ファンタジスタ歌磨呂 fantasista utamaro
Art Director / Illustrator
1979年生まれ。 フリーランスから2012年7月株式会社コトブキサン設立。アートディレクション、イラストレーション、テキスタイルデザイン、グラフィックデザイン、アニメーションディレクションなどが主な活動範囲。POPで彩度高めの世界観が特徴。近年はCDジャケット、MVのプロジェクトの多数手がけている(ゆず、livetune、でんぱ組.inc、LM.C、東京カランコロン、AMIAYA など)
ポップなカラーリングと擬音やフキダシなどマンガ的な要素を取り入れた個性的な表現。それを武器に、グラフィックや映像はもちろん、テキスタイル、プロダクト、空間など、自らのアートワーク同様、無限増殖していくかのように活動の幅を広げているファンタジスタ歌磨呂。さらに、MIKIO SAKABEのデザイナー坂部三樹郎氏ら各界のクリエイターたちと「最前ゼロゼロ」を結成し、自らが編集長を務める媒体『WHAT’S A FANTASISTA UTAMARO!? by QUOTATION』をリリースするなど、文字通りメディア的な存在として、日本独自のカルチャーから生まれる表現を発信し続ける彼にインタビューを行った。
2013年5月24日に発売された『WHAT’S A FANTASISTA UTAMARO!? by QUOTATION』 (MATOI PUBLISHING) 写真:太田好治
歌磨呂さんはテキスタイルのデザインなどもしていますが、ファッションはもともと好きなのですか?
特定のブランドやスタイルに傾倒しているわけではないんですけど、学生の頃から割と目立ちたがりで(笑)、蛍光色の派手な服をよく着ていたり、一方でヨーロッパの古着なども好きだったりと、自分なりのこだわりはありましたね。今も洋服屋さんを見て回ることはあるんですけど、自分がテキスタイルの柄をデザインしたり、それをもとに作っている洋服などに関しては、単純にこういうものがほしいという程度のもので、ファッションという意識はないんです。
テキスタイルをデザインする上で、どんなことを意識していますか?
世にあるテキスタイルにはすでに可愛いものがたくさんあるので、自分なりの付加価値があるように、漫画の擬音やフキダシのビジュアルなどを記号的に入れています。テキスタイルというのは、ファッションの枠で語られがちですけど、実はもっとジャンルを問わないものじゃないですか。例えば、僕が作ったテキスタイルがおばあちゃんちのこたつカバーになっていても面白いと思うんです。僕自身、日常の中でハッとさせられるような表現に共感するところがあるし、「なんだこれ?」と感じてもらえるような表現をしれっとやりたいなと。まぁ、派手過ぎて全然しれっとしてないんですけどね(笑)。
9月にパリで開催されるプルミエール・ヴィジョンにて、小松精練のブースで披露されるテキスタイル
大学時代はテキスタイルを専攻していたそうですね。
はい。学生の頃からグラフィックやイラストレーションが好きだったんですけど、テキスタイルというフォーマットはすごく魅力的だと思っています。例えば、絵画というのはキャンバスに描かれ、それが額に入れられるわけですけど、どんなジャンルの表現にもフォーマットというのが存在していますよね。でも、テキスタイルというのはどんなものにも展開できる表現で、キャンバスに張ればそのまま作品にもなるし、洋服やiPhoneケースなどのプロダクトにもなる。インターネットなんかが出てきて、既存のフォーマットがどんどん崩されていく時代のなかで、テキスタイルというのはある種時代に合った表現だと思うし、気づいたら無限増殖していくようなアートワークばかり作るようになっていたんです。
今年9月には、パリで開催されるテキスタイル見本市「プルミエール・ヴィジョン」にも参加されるそうですね。
小松精練のブースで参加させてもらうのですが、今ちょうど10種類の柄のデザインをしているところです。テキスタイルデザインはもともと趣味で始めたんですが、こうしてなかなか出せないような場所で発表できることになったので、面白いアプローチができたらいいなと思っています。僕は大学で織物のコースを専攻していたんですね。一本ずつ糸を織り機にセットして布を織っていく作業はとても大変なんですけど、どんどん布ができていく時のドキドキワクワク感はハンパじゃないんですよ。でも、いよいよ生地ができて、織り機から下ろしてみると、そこにあるのは何の変哲もない平織りの布で、急に魔法が解けたみたいに魅力がなくなってしまったんです。その時に、この感じは何なんだろうと考えたんですけど、要は登山なんかと同じで、頂上からの景色を想像していて登っている時のように、見えないものを見ようとしている状態にこそ、人間の究極の欲望があるんじゃないかと。
その感覚が歌磨呂さんのクリエーションの根底にもありそうですね。
やっぱり完成されていないものにすごく魅力を感じるし、僕が作っている無限増殖していくようなアートワークにしても、フレームの外にまで想像を広げられるものなんですよ。写真なども同じで、トリミングされた写真の外の世界を人は想像しようとするし、それこそが人間の究極にクリエイティブな状態だと思うんです。そのきっかけのようなものを作り出すことができないかなと思って作っているところがあります。
歌磨呂さんの作品からは、アニメや漫画など日本のポップカルチャーの影響も強く感じられますが、なぜこれらのモチーフを作品に取り込むようになったのですか?
