INTERVIEW 03/16/2025

MIDWEST 大澤武徳氏×繊研新聞 小笠原拓郎氏 レジェンドから見た国内外の最新ファッション事情

株式会社ファッションコア ミッドウエスト 代表取締役社長 / 繊研新聞社 編集委員

MIDWEST 大澤武徳氏×繊研新聞 小笠原拓郎氏 レジェンドから見た国内外の最新ファッション事情

国内外のファッション・ウィークを飛び回り日本を代表するファッションジャーナリスト、小笠原拓郎氏。独自の選美眼、イベントで国内ブランドを取り扱い、熱狂的なファンを抱える老舗セレクトショップMIDWESTを率いる大澤武徳氏。それぞれの立場でファッション・ウィークに携わるレジェンド二人に、ファッション業界の現況についてインタビュー。

今回のパリ・ファッション・ウィークについて印象を聞かせてください

大澤氏:MIHARAYASUHIROや doubletのショーを見たときに4年前と会場の規模や様々なことがスケールしていて、世界ブランドになっていることを目の当たりにして驚きました。これまで100回以上はパリに来ていますが、この4年でショールームや力関係も大きく変わっていて、アップデートし直す必要を感じています。 TOKYO FASHION AWARDのショールームもどんどん大きくなられて、海外の方の来場も多くすごく良くなりましたね。

パリの街自体は、4年前と変わりましたか?

大澤氏:円安なのでパリのセレクトショップに日本ブランドが多く入っているのかなと思っていたのですがあまり見かけませんでした。パリのショップは全体的に元気がないように感じましたね。

小笠原氏:去年景気悪くて、ヨーロッパで洋服全然売れなかったんですよ。今までで一番売れていないって言う人がいるほど。
大澤氏:バイヤーとしての癖でお店に入った時の空気感だとか、来店している客層を常に探ってしまうんです。以前よりだいぶ具合悪そうだなっていうのを今回強く感じましたね。今中国はちょっと厳しいみたいですけど、韓国やアジアのショップが多くオーダーしているように思いました。

最近注目しているクリエイションのトピックは?

小笠原氏:1月にPITTIでショーを開催したSETCHUの動向に注目しています。デザイナーが育った京都をベースにした、平面の着物の文化と、サヴィルロウで働いた経験による3Dの構築的なテーラリングの文化、両方の視点がとても新しい。「折り紙ジャケット」、「芸者コート」という名称で洋服を作っていて、そういうプロデュースの仕方も昔のYMO的な感じがして、和的カルチャーのキャッチーでグローバルな発信方法だなと。

大澤氏:動物愛護の観点から一時期見なくなったレザーが今また増えていると感じます。僕車好きなのですが、車も結局EVじゃ無理みたいな感じになっていて、やっぱりガソリン車良いよねと。デザイナーと話をしていても本物のレザーじゃないと出来ない表現がやっぱりあると。各ブランドどこも使ってなかったのに、レザーが本当に多く登場していました。

小笠原氏:プラダはファーフリーのはずなのにメンズ、ウィメンズ共に今期ファーを使用しているように見えたから、展示会行って全部確認したんです。ファーに見えたのはシアリングだった。羊は食用で使われるから毛皮を取るために養殖してるのではないという倫理感があって、イギリス等では許されたりしていて。羊まではね。そういう意味でもシアリングの新しい表現が出始めていると思うんですよね。技術も発達していて、羊には見えない。

日本ブランドの現況についてはどのように見てらっしゃいますか?

小笠原氏:日本にはファッションへの情熱をベースにした人間関係が奇跡的にまだ存在しています。ハイファッションの世界がビジネスの匂いしかしなくなっている中、服への情熱を持って作るデザイナーがいる。そんなデザイナーを支えている生地屋さん、職人さんがどんどん廃業して行きつつも、まだギリギリ残っている。もう一方で、その服を一生懸命買う個店さんがいて、地方で日本の文化を支えている。この状況を何とか守りたい。 SHINYAKOZUKAKHOKIなど2月上旬に自分たちでショーを開催するような想いの強いブランドもあるわけで、こういう環境を大事にしていきたい。

大澤氏:僕らのショップはオリジナル商品を作りません。デザイナーとお客様の間に入って、デザイナーが込めた思いや熱量をしっかり伝えていきたいんです。僕らはコレクションテーマの世界観などものづくりの背景にある想いをデザイナーの意向に沿った形で、一緒に表現するイベントを開催しています。モアバリエーションやフリー在庫をブランドから借りて行うポップアップは昔からやらないと決めていて。ブランドと店が一緒になってファンが喜ぶようなことをやりたい。そうしてファンが増え、ブランドに僕らがたくさんオーダーして、生地屋さんや縫製工場さんも喜べるような関係になれたらと。僕らも買った商品に対して責任持って、プロパーでちゃんと売る。セールで売ってたら利益が出ないですし。バイイングは厳しくしながらお互い商売をうまく出来るようにやって行きたいと考えています。

小笠原氏:デザイナーの入り口戦略と出口戦略が限られている現代では、いくら良いものを作っていても何かの賞を取って世の中に出ていかないと認知度が上がらない。ショールームでもものづくりよりSNSフォロワーの人数で買う、買わないの判断をされるような時代。残念ながらそういう状況。出口も同じで、ラグジュアリーに自分のブランドを売りクリエイティブディレクターになるという形が多い。良いものを作り続けてインディペンデントでビジネスを継続することは本当に大変だと思います。

大澤氏:今期はラグジュアリーで次々にデザイナーが変わりますよね。玉突き人事みたいな・・・。

小笠原氏:GUCCIがトム・フォードを起用してリブランディングしたのが95年、マーク・ジェイコブスは97年とかその辺りだと思いますが、こうしたフォーマットが出来て30年経つわけです。この仕組みがこれから先も成り立つとは思わないですけれど。

大澤氏:小笠原さんは世界中のショー、ブランドを長くご覧になられているので、日本のデザイナーはもっと相談したり話を聞いた方がいいと僕は思っていて。なるべくデザイナーに紹介したい。

小笠原氏:勝さん(大澤氏の父)から食事に誘われたときに、 doublet井野くん紹介されたこともありましたね。結構辛辣なことを言うから、デザイナーには嫌がられるかもしれない。率直に言うから、反発する人もいるだろうし、皆プライドがあって仕事されているわけですし。

国内のマーケットについてどう捉えていますか?

