Interview & Report

長嶋 りかこ Rikako Nagashima

長嶋 りかこ Rikako Nagashima グラフィックデザイナー/アートディレクター

MBFWT 2014 S/S & 2014-15 A/W Key Visual Creator

1980年11月11日生まれ。グラフィックデザイナー/アートディレクター。2003年武蔵野美術大学視覚伝達デザイン科卒業。「ラフォーレ原宿」の年間広告グラフィックや、坂本龍一氏のYCAM10th記念コンサートのデザイン、プライベートチョコレート「YVAN VALENTIN」のパッケージデザインやHAND MADE ART STORE「BOMDO」のブランディング等、グラフィックデザインを基軸に、ブランディング、CI、VI、ファッションデザイン、プロダクトデザイン、広告など手がける傍ら、パーソナルワークとして現代美術家の宮島達男氏との「PEACE SHADOW PROJECT」を行う。10月3日から28日まで、銀座グラフィックギャラリーにて個展開催。
主な受賞歴 毎日広告デザイン賞(2005)、東京ADC 賞(2006、2011)、ニューヨークADC 銀賞(2011、2012)、ニューヨークADC特別功労賞(2004)、カンヌデザイン部門銀賞(2011)、アジア太平洋広告祭グランプリ(2011)、日本グラフィックデザイナー協会新人賞(2010)、ロンドンD&AD 銀賞(2012)、ワルシャワビエンナーレ銀賞(2012)、日本パッケージデザイン金賞(2013)、経済産業大臣賞(2013)等国内外の賞を多数受賞。2012年にはニューヨークADC国際審査員を務める。

ラフォーレ原宿の年間広告をはじめ、数々のファッション関係のビジュアル制作を手掛けてきた博報堂のアートディレクター、長嶋りかこ。そんな彼女が今回、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2014 S/Sのキービジュアルを担当することになった。 女性ならではの繊細な表現力と、コンセプチュアルなメッセージ性を併せ持つクリエーションを持ち味にする長嶋は、今回のビジュアルでは、どのようなイメージを思い描いていたのか? 今、最も注目を集める女性クリエイターの創作の源泉を探る。

今回のファッション・ウィークのキービジュアルのコンセプトについて教えて下さい。

ファッションデザイナーが洋服をデザインする時、自分の中にあるイメージを描き起こしていくと思うのですが、「イメージして描く」という行為から広がる可能性は凄く大きいなと感じたんです。このイメージを“描く”力というのは、なにもデザイナーだけが持っている特別なものではなく、例えば、朝起きて、その日に着る洋服を考えたり、ショップに行って、どんな自分になりたいかを思い描きながら洋服を買ったりと、誰もが普段から使っている力だと思うんです。いつもと違う自分になるとか、少しずつ何かを変えていくということは、イメージして“描く”という力から始まるんじゃないかなと。そうしたコンセプトをもとにビジュアルを制作していきました。

着飾ることは、描くこと。 服を着るときに感じるのは、等身大の心地よさか、 もしくは等身大以上の欲望のどちらかだと思う。 それは、自分がどうありたいかを頭に描くこと。 新しいこと、まだ見ぬもの。 これからの自分、未来の出会い。 新しい場所、道なき道。 自分のこれからをつくる力は、 頭の中に描く力にあると思う。 生きるを描く。カラフルに描く。

■GRAPHIC DESIGNER & ART DIRECTOR
長嶋りかこ / Rikako Nagashima

■PHOTOGRAPHER
藤田 一浩 / Kazuhiro Fujita

■HAIR & MAKE-UP ARTIST
加茂 克也 / Katsuya Kamo(mod’s hair)

■STYLIST
山本 マナ / Mana Yamamoto

■MODEL
Nastya Siten(BRAVO MODELS)

撮影はどのように進めていったのですか?

今回は、撮影を藤田一浩さん、スタイングを山本マナさん、ヘアメイクを加茂克也さんにお願いしました。こちらで用意したラフスケッチをお見せして、後からのせるグラフィックに合わせたヘッドアクセサリーを現場で加茂さんに作って頂き、撮影していきました。加茂さんはじめみなさんの仕事がとても早くて、撮影は大変スムーズに進みました。

ポップでカラフルなグラフィックも素敵ですね。

春夏シーズンということもあって、カラフルなグラフィックを意識しました。ファッションショーに伴う、ある種の無邪気さと軽快さは出したいという考えもあったし、「東京」というポップさもイメージの念頭にはあったので、その辺りもこの色形に反映されているのかもしれません。

長嶋さんはこれまでもアパレル関係の仕事を多く手掛けてきていますが、それらの仕事で意識していることはありますか?

例えば、小規模なブランドの場合は、割と感覚的なやり取りになることが多いのですが、そこだけに偏ってしまうのではなく、ある程度情報を整理して伝えていくようにはしています。逆に大きな企業の場合は、固い表現になりがちなので、感覚的な部分を必要に応じていかに注入していけるかを意識しているのですが、クライアントに応じてその辺りのバランスを調整していくことを心掛けています。

長嶋さんご自身は、ファッションに対してどんなイメージを抱いていますか?

