Interview & Report

Takayuki Suzuki

Takayuki Suzuki スズキ タカユキ

suzuki takayuki

1975年愛知県生まれ。東京造形大学在学中に友人と開いた展示会がきっかけで、映画、ダンス、ミュージシャンなどの衣裳を手掛けるようになる。2002年秋冬、「suzuki takayuki」として自身のブランドを立ち上げ、2007年より東京コレクションに参加。同年、オーガニックコットンに特化した「ikkuna / suzuki takayuki」をスタートさせる。現在では、オーダーメイドでの服作りも進め、“時間と調和”をコンセプトに繊細で緊張感のある服を作り続けている。

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いち早くオーガニック素材に着目し、「時間と調和」というコンセプトのもと、人と衣服の関係性を追求し続けてきたsuzuki takayuki(スズキ タカユキ)。トレンドに左右されない強いメッセージ性、優しさの中に緊張感が同居するクリエイションによって、自然回帰/エコブームとともに氾濫する多くのオーガニックウェアとは一線を画し、独自の存在感を示してきたブランドだ。あくまでも自然体で、そして真摯に服作りに取り組むデザイナー、スズキ タカユキさんにお話を伺った。

「ikkuna / suzuki takayuki」

「森ガール」が流行語になるなど、ファッションの世界でも「オーガニック」や「エコ」といったキーワードが注目されています。スズキさんは、ブランドを立ち上げた02年以降、一貫してオーガニック素材に着目されてきましたが、現在のブームをどのように見ていますか?

スズキ:僕がブランドを始めた頃は、まだそういう服はあまりありませんでした。だからこそ、自分がやることに意味があったし、社会への提案としても面白かったと思います。最近は、環境問題などとともに、オーガニックでナチュラルな洋服が市民権を得て、リラックスウェアなども増えてきました。「リラックス」や「ナチュラル」というのは、自分にとっても大きな要素ですが、第一に考えていることは、身体と洋服の関係性や、時間というものなんです。僕の場合は、時の流れが目に見えること、有機的なもの同士の相乗効果によって、人のエネルギーを引き出していけることなどから、天然素材を選んでいるところがあるので、あまりブームは意識せず、自分のクリエイションを続けていければと思っています。

「時の流れ」を表現していくことが、ブランドの大きなテーマだということですが、具体的にはどのような意識で取り組んでいるのですか?

スズキ:たとえば、洗い加工やダメージ加工というのは、時間の流れを感じてもらうためにするものだと思っていますが、自分たちができることは、あくまでも時間を意識してもらうための入口を作ること。加工がかなりなされているイメージがあるかもしれませんが、実はそんなに加工してはいないんです。それは、洋服を着てくれる人とともに時間が経過していくことに意味があると思っているからです。たとえどんなにリアルな加工がされていたとしても、その人が着た時に自然にできるダメージと違っていてはリアリティがない。あくまでも人が主役という意識が服作りの根底にあるんです。

「時間と調和」がブランドのコンセプトとして掲げられていますが、「調和」についてもお話を聞かせてください。

スズキ:自分が美しいと感じる洋服は、シャープでありながら優しく、未来的でありながらプリミティブなエネルギーもあり、マスキュリンでありながらフェミニンの要素もあるというように、あらゆる要素が含まれているものなんです。それらの要素が、ここでしかバランスが取れないという1点に立って、存在しているようなものに憧れます。社会の情勢や人間の感情というのは、とても複雑なものですよね。そうした状況の中にある洋服というのも、ひと言で分かりやすく説明できるものではないはずなんです。天然素材を使っていて、質感が際立っていればうちの服かと言うと、そんなに単純なことではなく、もっとギリギリのところで調和が取れているようなものを提案したいと思っています。

「Maison BO-M」

ジュエリーブランド「アガット」との
コラボレーション商品

そうした考えは、ブランド設立当時から変わらずにあるものなのですか?

