[ Interview & Report ] MAR. 17, 2014
“EN” Special Conversation vol.2
添島勲商店/石橋 直樹 × FUGAHUM/外所 一石“EN” Special Conversation
石橋直樹(写真左)
添島勲商店 インテリア部 課長
外所一石(写真右)
FUGAHUM(フガハム)プロデューサー
Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2014-15 A/W開催期間中に、日本の技術とクリエイターが出会うトレードショー/エキシビション“EN”が渋谷ヒカリエ8Fで開催される。
日本の伝統技術や職人の技を活かしたプロダクトを生み出す産地企業と、他業種とのコラボレーションなどを積極的に行っているファッションブランドがタッグを組み、新たなプロダクトを制作する今回の試みに合わせ、本サイトで全4回の対談シリーズをスタート。
第2回目となる今回は、日本の伝統的な天然素材である「いぐさ」を用いたプロダクトを手掛けるなど、さまざまな試みを行っている添島勲商店 インテリア部 課長 石橋直樹氏と、日本の職人とのものづくりにも取り組んできたFUGAHUM(フガハム) プロデューサー 外所一石氏が、コラボレーション商品のコンセプトや制作過程などについて話してくれた。
今回のコラボレーションが決まった際、どのようなことを考えましたか。
外所:フガハムは文化的遺伝子とされている「ミーム」をデザインし、それを社会に残していくということを目的に活動していますが、言い換えると自分たちが目指しているのは民衆の生活の中から生まれた現代の民芸品、民芸服のようなものを作ることでもあります。そういう意味でも、伝統的ないぐさという素材を使ってインテリアなどの新しい領域での取り組みを行っている添島勲商店さんを非常にリスペクトしていますし、今回フガハムというブランドがいぐさという素材や添島勲商店さんの取り組みを解釈しながらものを作っていけるというところが非常に魅力的だと感じました。
石橋:フガハムさんのこれまでの活動を見させて頂き、非常にコンセプトが独創的で、原点を大切にされているように感じました。今お話 し頂いた民芸品の話にもつながりますが、世界各地の民族の風習やそこから生まれるデザインというのは原点まで遡っていくと共通する部分が多いと思います。フガハムさんはその根本的な部分を追求されているブランドだと感じましたし、今回こうした形でコラボレートさせて頂くことでいぐさを知らない人たちがどのように受け入れてくれるか、その反応を見る機会にもなる非常に楽しみな企画だと思いました。
実際のやり取りはどのように進めているのですか。
外所:添島さんは拠点が福岡なので、まずはメールや電話ベースでのやり取りから始まったのですが、やはり一度現地に行く必要があると感じ、工場に伺いました。いぐさの匂いを感じながら、さまざまな種類の畳に囲まれる中で工場を見学させて頂き、実際に作りたいと思うものが大きく変わっていきました。
石橋:完全に現場発想で進んでいきましたよね。いぐさというのは香りのある独特な素材で、イベントなどに持って行っても若い人や海外の人の中にはそこに反応される方も多いですし、香りを通して色々なことを思い浮かべてくれたりするのはありがたいです。最近は、日本人でも家に畳がない方が多いのですが、おじいちゃん の家などを思い出して、懐かしいと感じてくれるようですね。
外所:現場に伺うことで得られた情報 はとても多かったのですが、こちらからアイデアを出した時に、参考になるファッション関連のビジュアルなどを送ってくれたことにも驚きました。今回のようなケースだと、こちら側からどんどんアイデアを出していくという形になることが多いのですが、石橋さんからも畳とハイヒールが一緒に写っているファッショ ンビジュアルなどを出して頂いたんです。昔気質の職人さんだったら、畳にハイヒールなんて絶対許さないと思うのですが(笑)。添島さんには新しいものを受け入れる器の大きさがあり、独自の技術を進化させていくためにはこういう姿勢が必要なんだろうなと改めて思いました。
石橋:いぐさに限らず、伝統的な素材の産地の多くは300~400年ほどの歴史を持っているのですが、つまりそれだけ多くのものが江戸時代に生まれたということなんです。どうしても伝統産業と言うと、昔からの技術を残して継承していくということばかりに目が向きがちですが、江戸時代には革新的な試みが頻繁に行われていて、その中から使いやすいもの、洗練されたものだけが現代に残ってきたと思います。だから、現代においても次々と色んな試みをしていく必要があると思いますし、我々としても今回の取り組みも含め、さまざまな素材の可能性を追求していきたいと考えています。
