Interview & Report

“EN” Special Conversation vol.4

“EN” Special Conversation vol.4 堀口切子 / 三代 秀石 堀口 徹 × HAN AHN SOON / ハン アンスン

“EN” Special Conversation

Shuseki III Toru Horiguchi
Horiguchi Kiriko

Han Ahn Soon
Designer of HAN AHN SOON

[ URL ] 堀口切子

[ URL ] HAN AHN SOON

現在開催中の、日本の技術とクリエイターが出会うトレードショー/エキシビション“EN”の出展企業×デザイナーによる対談シリーズ最後を飾るのは、伝統工芸の中でも特に人気の高い江戸切子の世界において、ディテールにこだわったミニマルな作風で注目を集めている堀口切子・三代秀石 堀口徹氏と、女性の美しさや強さを豊かな色彩感覚と大胆なデザインで表現する人気ブランドHAN AHN SOONのハン氏。今回制作したプロダクトや、その制作エピソード、それぞれのものづくりのスタンスなどについて語っていただいた。

 

虹のたもと

虹のたもと / 三代 秀石

喜久繋

喜久繋 / 三代 秀石

まず、堀口さんのこれまでの活動についてご紹介ください。

堀口:もともと実家が江戸切子を作っている堀口硝子という会社で、はじめの9年はそこで修業をし、2008年に「秀石」を継承して独立をしました。堀口硝子は、これぞ江戸切子と誰もがイメージするような伝統的な品物を持ち味としています。個人的には伝統的なものも大好きなのですが、独立するにあたっては、独自なテイストが表現できるようにしたいという思いがありました。独立してからは、より自分が興味のある仕事をしていくようになったのですが、現在では比較的自由度の高い企画に関わる機会が多くなり、常に新鮮な状態で仕事をしています。

ハン:私自身、江戸切子に対しては、おそらく多くの方が想像するような赤や青のグラスという印象くらいしかなかったので、今回の取り組みを通して色々なことを知ることができました。

堀口:ハンさんがおっしゃるように、多くの方がイメージされる色合いや煌きというのは、江戸切子の一つの持ち味だと思います。また、江戸切子に限らず、硝子というのは透明性がある素材なので、飲食物、テーブル、背景、光など、周囲の状況に良い意味で影響を受けるということも魅力です。江戸切子にはカットが入っているので、その凹凸というのも触感として楽しめる要素だと思っていますし、自分が作る上では、サイズ感や口元の厚みなど、実際の使い心地という部分も大切にしています。

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HAN AHN SOON 2014 S/S

今回のような他業種とのコラボレーションは多いのですか?

堀口:あまり多くはありません。今お話したように、周囲のさまざまな環境に影響されやすいという点では、コラボレートしやすそうにも思えるのですが、江戸切子にはカットや色をはじめ技術的な制約というのがかなり多いんです。今回もそこが難しい部分ではありましたよね。

ハン:予想以上にできないことが多かったですね(笑)。ハンアンスンは、色を大切にしているブランドなので、今回もそれを表現できればと考えたのですが、江戸切子というのは色の種類がかなり限られていて、赤一つとってもあまり種類が多くないんです。また、ツートーンで表現するようなことも技術的にハードルが高く、難しい部分は多かったのですが、その中でハンアンスンらしい女性的なポップさを表現していくことを目指していきました。

堀口:まず、最初に話し合ったことは、こちらが加工したピースをハンさんにお渡しして、それを洋服などに使ってもらうという方向性と、逆にハンさんの世界観を江戸切子で表現するという方向性のどちらにするかということでした。今回は後者でいくことが決まったのですが、そうなるとプロダクトとしての作り込みの部分は自分が主に担当することになるので、ディテールなどから自ずと自分らしさは出てくるんですね。そのため、ハンさんがイメージする世界観や良いと思う感覚を、可能な範囲でいかに表現していくかということが最も重要なポイントで、ハンさんのイメージと、江戸切子でできることの間で、最大公約数を見つけていくような作業になりました。

ハン:私も普段の洋服作りにおいては、素材の選択からディテールの作り込みまでを担っていますが、今回は硝子という素材の知識がない中で、アイデアだけを投げるという立場だったので、いつもとはだいぶ違う作り方になりました。例えば、自分のブランドのお客さんから、もっとこういうものが欲しいという声を聞くことがあるのですが、実際にそれを実現しようとするとコストがとても高くなってしまうなど、現実的ではないことも多いんですね。今回はそうしたお客さん側の立場に近かったように感じています。

