Interview & Report

Takashi Mori

Takashi Mori 森 崇

MOLFIC

企業デザイナーを経てフリーのメンズデザイナーとして活動開始。2006年SOMA DESIGNにサウンドクリエーターとして参画。複数ブランドの立ち上げに関わりながら自身の素材研究を開始し、プロダクト的アプローチのブランドMOLFICを立ち上げる。

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化学繊維をメインに据えた素材開発を精力的に行い、現代のライフスタイルにフィットする”新たな普遍性”を追求するMOFLIC(モルフィック)。カジュアルなスタイルが主流になっている今、モノトーンで展開されるシャープでミニマルなコレクションは、東京のファッションシーンに新鮮な風を吹き込んでいる。シーズントレンドに左右されることなく、長いスパンで一貫したストーリーを紡いでいく同ブランドのデザイナー、森崇さんにお話を伺った。

エンボス加工ニット(六角形パターン)

2010-11年秋冬コレクションのテーマを教えて下さい。

森:シーズンごとの明確なテーマというのは意識していないんです。半期に一度テーマを変えて発表していくことではなく、次に来る新たな普遍性というものを探求しています。ただ、その時々で自分の気になっているものは、もちろんコレクションに反映されます。今回で言うと、それは空港や滑走路のイメージでした。滑走路が枝分かれして、それぞれの旅立ちが回路のように分かれていくというイメージに興味があり、そこから生まれた六角形のパターンをエンボス加工のモチーフに使うなどして広げていきました。

 

毎回、精力的に素材開発に取り組んでいますが、今回特にこだわったことはありますか?

森:ニットのエンボス加工の表現はかなり研究しましたね。素材はポリエステル100%で、糸からオリジナルで作っています。中空糸を使ってリリアン編みをしているので、意図的に素材の厚みを作り、エンボスの表情を効果的に出しながら見た目よりもだいぶ軽く仕上がっていると思います。あと、これは自分のライフワークのひとつとして考えているのですが、パッカブルで持ち歩けるモバイルスーツを、ジャージやウール混含め3種類の素材に広げて展開しています。

 

モバイルスーツをライフワークにしている理由を教えてください。

森:インターネットや色々なデバイスが進化する中で、世の中の情報量はどんどん増えて、何もかもがスピーディになってきていますよね。人間が装う洋服も、それに合わせて進化させていきたいと思うんです。例えば、僕は今、年に数回海外出張に行く機会があるのですが、その時に肩パッドが入ったスーツを持っていくと、それをきれいに保つためのガーメントバッグも必要になってしまいます。でも、それがノートパソコンサイズに収納できて、リュックに入れて持ち運べるようになったら、空いた両手で、また別のことができるようになる。そうやってライフスタイルを手助けできるような洋服を作っていけたらという思いが根底にあるんです。

それが森さんの考える“新たな普遍性”というところにつながっていくのですね。

森:そうですね。素材にこだわっているのもそれと同じで、高級で希少価値の高い素材を使うということではなく、軽さや柔らかさを追求することで、色々なストレスから人間を解放する服を作っていきたいからなんです。例えば、ジャージ素材のシャツなども作っているのですが、ジャージだからカジュアルなものにするという考え方ではなく、あくまでもシャープさ、ミニマルさを保ちながら、速乾性を高めることで、出張先で夜洗っても、翌朝には乾くような洋服にしたいんです。ファッションというのは、精神的に人を豊かにする力がありますが、それだけではなく、フィジカルな部分でも人を幸せにできるんじゃないかと。

*2011-12 A/Wコレクションは こちら

そうした服作りの意識はいつ頃から芽生え始めたのですか?

森:20歳くらいの頃からでしょうか。その後、イッセイミヤケで5年間デザイナーとして仕事をするのですが、素材開発にとても秀でた会社だったことと、建築やアートなど洋服だけにとらわれないというファッションに対する考え方にも刺激を受け、それが今の自分に繋がっているのかなと思います。

2011年春夏シーズンで、ランウェイデビューを果たしました。以前から森さんは、同じSOMA DESIGNのブランドであるSOMARTA(ソマルタ)のショーで音楽を担当していましたが、モルフィックのデザイナーとして行ったショーはいかがでしたか?

森:正直、最初はランウェイショーに対して懐疑的でした。モルフィックのように機能美を追求していくような洋服は、ショーでは表現しにくいことや、写真や映像としてメディアに出ても、エンボスのディテールはつぶれやすく、カラーもモノトーンですからね。でも、表現の演出を煮詰めたところ、エンボスの凹凸が出やすいライティングだったり、観客との距離感など、ショー独特のライブ感はとても気持ち良かったし、モデルとともに洋服の揺れ動きやエンディングでのパフォーマンスなども表現できたので、やって良かったなと思っています。空間や音楽、時間軸などすべて含めて、自分の世界観を創り上げることができるのは、ショーの醍醐味ですよね。ただ、やはりショーが唯一の発表手段とは考えていません。せっかく東京というカオスな場所にいるのだから、新しいテクノロジーなども意識しながら、より深い表現ができる方法というのを考えていきたいと思っています。

*2011 S/Sコレクションは こちら

東京から発信していくという意識は強いのですか?

森:東京で育った自分が作るものからは、自然とそういう感覚が出ていると思うので、あまり意識し過ぎる必要はないのかなと思っています。あまり意識しすぎると、逆に東京という枠にはまってしまう気がします。海外で目にする日本や東京というのは、デフォルメされて面白おかしく紹介されたり、ビジュアル的に“カワイイ”文化が目立ってしまっていることが多い。そうした部分だけではなく、もっと東京のクールな面を伝えたいという気持ちはあります。ただ、それよりは、日本、外国も関係なくフラットに世界を捉えたい。ただ、自分のホームタウンとして、東京には元気になってほしいという思いはありますね。

今回の震災によって、それはより大きな課題になっていきそうですね。モルフィックのランウェイショーも震災の影響で中止になってしまいましたが、今後どんな意識でクリエイションに取り組んでいきたいと考えていますか?

森:モルフィックは、装飾や見た目よりも、機能性を提供することで人を豊かにしていくことを目指しているので、力になれるところはお手伝いしていきたいと思っています。しかし、それはこれまでと変わらずやっていくことなので、今回の出来事によって、デザイナーとしての意識が大きく変わるということはありません。それよりも、これまで常識だと思っていたものが崩れたことで、多くの人達が自らの力で物事を考えるように変わっていくんじゃないかということに、個人的には期待しています。目先のことだけにとらわれるのではなく、長い時間がかかることを理解して、そのストーリーを楽しめるくらいの意識が根付いていってくれればいいなと感じています。

それは、一貫したテーマを継続的に追求していくブランドの姿勢とも重なってきますね。

森:やはり時間をかけて研究しないと見えてこないものがあると思うんです。今はなんでも表面的にできてしまう時代になっていますが、それだけだと深みは出ない。何もかもがクイックに変わっていくだけでは、空虚感しか残らないような気がします。今の世の中に必要なのは、多様性だと思うんです。トレンドというものを否定する気はまったくないですが、一方でそれとは違う存在があるということも知るべきなんじゃないかと。例えば、多くの人は天然繊維の良さは分かっていると思うけど、化学繊維の良さというのは意外と知らない。でも、これは人間の知恵の結晶なんです。それを伝えていくことが、僕のモルフィックデザイナーとしての役割なのかなと思っています。

INTERVIEW by Yuki Harada

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