ヨルコ バンザイ Yoruko Banzai デザイナー/クリエイティブディレクター
Amazon Fashion Week TOKYO 2017 S/S & 2017 A/W Key Visual Creator
1982年大阪生まれ、京都精華大学卒業。創作プロジェクト「BANZAI」のデザイナー兼クリエイティブディレクターとして、東京を拠点にアートピース製作、広告及びアパレルブランドのアートディレクション、展示・空間演出、企業へのグラフィックデザイン提供など、アート、ファッションの垣根を越え多角的な表現手法を用い活動中。ファッションブランド「BANZAI」には、多くのインフルエンサーのファンを持つ。
[ Website ] http://yorukobanzai.com/
[ Instagram ] https://www.instagram.com/yoruko_banzai/
[ Facebook ] https://www.facebook.com/yoruko.banzai
[ Twitter ] https://twitter.com/yorukobanzai
自身のファッションブランド「BANZAI」を展開する傍ら、独自のビジュアルセンスを活かしたグラフィック制作や、ファッションブランドのアートディレクションなどを手がけ、各方面から注目されているクリエイター・ヨルコバンザイ。前回に引き続き、Amazon Fashion Week TOKYO 2017 A/Wのキービジュアルのクリエイティブディレクション、アートディレクションを担当し、二次元と三次元の垣根を超えたビジュアルを、個性豊かな撮影スタッフたちとともに創り上げた彼に、制作の舞台裏やクリエーションの源泉などについて話を聞いた。
ファッションやデザインに興味を持ったのはいつ頃からですか?
僕は生まれが大阪の吹田市で、岡本太郎さんの「太陽の塔」で有名な万博公園が近所にあったんです。そこでは毎週末フリーマーケットが開催され、古着から雑貨、古い映画のパンフレットなど色々なものが売られていて、12、13歳の頃からそこに通っていたことが自分の原体験です。それ以来ファッションはずっと好きだし、映画をはじめ色々な文化に慣れ親しんできて、進学した京都の美大では、映像、写真、パフォーマンスなど様々な表現に触れてきました。
大学を卒業してからはどんなことをされてきたのですか?
デザイン事務所の写真部に入り、オフィス用品の物撮りなどをするようになりました。そこでは、コピー用紙で3メートルの塔をつくって撮影したり(笑)、大変なことも多かったのですが、CGを使わずアナログの手法を用いることが多い僕の作品には、当時の経験が活かされています。そこから24歳くらいまでは、クラブイベントのオーガナイズをしたり、海外に遊学したりしていました。自分にとっては人脈づくりの時期で、この時の出会いをきっかけに、現在一緒に仕事をしている方も多いです。中でも大切な出会いになったのが、当時行きつけだったおでん屋さんで偶然隣に座った方が、パリにも出ているブランドのデザイナーさんだったことです。これをきっかけにその方のお店で働くようになり、やがて自分でもカバンなどのファッションアイテムをつくるようになりました。それが自分のブランド「BANZAI」の始まりですが、もともと写真も好きだったのでビジュアルにも力を入れていたら、それを気に入ってくれた方からお仕事を依頼され、アートディレクションの仕事もするようになりました。そして、気づいたら今回のキービジュアル制作の依頼をいただいていました。
Jacket & Pants: SOSHI OTSUKI
今回のキービジュアルのテーマについて教えてください。
「REAL」です。いまやオンライン上で見たものが、ECサイトをワンクリックするだけで、翌日にはリアルなモノになって自宅に届く時代ですよね。そういう現実とオンラインの関係がある一方、SNSなどで充実した生活を発信している人たちがいますが、現実の暮らしはそんなにキラキラしたものではないんじゃないかと(笑)。つまり、二次元の画像がすぐに現実のモノになるからといって、二次元で見たものすべてが本当の姿とも限らないわけです。そうした時代の中で、二次元と三次元、オンラインと現実という枠を超えて「REAL」になり得るビジュアルを表現したいという思いがありました。
このテーマをどのように表現しようと考えたのですか?
