Interview & Report

堀畑 裕之/関口 真希子 Hiroyuki Horihata / Makiko Sekiguchi

堀畑 裕之/関口 真希子 Hiroyuki Horihata / Makiko Sekiguchi matohu

MBFWT 2015-16 A/W メルセデス・ベンツ プレゼンツデザイナー

堀畑裕之は同志社大学大学院を修了後、関口真希子は杏林大学を卒業後、ともに文化服装学院アパレルデザイン科メンズデザインコースで学ぶ。1998年卒業後、それぞれ企業でパタンナーとして5年間勤める。 2003年退職後、ともに渡英、ロンドンのデザイナー、Bora Aksuの2004-05 A/Wコレクションの仕事に携わる。2005年matohuを立ち上げ、2006年よりJFW(現Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO)に参加。2009年「毎日ファッション大賞新人賞・資生堂奨励賞」を受賞。

先日開催されたMercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2015-16 A/Wにおいて、メルセデス・ベンツ プレゼンツデザイナーとしてコレクションを発表したmatohu(まとふ)。長い歴史の中で培われてきた日本の美意識や文化に目を向け、現代的な視点から新しい価値観を提案し続けてきた彼らに、先日開催されたショーの舞台裏や、ブランド設立10年を迎えた現在の心境などを伺った。

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Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2015-16 A/Wのオープニングレセプションにて

今回は、メルセデス・ベンツ プレゼンツデザイナーとしてコレクションを発表されましたが、従来のショーと比べて、何か違いはありましたか。

堀畑:まず、自分たちが評価されていることが素直にうれしかったです。同時に、ファッション・ウィークを代表するコレクションとして、良いショーをお見せしないといけないと気持ちを新たにしました。会場の選択肢としては、渋谷ヒカリエと六本木のメルセデス・ベンツ コネクションの2つがありましたが、「ほのか」というコレクションのテーマが決まっていたこともあり、夜というシチュエーションを表現できそうな後者を選びました。

関口:毎回ショーの構成は、テキスタイルを決めるタイミングあたりから考えていきます。今回も、ショーの2、3ヶ月前から、演出を担当していただいている辻井宏昌(atom inc.)さんにテーマを伝え、見せ方についても話し合っていたのですが、テーマ的にランウェイになるべく近い場所でお客さまにショーを見ていただきたいという考えがあり、それもメルセデス・ベンツ コネクションを選んだひとつの理由になっています。

堀畑:会場が台形に近かったこともあり、直線的なランウェイをモデルが往復するような見せ方ではなく、石畳の古い街並みにほの明かりが灯っていて、そこを一方向にゆっくり人が歩いて行くような情景をイメージにしました。六本木というある意味不夜城とも言えるギラギラした街の中で、別世界に入っていくかのようなコントラストが表現できたことも良かったのではないかと思っています。

関口:今回はキャパシティの都合で、プレス/バイヤー向け、顧客/関係者向けと、ショーを2回に分けて行いました。2回目のショーについては、モデルのテンションが下がってしまうのではないかと心配していましたが、逆に1回目を踏まえ、自分の中で気になったところを修正しようという意識を持ってくれたり、顧客の方たちの反応が直接聞こえてくるなかで、モデルもリラックスした雰囲気でショーを楽しんでくれたようでした。

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2015-16 A/Wのシーズンテーマ「ほのか」のイメージビジュアル

「ほのか」というコレクションのテーマが生まれるまでの経緯についても教えて下さい。

堀畑:以前、立原位貫さんという京都の版画家さんの工房にお伺いした際に、銀屏風を見せていただいたことが大きなきっかけになりました。暗がりの中、ほのかなろうそくの炎で見たのですが、それが博物館などで見るような銀屏風のイメージとはまったく違い、ろうそくの明かりによって金色に見えたことに非常に驚きました。しかも単に金色に見えるだけではなく、屏風の折り返しによって、照り返りの光が月のように見えたんです。

関口:もともと「光と闇」という漠然としたテーマは自分たちの中にありましたが、今回のようにポンと背中を押してくれるような出来事がいつも起こるんです。以前「慶長の美」というテーマのもとでコレクションを発表していた時期は、最初に10シーズン分のテーマをすべて公開していましたが、今、続けている「日本の眼」については、ストックしているさまざまなキーワードやテーマの中から、気分やタイミングに合うものを毎シーズンピックアップしています。

堀畑:「日本の眼」シリーズは、今回で11回目ですが、続ければ続けるほど、古くからある日本の価値観の面白さを実感します。本当に尽きることがないほどたくさんの題材がありますが、大事なことは自分たちがそれに感動した体験だと考えています。日本の美意識というのは昔からあるものですが、感動というのは今、自分の中で起きていることで、やはりそれが一番強い動機になるんです。

関口:本を読んで知っただけでは、自分たちの感動を維持し続けることは難しい。私たちは、日常的にリサーチをするということはほとんどありません。テーマを掘り下げていく段階で、関連する文献を読んだり、リサーチのためにどこかに足を運んだりすることはありますが、それ以上に日常の中から何かに気づくということが大切だと考えています。それらをお客さまに伝えていくことで、日常を少しずつ豊かにできればという思いがあります。

