Interview & Report

アンドレアス・ムルクディス

アンドレアス・ムルクディス Andreas Murkudis

MBFWT 2016 A/W 海外ゲストインタビュー vol.1

「Andreas Murkudis」オーナー/アンドレアス・ムルクディス

ファッション、インテリア、デザイン雑貨、アート作品など、ジャンルを問わず高品質なアイテムを取り扱っているベルリンを代表するセレクトショップ「Andreas Murkudis」。そのショップのオーナーであり、商品のバイイングも行っているアンドレアス・ムルクディス氏が、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2016 A/W会期中に、JETROの招聘で来日した。さまざまなシーンを俯瞰し、独自の審美眼で時代の空気を切り取ってきた彼に、日本のブランドや東京の街の印象、自らのショップのこだわりなどについて話を伺った。

 

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来日は今回で何回目ですか。

2回目です。初めて日本に来たのは昨年10月で、その時もさまざまなショップやショールームなどを回りました。私の店では、以前から日本の洋服やコスメ、雑貨などを扱ってきましたが、ファッションに関しては、価格が高いというイメージがあり、新規ブランドの導入を慎重に考えていました。ところが、前回JETROの招聘で初めて日本に来て、数々の素晴らしいブランドと巡り合うことができ、考えを改めました。私はファッションだけではなく、インテリアや家具、陶器などにも興味を持っているのですが、日本に滞在している期間中、これらすべての分野において、ヨーロッパにいる時以上に刺激を受けることができました。

 

東京のショップや人々のファッションについての印象はいかがですか。

東京では、ひとりで色々な場所を歩き回ったのですが、街角でさまざまな面白い店を見つけることができました。ファッションの店に限らず、本屋やインテリアショップ、ギャラリーなどがそれぞれしっかりしたコンセプトを持ち、きめ細やかなショップづくり、ブランドづくりをされている印象を受けました。
また、東京の街では、非常にクリエイティブな着こなしをしている人たちをたくさん目にしました。同時に、ひとつ不思議に感じたことは、日本ではラグジュアリーブランドのアイテムが売れているにも関わらず、それらを身に着けている人をあまり街中で見かけなかったということです。そういう人たちは、一体どこにいるのでしょうか?(笑)

 

アンドレアスさんのショップがあるベルリンの人たちのファッションは、東京とはだいぶ違いますか。

ベルリンには、経済的に豊かではない人たちもたくさんいるので、ラグジュアリーブランドを着るのは少数派で、蚤の市やヴィンテージショップなどで安く購入した古着を愛用している人が多いです。ただ、その中でも自分なりにクリエイティブなスタイルをしている人たちは多くいます。また、これはヨーロッパ全体の傾向と言えるかもしれませんが、有名ブランドのネームバリューに惹かれるお客様が多い気がします。一方で日本には、商品の品質や、ものづくりにかけられている手間などに関心を持つ方が多いということを感じていて、そのあたりもベルリンとは違うように思います。

 

AndreasMurkudis_HP

Andreas Murkudisウェブサイト
www.andreasmurkudis.com

「Andreas Murkudis」をベルリンにオープンされた経緯についてもお聞かせください。

私は、自分のショップを開く前に20年ほど美術館で働いていました。そろそろこの仕事も終わりにしようと考えていた頃、ベルリン中心部の路地裏に古い建物があることを知り、そこをリノベーションして小さなショップを開いたのが、現在の仕事の始まりです。当時からレディス、メンズそれぞれの洋服やアクセサリー、コスメ、家具や陶器、本など自分が気に入ったものをジャンル問わず置いていて、それは現在に至るまで変わっていません。ショップは徐々に軌道に乗り、最終的には同じ建物の中に6つの店舗を持つようになりました。しかし、徐々にその地域全体が商業化されていったこともあり、2011年にポツダマー通りというエリアにある敷地約1000平米、天井高20メートルの建物に移転し、6つの店舗をひとつにまとめたショップとしてリニューアルオープンしました。

 

商品のバイイングにおいては、どんなことを大切にされていますか。

これもずっと変わっていないことですが、商品の品質、デザイン性、手仕事の3つをしっかり見るようにしています。私はバイヤーであり、ショップの経営者でもあるので、常に最終的な決断を下す立場にあります。その中で頼りになるのは自分の勘です。もちろん、売れるかどうかということも考えますが、実はそれは自分にとってはそれほど重要なことではありません。自分が良いと思えるものであれば、たとえ10年以上売れなかったとしても置き続けますし、一度取り扱ったブランドについては、こちらから取引をやめるということはなく、長くお付き合いするようにしています。また、私たちはヨウジヤマモトやセリーヌなどの有名ブランドも取り扱っていますが、同様にまだ世に知られていないブランドでも品質が高いものであれば、同列に紹介するようにしています。

 

AndreasMurkudis_instagram

Andreas Murkudis インスタグラム
www.instagram.com/ANDREASMURKUDIS/

そうした無名のブランドはどのように見つけてくるのですか。

年に6~8回ほどパリに行っていますが、そこで新しいブランドを発見することは多いです。それ以外では、友人のネットワークから情報を得たり、インターネットなどでリサーチもしています。また、今回のように海外に出張をする際には、ガイドブックなどには出ていないような場所を自分の足で歩き回るようにしていて、そうすることでさまざまなものと出会うことができます。できるだけ長い期間現地に滞在し、その中で発見をしていくというのが最良の方法だと感じています。

 

東京ではファッションショーもいくつかご覧になりましたか。

いくつか拝見しました。何かを語れるほどたくさん観たわけではないですが、どれも準備やプレゼンテーションにおいてプロフェッショナルという印象を受けました。パリにはよく行くという話をしましたが、実はパリでもあまりショーは観ません。パリでは大体3、4日間滞在するのですが、ひとつのショーを観るためには移動や待ち時間などで数時間費やしてしまいます。もちろん、プレス関係者にとってショーは非常に重要なものですが、バイヤーにとってはそれほどではありません。私としては、ショップに陳列されている洋服を、できるだけお客様と同じ視点で見て判断したいと考えています。

 

今回の来日で、新規の取引はいくつか決まりそうですか。

はい。ファッションに限らず、今回新たに導入するものを含めると、合計30ほどの日本ブランドを取り扱うことになる予定で、店にもっとスペースが必要だと感じています(笑)。日本では本当に驚かされることだらけで、さまざまなインスピレーションを得られました。正直まだまだ時間が足りなく、東京を去ることが辛いので(笑)、今後も定期的に来たいと思っています。

 

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ぜひ、これからもドイツで日本のブランドを広めてください。

もちろんです!今回、日本に来た私には、ここで発見したことをヨーロッパに伝える大使のような役割があると感じています。来日前の私自身がそうだったように、まだ欧米では日本のことがあまり知られていなかったり、イメージが正しく伝わっていない部分があります。そういう意味でも、今回JETROの招聘で来日できたことには非常に感謝しています。しっかりとしたリサーチのもと、的確なブランドをピックアップしてくれるシステムは素晴らしいと感じますし、ベルリンにとっても模範になる取り組みだと感じました。 また、今後は日本のファッション、プロダクト、デザインなど各分野のトップに位置づけられるクリエーションを集めて、ヨーロッパでプレゼンテーションするような良いシステムが確立されると良いと思います。それは、日本に来る時間やコストが確保できないバイヤーたちにとっても非常に有益ですし、それをきっかけに日本に足を運ぶ人も増えるのではないでしょうか。

INTERVIEW by YUKI HARADA

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