「REAL」というテーマを制作プロセスにも取り入れていきたいと考えました。グラフィックのビジュアルに関しては、オンライン上で販売されているロイヤリティフリーの写真素材を購入し、それを撮り下ろしたモデルの写真の背景として合成するという手法を取ることで、二次元と三次元の融合を試みています。逆に映像では、360度撮影できるVR(バーチャル・リアリティ)用のカメラでリアルな東京の街の映像を撮り下ろし、そこにモデルの動画を合成するというアプローチで制作しました。写真と映像を使って様々な実験をしながら、二次元と三次元の融合や対比を見せるというテーマを面白く表現できたのではないかと思っています。
SHIRT/JACKET/COAT: Christopher Nemeth
NECKLACE: Christopher Nemeth × Judy Blame
GLOVE: Rambling
COAT: YOHEI OHNO
DRESS: TARO HORIUCHI
TRENCH COAT:
YOHEI OHNO
Jacket & Pants:
SOSHI OTSUKI
撮影スタッフについても教えてください。
撮影をお願いした山内聡美さんは、普段は作家として活動をしている方なのですが、彼女の作品はもちろん、テーマやプロセスも面白くて、よく一緒に仕事をしています。また、映像のリヨネメスさんは、先シーズンのファッション・ウィークの映像でも協力していただいたのですが、彼女の作品も大好きで、今回の映像のアイデアもネメスさんによるものです。スタイリングを担当してくれたのは、渋谷の「Sister」(FAKE TOKYO)というショップのディレクター/バイヤーの長尾悠美さんです。日本のストリートブランドから海外のハイブランドまでを網羅し、まだ誰も知らないようなブランドをピックアップするなど、以前から彼女の感性や作り出す世界観に共鳴していたのでお願いしました。今の東京を表現する上では最適な人物だと思っています。あと、音楽に関しては「BANZAI」の展示会でも音をお願いしているMars89に依頼しました。 映像同様に東京各所をサウンドスケープしてもらい、今回の音楽を製作していただきました。
今回のキービジュアル制作を振り返ってみていかがでしょうか?
今回は、僕以外のスタッフも全員がアートディレクターの目線を持って撮影に臨んでいたと思います。抽象的なテーマのもと、チームでディスカッションしながら創り上げていった仕事で、僕自身とてもインスパイアされたし、非常に楽しい撮影になりました。先にお話したように、僕はもともと写真が好きで、自分でも撮っていましたが、今回のような撮影は決してひとりではできないものだし、色々な視点が交じり合うことでケミストリーが生まれる現場に立ち会えることが、アートディレクションの仕事の面白さだと感じています。
ご自身のファッションブランド「BANZAI」に関しては、アートディレクションの仕事とはだいぶ考え方やスタンスは違うのですか?
アートディレクションの仕事は案件によって様々なので一概には言えませんが、僕がこれまでにつくってきたものが好きでオファーしてくれるクライアントの中には、ほぼ制約なくお任せしてくれる人も多いですね。とはいえ、ブランドのルックブックなどはある程度数字にもつなげなくてはいけないため、クライアントのイメージも伺いながら、その中でいかに自分の色を出していけるかというところを意識しています。一方で、自分のブランドに関しては、無理がない範囲でやりたいことに取り組んでいるという感じですが、自分が普段目にしたものや感じたことなどをしまっているたくさんの引き出しの中から、コーディネートを組むような感覚でつくっています。だから、手を動かしていると、ある時にパズルのピースがはまるような感じで、「自分はこういうことを考えていたんだ!」と後から気付くようなことも多いです。
「BANZAI」ではファッションアイテムとともにアートピースも発表されていますが、両者はどういう関係なのでしょうか?
ファッションブランドの展示会は、洋服を見てもらうことが本来の目的だと思いますが、「BANZAI」ではアートピースとプロダクトの両者を通して世界観を感じてもらいたいと考えています。日頃から自分が感じている疑問などを形にしたアートピースから先に制作することもありますし、逆に洋服ありきで、それを面白くプレゼンテーションするためにアートピースをつくるケースもあります。これらを通してブランドの世界観を楽しんでもらった上で、実際に着用できる洋服を持ち帰っていただくというイメージです。過去に製作したアートピースもたまってきていますし、未発表の作品や写真なども多いので、いつかこれらを集めた個展などもしてみたいですね。
最後に、今後取り組んでみたいお仕事などがあればお聞かせ下さい。
最近は映像の品質がどんどん上がっているので、これからは動画で撮影したものをクロップしてイメージビジュアルにするというアプローチも増えてくるような気がしています。今回のプロジェクトにしてもそうですが、ビジュアルプレゼンテーションの選択肢もますます広がっていくはずなので、今後は写真だけではなく、映像や演出など動きのあるビジュアルの仕事もしていきたいと考えています。学生時代にパフォーマンスもやっていた自分にとっては原点回帰の意味合いもありますが、実は、早速、今回のファッション・ウィークに参加するブランドからショー演出を依頼されています。新しいことづくめで大変ですが、今からとても楽しみです。