「人は見かけによらない」という言葉がありますが、そうは言っても見た目にその人の趣味趣向は結構出ていますよね。そういう意味でファッションというのは、自分がこういう人間だということを伝える魅力的なツールだと思っています。その一方で、ファッションは実はなくてもいいもので、暖を取れたり、体を守ったり、最低限の機能があればいいものですよね。でも、どんな田舎に住んでいるおばあちゃんでも、本能的に自分を着飾ったり、綺麗になりたいという欲望がある。本来なくてもいいものだけど、あるとやっぱりより人間らしくなるというのがファッションの素敵で面白いところだなと思います。また、クリエーションの面では、洋服というプロダクトはもちろん、写真やグラフィックデザインなどのビジュアル、ショーにおける音楽、空間、演出など、トータルで世界観を創っていくアプローチは、見ていてすごく面白いし、刺激になりますね。

長嶋さんがデザインに興味を持ったきっかけを教えて下さい。

もともと手を動かしてものを作ることが子供の頃から好きだったのですが、田舎育ちだったので情報はあまりなく、デザインというものを意識するようになるのはだいぶ後になってからでした。美大に入学してしばらくしてから、海外の広告を目にするようになり、謎かけのようなビジュアルコミュニケーションに面白さを感じたのがきっかけで広告に興味を持ち、その後、博報堂に入ることになりました。

普段のお仕事で大切にされていることは何ですか?

これまでに広告を中心に色々な仕事をしてきたのですが、その中で広告を作ることの意義を考えるようになっていきました。仕事を重ねるごとに、「この広告は本当に世の中にとって良いものなのか?」というようなことを自問自答することが増えていったのですが、次第に良い仕事をしていくためにはクライアントと志を共有し、同じ方向を向いていないといけないということがわかってきました。最近は、案件の規模は関係なく、前提となる意識を共有できる人たちとプロジェクトを進めていく上でのひとつのアプローチとして、広告に関われたらいいなと思っています。

広告に対する考え方がだいぶ変わってきたのですね。

そうですね。6年ほど前に現代美術家の宮島達男さんとお仕事をする機会があったのですが、宮島さんというのは、作品はもちろん、言動すべてがメッセージになっている方なんですね。それまで私は誰かに依頼をされてからものを作る仕事ばかりをやっていたのですが、誰から頼まれたわけでもなく、自分が少しでも世の中を変えたいという姿勢でもの作りをしている人というのを初めて見て、こういう人がアーティストなんだなと感じました。もちろん、私の職業であるデザイナーというのは、アーティストとは領分が違いますが、その人なりのメッセージや思想が企業とフィットして、良い方向に向かっていけるようなもの作りができたらいいなと思っています。

現在手掛けているラフォーレ原宿の仕事では、そうした関係性が築けていそうですね。

ラフォーレさんとは長い期間話し合いながら一緒にやっているので、最近は少しずつそれができてきているかもしれないですね。企業が世の中に何かを出していくからには、それなりの責任が伴っていて、しっかりした志の下にメッセージを発信していくべきだと思っています。そのため、こちらからも色々提案をしながら、お互いの意識を共有していくようにしています。今、私がやっているのは年間広告なので、ラフォーレさんの今後の方向性にまで関わっている部分もありますが、それでも広告というのはあくまでもひとつの「点」でしかないんです。もっと色んなところに点が打てて初めて形になってくるものなので、まだまだ不十分だと思っています。ラフォーレさんに限らず、ビジュアルの部分だけではなく、よりトータルで「面」や「空間」を生むべく関わっていけるような仕事をやっていけるようになりたいですね。

最近、ご自身のプロダクトブランド「human_nature」も立ち上げられましたね。

はい。普段私がやっている広告というのは、企業の人たちが世に出したい商品やメッセージというのがまずあって、それを伝えるお手伝いですが、最近はもし自分がメーカーだったら、どんなものを残していくのかというところへの興味が強まっていて、商品自体も自分でデザインしてみようと思い、アクセサリー等を作っています。田舎で生まれ育ったこともあって、都市で暮らしている中で感じてきた違和感があるんです。「human_nature」では、「人間と自然の間」ということを意識しながら、日々自分が感じているものを表現していきたいと考えています。実は今、このブランドで洋服も作っていて、10月にギンザ・グラフィック・ギャラリーで開催される個展で展示販売をしようと思っています。

それは楽しみですね。 ご自身のブランドを運営していく上で、グラフィックデザイナーというバックグラウンドは意識されていますか?

意識しています。私はファッションデザイナーでもジュエリーデザイナーでもなく、あくまでもグラフィックデザイナーで、そこを基軸にしていくことは今後も変わりません。洋服を作るというのは前からやりたかったことだし、実際にとても楽しいですが、いつも本業の人に失礼だと思いながら作っています(笑)。それでも自分のメッセージをいかに残していけるかということに興味があるので、色んな角度からそれを表現していけたらいいなと思っています。

長嶋りかこ初の個展『Between Human and Nature』開催

Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2014 S/S のキービジュアルを手掛けた長嶋りかこさんの初の個展『Between Human and Nature』が、10月3日(木)~28日(月)、ギンザ・グラフィック・ギャラリーにて開催されます。 長嶋デザインの服は全て試着・購入できるほか、グラフィックデザインの仕事周辺も一挙に展示。 ギャラリートークも開催される。 今回のキービジュアルも展示されますので、ぜひ、皆さん足をお運び下さい。

■会期

2013年10月3日(木)~10月28日(月)
11:00~19:00(土曜日は6:00pmまで)
※日曜・祝日休館

〈オープニングパーティ〉

10月3日(木)15:30〜19:00

〈ギャラリートーク〉

葛西薫+長嶋りかこ
10月8日(火)18:30〜20:00
高崎卓馬+長嶋りかこ
10月10日(木)18:30〜20:00
西田善太(ブルータス編集長)+長嶋りかこ
10月17日(木)18:30〜20:00

日時の詳細とご予約はHPにて。
www.dnp.co.jp/gallery/ggg/

※ギャラリートークの会場はDNPギンザビル3階です。
※入場無料、要予約、定員70名。

INTERVIEW by Yuki Harada

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