Stuart McCullough スチュアート・マカラック
オーストラリアン・ウール・イノベーション(AWI) CEO
コーポレート・コミュニケーション、国際ビジネス企画、商品開発マネジメント、マーケティング・セールス戦略立案および戦略的提携の交渉において、20年以上の経験を持つ。過去10年間、オーストラリアン・ウール・イノベーション(AWI)の指導的立場を務めると同時に、ビジネスユニットの戦略立案、移行、構築、展開など多くの局面において責任者を務める。職務には新商品の開発とその商業化や、北米でのAWI拠点の運営の開始、起ち上げ、管理などが含まれ、また、複雑な動物福祉の問題を介した世界中の関連団体とのコミュニケーションも先導。近年の変革期には、AWIシニア・エグゼクティブに対する戦略アドバイザーを務め、2010年には最高経営責任者(CEO) に任命される。牧場でジャッカルー(牧場の見習い)として羊毛産業でのキャリアを開始し、ウールクラッサー(羊毛を仕分ける専門職)、羊毛のテスティング、羊毛輸出、トレーダー/バイヤー、グローバルセールスマネジメントなどの、羊毛を生産する側と需要を生み出すパイプラインのあらゆる局面を経験する。
Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2014 S/S会期中に、「ウールマーク」をアイコンに、宣伝や販売促進、技術開発など幅広い活動を通して、ウールの素材としての価値を訴求するオーストラリアン・ウール・イノベーション(以下、AWI)のCEO、スチュアート・マカラック氏が来日した。新進デザイナーの発掘を目的にしたコンペティション「International Woolmark Prize」や、日本ではユナイテッドアローズが提携先に決まったメリノ・ウールの価値を訴求する世界的キャンペーン「Merino Wool. No Finer Feeling」をはじめとする同社の活動について、スチュアート氏に話を伺った。
まず、AWIの成り立ちからお話いただけますか。
AWI(オーストラリアン・ウール・イノベーション)とは、ウールの良さを世界中に広めることを目的として、1937年にオーストラリアなど羊毛生産国の出資で、IWS国際羊毛事務局としてロンドンで設立されました。第二次世界大戦後、合成繊維の急速な普及により、ウールが凋落状態に陥った際に、ウールの良さを改めて広めるために1964年、皆さんお馴染の「ウールマーク」が誕生しました。その後、IWS国際羊毛事務局からザ・ウールマーク・カンパニーという名称になり、AWIがザ・ウールマーク・カンパニーの資産を買い取って経営統合しています。本部はオーストラリアのシドニーにあります。
AWIの活動内容について教えて下さい。
ザ・ウールマーク・カンパニーには、新進気鋭のデザイナーを発掘する「International Woolmark Prize(インターナショナル・ウールマーク・プライズ)」(以下「IWP」)や、メリノ・ウールの品質を訴求していくキャンペーン「Merino Wool. No Finer Feeling™」(以下「No Finer Feeling」)、中国で取り組んでいる「Woolmark Gold」など、それぞれの市場に応じた複数のマーケティングプラットフォームがあります。これらの特徴は、現地のパートナーに各プラットフォームのストラテジーを伝えた上で、一緒にプロジェクトをつくり上げていくことです。さまざまな国、文化におけるサプライチェーンがある中で、デザイナーから小売業者まで、あらゆるパートナーにマーケティングのチャンスが与えられる選択肢を私たちは用意しています。私たちが大切にしていることは、ウールマークブランドや素材の認知度を上げていくためのパートナーを見つけることで、今回「No Finer Feeling」における日本での提携先がユナイテッドアローズに決まったことは非常に光栄に感じています。
「No Finer Feeling」はどのようなキャンペーンになるのですか。
このキャンペーンでは、アレキサンダー・ワンやナルシソ・ロドリゲスらをファッション・アンバサダーとして迎え、約50のブランドとのコラボレーションを行います。そして、さまざまなショップやメディアを通して、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、オーストラリア、アメリカ、そして日本などで展開していく予定です。例えば、サヴィル・ロウのデザイナーとコラボレートし、そのファッションに身を包んだミュージシャンのフォトストーリーを「GQ」誌面で展開するなど、さまざまなアプローチを用意しています。ファッション感度の高い消費者をターゲットにしたキャンペーンですが、羊毛業者、繊維業者、流通業者などサプライチェーンのすべてにおいて有効なプラットフォームだと考えています。