小笠原氏:30年間賃金上がってないからお金がないですよね。でも、その中で一生懸命服を買う若い子たちがいるなと思うのが、正直なところです。僕の若い頃はハイブランドを買い経験することで価値観を確立してきましたが、今の若い世代はラグジュアリーを色々経験してセンスを磨く経験を積むことが難しくなってしまった。社内のスタッフも同様で、ラグジュアリーな服を見て、経験して表現し書くことが昔より難しい。そんな時代でもなお、若い人たちに洋服を買おうとする情熱を感じます。

大澤氏:いつの時代も一定数、洋服に対して熱量を持っている子たちいますよね。僕たちの店は分かりやすいロゴのような服はほとんど出さないですし、ちゃんと服を見て感じて買うお客様が今もメインです。昔より確かに難しい時代だとは思いますが、それでも強いピースは変わらずに売れています。高いから売れないというのは、感じていないですね。

バイイングの基準に変化はありますか?

大澤氏:僕らの競合に当たるショップさんが取り扱われているブランドは基本的にやりません。今回は4年ぶりのパリなので、1月も今回もかなりの数回って見に行ってこれから来そうなブランドを探し回っています。とにかくたくさん見て、良さそうなブランドを見つけて、新しいデザイナーと新しいことが出来たらとまた燃えて来ていますね。 僕たちの店は来年50周年を迎えます。ビジネスが厳しい中、海外でも無くなるショップや年食ったと感じるショップが増えています。50年目を迎える僕たちもそうはなりたくない。長男が会社に入ってくれているので、彼の意見を取り入れながら変わっていかなければいけない、新しいチャレンジをしていきたいと強く思っていますね。

ファッション・ウィーク東京は今年で20周年を迎えます。日本のファッション界に対する展望を聞かせてください

小笠原氏:極論ですが、鎖国政策できないかなと思っています。パリで発表しているブランド全てが東京で発表する。パリで見せないで、東京で見せるってなったら、面白いと思います。昔フセイン・チャラヤンがジャポニズムに傾倒している時があって、日本は江戸時代に鎖国したから独自の文化が成熟したと話していたんです。閉ざされた環境の中で成熟した文化がその後日本の文化として広がり確立されていったと彼は言っていました。ガラパゴスで残った日本の良いところを発揮するためには、日本ファッション鎖国宣言を発して、国内で大々的にファッション・ウィークを開催したら、海外からも相当注目を集めると思います。 JFWに関して言うと、ブランドを見せるだけじゃなくて作る側の支援をする必要があると思います。どんどんいい職人が廃業しているから、それを支える組織を作らなければならない。手のいい工場が次々に無くなってしまうことに気づいたデザイナーが一生懸命支援しようとしていますが、彼らだけでなく事業を継承する支援を行う機関が必要だと思いますね。技術がなくなり、10年前にできたことが今出来なくなりつつある。ラグジュアリーブランドが国内の工場を買うようになっているので、そのうちビッグブランドしか使えなくなってしまうかもしれない。国内で工場を支えなければと思っています。

大澤氏:小笠原さんがお話されたように、パリで発表しているブランドを東京のファッション・ウィークで見たい。ブランドが上手く行っていないからパリ参戦を辞めたというように、今は見えてしまっていると思いますが、僕たち小売もサポートしながらそういう見え方にならないように、東京で発表する動きが出て来たら良いなと。東京でパリ参戦組のブランドがショーを次々に開催したら、海外ジャーナリストも招待せずとも来日しますよね。

小笠原氏:パリでも、ギャルソン3ブランドが発表する日は、来場者も背筋が伸びているような雰囲気があります。朝1本目のJunya Watanabeから、集まる人たちの「服を見に来ました」という空気感をすごく感じる。必死に何かを見に来る姿勢をJunya、Noir、Garçonsの1日は感じます。パリでギャルソンが果たしている役割があると思います。

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Photography by Kazumi Miyamae
Interview by Tomoko Kawasaki

Takenori Osawa / Takuro Ogasawara

大澤 武徳 / 小笠原 拓郎
大澤 武徳
株式会社ファッションコア ミッドウエスト 代表取締役社長
1968年5月10日生まれ。
創業48年を迎えるセレクトショップMIDWESTの2代目。
東京、名古屋、大阪に店舗を構え国内外のバイイングやデザイナーとの交流による独自の別注やイベントを行なってきた。

小笠原 拓郎
1966年、愛知県生まれ。92年にファッションビジネス業界紙の繊研新聞社に入社。95年から欧州メンズコレクションを取材する。2002年から欧州とニューヨークのウィメンズコレクションの取材も担当するなど、30年近くにわたり世界中のファッション事情を考察し執筆している。これまで見てきたファッションショーの数は1万5000を超え、まさに日本で一番たくさんのファッションショーを見てきたファッションジャーナリスト。そのキャリアを通じて培った審美眼から生まれる批評が、読者からの高い信頼を得ている。