Interview & Report

Yuichi Yoshii

Yuichi Yoshii 吉井雄一

「THE CONTEMPORARY FIX」 Owner

1998年よりレストラン「PARIYA(パリヤ)」を営む傍ら、会員制セレクトショップ「CELUX(セリュックス)」(「ルイ・ヴィトン」表参道店内)のバイヤー、三陽商会が運営するセレクトショップ「LOVELESS(ラブレス)」ヘッドコーチを経て、「GOYARD(ゴヤール)」ジャパンブランディングディレクターに就任。2008年6月、表参道に自身が経営するセレクトショップ「THE CONTEMPORARY FIX(ザ・コンテンポラリー・フィックス)」をオープン。mastermind JAPAN(マスターマインド・ジャパン)、PHENOMENON(フェノメノン)などを扱うほか、FACETASM(ファセッタズム)やDISCOVERED(ディスカバード)など、TOKYOブランドにフィーチャーしたリミテッドショップを展開している。また、1 階には先日、15 周年を記念して初のレシピ本が出版されたカフェ& デリの「パリヤ」が入り、衣食融合のショップとなっている。

[ THE CONTEMPORARY FIX ] www.thecontemporaryfix.com

バイヤーという肩書きを持ちながら、飲食店の経営やTOKYOを代表するショップのプロデュース、ディレクションを手掛けてきた吉井雄一さん。そのどれもが、多くのファッション好きを魅了している。学生時代には食費を削ってまでも好きなブランドの服を買っていたと言うほど、服好きだった吉井さんだが、“夢”“情熱”“愛情”という言葉でファッションを語る様子は、本当にファッションを愛し、バイヤーとして、またショップオーナーとして、その楽しさを伝えたいとする思いを感じさせる。現在のTOKYOファッションに対する思いや注目しているブランドのこと、またTHE CONTEMPORARY FIX(ザ・コンテンポラリー・フィックス)の今後の展望について、お話をうかがった。

THE CONTEMPORARY FIXのエントランス付近。左手の螺旋階段を上がると、2階のセレクトショップに辿り着く

まず、今のTOKYOファッションをどう感じられますか?

吉井: 2000年代後半、色々なものが出てきて、一時的に盛り上がりを見せたのですが、ここ最近は停滞ムード。正直つまらないと思っています。経済状況もあるのかもしれませんが、今はその波がサーっと引いてしまったように思います。

 

2000年代後半と言うと、ファストファッションブームは無視できませんね。

吉井: それは大きいですね。ファストファッションにはそれなりにクオリティの高いものも多く、TOKYOブランドの中にはそれと大差ないブランドもあったと思います。クオリティがあまり変わらないのなら、ファストファッションの方がアイデア的にもトレンド的にも早くてかわいい、さらに安いと。特に女の子は、限られたバジェットの中でどれだけかわいいものがたくさん買えるかが重要だったりするので、ファストファッションに負けてしまったTOKYOブランドもあったと思います。
特に、女の子に人気が高いファストファッションブランドは仕掛けが上手くて、夢を感じさせます。トレンドってやっぱり夢じゃないですか。それを上手く仕掛けているファストファッションの方が、今は一枚上手。ファストファッションのショップに入ると、お店全体が活気づいているから買い物をする楽しさがあって、“何か買わなきゃ”という気分になる。そういうアッパーな気持ちにさせるのは、並んでいる商品の質とか値段とか以前に、お店自体にあるんです。そしてエネルギーがありますよね。TOKYOブランドが停滞ムードになっている理由には、そことの差が大きいと思います。

螺旋階段を上がってすぐ、お出迎えしてくれるのは、SASQUATCHfabrix.(サスクワァッチファブリックス)が手掛けたディスプレイ。

一方で、今はアジア人観光客の買い物エネルギーが見逃せませんが、吉井さんもバイヤーとして、またセレクトショップのオーナーとして、彼らの勢いを感じられることがあるのではないでしょうか?

