INTERVIEW 03/14/2025

吉井 秀雄 Hideo Yoshii / 山口 壮大 Souta Yamaguchi

HIDESIGN Chief designer / Fashion Director

吉井 秀雄 Hideo Yoshii / 山口 壮大 Souta Yamaguchi

企業向けユニフォームを手がけるハイドサイン株式会社が培ってきた技術やメソッドをファッションとして昇華させる実験的なブランドとして2022年にスタートしたHIDESIGN。過酷な環境下にも耐えうる機能性から生まれたウェアラブルなコレクションは、国内外から注目を集めている。開催が間近に迫るRakuten Fashion Week TOKYO 2025AWにおいて、3月21日にインスタレーション形式で発表を行うHIDESIGNの現況について、チーフデザイナーの吉井秀雄氏と同ブランドでディレクションを担う山口壮大氏に話を聞いた。

HIDESIGNとして楽天ファッション・ウィーク東京に初参加されたのが23SSシーズンでした。それから約2年半経ちますが、現在のものづくりについて聞かせてください。

吉井氏:我々HIDESIGNは、ユニフォームメーカーとして着用者が対峙する環境に照らし合わせて、素材・フォルムを設計しています。山口さんから投げかけられる本質的なテーマに対して新たな設計を考案し、ファッションブランドとして展開しているのがHIDESIGNです。ものづくりのフローは山口さんとご一緒することでどんどんユニークになり、面白いプロセスになっている実感があります。

山口氏:ワーキングユニフォームは、想定される環境と身体との相関性で成立するという定義を持っています。その定義の中で、HIDESIGNとして今向き合うべき環境とは何か、どのような身体の特徴に向き合っていくべきかを考察し、シーズンのテーマを提案しています。そのテーマに対して吉井さんを中心にデザインを考案いただき、パターンを制作し、3Dデータで検証を行い、トワルで着用試験を重ねながらブラッシュアップを行い、製品に仕上げています。デザインのブラッシュアップに関しては、マーケティング的な視点ではなく我々にしか生み出せないクリエイティブに到達しているか。即ちブランドらしさが現れているかどうかを重視しています。

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山口さんが考えるHIDESIGNらしさとはどのようなものでしょうか?

山口氏:一般的なファッションブランドはムードやフォルム、カラーといった外面からのアプローチからスタートしますが、HIDESIGNの場合は内部構造からのアプローチを大切にしています。25AWコレクションの場合は、「皮膚と生地の接点」に着目しています。既存の検査機関では検査機器や指標が存在しなかったため、独自に専用の装置を組み上げ、着用試験の中で我々が目指す指標を定義し、その上で構造からデザインをスタートしています。

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そうした独自のアプローチは市場からどのような評価を得ていますか?

吉井氏:今年の1月PITTI UOMOに初出展したのですが、グローバルに展開されている大手セレクトショップやショールームから有り難いお声がけをいただくなど海外においても我々が実践していることは高い関心を寄せていただけていると感じています。PITTIではHIDESIGNのフィロソフィーやコンセプトを映像作品及びモデルプレゼンテーションとして表現しました。特に環境に応じてトランスフォームするディバイスウェアに皆さんとても驚き興味を持っておられました。

山口氏:著名なバイヤーが長時間に亘って試着されるなど多くのバイヤーから想定以上のリアクションを頂きました。ただ一方で今回僕らが発表したプロダクトがコンセプトモデルのフェーズで、安定供給できる状態ではなかったため、ホールセールに移行するための課題も感じました。

吉井氏:我々が作ろうとしているものは、新しい挑戦が多く開発にかなり長い時間がかかります。半年ごとに新作を発表するファッションビジネスのタイミングに合わせて、HIDESIGNのコレクションをどう見せていくかということを模索している段階です。

山口氏:HIDESIGNのビジネスとして何万人、何十万人にユニフォームを供給するベースが既に存在している中で、ファッションとしてコレクションに向き合う行為は、HIDESIGNの価値を研ぎ澄ましていく行為であるとも捉えています。

コレクションで発表するプロダクトは、ある意味で我々の研究の結晶のようなもの。従来とは全く異なる方法で生み出された、HIDESIGNにしか作れない独自性の高いプロダクトが、ファッションとしてエンドユーザーの方々に届いていくという構想が理想です。ビジネスとしては、すぐに卸販売を拡げていくというイメージではなく、パートナーシップが結べる取引先と連携して販売していく、8月頃にはEC直販をスタートする想定で動いています。

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発表を間近に控えていらっしゃる25AWコレクションは、どのようなテーマで進行されていますか?

吉井氏:気候変動による大きな地球環境の変化に適応するプロダクトを提案します。暑い/寒いといった外環境に対してどのように快適さをキープするかというところに着目したコレクションです。広範な人間活動が可能な範囲であるマイナス20度から40度までを極論1スタイリングで対応可能なウェアを実現するため、皮膚と生地の接着に関わる構造面の探求を行いました。

山口氏:皮膚と生地の接点にフォーカスする行為は、身体の動きに寄り添う空間設計へと繋がります。この空間設計は、HIDESIGNが最も得意とするファンに代表されるディバイスウェアをアップデートすることにも繋がっています。
ファンが備わっているから涼しいのではなく、皮膚と生地の空間の中で気体が肌の表面を流れることで、汗の蒸発を促進し、気加熱による冷却効果を生んでいるから涼しい。このことは世の中に出始めているファン付きウェアとHIDESIGNが特許申請している独自構造のウェアを着比べた際に身をもって学びました。

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HIDESIGN 2025 S/S collection

毎シーズン、何型程度発表されていますか?

山口氏:ジャケット,ベスト,インナー,ボトムス各5型程度です。常に新しいものを出し続けるというスタンスではなく、開発したデザインをベースにテーマに即しながらアップデートする感覚で発表しています。

3月21日に発表されるインスタレーションについてもお話聞かせてください

山口氏:HIDESIGNにとってのショー、プレゼンテーションは、日々の研究や検証結果を発表する場であると捉えています。極限環境に適応するためのユニフォーム製作で培った彼らの知見は、近い将来必ず直面する、未来への備えであると感じています。ファッションが半歩先の未来を予見してきたように、HIDESIGNが生み出す構造に、ファッションを感じて頂けたら幸いです。

吉井氏:PITTIでの発表時、プロダクトを着用した方が驚きのあまり「クレイジー!」と叫び、機能性や着心地に感動して笑顔になっていました。これまでにない体験ができたと、大変喜んでいただいたウェアをご紹介します。多くの方にご覧いただけると嬉しいです。



Photography by Yohei Goto
Interview by Tomoko Kawasaki

Hideo Yoshii / Souta Yamaguchi

吉井 秀雄 / 山口 壮大
[HIDESIGN]
企業向け制服のデザイン集団。
デザイン、パターンメイキング、裁断、縫製まで社内での一気通貫が可能な人材と設備を有する。

[山口 壮大]
1982年、愛知県常滑市生まれ。文化服装学院卒(第22期学院長賞受賞)。
2006年よりスタイリスト/ファッションディレクターとして活動開始。

HIDESIGN
[ Website ] https://www.hidesign-tokyo.com/
山口 壮大
[ Website ] https://souta-yamaguchi.com/