Tokyo Designers Meet Tohoku 南馬越 一義/BEAMS創造研究所
[南馬越 一義プロフィール]
ファッション業界きってのサブカル通であり、その振り幅の広さから、多岐にわたる分野のイベントやセミナーなどで常にひっぱりだこ。最近手掛けているのは、「シブカル祭。」とのコラボレーションや、ビームスの新業態「ビーミング ライフストア」のプロデュース、ヤフー復興支援室との復興支援プロジェクトなど。
[ URL ]Tokyo Designers Meet Tohoku
MBFWT 2015 S/Sの関連イベントであり、東京を代表する4つのファッションブランドが、東北のつくり手たちとのコラボレーションで作品を制作し、展示販売を行うプロジェクト「Tokyo Designers Meet Tohoku」が、「from JAPAN to the WORLD」を標榜するセレクトショップSTUDIOUS(ステュディオス)で展開されている。東日本大震災からすでに3年が経過した今も、継続的な復興支援が必要とされているなか、今回のプロジェクトの背景にはどのような経緯や思いがあったのか。今回の企画をコーディネートしたBEAMS創造研究所の南馬越一義氏にお話を伺った。
Tokyo Designers Meet Tohokuがスタートしたきっかけから教えて下さい。
昨秋、石巻にあるヤフージャパンの復興支援室の方と知り合ったことがきっかけです。担当の長谷川(琢也)さんと、洋服に関わることで復興支援ができないかという話になり、ヤフーさんに被災地の案内などもしていただいたのですが、その時に長谷川さんがけん玉を持っていたんです。話を聞くと、けん玉がアメリカのスケーターたちの間で盛り上がっていて、最近日本にも逆輸入され始めているということでした。けん玉は山形県で多く生産されていることもあり、まずは東北でけん玉関連グッズをつくることにして、さまざまなクリエイターにデザインを依頼し、ビーミング ライフストアで展示販売やワークショップを行いました。この企画が好評だったこともあり、次はやはり洋服をやりたいと思って立ち上げたのが今回のプロジェクトです。
今回のプロジェクトの概要を教えて下さい。
東京のデザイナーと東北のつくり手がコラボレートし、それぞれ2点前後のアイテムを制作、セレクトショップSTUDIOUSで展示販売します。もともと東北には工場が多く、有名ブランドと仕事をしているところもありますが、今回は特色のある素材や生地をつくっている工場が良いのではないかと考え、ネオプレーン素材(ウエットスーツなどに使用されるネオプレーンゴムの入った生地)を開発している石巻のモビーディック、古い浴衣などの生地を裂いて織り直す「裂き織」をしている盛岡のさんさ裂き織工房、刺し子織りで有名な三和織物に協力していただきました。東京のデザイナーについては、これまでにファッション・ウィークで見てきたブランドを中心にオファーし、FACETASM(ファセッタズム)、SASQUATCHfabrix.(サスクワァッチファブリックス)、ANREALAGE(アンリアレイジ)、G.V.G.V.にお受けいただくことができました。
作品はどのような流れでつくられていったのですか。
まずは、それぞれのデザイナーを工場にお連れして、それ以降は直接やり取りしていただくようにしました。今回参加していただいた工場は、モードファッションの仕事をした経験がほとんどないところばかりなので、これまでにないオーダーばかりで大変そうでしたが(笑)、その反面刺激になる部分も多かったようです。デザイナー側として特にFACETASMの落合(宏理)さんは、最初に三和織物の職人さんが手掛けた生地をお見せした時に凄く興奮して、すぐにSASQUATCHfabrix.さんにもお声がけしてくれました。
BEAMS創造研究所として、このようなプロジェクトに取り組む意義はどんなところに感じていますか。