スズキ:そうですね。ただ、僕はもともと大学時代にグラフィックを学んでいて、服作りを始めたのは、飲み屋で話していた時に友人から影響を受けたのがきっかけなんです(笑)。当時は、服を半分燃やしたり、コンクリートで固めたりして、それをアートピースとしてギャラリーに展示していました。その頃は、洋服がモノとして成立していればそれでいいと思っていたところがあった。その後、コンテンポラリーダンスの舞台衣装などをやらせてもらうようになり、その辺りからファッションの世界ともつながりができてきました。より多くの人に自分の服を着てもらう機会ができると、そこでの反応やコミュニケーション、人の意識の部分などに興味が出てきて、それがブランドを立ち上げるきっかけにもなりました。もちろん、服を服として作り込んでいくというのもひとつのやり方ですが、洋服を着ることで、その人が違う印象に見えるようなものを作りたいという思いが今は強いですね。

2011-12年秋冬コレクションの内容について教えてください。

スズキ:これまでの話と矛盾するようですが、今回は「洋服」そのものを自覚的に作っていきました。初めて「Pコート」や「ステンカラーコート」といったカテゴライズされるような洋服を作った(笑)。これまでは、もう少しアバウトに服を作りながらある種のファンタジーを提案して、リアリティを求めるようになっている現代社会からあえて少し外れることで、バランスを保っていたところがありました。ただ今回は、特にレディスに関してですが、いままでやってこなかった「シャツ」や「コート」といったカテゴライズ可能でリアリティのある洋服を自分なりに作ることで、新しい価値観を社会に提案していけるんじゃないかと思ったんです。

suzuki takayuki 2011-12 A/Wコレクションより

社会に対する提案や批評が、クリエイションの原点にあるようですね。

スズキ:そうですね。僕の場合は、シルエットやアイテムといった洋服のトレンド的な部分よりも、「いま人は何を考えているのか?」とか「世の中は何を必要としているのか?」というように、もう少し広い視野で時代を感じるところからスタートすることが多いです。社会の流れに対して、単に迎合するのではなく、自分の考えを投げかけていくことで、自分も含めた社会全体が変わっていくといいなという思いがあります。
日本にはドレスを着て行ける場所が少ない。それによって欧米とは違う独特の文化が築かれていると思いますが、洋服の可能性を考えると、やはり洋服を着た時の高揚感や変化というものはとても大切。例えば、ドレスを着ることが許されるような場所自体を提案することもしてみたいし、そうした構造や価値観を作ることも、これからのデザイナーには必要になってくるのかなと。

具体的に洋服に落としこんでいく段階で大切にしていることはありますか?

スズキ:いつも最初に考えることは、服を人に着せた時の形や量感、身体の周りの密度です。僕は、衣服、身体、空間という3つの境界に興味があるんです。「髪の毛は身体に含まれるのか?」とか「スカートの中の空気は衣服に含まれるのか?」というようなことを考えながら、デザインを起こしていくことが多い。また、その服が持つ思想的な部分を着る人にも感じてもらうために、それ以外の要素はなるべくニュートラルにしたいので、色は生成りにしています。ただ、以前に比べると、生成り自体に「ナチュラル」や「オーガニック」というイメージがつきすぎてしまって、必ずしもニュートラルな色じゃなくなってしまった。だから、社会との距離感を測りながら、生成りの中でも毎シーズン色の濃さを変えることで、なるべくニュートラルさを保つというようなこともしています。

最後に、今後の展望などがあれば教えてください。

スズキ:僕らのような東京のデザイナーズブランドにとっては、今後ブランドとして何を提案していくかということがより問われてくると思っています。例えば、機能だけで考えればスポーツウェアの方が上だし、供給という面では大きな資本を投入しているところが圧倒的に強い。また、ステータスを求めるなら海外のビッグメゾンですよね。じゃあ僕らは何を武器にしていくのかと考えると、幸福論やライフスタイルといった精神的な価値観の提案が重要になってくる。着られれば何でもいい、食べられれば何でもいいということではなく、お客さんやスタッフとコミュニケーションを取ったり、他のジャンルとのリンクを作ったりしながら、色んな人と意識を共有して、意味のある価値観や美意識を次の世代に残していくことが、とても大切なんじゃないかと感じています。

INTERVIEW by Yuki Harada

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