丸龍文人 × 山縣良和 Fumito Ganryu × Yoshikazu Yamagata
丸龍文人/FUMITO GANRYUデザイナー 山縣良和/writtenafterwardsデザイナー、coconogacco代表
丸龍文人
文化ファッション大学院大学を卒業後、2004 年にコム・デ・ギャルソンに入社。
ジュン ヤ ワタナベ・コム デ ギャルソンのパタンナーを経て、 2008 年 同社内で「GANRYU」をスタート。
2018 年、シグネチャーブラ ンド「FUMITO GANRYU」を立ち上げ、ピッティ・イマージネ・ウオモ にて招待デザイナーとしてデビュー。翌 2019 年より、パリ・コレクショ ン公式スケジュールにてコレクションを発表している。
山縣良和(writtenafterwardsデザイナー、coconogacco代表)
1980年鳥取生まれ。2005年セントラル・セント・マーチンズ美術大学ファッションデザイン学 科ウィメンズウェアコースを卒業。在学中にジョン・ガリアーノのデザインアシスタントを務める。2007年4月自身のブランド「writtenafterwards」を設立。2009年春夏より東京コレクションに参加。2015年日本人として初めてLVMH Prizeノミネート。 デザイナーとしての活動のかたわら,ファッション表現の実験と学びの場として「ここのがっこう」を主宰。2018年より東京藝術大学にて講師を務める。2019年,The Business of Fashionが主催するBOF 500に選出。
[ Website ] https://online.fumitoganryu.jp/
[ Instagram ] https://www.instagram.com/fumitoganryu/
[ Website ] https://www.writtenafterwards.com/
[ Twitter ] https://twitter.com/writtenbystudio
[ Instagram ] https://www.instagram.com/writtenafterwards/
文化庁及び独立行政法人日本芸術文化振興会と共に国立新美術館及び島根県立石見美術館で行われる展覧会「ファッション イン ジャパン 1945-2020 —流行と社会」と連動したイベントとして日本ファッション・ウィーク推進機構が「FUMITO GANRYU + Yoshikazu Yamagata (writtenafterwards)」ランウェイショーを開催した。意外性のある組み合わせに加えて彼らならではの多様な視点を備えた演出に、今後のファッション界の未来を見た気がした。ショー開催に至るまでの経緯や考えについて、両デザイナーに話を伺った。
「FUMITO GANRYU」にとっては、東京で初めてのショーとなりましたが、どのような経緯で参加を決められたのでしょうか?
丸龍氏:日々の生活を営む東京でショーやプレゼンテーションをやりたいという想いは以前からありました。情勢的にも海外でフィジカルの発表が難しい中、国立新美術館、JFWの今城さん、ショー全体のディレクションを担当するSEIYA NAKAMURA2.24の中村氏から、展覧会のこけら落としを兼ねた企画としてオファーをいただいたのがきっかけです。もともと、僕も山縣さんも展覧会で作品を展示予定であったこともあり、ファッションの系譜を追っていく展覧会自体との繋がりも随所に感じられる、そう言ったイベントにしたいと考えました。
今回のショーイベントは「FUMITO GANRYU」の2021AWコレクションをwrittenafterwardsの山縣さんが空間演出するというコラボレーションでしたね。
丸龍氏:はい。FUMITO GANRYUとしては、既にパリのデジタルファッションウィークで発表したコレクションを展開しました。「必然的多様性」がテーマのコレクションだったのですが、1月の時点でトムギネス氏にアレンジして貰ったコーディネートとは全く違ったスタイリングにエディットする事で、テーマの側面を表現したいと考えました。いま様々な場面で多様性や多様化というワードを耳にしますが、多様化の先には画一化が待っていると考えていて。繰り返される多様化と画一化、浮かび上がる無数の問いをかたちに出来たらと。
山縣氏:僕は本企画のプロデューサーでもある中村さんから作品を作って欲しいと依頼されて。丸龍さんのコレクションテーマや出来上がった洋服について話を伺いながら、我々と丸龍さんの接点を探っていく中で様々な視点が交差する「point of view」というキーワードが浮かびました。過去・現在・未来という時間感覚や、宇宙・地球・国立新美術館・丸龍さんの服という空間をピンチイン、ピンチアウトする感覚など、物事に対する視点や見方が変わっていくことを演出で表現できたら面白くなるのではと考えました。私たちの作品としては「分解」をテーマに白川郷の合掌造りからインスピレーションを得て制作したオブジェを、動物性繊維、植物性繊維、菌という循環システムと職人の手に思いを馳せながら制作し、国立新美術館の近未来的な空間に、土着的な作品と現代的な音楽を合わせる演出を提案しました。
丸龍氏:ブランド立ち上げ当初から、物作りにおいてエシカルなメンタリティで取り組む事を大切にしています。山縣さんとは地球との向き合い方の様な、コアな部分においてシンパシーを感じていますが、表現の方法や手段が全く違っていて、それが良い意味で表出化されたものをイメージしました。
FUMITO GANRYU×Yoshikazu Yamagata (writtenafterwards) 2021 A/W Collection
ショー後の反響はいかがでしたか?
