Interview & Report

Hiromichi Ochiai

Hiromichi Ochiai 落合 宏理

FACETASM

1977年東京都生まれ。1999年文化服装学院アパレルデザイン科メンズコース卒業。COMME des GARCONS、Zucca、UNDERCOVERなど、国内のモードをメイン取引先とするテキスタイル会社「ギルドワーク」に8年間勤め、同時に NGAP (洋服から家具、内装まで手掛けるアーティスト) のアシスタントを務める。2007年春、自身のブランドFACETASM始動。2007年S/Sから展示会でコレクションを発表。2011年A/Wで9回目の発表。

FACETASM INFORMATION EVENT
京都 藤井大丸のComme des Garçons EDITEDにて「GANRYU and/or FACETASM」開催中!
日時:4/28[木]~5/12[木]10:00~20:00
会場:京都藤井大丸
   京都市下京区寺町通四条下ル貞安前之町605 7F
   TEL 075-352-6306(直通)
EXHIBITION
日時:5/10[火]~5/13[金]11:00~19:00
会場:HEAD-ON JAPAN OFFICE(ヘッドオン オフィス)
   東京都渋谷区神南1-5-15 メイジハイツ 6A

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2007年のデビューから順調に成長し、人気を獲得しているブランド、FACETASM(ファセッタズム)。東京生まれ、東京育ちのデザイナー落合宏理さんが作る服は、独自の感性、視点、経験が生かされ、今の東京をリアルに表現している。
ブランド名の“FACETASM”は造語で「“facet”がフランス語でダイアモンドなどの切り子面を意味する単語。それをもとに“様々な顔” “様々な見え方”という意味を込めた」とブランド名の由来を話す落合さんに、ファセッタズムで表現したいことや服作りのこだわり、今の東京ファッションについてお話を伺った。

3月18日から4月1日まで、青山のセレクトショップ THE CONTEMPORARY FIX(以下TCF)で、リミテッドショップを展開されていました。オーナーの吉井雄一さんのお話では、昨年から決まっていたそうですが、会期1週間前に大震災が起こり、初日に予定されていたレセプションパーティは中止に。ただ、リミテッドショップ自体はチャリティという意味合いを込めて予定通り決行されました。今回のリミテッドショップを終えられてみて、いかがですか?

落合:TCFの皆さんの強力なバックアップがあったからこそ、実現できたと思っています。期間中、スタッフの皆さんのポジティブさと心のこもった接客に、とても助けられました。TCFでのリミテッドショップは今回で3回目でしたが、初日の来店客数は今までで一番少なかったものの売り上げは前回の150%だったそうです。PHENOMENON(フェノメノン)のオオスミさん、SASQUATCHfabrix.(サスクワッチファブリックス)の横山さんと荒木さん、GANRYU(ガンリュウ)の丸龍さんなど、デザイナー仲間が来店してくれたのも嬉しかったし、“ここに集まって何かしよう”という皆の気持ちが同じ方向に向かっていることを感じました。
今回は急遽、購入金額の10%(TCF5%、ファセッタズム5%)を被災地への義援金とするチャリティイベントとなりましたが、何も特別なことではなく当たり前のことだと思っています。他のブランドもこのタイミングでイベントをしていたら、きっとそうしていたと思うので。

会期中、一般公募したモデル25人の写真を等身大パネルにして店頭に設置したり、縮小サイズのパネルを店内に配したり、面白い企画もありました。これはどのようにして決まったのですか?

落合:ルック写真の撮影では、ありがたいことにいつも好きな人と組ませていただいていて、1回目はフランスの雑誌『Purple Fashion Magazine』などを手掛けられている鈴木親さん、2回目はスタイリストの北村道子さんに監修していただきました。今回は、TCFの吉井さんにプロデュースいただき、TCFのスタッフの皆さんと話し合いながら企画を決めました。スタイリストは山田陵太さん、ヘアメイクは上川タカエさん、カメラマンは池畑直樹さんで撮影しましたが、25人のモデルのスタイリングからヘアメイク、撮影までをたった1日で終えたんです。それを、パネルにしてプレゼンテーションするという表現方法も画期的で、ブランドとしてステップアップできる良い経験をさせていただいたと思っています。

25人のモデルたちは、性別も年齢も体格も様々ですが、どのような選考基準で選ばれたのですか?

落合:書類選考はTCFのスタッフと僕らで行いましたが、ポジティブな人を選びたかったので、応募動機などのコメントを重視しました。ファセッタズムをうまく着こなせそうというよりも、存在感や何か発するものがある人が結果選ばれたと思います。実際に、揃ってみると個性豊かな人ばかりでした。
今回は、あまり大きな告知はせず、twitterなどでモデル募集をしたのですが、70人以上から応募がありました。実際にモデルをやっていただいた方の中には、被災地の福島県在住の方もいましたが、会期中わざわざTCFまで足を運んでくれたそうです。
初日は震災直後で、青山でも節電のため休業や閉店時間を早めるお店が多く、TCF周辺も真っ暗だったのですが、ここだけが明るくて、その中でエネルギッシュなモデルたちのパネルが飾ってある様子は、すごく力強さを感じました。

モデルの等身大パネルは、リミテッドショップの期間中、THE CONTEMPORARY FIXの店頭に並べられた

店内にはミニチュア版のパネルが……

今シーズン(2011年春夏)のテーマは”MINORITY”ですが、どんなメッセージが込められているのですか?