吉井: ザ・コンテンポラリー・フィックス(以下、TCF)にもたくさんのアジア人のお客様がいらっしゃいますが、ものすごくエネルギーを感じますね。TCFにはコアなお客様が多く、皆さんオシャレな人ばかりですが、中でも“スゴイ!”と思うのは大体アジアのお客様。僕はお店に立つことはありませんが、閉店後、売上をチェックしていて“コレ”という商品を買った人をスタッフに聞いてみると、大体アジアの方なんです。彼らは本当に元気いっぱいで、男の子も女の子も装飾することを楽しんでいて、買い物の楽しさもわかっているし、何より目が肥えています。そういう意味では、アジアの人たちはもはや消費者として無視できない、なくてはならない存在ではないでしょうか。消費者がそこまでパワーがあることを考えると、アジアのクリエイターもイコールだと思うので、そのうちどんどんアジアから面白いブランドが出てくるかもしれません。

TOKYOブランドがアジアで勝負するとしたら、かなり難しいということでしょうか?

吉井:クリエイション面では、まだTOKYOブランドの方が一歩先にいっているとは思いますが、その差が縮まっているのは明らかでしょうね。ただ、アジアへ出て行くチャンスはいくらでもあると思います。ヨーロッパのブランドより、肌や髪の色、体形などビジュアル的にも近い日本のブランドの方がアジア人にとってはリアリティがある。積極的に狙わなければいけないマーケットだと思います。

今年1月22日よりPHENOMENONの直営店として商品を展開している。

吉井さんはバイヤーとして、どのような視点でブランドを選ばれているのですか?

吉井:バイヤーは誰よりもオシャレで編集能力を持っていなければいけないと思っています。もしかしたら、スタイリストさんより上回っていなければいけない。スタイリングができなくて、なぜお店の商品のセレクトができるのか?と思うので。
PHENOMENON(フェノメノン)やFACETASM(ファセッタズム)など、今応援しているブランドがいくつかありますが、これまでも多くのブランドを応援してきて、デザイナーの人間性というのが重要だと思っています。クリエイション力はもちろん必要ですが、その上で負けず嫌いだったり、根性があったり、デザイナーとして持続していこうとする強いパッションがあること。前よりもいま、いまよりも未来という向上心があることが大切なんです。特に若いデビューしたてのデザイナーは、最初の10年はそうであり続けなくてはいけないと思います。ファッションの世界は年2回しか発表しないので、最初の10年なんてあっという間に過ぎていく。10年間情熱を持って服作りを続けることで、自然とブランディングされ、どんどん伸びていくんです。

2月25日から約3週間にわたってDISCOVEREDのリミテッドショップを展開。限定商品やコレクションアイテムの別注品も販売。

そういう意味で、これまでで “すごい” と思ったデザイナーさんを挙げるとすると?

吉井:やはりmastermind JAPAN(マスターマインド・ジャパン)の本間正章さんやgreen(グリーン)の2人(吉原秀明・大出由紀子)。僕のバイヤー人生の中で初期から関わっているのがその2組ですが、向上心がすごいんですよ。僕は煽ってしまうタイプですが(笑)、それ以上に彼らは服作りにストイックで、もともとの才能も素晴らしくあって、それがおのずと花開いて。さらに、彼らは生きているスピード感がまったく違う。僕は、週末は一切仕事を忘れてプライベートを優先したいタイプですが(笑)、彼らはとにかくクリエイション優先。仕事に集中してしまうと自分が休んでいないことすら気付かず、1ヶ月以上休んでいないということもあるようです。マスターマインド・ジャパンはブランド15周年にあたる2013年春夏で活動休止となりますが、とても残念な反面、これまでものすごいスピードで駆け抜けてきた本間さんが一旦お休みされることは心から嬉しいですね。

 

吉井さんはラブレス時代に、フランスの老舗ブランドGOYARD(ゴヤール)を日本で初めて路面店として展開させた立役者でもあります。きっと、その陰には、大変なご苦労があったと思います。

吉井:この話は色々なところで話しているので、もう飽きている人もいるかもしれないんですが、僕はもともとゴヤールの大ファンで、ただひたすら買っていたのですが、これまでお客さんとしてしか行ったことのなかったパリのゴヤールに、アポイントを取って行ったんです。ゴヤールはインディペンデントなメゾンで、商品のデザインから出店先から何から何まで、お父さんと息子さんと息子さんの奥さんの判断で経営されています。ゴヤールを青山のラブレスで展開したいということを1時間かけて話しましたが、ほぼ断られた状態で、諦めて帰ろうと荷物を持った時に、通訳さんが「吉井さんは本当にゴヤールのファンで、ゴヤールのバッグに “ゴヤール” とネームを入れてしまうほど好きなんですよ」と言ってくれたんです。その通訳さんの言葉で、僕に目もくれなかったゴヤールファミリーのお父さんが、初めて僕の顔を見て、「ちょっと待って、そのオーダーなら知っている。ゴヤールに”ゴヤール”と入れる、変わった日本人がいると家族で話題になったんだよ。それは君だったのか」と。それで「君は本当にゴヤールが好きか」と聞かれ、「はい、好きです!」と答えたら結果OKをいただけたんです。その時は、本当に“ゴヤールが好き”という気持ち以外なかった。お金儲けうんぬんよりも、ゴヤールのファンとして、“青山のあの場所にゴヤールはなきゃいけないんだ”という気持ちが強かったんです。
実は、この話を何度も人にする理由なんですが、計算高いことも時には必要だけど、それよりも愛情や情熱の方が人の心を動かし、本当に強い思いを持っていれば夢を叶えることができるということを伝えたいからなんです。

