Interview & Report

Yuniya Kawamura

Yuniya Kawamura 川村 由仁夜

NY州立ファッション工科大学 准教授

社会学博士(PhD)。1963年チェコスロバキア生まれ。上智大学を卒業後、文化服装学院、キングストンポリテクニック、ニューヨーク州立ファッション工科大学(FIT / SUNY)でファッション・デザインとパターンを学ぶ。日経アメリカ社米州編集局を経て、2001年コロンビア大学大学院社会学部で博士号(PhD)取得。現在は、FITで教鞭を執り、ファッション社会学を教える。2004年にテニュア(定年なし終身在職権)取得。個人事務所NYファッション・リサーチ・カンパニー代表、英字無料情報誌『NYストリート・ファッション・マガジン』編集長兼発行人、手芸クラフトのアトリエ「カワイイ・スタジオ・インNY」主宰。主な出版物に、『パリの仕組み』(日本経済新聞社 / 2004年)、『The Japanese Revolution in Paris Fashion』(Berg / 2004)、『Fashion-ology』(Berg / 2005)、『Doing Research in Fashion and Dress』(Berg / 2011)、『Fashioning Japanese Subcultures』(Berg / 2012)がある。

NYでファッション社会学博士として研究活動を行う川村由仁夜氏。ファッションを表層的なトレンドや現象としてではなく、社会にどう受け入れられているか、どう影響し合っているかといった観点からフィールドワークと取材を重ね、客観的に紐解く。教鞭を執るFITの研究室を訪ねてお話をうかがった。

Yuniya Kawamura

『スニーカー文化論』
(2012年12月、日本経済新聞出版社)

最近手掛けられたお仕事についてお聞かせください。

2012年12月に『スニーカー文化論』(日本経済新聞出版社)を出版しました。NYのストリートの代表格といえるスニーカーについて、今のようにファッション分野のサブカルチャーとして世界中に根付いていくまでの過程をひも解いたものです。
私はNY州立ファッション工科大学(略称FIT)で「服装と社会」「文化と民族衣装」という授業を持っているのですが、講義の中でサブカルチャーとファッションの関係について話をした時に、学生のひとりが「NYのサブカルチャーといえばスニーカーですね。『ジャスト・フォー・キックス』というスニーカーのドキュメンタリーDVDがお勧めです」と教えてくれました。それがきっかけとなって、スニーカーはいつから単なる “運動靴” からファッション・アイテムになったのか、どのように世界的なカルチャーとして受け入れられたのか、といった観点からリサーチをしています。

Yuniya Kawamura

原宿、渋谷でのフィールドワークと識者取材から日本のサブカルチャーについてまとめた『Fashioning Japanese Subcultures』(2012年8月、Berg Pub Ltd)。

川村さんの代表作のひとつに、パリを頂点としてシステム化されたファッション産業を解明する『パリの仕組み』(日本経済新聞社 / 2004年)がありますが、パリのいわゆるモードからサブカルチャーへテーマを移されたきっかけは何だったのですか?

NYでスニーカーのリサーチを始める前から、日本の若者のストリートファッションやサブカルチャーに興味があって、2004年頃から原宿や渋谷でフィールドワークを行なっていました。原宿のロリータ、渋谷のギャルやギャル男というように、日本は街によってサブカルチャーが分かれているのが面白いですね。その延長でNYのサブカルチャーに注目したわけですが、常に前提として考えているのは、社会とファッションがどのように互いに影響し合っているか、ということです。
FITにもロリータがいますが、彼女達は漫画好きで、「サーチしていたらロリータに行き着いた」と語っていました。今やそういった草の根運動的なファッションムーブメントは各地で起こっていて、ソーシャルメディアを使って情報交換したりコミュニティを作っています。
これまでは消費者対プロと完全に分かれていたのが、消費者はインターネットであらゆることをサーチできるし、自分たちで物を作ったりもする。スニーカーマニアの中には自分でスニーカーのキャンバスにプロレベルの絵を描いたりペイントしたりする人もいます。もはや単なる消費者ではなく、プロにかなり近い消費者がいて、その境界線は曖昧です。