落合:インディアンならトーテムポールや羽を取り入れたり、イスラムならアフガンストールやモロッコタイルの柄だったり、よく見かけるモチーフですが、このような国境を越えたミックスができるのも東京だから。今日、僕が着ているカーディガンはトーテムポール柄で、それにアフガンストールを巻いていますが、こんなコーディネートができるのは世界中で東京しかないですよね。こういった東京ならではのミックスの面白さを表現したいと思いました。

ファセッタズムのコンセプトとしても“東京”は欠かせないキーワードでしょうか?

落合:東京出身だからかもしれませんが、東京の街を歩きながら生まれるものは多いです。 高校時代陸上部で原宿に運動場があって、毎日通っていました。部活帰りに学ランのままNOWHERE(ノーフェア)やUNDERCOVER(アンダーカバー)に行ったり。当時はアントワープも人気で、マルタン・マルジェラやヴェロニク・ブランキーノ、A.F.ヴァンデヴォーストなど、当時は国内外ともモード系ブランドが盛り上がっていて、面白いものが一気に2つ出てきたという感じでした。僕は18歳頃でしたが、ファッションの良い時代をその年齢で経験できて良かったなと思っています。同世代のデザイナーと「あの頃に戻したいね」と話すこともあります。

落合さんのデザイナーとしてのルーツは高校時代にあったんですね。

落合:もともと服が好きでした。高校卒業後は、文化服装学院に進み、アパレルデザイン科メンズコースを卒業。その後、コムデギャルソンやズッカ、アンダーカバー、シンイチロウ アラカワなどと取引のある、ギルドワークというテキスタイル会社に就職しました。デザイナーと直接やり取りしてシーズンの企画を練ったり、コレクションのメインとなる生地づくりに携わったり、8年間勤めましたが、とても勉強になった。まだ若手でしたが、服が大好きで何にでも興味を持っていたので、デザイナーさんたちにとてもよくかわいがっていただきました。ファセッタズムの立ち上げ当初から良い生地が使えたのは、この8年間があったからだと思っています。現在でも、ほぼすべての生地をギルドワークでやってもらっています。

90年代後半は裏原ブームをはじめ、社会現象になるようなファッショントピックがありました。当時から比べると、今のファッションは元気がないと感じられますか?また、今の若者のファッションについてどう感じますか?

落合:そんなことはないんじゃないかな、と最近は思います。フェノメノンやサスクワッチファブリックス、ガンリュウ、アンユーズドなど、友人たちがやっているブランドも注目されていて、結果を出しているので。その中でファセッタズムはキャリアが短いですが、周りが盛り上がっているので楽しいです。
今の20代は力強いですよね。いつの時代もそうかもしれませんが、ファッションを自由に楽しんでいるパワーを感じる。僕らの時代は大きなブームがあって、皆が同じファッションをしていたりしましたが、今はそうではなく、個々に好きなファッションを追求して楽しんでいるように見えます。

アジア各国でも展開されていますが、日本と違う点はありますか?

落合:現在、香港の「I.T」や台湾の「03」、ソウルの「BOON THE SHOP」といったセレクトショップで取り扱いがありますが、特に香港の「I.T」での動きはいいです。毎シーズン、物づくりでは何かしらのチャレンジをしているのですが、チャレンジした商品をしっかり買ってくれる。香港は、経済的なこともあるかもしれませんが、ファッションに活気があって、モードを楽しんでいます。ロシアからのオファーもきているそうなので、今後、海外にも広げていきたいですね。
アンダーカバーやナンバーナイン、その上はコムデギャルソンなどがありますが、僕らの先輩方が海外への道を開拓してくれたので、彼らをとても尊敬しています。海外への道筋が整い、海外のバイヤーたちも日本のブランドに慣れてきたタイミングで、僕らはブランドをやっているので、恵まれていますしありがたいと思っています。

現在、2011-12年秋冬の展示会の最中ですが、今回はどんなテーマでしょうか?

落合:スタイルとしては、いつもよりレイヤード(重ね着)を多く提案しています。
今回のテーマ “I WANT TO HOLD YOUR HAND ALL THE WAY―ずっと手をつなごう”は、アメリカのとある詩の一節から取っていて、それに少し手を加えたもの。アメリカのカルチャーをふんだんに取り入れたコレクションにしています。
「エレファント」や「ミルク」(ショーン・ペン主演)などで有名な、アメリカの映画監督ガス・ヴァン・サントが好きで、常にインスピレーション源になっています。そこから感じ取れる、悲しさもコレクションに落とし込んでいて、今回なら過剰な重ね着だったり、組み紐を取り入れたり、布を切り刻んだり……こう見えて、意外とネガティブな面もあって(笑)。春夏は思い切りポジティブにしたくなり、秋冬は悲しさを表現したくなる。癖なのかもしれません。
*2011-12 A/Wコレクション写真はこちら

落合さんイチオシのムートンのショートパンツ(メンズ)

クリスマスツリーから発想したパターン。2011-12AWは全体的にアメリカがテーマになっている。アメリカの幸せな家庭風景の象徴としてクリスマスがあり、クリスマスといえばクリスマスツリー、ということからこのパターンが生まれた(モデルはファセッタズムの緑川直子さん)

今後、挑戦してみたいことは何ですか?

落合:近い将来の目標としては、ショーを考えています。ただ、小さいブランドなので支援がないと難しい部分もあります。特にモデルの数に合わせて靴を用意するのは大変なので、靴メーカーさんと組めたらいいなと思います。でも、ファッションにはルールがないので、まったくファッションに関係のない企業と組んでも面白いと思っています。映画の衣装もやってみたいですね。アーティストのプロモーションビデオにも興味があります。
今後も皆さんには、楽しみながら服を作って、いつかショーを実現させて……と夢を持ってポジティブに活動している僕らの姿を見てもらいたいです。

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