外所:それは先ほど話した「ミーム」の考え方とも同じです。「ミーム」というのは文化を形成する情報で、遺伝子が子孫にコピーされるように、人の心から人の心にコピーされていくものなんですが、遺伝子のように複製、伝達、変異という過程を通して進化していきます。そうした長い目で見れば、変異するのは当たり前のことですが、どうしても世の中には変えてはいけないという風潮が強い。ファッションブランドにしても、毎シーズン変わらないといけないと頭では考えていても、どこかで縛られている部分があるような気がしています。その一方で、伝統産業を継承している添島さんからは、変わろうとするパワーが強く感じられます。
今回の「EN」では、どんなプロダクトを作っているのですか。
外所:今回まず考えたことは、せっかくなら添島さんがまだやったことのない新しい提案をしたいということでした。そこで、畳とは対極にあるデジタルのモチーフとして、初期のシューティングゲームをイメージさせる図案を作り、それをラグマットなどに展開する予定です。今回は、デジタルのモチーフでありながら誰もがどこかで見たことのあるものを、いぐさで情緒的に表現するということにチャレンジしたかったんです。日本独自の文化である畳とゲームというものを、喧嘩させるのではなく、融合させるということを目指しました。
石橋:この図案を見た人が、何の素材で作られているのかということを、直に触れることで知ってもらえるといいなと思っています。最初に図案が上がってきた時に、立体的に表現した方がいいのではないかとこちらで解釈させて頂きました。機械織りには大まかに3種類の方法があるのですが、その中でも柄をハッキリ表現するために経糸を多く使った織り方をセレクトし、それをより立体的に見せるための細かい検証をしている段階です。
外所:もちろん作ったプロダクトを買ってほしいという思いはありますが、それと同時に、このプロダクトを見た他のファッションブランドなどが、「いぐさでこういうことができるんだ」「自分たちだったらこうする」と感じてもらえるといいなと思っています。ファッションが持つ力というのは、プロダクトだけにあるのではなく、それらを波及、活性化させていく部分にもあると思っていて、それが自分たちの目指す「ミーム」のデザインでもあるんです。当然そのために新しいものを追求していくわけですが、無理に作る新しさではなく、目の前にあるものをこれまでと違った視点で捉えるということが大切だと思っていて、今回もそれを強く意識しています。
石橋:我々の業界というのはファッションとは違って、10年、20年と長く売れるものを作り続けたいというスタンスで取り組んでいるのですが、ファッション業界の人たちがどういう感性でこのプロダクトを受け入れてくれるかというのは非常に楽しみです。近年はファッションの分野でもインテリアなどをはじめ、ライフスタイルが重視されてきていると思うのですが、いぐさもその関連アイテムとして位置づけられるようになれたらうれしいですね。生産の現場に戻ると、いぐさの国内生産量は年々減少していますし、後継者不足の問題などもあり、厳しい状況があります。だからこそ、どんな形でも業界全体のプラスになるようなことを発信できたらという思いがあります。仮に1社だけが儲かっていたとしても産地としては残らないですし、業界全体を活性化させていく必要があると考えています。
外所:それはファッションブランドも同じで、何でも自分のところだけでやる時代ではないと思っています。自分たちが面白いと思っているものをどれだけ波及させていけるかということが大事ですし、例えば今回のコラボレーションがきっかけになって、いぐさブームのようなものが生まれたとしたら、ブランドとしてこれほどうれしいことはありません。そういう意味でも、今回はバッグなど身近なファッションアイテムではなく、より幅広い使い方やアイデアを想像してもらえるような形に落とし込みたいという思いがありました。
海外に向けた発信という部分はどの程度意識されましたか。
外所:自分たちは今回に限らず、日本/海外という考え方ではなく、「世界」という視線を常に持っています。例えばフガハムでは、ヨーロッパの生地も使っていますし、日本産にこだわっているわけではありません。ただ、自分たちが日本人だからかもしれませんが、凄いと思う技術の多くは日本の職人のものだったりします。日本の職人は、効率化することができない大事な部分に対する意識がずば抜けて鋭いですし、それは残していかないといけないものだと思っています。
石橋:海外のイベントなどに行くと、国内の繊維メーカーが面白い生地を作っていて、そこで初めて存在を知るなんていうことも多いです。海外という視点を考えた時には、いかにその国の生活スタイルの中で受け入れられるアイテムを作っていけるかということが大切だと考えていて、それは我々が扱っているいぐさにしても同じです。文化の押し売りで終わるのではなく、向こうの生活の中で使って良かったと思って頂けるものを作ることができれば、世界に出ていけるのではと考えています。
Text by Yuki Harada