情報環境とコミュニケーション手段が変わったことが大きく影響していますね。NYのファッション好きな若者はどのようにファションの情報収集や発信をしていますか。

ブロガーの発信力は健在です。ブランドがブロガーをショーのフロントローに招待するのもよく見かけます。とはいえ、若者の情報収集はブログページからではなくて、ソーシャルメディアが主体です。特にツイッターですね。最近ではインスタグラムが多くて、ツイッター、タンブラー、フェイスブックと連動して使っています。
FITの学生たちの会話で象徴的だったのは、「ブログは書くのも読むのも長すぎる。ブログは小説を読むのと同じ気分。140字の単語にして欲しい 」というコメント。やや行き過ぎている感はありますが、より簡潔なテキストでのやりとりになってきていますね。

日本よりもソーシャルメディアが浸透している印象があります。ブランドや企業のコミュニケーションも変わってきていますか。

ファッション業界でもソーシャルメディアに重きを置いていて、活用する動きが活発になっています。一時的な動きというよりは、そのために人を雇ってリソースを確保するというレベルになっています。ソーシャルメディアに特化してマーケティングしているエージェントをパートナーにすることも多いです。
FITの授業でもソーシャルメディアを使ったりすることが一般的になっています。事前にYouTubeで関連の動画を見てからディスカッションをしたり、事後に講義ノートをアップして共有したりとか。

ところで、川村さんが注目されているブランドはありますか。

スニーカーのフィールドワークが続いているのでストリート系のデザイナーやブランドをウォッチしていますが、ジェフ・ステイプル(Jeff Staple)ロニー・フィーグ(Ronnie Fieg)に注目しています。ナイキ、ニューバランス、コンバースなど大手ブランドとコラボレーションしており、カリスマ的な人気を集めています。彼らもソーシャルメディアを上手く活用して情報発信していて、コラボ商品はいずれも大好評です。それぞれツイッターのフォロワー(@jeffstaple, @RonnieFieg)は2万人以上います。
ストリートウェアのブランドでは、アンディフィーテッド(UNDFTD)は人気があります。主なアイテムはTシャツですが、その上に表現されているインフォグラフィックスが面白い。これはストリートブランド全てにおいて言えることです。それから、メジャー(Major)ゴリアス(Goliath)ボデガ(Bodega)など、「青少年の喫煙撲滅キャンペーン」目的のTシャツデザインなど、社会活動に貢献しているブランドにも注目しています。

日本のブランドはNYの若者にどう映っているのでしょうか。

日本のメンズブランドはかなり人気があります。素材や縫製のディテールがすごい、と。「知っている人は知っている」ということも魅力になっています。必ずしもファッションマニアの若者ではない層も日本のメンズファッションは好きですね。
特によく挙がるのは、ヴィズヴィムホワイトマウンテニアリングヴァンキッシュエンジニアド・ガーメンツといったブランド。
ファッション好きの層は、ツイッターの#(ハッシュタグ)を使ってブランド情報を交換し合うコミュニティを形成しています。たとえば、「#menswear」(ハッシュタグ メンズウェア)はメンズウェアにこだわりがあるファッションマニアに使われています。

日本のデザイナーの課題は何でしょうか。

日本のデザイナーは素晴らしいと思いますが、外に出るメカニズムが弱い。パリのファション産業はなぜ世界の中心なのか。それは、自然発生的に成長したわけではなく、社会の中で活動する人間が仕組みを作り、その仕組があるからこそ産業が成立しているわけです。
アート、食文化、出版文化、というように、それぞれにきちんとした仕組みがあるわけで、それぞれに門番(=Gatekeeper)と呼ぶ人たちが才能を見極めます。それはクリエイターではありません。NYでいえば、ジャーナリストとプレス。ヴォーグのアナ・ウィンターが象徴的ですね。その人たちが誰なのかを知らないと、システムの中に入れないし、なかなかブランドを育てていくことはできません。

最後に、ファッション業界を志す人にメッセージをお願いします。

ありきたりではありますが、英語を勉強してください。世界の共通語である英語を読み書き話せれば、ツイッターなどを使って、世界中のフォロワーと直接コミュニケーションができるようになります。ブランドのPRもできるし、新商品の紹介もできます。ファンの質問にも直に返事ができます。徐々に「門番」が必要でなくなってきます。あとは、広く好奇心を持って、いろいろな文化や分野に目を向けて欲しいです。ファッション業界の人には独特なファッションの見方というものが存在します。”ファッション馬鹿” になって視野が狭くならないように、ファッション以外の世界にたくさん触れて欲しいですね。そうすれば、ファッションをより客観的に見ることができるようになると思います。

INTERVIEW by JFWO web staff

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