丸龍氏:面白い組み合わせだったと言われますね(笑)。今回は渡辺淳之介さんが手がけるNEGLECT ADULT PATiENTSとのコラボレーションTシャツをフィナーレで着用させましたが、山縣さんとの取り組みに対して、展覧会のこけら落としとしての企画、そこに必要と感じた別のベクトルでもある高いエンターテイメント性を齎らせられないかと思い、淳之介さんに相談させて頂きました。サプライズアーティストとしてBiSHのメンバー全員をランウェイに起用し、ショー後は対策に配慮した上でアフターパーティーをライブで配信しました。フィジカルでしか体感できない事と、デジタルプラットフォームにおける多元的な試み。通常のランウェイショーではなく、ファッションインジャパンと言う、多角的な視点で捉えた服装史の展覧会にも関連するイベントとして、今を描くこと、そしてこれから何処へ向かうのか、今すぐには理解が出来ない様なもの、その思いや考えが余韻となり、未来へ繋がる一つの点となれば、と思っています。瞬間的にわかるようなものではなく、現時点では言語化が出来ない表現ができていたらと。
山縣氏:国立新美術館の方から「マネキン展示ではファッションの強さを表現できないもどかしさがある。実際のショーでは、エネルギーや強さ、コラボレーションの面白さを感じた」と言ってもらえましたね。あと、実は、会場でショーを観ていた方は特定の視点だったのですが、美術館の上から引いて観ると全く違う景色が見えてきて、見ようによっては、藍染職人の青い手が宇宙人の手のようにも見えたりします。説明したらきりがないのですが、様々な視点で連想できるような仕組みを作っています。コロナ禍の影響もあり、限られた時間の中で分かりづらかった部分もあると思うのですが、個人の視点を変えていく大切さを伝えることが出来ていたら良いなと思っています。
改めて、お二人にとって今ファッションはどのような意味を持っていると考えていらっしゃいますか?
丸龍氏:ファッションはセカンドスキンだと思っていて、自身の思いや気分を助長したり、代弁してくれるもの。着る事を前提にデザインするので、着心地が良いとか、機能的であると言った体感を備えるのは、服として当然の事だと僕は考えます。これからの時代はもっと気持ちに作用する、豊かなメンタリティである為の服が必要になってくると思いますし、そう言ったものを提案していきたいと思っていますが、同時に、纏わないファッションの可能性、ファッションを一つの概念として捉えたアプローチにも、機会があれば是非、挑戦したいと考えています。
山縣氏:ファッションは人間の歴史に寄り添い、人間性や個性を発信するメディアだと思っています。ファッションは人間を人間たらしめる要素であり、AIのようにonかoffではない曖昧な表現ができるものですよね。現実世界、バーチャル世界の個が多様化している中で、ファッションとしてどういうアプローチができるかが重要だと考えています。
今後の展望についても聞かせてください。
山縣氏:今回のイベントは、writtenafterwardsとしては実験のスタートであり、これから開幕する国立新美術館での展覧会、その後、海のシルクロードと呼ばれる長崎・五島列島、長崎美術館、東京と実験は場所を変えて1年間続きます。ショーではフィナーレのときだけ、合掌作りの中に灯篭を持ったモデルがトンネルのようにも見えるオブジェの中に入って出て行くんです。それは今の状況を表現したものであり、コロナ禍の中の暗中模索の中でのこれからに向けた灯火のイメージで、過去、現代、未来を繋いでいます。今後もじっくりと実験を行いながらファッションの役割を提案していきたいです。
丸龍氏:大変貴重な経験でしたし、多くの方々のご尽力があってこそ成り立った催事だと、心から感謝しております。今回のイベントを通し数多くの発見もありましたし、チャンスがあれば是非、新たな挑戦に取り組む事が出来ればと思っています。ブランドとしては、今後様々な企画も控えていますし、フィジカル、デジタルと発表の形式を選択できる時代なので、その時々の提案に相応しいかたちで行っていきたいと考えています。