Interview & Report

堀内 太郎

堀内 太郎 ホリウチ タロウ

「TARO HORIUCHI」デザイナー

2007年
アントワープ王立美術アカデミー首席卒業
イタリアのコンペティションITSにてディーゼル賞受賞
DIESELカプセルコレクションを13カ国にて発表
21_21DESIGN SIGHT at 東京ミッドタウン「ヨーロッパで出会った新人達」展参加
2008年
渡仏後の2010年春夏にてTARO HORIUCHIを立ち上げる
2012年
第30回毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞受賞

アントワープ王立芸術アカデミーを首席で卒業し、2008年に自身のブランド「TARO HORIUCHI」を立ち上げた堀内太郎。
国内外のさまざまなクリエイターたちとコラボレートしながら、一貫した自らの美意識を現代的な女性服に落とし込み、各方面から注目を集めてきた。
さらに、Mercedes -Benz Fashion Week TOKYO 2015 S/S 最終日に開催される「VERSUS TOKYO」に参加することが決定し、ブランド初となるプレゼンテーション形式でのコレクション発表に期待が高まっている。
TARO HORIUCHI」デザイナーの堀内氏に、学生時代の話からファッションの道へ進んだきっかけ、「VERSUS TOKYO」参加の意気込み、ブランドの展望などを伺った。

 

 

堀内さんはヨーロッパでファッションを学ばれていますが、海外に行こうと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

美術関係の仕事をしていた父が頻繁に海外に行っていたこともあり、もともと外国に対する興味が強く、子供の頃から外国人と接する機会も多かったんです。そこから自然な流れで語学留学をしたいと考えるようになり、15歳で単身イギリスに渡りました。当初は、まだファッションやアートに対して強い興味を持っていたわけではなかったのですが、もともとアートが身近にある環境で育ったこともあり、ペインティングや写真などに取り組むようになり、美術大学に進学しました。

 

その後、アントワープ王立芸術アカデミーに進学されるまでの経緯も教えて下さい。

もともとファッションにはあまり興味がなかったのですが、当時通っていた美大には日本のカルチャーに興味を持っている人たちも多く、「ア・ベイシング・エイプ」が大好きな外国人の友達もいました。

そうした環境の中で、ある種逆輸入的に日本のストリートファッションを見ていたところがありましたね。また、僕自身『relax』などの雑誌が大好きだったし、イギリスには「サイラス」などのブランドもあり、はじめはモードよりもストリートファッションへの興味が強かったんです。その後、それまで自分が取り組んでいた美術と、ファッションの境界線で表現しているマルタン・マルジェラの存在を知り、その活動に惹かれて、彼が卒業した学校を調べたところ、それがアントワープだったです。

 

アントワープは首席で卒業されているんですよね。

アントワープは、「自分とは何か」ということを徹底的に追求していく学校ですが、その中で必死にやっていたらいつの間にか引き返せないところまできていて(笑)、結果としてそうなったという感じです。卒業後は、ヨーロッパで働いていた時期も少しありましたが、周りの先輩や同世代の日本人デザイナーは自分でブランドを立ち上げている人も多かったし、あまり迷うことなく日本で自分のブランドを立ち上げることにしました。

 

ブランド立ち上げ当初から、明確なビジョンはありましたか。

アントワープの頃から自分が表現したいと考えてきたのは「透明感」のようなもので、世代や性別を超えた価値観としてそうした空気感を表現していくことが、自分のコンセプトになっています。ブランド立ち上げ当初は、自分が純粋に表現したいイメージをストレートに表現していたのですが、それと日本のマーケットの間にズレが生じたことも事実です。ただ、それもポジティブに捉えながら、クリエイションとビジネスの両面で実験を続けることによって、シーズンごとに自分が考える女性像・女性観の提案をしてきました。

 

シーズン毎のテーマはどのように考えているのですか。

僕は美術や音楽、映画などが好きで、これまでもさまざまなクリエイターとコラボレーションしてきていますが、彼らの作品からインスピレーションを受け、それがシーズンテーマにつながっていくことが多いです。僕自身の美意識や理想とはまた異なる彼らの視点や感性がミックスされた時に、どんなものが生まれるか、ということを毎回トライアウトしている感覚です。