レディスブランド、plumpynuts(プランピーナッツ)も取り扱っている。

吉井さんのゴヤールへの熱い思いを感じさせる素晴らしいエピソードですね!バイヤーとしても取り扱っているブランドへの思いというものを強くお持ちだと思います。

吉井:やはり、応援しているブランドが成功している姿を見るのは本当に嬉しいですね。マスターマインド・ジャパンやグリーンもそうでしたが、初めてのショーを見た時には涙が止まらなかった。前シーズンに比べて明らかに売上が伸びていく様子を生で見られるのがバイヤーという仕事の醍醐味ですが、それを目の当たりにするのは嬉しいですね。
どのブランドも個性があって、デザイナーも尊敬できるし、出来上がったものを見た時にはいつもドキドキします。

 

では、バイイングの際にデザイン面で惹かれるポイントはどこでしょうか?

吉井:他にはないクリエイション、ブランドとして代わりの利かない存在感。何かをなぞってやっていないことが大事です。TOKYOは編集された街で、組み合わせの美学によって面白くなるのがTOKYOらしさですが、たとえばフェノメノンのオオスミタケシさんやファセッタズムの落合宏理さんが作る服は他のどこにもなくて、それでいて「美しい」。「美しい」という言葉は個人的に大切にしていて、(服やショー、店など)着地点に美しさがないものを僕は好みません。
さらに、新鮮さや時代感も大切です。ファッションでも音楽でも映画でも、「昔のものの方が良かった」と言う人がいますが、そう言う人たちは今をちゃんと見ていないと思います。年を取って家庭が出来て、独身の頃よりもおこづかいが減って(笑)、趣味にかけるバジェットが少なくなることで最初に削られる予算がカルチャーやファッションにかけるものだという方が多いはずです。だから自然と新しい物に触れる機会が減っていく。そうなると新鮮な目を保ち続けることって厳しくなると思うんですよね。今だって素晴らしい才能もあれば、良い服、良い作品は昔と変わらずたくさんある。TOKYOファッションも全体的に停滞しているわけではなく、フェノメノンやファセッタズムのような新たな兆しや光はあって、そういうブランドはフレッシュで、他にないものをクリエイションしています。だから、たとえいくつになっても僕は「昔は良かった」なんておっさん臭い話はしたくないんですよ(笑)!

「Maison BO-M」

今、ネットで服を買うことが当たり前になっていますが、リアル店舗としてTCFのあり方や今後の発信方法を教えてください。

吉井: ネットショップとリアル店舗のあり方は、ここ何年もずっと考えています。ネットで何でも買える時代になったからこそ、リアル店舗にしかできない付加価値を提供していきたいと思っています。店内のBGMだったり、目に入ってくるお花だったり、飾ってある本だったり、スタッフの雰囲気だったり…目指している商品に辿り着くまでの過程、つまりストーリーでお客様を楽しませなくてはいけないと思っています。ただ、服を並べるだけのショップなら、ネットで充分。ワンクリックで終わってしまう便利さを超えるものは、とにかく“生”で人と関わることだと思っています。だから、接客も大切ですよね。スタッフからはいつも良いバイブが出ていないといけない。あと、新たなブランドとの出会いがあるのもリアル店舗ならではだと思います。初めて見るブランドだけど、着てみたら良かった、というのはネットではあまりないことですよね。まだまだ、リアル店舗には希望の光があると思っています。
TCFでは様々なブランドのリミテッドショップをやっていますが、3月18日18時から4月1日まで、ファセッタズムのイベントを開催します。一般のお客様から募集したモデルのファッションフォトを使用

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