Interview & Report

若槻 善雄

若槻 善雄 Yoshio Wakatsuki

有限会社ドラムカン 役員

2006年「有限会社ドラムカン」役員就任。パリ、東京コレクションを中心にパーティー、音楽ライブ、アート展など多数国内外にて演出を手がける。海外デザイナーからのオファーも多く、ファッションを中心としたクリエイティブディレクターやファッションプロデューサーとして活動中。
2006年 第24回 毎日ファッション大賞 鯨岡阿美子賞 受賞

デザイナーが命を懸けて表現する15分間のファッションショー。その短い時間を成功に導くためには、それぞれの役割を担う多くのプロフェッショナルが欠かせない。中でも演出家はショーの裏方として全体を支える重要な存在だ。 東コレ創成期から現在に至るまで、人々の記憶に残るファッションショーの多くを手がけてきた演出家 若槻善雄に「ファッションショーの魅力」について聞いた。

9月2日からRakuten Fashion Week TOKYO 25S/Sが始まりますが、昨シーズンに引き続きChika KisadaFETICOの演出を手がけられますね。ショーを控えた今のお気持ちを聞かせてください。

今の世の中はSNSに傾倒している方が多いから、ゲストはコレクションを観に来ているのか、写真を撮りに来ているのか分からない状況が世界共通で続いています。写真という意味でいえば、プロのカメラマンが撮影したものの方が確実に良いわけなので、ショー会場では自分の目で観て自分の感性で感じ取ることを大事にして欲しいと僕は思います。時代の変遷と共に、テクノロジーも変化しますしショーを観る方の意識も変わっていきますが、会場に身を置く以上は画面越しに観るのではなくその場の匂いや湿度、体が震える感覚を含めて観てほしい。2ブランドのショーでもその想いのもと準備を進めています。

Chika Kisada、FETICOに対してはどのような印象をお持ちですか?

幾左田さんは2017A/Wのヒカリエでのショーを観させてもらう機会があって興味を持ちました。話をしてみたいし仕事も一緒にやってみたいと思ったのが第一印象です。FETICOの舟山さんとは、コロナ明けのタイミングで彼女がショーをやりたいから手伝って欲しいと事務所を訪ねて来てくれてからの付き合いです。後で知ったのですが、彼女が僕の親友であるヒステリックグラマーの北村くんの元で働いていたり、パリでのショーを手がけたクリスチャン・ダダでチーフとして活躍していたりと何かと近しい環境にいたようで。若い世代のデザイナーともご一緒したいと思っているので、こうやって声をかけてもらえるのは嬉しいですね。ファッションは細分化し常に変化を続けるので何がオシャレなのか今や一概に言えない時代だと思うのですが、人として熱い想いや、周囲に流されない確固たるアイデンティティがあって自分はこうして行きたいという意志を持っているデザイナーはどの時代においても強いと感じます。

これまで数多くのショーを手がけられていますが、その中でも記憶に残っているショーはありますか?

日本の演出家の中でおそらく僕が一番多くパリコレデビューのショーを手がけていると思うのですが、デビューのショーは記憶に残りますね。海外で初めて勝負するというデザイナーの気概と大きな責任感を憶えながら、その貴重な瞬間に立ち会えることには達成感があります。

パリでのショーと東京でのショー、演出に違いはありますか?

いろんな方から良く聞かれるのですが、僕の中では全くありません。同じ感覚でやっています。ただ、文化としてファッションが浸透しているかどうかの違いは感じます。パリはグラン・パレでショーが出来ますが、日本は国会議事堂や法隆寺で出来ません。ファッションが文化になっている国と、ファッションが風俗的な扱いをされている国という違いは大きくあると思いますね。パリはショーをやる上で会場の選択肢が本当に多いしスケール感もあります。僕は日本では表慶館を気に入っていて最近良く使用するのですが、残念ながら300名しか入れません。今や多くの日本ブランドがパリで発表して、日本のファッションを産業、文化として浸透させているのだから、国としてもファッション産業にもっと門戸を広げても良いじゃないのでしょうか。

現在の国内ファッションシーンをどのように捉えていますか?

109でジョン・ガリアーノがルーズソックス買っていたり、エディ・スリマン率いるセリーヌのデザインチームが日本に古着を買いに来ていたりと、海外メゾンブランドも日本にサンプルを買いに来ています。ありとあらゆるものが日本にはあります。ですが、人はないものねだりをするわけだから、あり過ぎることで日本人はファッションに真剣になれなくなっているのかもしれませんね。

日本のファッションブランドに対してはどのような印象を持っていますか?

パリで発表する日本ブランドは一個人企業でLVMH傘下のような大手ブランドと同じ土俵に立ち戦っています。ショーに関わるスタッフの数も全く違いますが、報道上では同じ見え方になります。それは、日本デザイナーが持つ誇りや気概がないと出来ないこと。お金のパワーを海外ブランドには感じるけれど、日本ブランドには人としてのパワーを感じます。本当に尊敬にしか値しないですよ。
ただ、僕自身の考えとしては、そうしたブランドのショーを文化的に発信してくれる日本メディアやジャーナリストの存在が必要な気がします。ショー後の囲み取材で得られたデザイナーコメントから速報記事を書くことも必要かもしれませんが、それだと同じ内容の記事が溢れてしまう。自分の目で観て感じ取った言葉でショーを盛り上げる記事を書いたり、ショー後の楽屋でデザイナーに直接声をかけたりしてもらえる方が、デザイナーとしても嬉しいのかもしれません。答え合わせした内容で標準化した記事にするよりも、ジャーナリストが観たまま感じたままの表現で記事にしてもらえたらなと思います。

若槻さんがお考えになるファッションショーの価値とは?

僕自身の考え方がオールドファッションなのかもしれませんが、多くの人を会場に集めてショーをするという方法に勝るプレゼンテーションはないと思います。画面越しには分からない熱気や情熱が注がれている状態には唯一無二の価値があります。ファッションショーは昔から総合芸術と言われていて本当にその通りだと思います。喋りもない、演技もないけれど、生のショーを観て、涙する人、大笑いする人、下手すると怒り出す人がいます。そこまで人の心を揺さぶることができてインスパイアを与えることができるものなのです。

ファッションショーの楽しみ方は?

靴が好きなら靴ばかり観ても良いでしょうし、モデルが好きならモデルの顔しか追わないとか、人それぞれで良いと思います。ショーを観て何を感じるかが大事ですよね。何かを見逃さず感じ取れる心を醸成してもらって、ピュアに観てもらえたらと。今はオンラインで観ている一般の方も、僕自身が最初にファッションショーに興味を持った時と同じように、どうやったらショーを観に行けるようになるのか?と策を尽くして、ぜひ会場に来て生で観てもらえたらなと思いますね。

Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Yohei Goto

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