INTERVIEW 12/01/2025

ssstein 浅川喜一朗 | FASHION PRIZE OF TOKYO 2025 受賞ブランドインタビュー

sssteinデザイナー

ssstein 浅川喜一朗 | FASHION PRIZE OF TOKYO 2025 受賞ブランドインタビュー

2016年に浅川喜一朗が立ち上げたsssteinは静けさと力強さを感じさせるジェンダーレスなファッションブランド。2023年にはRakuten Fashion Week TOKYOにて初めてのランウェイショーを開催し、2024年にはFASHION PRIZE OF TOKYO 2025を受賞し今年初めてパリでコレクションを発表した。こだわり抜いた素材使いや独特のシルエット表現に定評があるブランドを牽引する浅川氏に、ここまでの道のりと二度の海外発表を経て気になるブランドの今後について、話を聞いた。

ブランドをスタートされて2026年で10年という節目を迎えられますが、どのような歩みで現在のポジションを獲得されたのでしょうか?

carolという自身の店舗で扱っていた古着をリメイクしてお客様に販売するところからブランドは始まりました。それ以前は独学で洋服を分析していましたが、自分なりにここはこうだったらなと思うところを改善すべく、お店のお客様に合う形で古着を解いて縫ってパンツを組み直すということを始めたんです。2018S/Sシーズンから展示会形式で卸先様に向けて発表し、少しずつ表現の幅を広げ、2019年には取引先の店舗が増えました。ものづくりのアプローチが現在の方向性に近くなってきたなと感じているのは2024A/Wシーズンくらいからで、より自然体でさらっと着用でき、でもどこかムードがあってというようなバランスになりました。ミニマルで静的な美しいものを作りたいというコアはブランド当初から変わりませんが、自分の中で伝えたいムードがコレクションとして実現したと感じたのはこの頃です。

浅川さんが伝えたいムードとは、どのような要素から成り立っていますか?

人と会えなくなったコロナ禍を経て、気軽に会って話したり、食事に行けることが嬉しくて、誰かに会うことって贅沢だなと思ったんです。家族がいて、友人がいて、日常的に会うことが出来るって、とても心地が良くて素敵なことだなと。そういう感情をものづくりに込めたいなと思って、ふらっと外出する際でも格好良く見えたり、毎日さらっと身に纏うだけで気持ちが前向きになるようなものづくりをしたいと考えるようになりました。

浅川さんのものづくりは日常に根ざしたものなのですね。

暮らしの中でいいなって感じられる場面ってすごく多い。仕事に追われたり余裕がなくなったりもしますが、格好いいな、美しいなと感じられる状態で常にいたいと思っています。そのように日頃から吸収したクラシック、ヴィンテージ、モードでモダンなもの、様々なプロダクトのいいなと思う点を集めて、ブランドの空気感に繋げているような感覚です。僕自身譲れないディテールも多いので、チーム内でとことんものづくりに関して話をしています。

また、理想論にはなりますが、ブランドに関わってくださる方がハッピーでいられることを目指しています。生地屋さんや縫製工場の方々、さまざまな技術を誇る工場の方々が協力してくださることでコレクションは成立しています。自分たちが頑張ることで関係してくださる方々の労働環境や給与面も安定し、良い循環で回っていけたら嬉しい。

6月にパリで発表された26S/Sシーズンに関してコレクションのテーマを教えてください。

毎シーズン大きくコレクションのテーマは変わらないので、ミニマルであるけれども凛とした強さがある全体感はキープしつつ、コリーヌ・デイの写真に見られる青みや緑み、あるいはヨーガン・テラーの写真の雰囲気のベージュといった、着用している人のフィルターで色を感じるようなイメージで作りました。テーマカラーということではなくて、纏う人たちのオーラと交わって伝わる色というか。素材の毛羽立ちや透明感ある糸を紡ぐからこその色を表現しています。

海外バイヤーもそうしたストーリーを理解されている感覚はありますか?

