Interview & Report

下地 毅

下地 毅 Tsuyoshi Shimoji

一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構 理事長/株式会社TSIホールディングス 代表取締役社長

文化服装学院を卒業後、「Wrangler」「BASCO」などのデザイナーを経て1990年に株式会社上野商会に入社。1992年よりメンズブランド「AVIREX」のチーフデザイナーとして活躍し、2018年11月には同社取締役社長に。2021年3月に株式会社TSIホールディングス代表取締役社長に就任。2024年6月より、一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構 理事長を務めている。

今年6月、一般社団法人日本ファッション・ウィーク推進機構の新理事長に、株式会社TSIホールディングス 代表取締役社長の下地 毅氏が就任した。前任の三宅正彦氏からバトンを受け取ったのは、デザイナー出身の経営者という異色の人物だ。

Rakuten Fashion Week TOKYOをこれからどのようなファッションウィークにしていくのか、「ファッションの力を信じている」と語る下地氏にインタビュー。

新理事長としてどのようなファッションウィークにしていきたいか、展望をお聞かせください。

Rakuten Fashion Week TOKYOを通して、アジアにおけるトップのファッションブランドを育成・発信していきます。引き続きグローバルな視点で東京のファッションウィークの認知度を広げていくことはもちろん、国内にいるファッションが大好きな人たちにもさらに興味を持ってもらえるように、コンテンツを強化していきます。

これまでに培ったアパレル業界でのキャリアを活かし、世界に展開するブランドを育てたり、発信したりということを行なってきました。まもなく還暦を迎えるというこのタイミングで理事長を拝命し、たいへん光栄に思っています。

「Rakuten Fashion Week TOKYO」が掲げる3つのスローガンに沿ってお聞きします。まず「1. 世界に向けた新人デザイナーの登竜門に」という点。ここ数年の「Rakuten Fashion Week TOKYO」の世界における立ち位置をどのように見ていますか?

東京でファッションウィークと呼ばれるものが始まったのは、まだ私が中高生の頃でしょうか。そこから数十年経ちますが、ファッションウィークに参加して世界的に活躍しているブランドはまだ数える程しかありません。
登竜門というからには、見る側に新鮮な楽しさを与えることはもちろん、世界に通用するクオリティがあるという高いハードルは今後も守っていきたい。一方で、そうした有望なブランドを育てる体制も整えていかなければなりません。若手デザイナーたちが憧れをもって参加したくなるようなファッションウィークへと、さらに進化させていく必要があると考えています。

次に、「2.『創』(デザイナー)、『匠』(製造事業者)、『商』(アパレル・小売)の連携の起点に」という点について。今までも関連イベントで大規模な合同展示会や産地と連携したイベントなどを行ってきましたが、さらに発展させていくとしたらどのような可能性をお考えでしょうか?

ファッションウィーク全体を見ると、合同展示会や関連イベントなど、ランウェイ以外の部分でも世界レベルでの認知や関わり合いが増えてきていると感じます。今回はパリ・ファッションウィークで開催されている合同展示会「TRANOÏ(トラノイ)」が、日本で初めて開催されます。ブランドやバイヤー、メディア、消費者がつながっていく場所は東京のファッションウィークには欠かせない要素なので、とてもわくわくしています。

今後、より発展させていくとしたら、こうした展示会やイベントなどの場所と、ファッションの専門学校などの教育機関との連携などでしょうか。例えばインターンなどで現場に入り、実際の業務に携わることで、学生たちはファッション業界の人たちとコミュニケーションをとる機会ができ、我々は次世代を見つけて育てるチャンスを得られます。ファッションウィークのイベントを通してこの仕組みができて、それがアジアやヨーロッパなど世界中に広がっていくと良いなと思います。

「3. 東京をもっとおしゃれで楽しい街に」というスローガンは、最も消費者に近いものです。昨年は開かれたファッションウィークをコンセプトに一般の方が参加できるようなコンテンツも開催してきました。デザイナーや経営者など、幅広い側面でファッション業界を経験している下地さんが考える「おしゃれで楽しい街」とはどういったものでしょうか?

個人的には東京はすでに「おしゃれで楽しい街」になっています。世界を見ても類がないほどにさまざまな個性のファッションが街に溢れているし、原宿や渋谷をはじめ、今だと下北沢なども若者たちにとっておしゃれなファッションの街として賑わっていますよね。

中身は有象無象かもしれませんが、日本はアパレルへの参入障壁が低い分、新たなクリエイトが生まれやすい環境だと感じています。特に最近はフレッシュな発想や若い世代にもチャンスがあるので、そういった才能や挑戦を支援するような場所を東京に作っていきたいです。そうすればもっと「おしゃれで楽しい街」になるはずです。

デザイナーとしての経験もおありですが、デザイナー視点で見たときの「Rakuten Fashion Week TOKYO」の魅力を教えてください。

私もぜひコレクションを発表してみたいですね(笑)。メンズブランドのデザイナーとしてのキャリアがありますが、コレクションブランドとして成功することはファッション業界の最高峰のひとつだと思っています。そこは失くしてはいけない大切なステージ。業界全体で盛り上げ、憧れのポジションとして光り輝いていないといけません。

私は雑誌『anan』で見た高田賢三さんに憧れてこの業界を志しました。「こんな暮らしと生活ができるなんて!」というミーハーな気持ちで賢三さんと同じ文化服装学院に進学してデザイナーになったのですが(笑)、実際にこの世界に入ってみると苦労は伴いますが、とても魅力的で煌びやか、そして楽しい業界であるということに間違いはありませんでした。

かつてトレンドやムーブメントが原宿や渋谷のストリートから自然発生的に生まれたように、ファッションウィークにもそのポテンシャルがあると思っています。ランウェイを見に来たおしゃれな若い子たちが会場周辺に集まることで、エネルギーが蓄積され、カルチャーとして爆発していく。こういった現象から次世代のスターが生まれていくのだと思います。

「Rakuten Fashion Week TOKYO」が日本のファッション業界を盛り上げて行くために、最も力を入れていきたいことはなんでしょうか?

今も多くの企業や自治体にご協力をいただいていますが、より消費者にとって「Rakuten Fashion Week TOKYO」が身近な存在になるために、我々のようなアパレル企業やメディアを巻き込んでいくことが必要だと考えています。
TSIホールディングスは全世界に800以上の店舗をもっていますが、例えばファッションウィークの期間に店頭でPOPを出すだけでも認知に繋がるでしょう。「Rakuten Fashion Week TOKYO」は年に2回の開催なので、花火大会のような感覚で季節もののイベントとして市民権を得られると良いなと思います。また、メディアもアパレル業界誌以外の媒体の方にもっとご来場いただき、より多くのチャネルで発信されていければ、エンターテインメント性が増して大きなウエーブになると思います。

間も無くRakuten Fashion Week TOKYO 2025S/Sが始まりますが、ショーやイベントに来場される方へ向けてメッセージをお願いします。

参加するデザイナーたちが誇りと自信を持って「Rakuten Fashion Week TOKYOに出た」と言ってもらえるようなファッションウィークになります。素晴らしいブランドが数多く参加するので、ぜひ熱い想いとリスペクトを持って見ていただけたらうれしいです。

Interview by Azu Satoh
Photography by Daichi Saito

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