新井 貴子 Kiko Arai モデル
AmazonFWT 2019 S/S シーズンモデル
1990年大阪府出身。元プロ野球選手の新井宏昌を父に持つ三姉妹の末っ子で、バレーボールやアルティメットといった競技に熱中し、体育大学に進学。2013年にシンガポールに渡り、モデルをスタート。その後パリに渡り、2014年春夏オートクチュールでランウェイデビュー。18年春夏にニューヨークファッション・ウィークの「カルバン・クライン」のショーに抜擢され、注目を集める。現在パリ、ミラノ、NYで活躍している。
[ Instagram ] https://www.instagram.com/kikoarai/
Amazon Fashion Week TOKYO 2019 S/Sのキービジュアルでモデルを務め、「欲望を、恥じるな。」というテーマのもと、野性の衝動に突き動かされる女性像を見事に表現してみせた新井貴子氏。現在はニューヨークを拠点に、パリをはじめ世界各地のファッション・ウィークのランウェイで活躍している彼女が、東京のファッション・ウィークにまつわるエピソードからモデルの仕事に対する姿勢まで、さまざまなことを語ってくれた。
Amazon Fashion Week TOKYO 2019 S/Sではキービジュアルのモデルを務められましたが、今回このような形で東京のファッション・ウィークに参加してみて、どのような感想をお持ちですか?
東京のファッション・ウィークでは前回、初めてモデルとしてランウェイを歩きました。その時は8本のショーに出演させていただきましたが、今回はそれとはまた違う経験ができました。自分が(ショーに)出る側の時は、長い期間をかけてデザイナーやクリエイターの方たちとショーを完成させていく感覚があり、ランウェイを歩き終え、ブランドのスタッフの皆さんが迎え入れてくれる瞬間が最も感動します。今シーズンはいくつかのショーを客席で見せていただきましたが、見る側の視点を体験できたことは非常に新鮮でした。
世界各地のファッション・ウィークに参加されている新井さんですが、東京のファッション・ウィークについてはどのような印象をお持ちですか?
東京のランウェイは、パリやニューヨークなどと比べてモデルと観客の距離が近いので、非常に臨場感がありますよね。洋服が間近で見られることはもちろん、モデルさんのメイクや肌の質感までわかるのは面白いと思いました。
今シーズンのキービジュアルについてもお伺いしたいのですが、撮影のコンセプトなどを聞いた時にはどんなことを考えましたか?
最初にコンセプトを聞いた際に「欲望」がテーマで「野性的な女になりきってほしい」というリクエストをいただいたので、自分をニュートラルにして、余計なことは考えずにありのままの感情を出し切ればいいんだと理解しました。私はもともと負けず嫌いの性格で、海外にいる時は基本的にひとりですべてしなくてはいけないので、常にタフでいようと心がけています。そんな自分には野性的な部分というのがあって、そこが今回のテーマとうまくマッチしたのではないかと思っています。
当日の撮影は順調に進みましたか?
はい。現場では、猿やゴリラをイメージしてほしいと言われましたが、そんな指示が出た撮影は初めてでした。丸一日かけてスチールとムービーを撮影して、それ自体はとても楽しかったのですが、人生であんなにジャングルジムを登り降りしたことはなかったので、その後ひどい筋肉痛に襲われました(笑)。
完成したビジュアルを見た時はいかがでしたか?
撮影が終わった時点で、映像ディレクターの中村剛さんが簡単に編集してくれたものを早速見せてくださったのですが、それが本当に素晴らしくて、自分の携帯電話に保存させてもらいました。今回は、全体の世界観から衣装、メイク、表現の仕方まですべてが自分好みだったので、暇さえあればそのムービーを見てニヤニヤしながら、早く世に出てこないかなと待っていました(笑)。実際の仕上がりもあらゆる面がグレードアップされていてとても素晴らしかったです。
モデルのお仕事についてもお聞きしたいのですが、新井さんはどんなきっかけでモデルになられたのですか?
私は体育大学出身で、幼い頃からスポーツばかりしていました。大学3年生に進学する頃に母を亡くし、それを機に進路のことを考えるようになりました。私には姉が2人いますが、上の姉がもともとモデルをしていて、幸い私も身長が高かったこともあり、姉の薦めでテスト撮影をしたことがありました。出来上がった写真はモノクロのとてもクールな世界観で表現されていて、心に響くものがありました。そこから本格的にモデルを始めようと決心し、どうせやるならパリコレを目指そうと考えるようになりました。
モデルの仕事を始めてみて、どんなところがご自身に合っていると感じましたか?
幼い頃はあまり話さない子供で、人前に出たり、写真を撮られることも苦手でした。でも、メイクをしてカメラを向けられた時に、いつもとは違う別の自分になり切れている感覚があったんです。何も恥じることなく、心にあったものを表現できることが心地良くて、実際に上がった写真を見た時も、「こんな自分がいるんだ」という発見がありました。実は以前、メイクアップアーティストになりたいと思っていた時期がありましたが、その時に父から「あなたはメイクをする側ではなく、される側になりなさい」と言われたんです。当時は男の子みたいなショートヘアをしていて、ファッションにもまったく興味がなかったのに、なぜそんなことを言うのかなと思っていましたが、今、実際にそうなっていて、その時の答えがわかった気がします。
表参道ヒルズで行われたAmazon Fashion Week TOKYOとDESIGNART TOKYOのコラボレーションパーティーにて。左から野村訓市さん、AmazonFWT 2019 S/Sのキービジュアルモデルの新井貴子さん、AmazonFWTオフィシャルアンバサダーのハリー杉山さん
これまでのお仕事でターニングポイントになったこと、記憶に残っていることなどがあれば教えてください。
ターニングポイントというのはいくつかあったはずなのですが、すぐには思い出せないんです(笑)。というのも、このブランドのショーで歩きたい、この雑誌の表紙に出たいという具体的な目標を設定することは常に意識していますが、それが達成できるとすぐ次の目標に向かって突っ走ってしまうので、ターニングポイントというものにあまり気付かないのかもしれません。
そういう意味では、モデルのお仕事を始められた当初から目標にしていたパリのファッション・ウィークに初めて出られたことは、新井さんにとって大きな出来事だったのではないですか?
そうですね。パリで最初に出たのはオートクチュールのコレクションで、ピンヒールを履いてKidsモデルと一緒に歩くという演出でした。周りのお客さんもよく見えない中、先にある光だけを見て、その子と2人でガタガタしていたことを今でもよく覚えています(笑)。
新井さんにとって、モデルのお仕事の醍醐味は何ですか?
私は、ファッション・ウィークの度に一回は大泣きするタイミングがあります。そのほとんどは悔し泣きですが、楽しくて幸せなことばかりではないからこそ自分自身が成長できるし、悔しいことがあればあるほど、良いことがあった時のうれしさが何倍にも大きく感じられる、その瞬間が大好きなんです。
今回のキービジュアルのムービーの他にも、斎藤工さんが監督したフェラガモのムービーなどにも出演されていますが、演技のお仕事にもご興味はありますか?
以前までは絶対にできないと思っていましたが、最近は自分の可能性を拡げられることであれば何でもやってみたいと思うようになりました。もともと親の影響もあって子供の頃から映画が好きで、今もプライベートの時間ではよく見ているので、もし何か良い機会があったら挑戦してみたいですね。今の仕事では色々な人との出会いがあるので、これからも周りの方々からたくさんの刺激をいただき、これだと感じたものには積極的にトライしていきたいと思っています。
Interview by Yuki Harada