震災からすでに3年が経ちましたが、まだ仮設住宅で暮らしている方もいますし、復興は道半ばです。そうした状況で、今回のようなプロジェクトを立ち上げて媒体などで取り上げていただくことによって、東北の今を知ってもらうことには意義があると思いますし、ヤフーさんとは、チャリティとしてではなく、しっかり自立できるビジネスプロジェクトにしていこうという話をしています。また、今回に関しては、普段ランウェイでコレクションを発表しているようなエッジーなブランドと、ローカルの職人さんを結び付けられたことにも意味があったのではないかと思います。BEAMSでも様々な地域とのローカルなプロジェクトに取り組んでいますが、昨年くらいから僕も多く企画しています。日本の伝統的な文化に新しい価値を付け、世界に向けて発信していけるような取り組みを今後もしていきたいと考えています。
「G.V.G.V.」(上:ポーチ/下:トートバッグ)
日本では、東日本大震災以降、ローカルを見直そうとする機運が各方面で高まっていますが、世界のファッションシーンではこうした動きは見られますか。
パリコレなどのモードファッションのシーンとは異なりますが、アメリカのポートランドやブルックリンなどでは、ファッションに限らず、ローカルでつくって消費するというライフスタイルが注目されています。最近は、ニューヨークのブランドなどでも地元のテーラーを使う流れが強まっていますし、グラフィックデザイナーなどをしていた若い人たちが、革製品などをつくり始めたりもしています。「Made in USA」への意識がアメリカ国内で高まっていることから、多少高くてもローカルのものやハンドクラフトのものを選ぶ傾向が、ヒップな人たちを中心に主流になりつつあるように感じます。
そうした感覚がモードの世界にも広がっていくことは考えられますか。
すでに、ニューヨークのブランドのカタログなどでは、こうした昨今の流れを意識したものも見られるようになっています。ストリートファッションの隆盛とともに、ランウェイでもストリートテイストの洋服が多く見られるようになったように、今後さらに“ローカルのものづくり”が大きなムーブメントになっていけば、モードファッションの世界で取り上げられることはあり得ると思います。また、最近はパリなどでも、ランウェイショーをしないブランドの方がクールだと見られるようなところもあります。僕自身は、ショーで発表される表現や作品は好きですし、今後も応援していきたいと思っていますが、ファッションショーというものが一部の限られた人たちだけに向けられたものになっていく可能性はあるかもしれませんね。
南馬越さんは、東京のファッション・ウィークも長く見続けていると思いますが、どのような印象をお持ちですか。
まさに今回の企画もファッション・ウィークで東京のブランドのショーを見てきたからこそ生まれた発想でもあります。東京のファッション・ウィークは、パリなどに比べると規模は小さいですが、その中でそれぞれが試行錯誤しながら、がんばっていると思います。また、最近は「VERSUS TOKYO」のようなイベントも出てきて、こうした動きが東京のファッション・ウィークのひとつの特徴になっていくと良いですよね。あとは、ファッション・ウィークがショー会場だけで完結するのではなく、周囲の町やショップなどもうまく巻き込んでいくことが必要ではないかなと思います。いくら世界に向けて発信しようとしても、まずは地元が盛り上がらなければ意味がないと思うし、その辺りが今後の課題なのかなと感じています。
東北支援のプロジェクトは、今後も続けていかれる予定ですか。
切り口は変わるかもしれませんが、復興支援のためのプロジェクトは来年以降も継続的に取り組んでいきたいと考えています。復興のために何かできることがないかと考えている方は、デザイナーの中にも多いと思います。先にお話しした「KENDAMA TOHOKU」に参加してくれたミナ ペルホネンの皆川(明)さんも「何かしたいと思っていたけど、どこで誰と一緒にやればいいのか分からなかった」とおっしゃっていたのですが、このプロジェクトを機に東北のつくり手に発注するようになったそうで、自分たちとしても少しずつ手応えは感じ始めています。今後は、ビームスだけではなく、競合店と組んでプロジェクトを展開することがあってもいいと思うし、業界内で連携しながら、活動を広げていければと考えています。たとえ一回の取り組みが盛り上がったとしても、それがすぐに復興につながるという話ではないので、仮に僕が力尽きたとしても(笑)、他の誰かが意思を継いでくれるような形には持っていきたいですね。