シーズンテーマやコンセプトを洋服に落とし込む段階では、テクスチャからカッティングまであらゆる要素で足し引きをしながら、バランスを図るようにしています。

 

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TARO HORIUCHI 2014-15 A/W

 

自分がつくる洋服を通して、どんなコミュニケーションを取りたいと考えていますか。

僕は普段とてもシンプルな生活をしていて、ファッションに関してもほぼ毎日同じシャツ、デニム、シューズを身に着けています。そうした淡々とした日常の中に、アーティストの作品などを取り入れているのですが、それらの作品と同じように、僕がつくる洋服も、着る女性たちの生活に刺激を与え得る存在になれると良いなと考えています。現在、卸先は百貨店からセレクトショップまで非常に幅広いバリエーションがあって、コンセプチュアルなアイテムを好む方から、コンサバでベーシックな洋服を求める方までさまざまです。自分がつくったものがさまざまな形に切り取られて変化していく様は興味深いですし、どんな切り取られ方をしても良いような多様性や余白を残す服づくりは心がけています。

 

日本のマーケットは、堀内さんが長く過ごしていたヨーロッパと比べていかがですか。

例えば、パリなどでは、街中のおじさんたちが仕事着でなくても日常的にスーツを着ていますが、日本ではあまりそういうことはないですよね。僕はどちらかというとカチッとしたスタイルが好きなので、日本にいて違和感があることもありますが、文化も気候も異なる国ですし、ファッションに違いが生まれることは当然だと思っています。僕は人生の約半分を海外で過ごしていることもあり、自分が学んだファッションの知識や感覚はヨーロッパ由来のものです。一方で、学生の頃に読んでいた『relax』などが発信していた日本のストリート・カルチャー/ファッションも自分の根底にあります。いわば半分外国人、半分日本人の自分が、日本でデザイン活動をしている面白さというのもあるのかなと感じています。

 

日本のストリート・カルチャーはどんな部分が面白いと感じますか。

豊かな日本には、雑多さや危険さを併せ持つような本来の意味での「ストリート」というものは存在しませんよね。そうした背景で、東京のストリートファッションには、知性を持った人たちが生み出す非常に洗練された美意識があり、それが独特の空気感につながっていると感じます。それらは外国人の目にも新鮮に映ったと思いますし、僕が学生の頃は、夏休みで帰国する度に、友人から「エイプのTシャツを買ってきて!」と頼まれるほど、イギリスの若い人たちも熱狂していました。前回のプレコレクションではホンマタカシさんにカタログを撮っていただいたり、今回の「VERSUS TOKYO」で発表するコレクションでも学生時代から憧れの存在だったアーティストにもお仕事をお願いすることができたりと、東京のストリートファッションがルーツとも言える自分にとっては、こういったアーティストがいるということも東京のシーンの面白いところだと感じます。

 

「VERSUS TOKYO」への参加の意気込みを聞かせてください。

ブランドとして、このような形で対外的にコレクションを発表するのは初めてのことですが、一般の方たちも来場されるフェスティバルのようなイベントに参加させていただくことは、自分たちのトライアルとしても良い機会だと考えています。今回はプレゼンテーション形式で発表しますが、以前から友人として付き合いがあったクリエイティブ・エージェンシー「SIX」の大八木 翼さんに演出面で協力していただき、音楽は蓮沼執太さんに担当していただく予定です。

 

最後に、ブランドの今後の展望などをお聞かせください。

帰国してブランドを立ち上げてからの3年間は自分が表現したいことを突き詰め、その後の3年間では、日本のマーケットやビジネスについて学ぶことをテーマにしてきました。そういう意味でも、この3年間はスピードを上げながら色々なトライをしてきたところがありましたが、次の展開としては、あえてスピードを緩めていくというチョイスもあると思いますし、自分たちのペースで次のステップに進んでいきたいと考えています。また、自分の興味が強い部分として、空間を通してひとつの美意識を提案していくようなアプローチにも取り組んでいけたらと考えています。

 

INTERVIEW by Yuki Harada

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