映像制作におけるこだわり、2シーズンにわたって担当したキービジュアル制作の舞台裏などについてお話を伺った。
まずは、児玉さんが映像に興味を持ち、それをお仕事にされるまでの経緯を教えて下さい。
僕はもともと科学者になりたくて、子どもの頃から科学館によく行っていたんです。そういう施設では、何かの仕組みを解説するような映像がよく流れていて、そこでデザインされた文字やアニメーションを目にしたのが、今振り返ると映像の原体験だったのかなと思います。また、『バック・トゥー・ザ・フューチャー』や『ゴーストバスターズ』『スター・ウォーズ』などの映画や、ファミコンなどからも大きな影響を受けました。大学に入ってからは、友人から海外のミュージックビデオの面白さを教えてもらい、録画してもらったMTVなどを見るようになりました。そして、当時の広告やデザイン関係の雑誌などを通じてクリエイターという存在を知り、広告代理店に就職しました。
ご自身で映像をつくるようになったのはいつ頃からだったのですか?
大学の頃に、モーショングラフィックをつくるバイトをしていて、一通りの映像編集ソフトの使い方を覚えました。その後、東京の広告代理店に就職し、新聞や雑誌など媒体関係の部署に配属されましたが、ここでは映像はつくれそうにないということがわかり、1年間で辞め、大学時代を過ごした仙台でフリーの映像ディレクターとして活動を始めました。地方局のテレビ番組の1コーナーを担当したり、フリーペーパー制作やイベント企画など映像以外の仕事まで、何でも屋のように色々なことをしていました。企画から関わっていた番組もあって、毎週放送されるごとに視聴者がついてくるんです。今で言うところのユーチューバーのような気分で(笑)、僕が制作した映像が3日後にはオンエアされ、それを見た若者たちがああだこうだ話している状況がとても面白くて。まだ素人に近い自分が考えたことでも、伝わるものは伝わるんだという手応えを感じることができました。
その後、数々のミュージックビデオなどで注目を集めるようになりますが、映像をつくる上でどんなことを大切にしていますか?
映像をつくり始めた頃から、見たことがないもの、ドキドキするものをつくりたいという思いは変わらずに持っています。また、自分にとって映像制作は広告をつくるようなもので、CMはもちろんですが、ミュージックビデオなどにしても、誰かのために映像をつくっているという意識があります。その中で企画を考えていくわけですが、例えばミュージックビデオなら、楽曲を聴きながら映像の流れをイメージしていきます。その曲にピッタリ合う企画や、タイムラインの中での感情の盛り上げ方などを考え、それらが固まったら絵コンテに落とし込んでいきます。あと、関わってくれるスタッフたちに盛り上がってもらえるような企画にすることも心がけていて、それが結果的に視聴者にとっても面白い作品になるのではないかと思っています。
映像におけるファッションやスタイリングについては、何かこだわりはありますか?
そもそもファッションにそんなに詳しくないのですが(笑)、画面内のアートディレクションをしていく上で、スタイリングは大きな力を持っていると思っています。例えば、ウェス・アンダーソンの映画などはその最たる例ですが、アートディレクションという観点から完璧なスタイリングであることはもちろん、登場人物のキャラクター性まで洋服にしっかり表れています。もちろん、自分がつくる映像においてもスタイリングは大切で、登場人物のキャラクターやその時の気分などをスタイリストさんにお伝えしますが、それをもとにさまざまな洋服を探したり、つくったりできるスタイリストさんのイマジネーションは本当に素晴らしいなといつも感じています。
Amazon Fashion Week TOKYO 2018 A/W Key Visual
そこでファッション・ウィークのキービジュアルの話に移りたいのですが、2シーズンともスタイリングは三田真一さんが担当されていますね。
三田さんとはこれまでも色々なお仕事でご一緒してきましたが、ハイファッションからストリートファッションまで熟知していて、映画の衣装まで手がけていらっしゃるため、今回イメージしていたSF的な世界観にもピッタリだなと。前シーズンはネオンがテーマだったので、洋服自体にネオン感があるものや、ネオンの光を受けた時に映えるものというオーダーをしました。そして今シーズンは、現代なのか未来なのか定かではないSF的な世界観というイメージをお伝えしたのですが、どちらもイメージ通りのスタイリングをしていただき、さすがだなと感じました。
カメラマンやモデルのキャスティングについてもお聞かせください。
撮影をお願いした半沢健さんは、被写体を格好良く切り取ることはもちろん、同時にユーモアも感じさせることもできる方で、そのバランスが今回の世界観にハマるだろうなと考えました。男性モデルは、2シーズンともダンサーのえんどぅさんにお願いしましたが、彼の身体のラインや顔の造形をしっかり撮りたいという思いがありました。女性モデルは、前回はアユミターンブルさん、今回は福士リナさんを起用し、えんどぅさんが彼女たちに出会っていくというストーリーをイメージしながら撮影しました。
各シーズンのテーマやコンセプトについてもお聞かせいただけますか?
キービジュアルの制作にあたって、人と洋服の関係性を改めて考えてみましたが、やはり「出会い」という要素が大事だなと思いました。人は何か新しいものに出くわした時に好感を持ったり、逆に気持ち悪いと感じたりするわけですが、ファッションにおいてもその部分が醍醐味だと考え、「出会い」を共通のテーマに据えました。2018 S/Sでは、もともと好きだったネオンに着目し、NEONという言葉の中に“NEO”があったことから、僕が大好きなマンガ『AKIRA』の舞台である「ネオ東京」や、映画『ブレードランナー』の世界を思わせるような、海外の人たちがイメージする東京を表現しました。2018 A/Wでは、未知との遭遇を連想させるようなSF的世界観のもと、新しいものに出会った時の気持ちというものにフォーカスしていきました。
Amazon Fashion Week TOKYO 2018 S/S Key Visual
グラフィックとムービーをそれぞれ制作するという点についてはいかがでしたか?
普段は手がけることがないグラフィックを制作するのは自分だけでは難しいと思い、螢光TOKYOの手島領さんに声をかけ、企画の段階からワイワイ話しながらテーマを固めていきました。最高の一瞬を切り取って見せることができるグラフィックと、流れの中で動きが表現できるムービーには、それぞれ強みや難しさがある中で、断片的なイメージが組み合わさってひとつのストーリーが見えてくるようなものを目指しました。
ファッション・ウィークのオフィシャルバッグをはじめ、グッズのデザインにもこだわったそうですね。
そうですね。もともとステッカー、キーホルダー、カーペットなどグッズをつくることが好きで、今回のオフィシャルバッグについては、とにかく面白いものをつくりたいという思いから、2シーズンともに通常のバッグの表裏をひっくり返してデザインしました。前回はROOTOTE(ルートート)さんとコラボし、外側に大きなネオンカラーのタグをたくさん付けましたが、今回はHeM(ヘム)さんと製作しましたので、こちらも楽しみにしていてください。
最後に、今後、映像ディレクターとしてつくってみたい作品などがあれば教えてください。
ミュージックビデオやCMの制作は今後も続けていきたいですが、いつか映画を撮りたいと思っています。SFという漠然としたイメージはありますが、原作モノの映画化も面白そうですね。僕はマンガの『コブラ』が好きですが、この作品の登場人物たちはスタイリングなども含めてとてもオシャレに描かれていますし、未来と80年代とダンディズムが入り混じった、ビジュアル的にもすごく格好良い作品になりそうだなと思っています。
INTERVIEW by Yuki Harada
PHOTOGRAPHY by Daichi Saito