理解してくださっている方もいますが、単純に服、ショーを見てピックされている方もいます。理解度の段階はそれぞれなので、プレスリリースなど事前の準備によって出来る限り意図を伝えるようにしています。

現在のビジネス概況も教えてください

直近の26S/Sシーズンで、国内が50アカウント、海外が65アカウント程度のお取引先があります。積極的に広げていくというより長くお付き合い出来る店舗様と丁寧な関係づくりを目指してご一緒させていただいています。昨年まで海外アカウントは30弱でしたが、FASHION PRIZE OF TOKYO受賞によってパリでプレゼンテーションを開催したことによって認知は広がり、パリでのショールームにご来場いただける店舗様も確実に増えました。また、基本的にSML展開ですが、メンズサイズを女性のお客様が着用いただくことも多く、海外でもウィメンズ店舗のお取引がスタートしました。海外を始めた際はアジアからでしたが、今はヨーロッパ、アメリカの店舗が増えています。

パリでのコレクション発表は、どのような意識で臨まれましたか?

まずパリで発表するということが 本当にありがたい機会で率直に嬉しいという気持ちでした。パリでの発表だからといって何か違うことに挑戦しようという意識ではなく、自分たちが普段大切にしていること、自分たちが表現したいことを掘り下げて、ブランドとして純度の高いものを発表したいなという思いで臨みました。

実際にパリを訪れてみると、日本ブランドに対して前向きなバイヤーさんが多いなと感じました。川久保玲さん、山本耀司さんを始め、最近ではオーラリー岩井さんなどの実績によって、日本ブランドは良いものづくりをするという好印象がバイヤーさん達の間であり、最初からポジティブなテンションで見てもらえるんです。先輩方のそうした財産は本当にありがたく、自分たちもパリで発表するなら、そういう立場になれたらと思いました。

二度のパリ発表を経て、手応えはありますか?

パリではインパクトある強いプロダクトに対する反応があると周囲から話を聞いていたのですが、ミニマルさ、テキスタイルなど私たちが大切にしている、ブランドらしいポイントに対して手応えがありました。自分たちがいいなって感じている点をそのまま評価してもらえたことで、海外用にブランドをチューニングする必要がない、自分たちなりの精度を深めていくことが大事、という自信を得ることができました。

コレクションの純度を上げていくための課題は?

年々より良いものづくりが出来るよう取り組んでいますが、縫製、生地、色出し、シルエットにおいて、普通っぽく見える中でも「どこか自分たちっぽい空気感を感じられるもの」を追求していきたいですね。発表を重ねて、ものづくりだけでなく見せ方の部分でももっとこうしたいと様々な部分で感じているので、一つ一つに向き合ってレベルを上げていくことが必要だと思っています。

見せ方の部分で大事にされていることを教えてください

お客様、お取引先様に対して、 一つ一つの生地がどう作られているのか、シルエットを構成している仕様など、毎シーズン全てのプロダクトに対して自分なりに全て書き起こしてお渡ししています。一見普通っぽい洋服でも、そういった点が伝わると受け取り方が変わると思うんです。もちろん全てを伝える必要はないと思うのですが、お客様に合わせて余白を持たせつつ、ムードを作り出す背景、ストーリーを届けられたらと考えています。

ブランドの今後の展望を聞かせてください

ブランドとしてのコアは変えず、目の前のプロダクトと向き合い、丁寧に作って届けていくことを続けていくことでしょうか。靴や小物など、ブランドとして新しく準備を進めているアイテムもあります。また、ウィメンズの需要が増えているので、女性像を感じられるスタイルも少しずつ見せていけたらと考えています。

浅川さん個人として挑戦してみたいことはありますか?

洋服を作ることが本当に好きなので、ずっと服づくり!ということになりますが、カテゴリーの異なる色々なものづくりを通して新しい視点は得られると思っています。他を勉強することによって、服づくりに異なるフィルターを持ち込むとか、そういったアプローチに興味があります。

FASHION PRIZE OF TOKYO 2025を受賞されて、この1年間どのような時間になりましたか?

権威ある賞をいただけたことがまず本当に嬉しかったですね。本格的に海外へチャレンジしたいタイミングでの受賞だったので、国内外で認知が拡大したという実感と共にブランドとしてターニングポイントになったと思います。今後もパリでの発表を継続するつもりですが、その大きなきっかけを得られた一年でした。

Kiichiro Asakawa

浅川 喜一朗
1986年生まれ。山梨県出身。
2016年4月 渋谷区神宮前にセレクトショップ「carol」をオープン。2016年7月 パンツ3型から「stein 」をスタート。※2024AWシーズンより、ブランドロゴ表記を「ssstein」に。