Pickup
SEP. 04, 2023

KEY VISUAL EXHIBITION 「生成AIと解放」展トークイベントレポート

2023年8月14日、Rakuten Fashion Week TOKYO 2024S/S(以下、Rakuten FWT 2024S/S)において、一般の方が参加できるKEY VISUAL EXHIBITION「生成AIと解放」展にて、キービジュアル(以下、KV)の制作に携わったクリエイターによるトークイベントが開催された。

コロナ明けとなるRakuten FWT 2024S/Sは、2024シーズン全体のテーマとして「OPEN, Fashion Week」を設定。Fashion Week (以下FW)という催しを広く解き放ち、よりインタラクティブな存在にしていくことを目指し展開していくことを表している。

開催場所であるデザイナーズ・レンタルスペース「WALL&WALL」がキュレーションした新進気鋭のクリエイターをサポートするWALL&WALL PROJECT 第1弾として、Rakuten FWTとのコラボが実現。
WALL&WALLが目指すスペースの「解放」とFWが目指す「解放」、両者の目指す方向性の合致から、今展示会の開催へと至った。

Rakuten FWT 2024S/SにおけるKVのクリエイティブ、AIを活用したメディア・アートに触れることができる展示会の幕開けに際し、トークイベントが行われた。

トークイベントに参加したのは、KVのArt Director 丸井元子、KVメイン3DCGモデル「AEON」の衣装デザインを手がけたデジタルファッションブランド「Déraciné(デラシネ)」のDigital Fashion Designer 伊藤良寛・塚越智恵、KVムービー「AI PUBLIC ART」の制作や展示会場の空間演出を担当したCreator 川島拓郎(NOLL inc. ) 、KV・展覧会・パーティにおける音楽制作を行ったMusic Producer Nao Tokui、KVを中心としたクリエイティブのプロジェクトマネージャーを務めた 清水雄太、KV及び連携施策に関するプロデュース/クリエイティブディレクションを担った 砂押貴久(STEKKEY)の7名。

FW初となるフル3DCGで作成された2024S/SのKV

–Rakuten FWT 2024S/SのKVでは「OPEN, Fashion Week」をテーマに、コロナ禍で閉ざされていた世界が動き始め、「確実性」と「不確実性」が“共存”する解放(OPEN)を表現。メインモデルとなる化身「AEON(ラテン語で永遠の意)」がOPENな世界に向かって歩き出す姿が描かれています。本クリエイティブにおいて新しい時代の流れを捉えるために最も考えられたことは何でしょうか。

砂押氏:「共存」というものをクリエイティブでどのようにわかりやすくできるかと考えた時に着目したのが、AIとの取り組みでした。クリエイティブ制作においてAIをどう使っていくべきなのか。試行錯誤を繰り返しましたが、今回は人間が原案を作成してAIで加工、それをまた人間が調整するという流れを繰り返すサンドイッチ方式で制作していきました。

丸井氏:これまでのFWは、業界の方や招待された方など限られた人だけが参加することができるかっこよさがありましたが、2024S/Sのテーマである「解放」を表現するにあたり、FW自体を、街をあげて、みんなが親しみを持って楽しむお祭りのようなものにしたいという思いがありました。そこで、FWの化身のような存在がガラスドームの中のランウェイを打ち破って外に出ることで、閉ざされた世界に風穴を開ける。そんな現象が、ここだけではない、あらゆる場所で起こっているんじゃないかと想像できる世界観を伝えられたらおもしろいなと思いました。

key-visual-exhibition01

–化身であるAEONは最初からAIで作成されたのでしょうか。

丸井氏:構想時点では自分で描いてみたりもしましたが、リファレンス作成の時点からはAIで作りました。そしたらめちゃくちゃかっこいいAIモデルができちゃって。それをどう超えていくのか、調整を重ねました。その様子はまさにAI vs 人間でしたね。衣装に関しては通常スタイリストさんやヘアメイクさんがいますが、今回はある程度自分で考えていかないといけない。特に衣装制作はモデルを作るのとはまた別のスキルが必要でした。AIにいろいろなキーワードを入れることで多角的にアプローチしましたが、なかなかうまくいかなかった。そこでデジタル上で衣装をリースすることはできないかと調べていった結果、「Déraciné」さんに辿り着きました。

伊藤氏:SNSでご連絡をいただき、驚きました。ただすごくコンセプトが明確だったので、威厳のあるような衣装を作ることから始めました。丸井さんが制作された衣装はタテのシルエットだったので、まずはサイドに広がりを持たせるような衣装にし、最終的には威厳と共存する神秘的な要素をプラスすることができたかなと思っています。

–衣装の制作段階で苦労された点などはありましたか。

伊藤氏:普段は、僕たちは3DCGで作ったファッションを画像や映像にして一つの作品にしていくのですが、KVのメインモデル「AEON」の強さを出すのには少し苦労しました。その中でも自分たちらしさが出せたのは、色使いだと思っています。完成したKVではピンクっぽいメタリックな色になっていますが、当初はリファレンスに沿ったシルバーバージョンの衣装も作っていました。ただシルバーだとメタリックさが強調され、攻撃的な印象も与えてしまう。「AEON」の強さは攻撃性とは違うものだと思ったので、強さを少しずつ柔らかくしていったことで人間味のある色合いに仕上げることができたのではないかと思っています。