「IWP 2012/13」のファイナリストに選出されたDRESSEDUNDRESSEDデザイナー、北澤 武志さんと佐藤 絵美子さん。
日本のファッションマーケットについてはどのような印象をお持ちですか。
多くのデザイナーやリテイラーがいて、ファッション・ウィークも開催されている東京は、ロンドン、パリ、ミラノ、ニューヨークと並ぶ非常に競争力のあるマーケットであり、ファッションにおけるハブ的な存在になっています。そのため、我々としては「IWP」や「No Finer Feeling」などさまざまなマーケティングプラットフォームが展開できる国として見ています。日本はこの20年間、阪神大震災や経済不振、そして東日本大震災など、さまざまな障害がありましたが、ここに来てまたファッションが盛り上がりを見せていると感じています。その中で、今後は「IWP」の勝者が日本からも出てきてほしいと思いますし、前回「ドレスドアンドレスド」がファイナリストに選出されたことも彼らの認知度を高める良いきっかけになったのではないかと考えています。
「IWP 2012/13」で発表したDRESSEDUNDRESSEDのルック
「IWP」の勝者になるためにはどんなことが必要だと思われますか。
「IWP」は、ハーヴェイ・ニコルズやジョイスなどリテイラーの目線が評価軸として入っていることが大きな特徴です。私も今年の2月にロンドンで行われた審査に参加しましたが、リテイル・パートナーたちは、作品としてではなく、明日にでもすぐに仕入先としてイメージできるか否かという目線でジャッジします。東京などのファッション・ウィークで行われるキャットウォークのショーでは、作品としての美しさというものが重視されると思いますが、「IWP」では、それがお客様の手元に渡せるものか、売れるものなのかという判断も入ってきます。そのため、商業的な要素がより求められるコンペティションだと言えると思います。
「IWP」の歴史や、開催の目的などについても教えて下さい。
「IWP」がスタートしたのは1954年で、その時の勝者はカール・ラガーフェルドとイヴ・サンローランでした。その後も60年~70年代にかけて何度か開催され、それからしばらく間が空いたのですが、2000年代に入ってから復活し、2012年から本格的に再始動しました。昨年はPR面も含め大成功を収めたのですが、少なくともこの先5年間は継続的に開催をしていく予定です。このコンペティションでは、新進気鋭のデザイナーを発掘することと共に、ウールの繊維としての認知度を上げることを目的にしています。
ザ・ウールマーク・カンパニーとして、現在注目しているマーケットや国はありますか。
やはり中国の伸び率が凄いですね。これまで中国というのは生産国のイメージが強かったのですが、ウールを上質な繊維として考えた時に、富裕層が増えている中国は消費国としての色合いが濃くなっています。中国は成長の速度は非常に早く、先進国に追い付いてきている状況で、注目すべきマーケットだと考えています。また、現在中国の富裕層は海外のブランドを買っていますが、今後は国内ブランドが急成長し、それらを消費するというような状況も訪れるかもしれません。
「IWP 2012/13」の審査員。左からドナテッラ・ヴェルサーチェ、ダイアン・フォン・ファステンバーグ、フランカ・ソッツァーニ(ヴォーグ・イタリア編集長)、ヴィクトリア・ベッカムの他、ティム・ブランクス(スタイル.コム編集長)も審査を行った。
最後に、今後のザ・ウールマーク・カンパニーの展望について教えて下さい。
私自身、牧場の見習いとして働いていた経験もあるのですが、ウールの生産者が気にすることというのは、雨がどれだけ降るかということと羊毛価格です。雨に関してはどうすることもできないので、もう一方の羊毛価格を上げて産業を活性化させていくということが私たちの仕事になります。そのためのマーケティングプラットフォームとして、「IWP」や「No Finer Feeling」などを展開しているのですが、現状としては良い価格帯が維持できていると考えています。また、羊毛産業には、生地や繊維など関わるオフファームのイノベーションと、羊の交配などオンファームのイノベーションというものがあるのですが、私たちはそのどちらにおいてもイノベーティブでありたいと考えています。さらに、マーケティングからファイナンス、人事や総務までビジネスにおけるすべての面で革新的な存在であることを目指していきたいですね。