僕は子供の頃、引越しが多く、どこに行っても転校生扱いを受けてきたんですね。そういう境遇もあって、自分は何者なんだろうといつも思っていて、そこから自分にしかできないことを考えていくうちに絵を描き始めるようになったんです。絵を描くとみんな喜んでくれるし、自分が作ったものが残るじゃないですか。それでガンダムやキン肉マンなどの絵を描いたりしていたんですけど、歳を重ねてデザインに興味を持つようになり、色んなものを見ていると、基本的にデザインの世界は海外志向だということがわかって。その頃から、僕が触れてきた漫画やアニメなど日本のサブカルチャーをデザインと融合できないかと考えるようになり、当時通っていた美大予備校の仲間たちと「マッシュコミックス」という集団を作ったのが最初のきっかけです。
現在は、アイドル関係のアートディレクションなどもされていますが、日本のポップカルチャーの魅力はどんなところに感じていますか?
アニメにしても、漫画にしても、アイドルカルチャーにしても、色んな要素がミックスされて、ガラパゴス的に独自の進化をしているのがすごく面白いですよね。そういう日本の面白い文化の説明書みたいなものがないとダメなんじゃないかと思い、それを自分の表現としてやっているところもあるんです。これが日本独特の文化だという線引きをしているわけではないですが、ニコニコ動画や初音ミクにしても、説明や言い訳ができないような破壊力があるということが共通していて、そこにとても惹かれていくんですよね。
ファッションデザイナーの坂部三樹郎さんらと一緒にやられている「最前ゼロゼロ」などもまさにそうした日本ならではの文化を象徴するような活動ですね。
「最前ゼロゼロ」では、TSUTAYA TOKYO ROPPONGIにでんぱ組.incを呼んで、ライブとファッションショーをやったことがあるんですけど、ファッション業界の異端児的な立ち位置の(坂部)三樹郎くんと一緒に、レンタルビデオ屋という日本的な空間にアイドルグループを呼んでファッションショーをやることで、日本のカルチャーをストレートに発信できると思ったんです。もともと僕はコンサバティブな空気が嫌いなんですけど、デザイン、広告、映像、ファッションなど、どの業界でも専門化していくほどヒエラルキーができて、ルールも固まっていきがちですよね。そこにとにかく破壊力のあるものをぶつけて、嫌な空気をかき混ぜたいという思いが強くて、できる限り僕はそういうキャラクターでいたいなと(笑)。
日本ならではのファッションとして注目している動きなどはありますか?
ファッションはそんなに詳しくないですけど、これも(坂部)三樹郎くんつながりで見に行った「秋葉原ファッションウォーウィーク」というのがすごく面白かったですね。「最前ゼロゼロ」のメンバーでもあるもふくちゃんがやっている秋葉原のディアステージというスペースで、ディアステージ所属のアイドル達が新進気鋭のカッティングエッジのデザイナーのデザインした洋服を身にまとってショーをするんです。合間に入るもふくちゃんのMC、というかもはやガヤなんですが、それが面白くて、ものすごい空間演出になっていて、これは絶対日本にしかできないなと。カッコ良いカッコ悪いとかを突き抜けて、もうとにかくパワフルで。魂がそのまま形になっているようなイベントだったんです。
そうした日本ならではの熱量を持った現象が世界的に評価されるケースは過去にも多いですよね。
そうかもしれないですね。先日も三樹郎くんと、“スタンダードの奇跡“がどこで起こるか、そして起こせるか、って話をしていたんです。例えばココ・シャネルがパンツルックを発表した当時は、絶対に一般的にはあり得ないスタイルの提案だっただろうし、ヒップホップのファッションスタイルは、オーバーサイズの服を着るのがイケてる象徴だったり。ヒップホップは黒人文化から生まれたもので、当時はまだ時代的にも貧しい暮らしをしている人達も多く、服を買うお金を持ていないからお下がりを着る習慣があって、だから着る服のサイズは大きくなってしまうんです。でも、そのネガティブな現実や世界を変えるために、音楽や文化が生まれるんですよね。オーバーサイズのファッションは今ではカルチャーのスタンダードとして世界に受け入れられ、立派でカッコいいものとしての価値を持っているんです。ネガティブだったものが、ポジティブなものとしての価値に変わる。こんなにすばらしくて感動的なことはないと思うんです。それと同じように、今はまだオタクカルチャーというイメージの強い、秋葉原のコスプレ文化が、僕らの国の新しいスタンダードになったら、それこそ超感動的な出来事だと思うんです。それまで一般的ではなかったものに新しい価値が備わることで、未来はいかようにも変改していくんですよね。誰かが初めて言ったことが、たくさんの人に伝わり、それがいつしかスタンダードになる。そうやって日本で生まれた独特の文化が世界にとってのおおきな財産になればいいなって思うんです。