音源すべてをAIで制作したKVムービーと「生成AIと解放」展の音楽について

–KVムービー「AI PUBLIC ART」と今回の展示会で起用された音楽はすべてAIが制作したと伺いました。Tokuiさんが普段行なっている音楽の制作方法と合わせて、どのように作られていったのかを伺えますか。

Tokui氏:普段はシンセサイザーなどの楽器とAI、自作のシステムを組み合わせて音楽を作っていますが、今回の取り組みではすべてAIで制作しました。お話をいただいたときのお題が「AIで制作する」ということもあり、まずChatGPTに聞いてみたんですよね。すると「ビョークのような声が天から降ってくる」とか「躍動するような音」という答えが出てきた。こうしたキーワードを僕なりに解釈し、普段行なっているAIの研究の中で自分が学習した音源などを使って、AIと音楽を作っていくことにしました。あとは環境音のようなものを加えて、ガラスを破る瞬間の音や砂漠を歩く足音などもAIで制作していったという感じですね。最後の方にコーラスのような歌声を入れているんですが、それはまた別のAIがブルガリアの合唱曲などを学習し、AIが変換していった音になります。

※Tokui氏が普段行っているAIの研究

–普段の音楽制作とは違った気づきのようなものもあったのでしょうか。

Tokui氏:そうですね。普段僕はハウスなどの音楽を制作しているので、今回のような音楽は自分1人ではできなかったと思います。特に最後に女性のコーラスを入れるアイディアを持ち込んだのはAI。他にもガラスの中をウォーキングしているシーンでは、無線で人が話しているような声が入っていますが、あれはNASAの通信データを学習したAIの音を使いました。実は最初のインプットは猫の鳴き声だったんだけど、それを変換したらおもしろい無機質な音になって。そんなハッピーアクシデントもありました。

川島氏:ガラスが割れる音とかも普通は「バリン」っていう音をイメージしますけど、AIは全然解釈が違いましたよね。「ボコボコボコ」みたいな音から始まって「クシャー」みたいな音が入ってきたり。印象が全然違って驚きました。

清水氏:Tokuiさんが作ってくださった音楽は「AI PUBLIC ART」だけでなく、 「生成AIと解放」展でも使用させていただきました。元々、コンセプトとして制作過程こそ大事だと考えていたので採用されなかった音源も取っておいてもらったのですが、「展示会用に何か使えるのないですか」ってお願いしたところ、Tokuiさんがすごい量の音源を送ってくださって(笑)

Tokui氏:今回制作した音源を他の要素でも使用するかもしれないと聞いていたので、作っている時の楽しみにもしていました。クリエイターは完成に至るまでの過程の音源も大切にしているものなので、それも皆さんに体感してもらえる機会に恵まれて光栄です。

key-visual-exhibition02

OPENをテーマにしたKVはビジュアルだけでなく、参加型アートにも発展

–Rakuten FWT 2024S/SのKVの取り組みは、キービジュアルを使い、生成AIで8頭身のファッションモデルになれる、人間とAIの共同デジタルアート「AI PUBLIC ART」も展開されています。KVの制作と同時進行で準備を進めていったとのことですが、制作過程はどのようなものだったのでしょうか。

川島氏:KV制作の途中段階から「顔合成してみて」という指示が無邪気に送られてきました(笑)。「もう少しシリアスな印象にしてほしい」などの要望を受けては、生成AIで顔交換をしていくという実験を何度も繰り返して実装に向けて固めていきました。でも、どんどん「AEON」のビジュアルが変わり続けていく中での制作作業は、新鮮でしたね。

砂押氏:生成AIと言っても、どのようなアプローチにするかについて、手動か自動かという分岐がありました。手動にすると、会場に来ている皆さんがパソコンなどの端末でプロンプトを入れることで、色や服が変わるというもの。ですが、それだとプロンプトを入れるスキルが必要になる。そこで自動で展開することになりました。広告ビジュアルでこうした取り組みを行うのは、僕が知っている限りおそらく世界初だろうと思います。広告のビジュアルを使って、ユーザー体験として顔がフェイスモーフィングされ、ファションモデルになるということはチャレンジな企画だと思っています。

key-visual-exhibition03

川島氏:TikTokやInstagramのような日常の隙間時間で楽しめる手軽さが感じられる体験を商業コンテンツでやるということで、いかにUIを手軽にできるようにするか、みたいなことの議論は重ねましたね。僕としては今回上手く作れたんじゃないかなと思っています。

今回登場したクリエイターたちが制作したKVは「2024 S/S KV特設サイト」での閲覧が可能。AEONが歩く姿とスクロールが連動する様子は、KVが3DCGで制作されているからこそ見ることができる貴重な体験の一つ。特設サイトではキービジュアル情報をはじめ、2024 S/Sシーズンの様々な施策や情報が公開されているので、ぜひチェックを。

Go to Top