堀畑:今回は、これまでに日本人が、どのようにほのかな明かりに身を寄せ、対象と緊密な関係を持とうとしてきたのかということを掘り下げていきましたが、実はこれは日本特有のテーマではないと思っています。昼と夜は世界中どこにでも存在するものですし、光と闇の中で生まれる詩的な瞬間というのは普遍的なテーマです。それをいかに服の上で表現して、生活の中でお客さまに楽しんでいただくかということを考えていきました。

「ほのか」というテーマを実際の洋服に落としこんでいく上では、どんなことにこだわりましたか。

関口:最もこだわったのは素材で、室内を暗くした状態でほの明かりを当てながら、色や質感を検証していきました。具体的には、透明のナイロン糸やラメ糸、箔押しなど、それ自体が光る素材や技法を使う一方で、フラノウールなど光を吸収する素材も取り入れることで、光と闇のコントラストを表現するように意識しました。

堀畑:ほの明かりという特定の条件によって、洋服がこれだけ美しく見えるということはある種の驚きでしたし、ショーのリハーサルの段階で全体を見た時に、ようやく自分たちがやろうとしていることがわかったところがありました。また、ショーを終えて、改めてDVDなどで映像を見直してみると、肉眼で見た時とまったく雰囲気が違って興味深かったですね。ほのかな光によって感じられる詩的な美しさの瞬間にこそ、今回の洋服の完成があるのだと実感しました。

関口:例えば、レストランや自宅などでろうそくの明かりの下で食事をしていて、ふとした瞬間に生地が違う色に見えたり、意外な変化が生じる瞬間というものを楽しんでもらえるような洋服になるといいなと思っています。また、シルエットに関しても、ほの明かりの中では微妙な形は暗闇に溶けてしまうので、全体として大きくゆったりとしたものにしました。

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matohu 2015-16 A/W コレクション

matohuはこれまで、東京で長くコレクションを発表されてきましたが、ショーについてはどのような意識で臨んでいますか。

堀畑:matohuでは、毎シーズン伝えるべきテーマをテキストにして、ショーの招待状などに書いています。事前にそうしたものをお伝えしているので、ショー本番では、見て、感じてもらうことが最も大事なことだと考えています。100万の言葉も一瞬の美しさには勝てないと思っていますし、テーマを伝える言葉と、それを表現したショーが乖離しないように心がけています。ただ、自分たちがショーでしているのは、こういう美意識を皆で一緒に楽しみましょうという提案であって、それはあくまでも伝えたいことの半分程度に過ぎません。やはりショーの後は、お店などで直接洋服に触れて味わっていただきたいですし、それが約10年間ショーを続ける中で確立されてきた自分たちのスタイルなのかなと。

関口:matohuのショーに関わってくださっているスタッフは皆、新しいテーマに対して、新しい表現をしていくことにとても意欲的です。だから、打ち合わせの段階では、ショー以外の伝え方も視野に入れながら、このメンバーでどんな新しい表現ができるのかということを常に考えています。

堀畑:今シーズンで言えば、音楽において新しい試みにチャレンジしました。これまでのmatohuの音楽のイメージをあえて壊すようなリズムの強いものにしたんです。 ショーの音楽はいつも音楽家の畑中正人さんにお願いしていますが、当初は静かで情緒的な印象のものをイメージしていました。ただ、「ほのか」というテーマのもと、薄明かりの中でショーを見せる時に、音楽もそこに合わせすぎてしまうと面白くないのではないかという提案がスタイリストの長瀬哲郎さんからあり、あえて相反するようものをぶつけることになり、いつも以上に畑中さんとやりとりを重ねていきました。

今年でブランド10周年を迎えましたが、今後の展望について教えて下さい。

関口:10周年記念のイベントとして、根津美術館にある茶室をお借りして、「長着茶会」*というものを6月5、6日に行います。長着をお持ちの方々に向けて、実際に着てもらえる機会を提供したいという思いからスタートした企画ですが、もちろん長着をお持ちでない方もご参加いただけます。

堀畑:僕たちも長着を着てお点前(おてまえ)をしますし、過去のコレクションのアーカイブも展示する予定です。また、ブランドの今後としては、日本の美の宝庫とも言える京都に、しっかりとしたコンセプトを発信できる場所をつくりたいと考えています。また、海外への発信については、パリのファッション・ウィークに参加するなどとは違うアプローチでどんなことができるかということを話し合っているところです。イメージとしては、matohuというブランドを世界展開していくのではなく、もっとプロジェクト的な展開ができないかと。地域の歴史に根ざしたものづくりとその価値を再提示するというmatohuのコンセプトに対して、世界中のさまざまな国、地域の人たちが参加していけるようなものができたらなと考えています。

関口:単にインターネットでショーの映像を見たり、ECサイトで洋服を買ったりするだけではなく、その土地の風土から発信されるものが育っていくことで、それらを世界中で分ち合い、日常生活の質が豊かになっていければ素晴らしいですね。

 

*「長着茶会」は事前予約が必要です。お問い合わせはmatohu表参道本店まで:tel 03-6805-1597

INTERVIEW by YUKI HARADA

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