堀口:出していただく案に対して、これはダメです、それはできませんとお答えをするのは、自分としてもかなり心苦しかったです(笑)。自分の中で設定している仕上がりや加工のレベルというものがあって、それを下回ることはできないですし、一方でコスト的に実現が難しい部分というのもある。そうするといよいよできることが少なくなってしまって、途中で迷路に入り込んでしまったような時もありましたよね。でも、自分が避けたいと思っていたのは、途中まで「できます、できます」と言っていたのが、蓋を開けてみたら全然イメージと違うものになっていたということで、実際の現場ではそういうケースも少なくないんです。そこには絶対嘘をつきたくなかったし、それでは何も生まれないと思っていました。

ハン:そういう部分からも堀口さんの職人としてのこだわりを強く感じました。色々制約は多かったのですが、その中でハンアンスンらしいポップさや可愛らしは表現できたんじゃないかなと思っています。

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several elements / 三代 秀石

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kizami / 三代 秀石

最終的にはどんなプロダクトになったのですか?

ハン:ゴールド、シルバー、ピンクなどのカラーバリエーションでドットをプリントした江戸切子のグラスを作っています。

堀口:菊繋文という代表的な江戸切子の文様を切りました。今回は、多くの方がイメージするような細かいカットの入った江戸切子のイメージを大切にしたいという思いがありましたし、「菊繋」は「喜久繋」と書かせ、喜びを久しく繋いでいこうという縁起の良い柄でもあります。今回は、水玉がプリントされた桐箱も特別に作っているのですが、箱のつくりに関しても、角の処理など細かい部分にまでこだわりました。ハンさんが活動しているファッションの世界では、パッケージにもこだわるのは当然のことだと思うのですが、自分たちの業界は、そういう部分に対して気を払われるウエイトが少ないように感じます。でも、自分としてはやはり切子本体だけではなく、パッケージも含めトータルで世界観を表現していく必要があると考えています。

ハン:今回一緒に仕事をしてみて、業界が変わるとこんなに違うのかと勉強になる部分がたくさんありましたし、とても良い取り組みになったと思っています。コラボレーションというのはこれまでも多くの方がやってきていますが、こういう取り組みを通して新しい刺激を受けることでクリエイションは広がっていきますし、それが受け取ってくれる人たちの刺激にもなり、次につながっていったらいいですよね。

 

ファッション・ウィーク期間中に開催されるイベントで展示されるという点で、何か意識されたことはありますか?

堀口:今回は江戸切子という自分のフィールドでものづくりをしたからこそ、ファッション業界の方がこのプロダクトを見た時にも、違和感なくハンさんのデザインだと伝わるようなものにしたいという思いが強いですね。また、普段江戸切子に触れる機会がない人たちにも、伝統工芸の柔軟さのようなものが伝わるといいですね。伝統工芸というのは、その時代時代に求められるものに合わせて、柔軟に変化してきたからこそ残っていると思います。もちろん、江戸切子ならではの細かいカットや美しい色合いなど、変わっていない部分というのもあります。そうした技術や内面的な部分は継承しつつも、使い手に今何を求められているのかということに敏感になりながら、表現方法に対しては常に柔軟であるべきだと考えています。

ハン:ファッションの場合は、時代に求められるものをより早いスパンで作っていくところがあります。その中で、実際に売れる商品を作っていくことも大切ですが、一方でショーピースのようなあまり数が売れないものも力を入れて作っています。そこには、人に夢を与えたり、憧れの対象になるというファッションの大切な部分があって、私としても取り組み続けていきたいところです。東京のファッション・ウィークに参加しているブランドには、チャレンジ精神を持ってものづくりをされている方が多いですし、そこは世界にも負けない部分なんじゃないかと思っています。

堀口:先日、初めてニューヨークの合同展示会に出たのですが、とても刺激になったし、良い反応もいただきました。海外の場合、日本とは少し反応が違って、仮に作り手の略歴や肩書き、江戸切子の特徴などを知らなかったとしても、目の前にある作品が好きかどうかという判断をダイレクトにします。そういう意味では、海外に向けては提案の仕方も少し変えていく必要があるのかなということも感じました。やはり、自分が日本で作ったものが海外で評価されたり、売られることはうれしいですし、機会があれば今後も海外には出ていきたいと思っています。

 

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Text by Yuki Harada

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