INTERVIEW 05/02/2025

Andreas Murkudis アンドレアス・ムルクディス

店舗オーナー・バイヤー

Andreas Murkudis アンドレアス・ムルクディス

2025年3月開催のRakuten Fashion Week TOKYO 2025A/Wに向けて、JFWOの招聘プログラムにより来日を果たしたAndreas Murkudis。世界各国から200ブランドを取り扱うベルリンの著名ストアのオーナーバイヤーである彼は、デザインとファッションの分野においてドイツで最も有名で経験豊富なリテイラーの一人だ。大の親日家でもある彼から見た日本ブランドや各国のファッション・ウィークの印象について話を聞いた。

度々来日されるほど、東京がお好きだと伺いました。どういった点を気に入っていらっしゃいますか?

デザイン、クラフトマンシップ、歴史、建造物、食事、様々な要素やシーンに私は圧倒され、東京はいつもインスパイアを与えてくれる街です。過去には30キロ分の書籍を購入して帰国したこともあるほど、毎回買い物も楽しんでいます。見るものすべてが欲しくなる街ですね。東京の小さな通りを歩いているだけでも、他国文化がミックスされたディスプレイやデザインを目にすることが出来て発見が多い。今回も東京で買い物をあれこれ楽しんだので、これからインスタグラムでまとめて投稿する予定です。
また、親切な人も、素晴らしい職人、クリエイター、デザイナーも本当に多く、すべてがパッケージングされているような感じがします。そういう点がこの街とこの国が大好きな理由だと思います。

ランウェイショー、ショールームにも多く足を運んでいただいていますが、本日(3/21)までで印象に残ったブランドはありますか?

最も感銘を受けたのは pillings。ショーが非常に良かったですね!私は彼らのコレクションを見たことがなかったからそのままショールームに伺い、ニットの種類の多さに驚きました。“knitwear couture”と呼びたいほど、高いクオリティにも感動を覚えました。pillings は必ず買い付けるつもりです!

pillings 2025 A/W collection


また、数年前からチェックしている HYKE も素晴らしかった。彼らはヨーロッパでショーをしてくれないから、コレクションを買うために日本に来たいと思うほどです。ダンスホールやインテリアの雰囲気が気に入った FETICO も、いくつか買いたいと思わせるようなアイテムがありました。BASICKS は残念ながら私の中であまりピンと来るものがなかった。そして、今見終わったばかりの TELMA は本当に美しかった。ドリス出身のデザイナーが提案したドレスやコートは素敵なものが多くてとても良いショーでしたね。そして、この後の Chika Kisada などこれからも見たいブランドがいくつかあります。

TELMA 2025 A/W collection

良い出会いが今回東京で生まれて嬉しいです。ブランドを買い付ける際の基準を聞かせてください

私の店舗では、現在200ブランドと取引があり、店内には常に5000〜7000アイテムが並んでいます。アイテムを半分ほどに減らしたいと思うこともありますが、これまで取引してきたブランドを切り捨てることは出来ないので、新しく買い付けるブランドの選定をシビアにせざるを得ない状況ですね。
買い付けるかどうかのジャッジはとても簡単なプロセスで、いつも二分ほどで終わります。商業的なことは考えず私自身が好きかどうかで決めています。私は美術館で働いていて、目で見ることを学んできましたし、バイヤーとしての長いキャリアがありますから。今、私が pillings を買うとしても、それを欲しがっている人がいるかどうかはわからない。でも、私はそれが好きだから買う。これが私の決断です。自分が欲しいと思うもの、友人にも着せてみたいと思うようなものしか買いません。

商品をピックアップする際のポイントはありますか?

私はまずデザイナーと話をしてから商品を見ます。彼らはどのように考えて、どこでどうやって素材を調達し生産しているのかを説明してくれ、それで本当に十分なんです。価格はそれほど重要ではありません。2,000ユーロするセットアップだったとしても、私と同じように欲しいと思ってくれる常連の顧客がいますから。

注目している最新のファッショントピックはありますか?

私はトレンドに全く興味がありません。トレンドに敏感でいるのは、私らしくないと思います。私の店舗では200年の歴史を持つブランドも創業2年のブランドも扱っています。流行に左右されるのではなく、長く着られるものを売りたいと考えているからです。今は非常に物価が高いこともあって、丁寧な手入れのもと長く大切に着られるものを提案したいですね。

今回、東京のファッション・ウィークを公式に訪れていただきましたが、パリ、ミラノ、ロンドンなど他都市のファッション・ウィークとの違いを何か感じましたか?

パリは非常に多くのブランドを一堂に見られるファッション・ウィーク。東京でも、もっと多くの日本ブランドがショーをやってくれるといいなと思います。そうすれば、海外バイヤーが多数来日し、彼らも日本のブランドを買うようになると思います。
また、時には海外ブランドが東京に来てショーをすることも面白いでしょう。東京には他都市とは異なる様々なチャンスがありますし、美味しい料理、素敵なショップ、刺激的な街といった要素が揃う稀有な場にはもっと多くの人が集まり、ロンドンやミラノよりも素晴らしいファッション・ウィークを創り出せるはずです。政府が日本でショーをしたいと考える海外デザイナーを支援し、世界中の人が集まるファッションの祭典を東京で行うことは本当に魅力的だと思います。

日本のファッションブランドが海外で活躍するために必要なことは何だと思いますか?

素晴らしいファッションデザイナーが日本には多く存在するのに、日本にファッション・ミュージアムがないことは大きな問題だと思います。NYメトロポリタン美術館やパリのガリエラ宮殿のような、日本デザイナーの作品を展示している大きな美術館が存在しません。日本ファッション史のルーツを一堂に、大々的にまとめた場所があることで、日本のファッションに注目する人たちは国内外で増えます。そうした場所があり、ファッション・ウィーク東京と連動していくことで、ファッション業界全体がもっと面白くなるはずです。アジア近隣諸国はファッション・ミュージアムを所有し、大規模な展覧会を行うようになっています。ファッションは日本が誇るべき文化遺産であり、重要な産業だと個人的に思うので、政府を絡めてぜひ検討して欲しいですね。

Andreas Murkudis

アンドレアス・ムルクディス
デザインとファッションの分野でドイツで最も有名で経験豊富なリテイラーの一人。ベルリンに3店舗を経営する彼は、短期的なトレンドサイクルを超越した最高品質のユニークな品揃えを提供している。広い店舗では、デザイナー・ファッション、オブジェ、化粧品、インテリア・デザイン、ホーム・アクセサリーを展開すしている。2022年、ムルクディスは20周年を迎え、ベルリンのクリエイティブ・シーンに欠かせない原動力としての地位を確立した。