Interview & Report

印 致聖 Ihn Chisung

印 致聖 Ihn Chisung IHNN (イン)

TOKYO FASHION AWARD 2020受賞デザイナー

東京ベースのデザイナー、インチソンは韓国のソウルで生まれました。文化ファッション大学院大学でファションを学び、2013年に卒業後、ロンドン、ロシア、ソウルなどで卒業コレクションを発表。2015年にブランド「イン」を発表しました。

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「日本でファッションの仕事をしたい」。韓国の大学を休学し兵役中だった二十歳の頃、そう心に決め、2015年に自身のブランド「IHNN(イン) 」を立ち上げたイン・チソン氏。日本ブランドとして展開することにこだわり、デビューから5年を迎えた昨年、TOKOYO FASHION AWARD(以下TFA)2020を受賞し、本格的な海外展開への意欲を見せる。ブランドとして次のステップに挑んでいるイン氏にブランド立ち上げの経緯や服づくりへのこだわり、今後の展望などを聞いた

インさんは韓国出身ですが、なぜ日本でファッションデザイナーになろうと思われたのですか?

韓国の成人男性には兵役と言って一定期間軍隊に所属する義務がありますが、ほとんどの人が大学在学中に入隊します。僕は経営学部の学生でしたが、2年間休学して、兵役を受けました。多感な時期に軍隊で厳しい訓練を受けるため、韓国の若い男の子たちは考え方が大人っぽくなるんです。軍隊では夜中立っていなくてはいけないことも多く、動いてはいけないので、考え事をするしかないじゃないですか(笑)。将来のことを考える時間がたっぷりあって、そこで自分が一番好きなのはファッションで、日本のストリートファッションの影響を強く受けていたので、日本でファッションの仕事をしたいと心に決めたんです。

それで韓国の大学卒業後に来日して、文化服装学院に入学されるわけですね。

はい。文化服装学院で基礎を学び、本格的にファッションデザインを学ぶため文化ファッション大学院大学に進学しました。その卒業時に、ロンドンでショーを行う機会をいただきました。イギリス国内のファッション学校の卒業コレクションを発表する「GRADUATE FASHION WEEK」というものがあって、その一環として行われた、海外のファッション学校の卒業コレクションを発表する「International Catwalk Show」に僕が日本の学生代表として選ばれたんです。ショーの後、『VOGUE』や『ELLE』などに取り上げられたり、有名アーティストの衣装の問い合わせをいただいたり、非常に大きな反響があり、それがブランドを立ち上げる後押しになりました。

日本でファッションデザイナーとして活動されていていかがでしょうか。

日本で活動している大きな理由としては、生地を糸からオリジナルで作れるということです。韓国には東大門という非常に大きな生地の市場があり、トレンドに敏感な国なので様々な色柄の生地がたくさん売られていますが、生地をオリジナルで作るとなると最低ロットが非常に大きくなり、現実的には不可能です。僕は尾州の工場さんに何シーズンもオリジナル生地の製造でお世話になっていますが、デビュー間もないあまり売れていない時期は大変少ないロットでご対応いただきました。日本には全国に特色のある生地産地があって、それぞれで細かなやり取りをしながら生地を作ることができますよね。自分が思うクリエーションを発揮するには、非常に日本は魅力的だと思っています。

どのようなプロセスで服づくりをされていますか?

本や旅行の思い出、身近なものから発想し、ワーディングから服づくりの構想に入ることが多いです。例えば、2020 A/Wコレクションのテーマは「Sanctuary(聖域)」でしたが、「聖」という字は僕の名前「致聖(チソン)」の一文字なんです。「“聖人”のような徳の高い人間になって欲しい」という思いを込めて父が命名してくれましたが、韓国でも珍しい名前で、実は姓の「印(イン)」も珍しいんです。そのためブランド名も「イン」にしましたが、英字表記では「IHN」に「and」を意味する「N」を付け、僕“と(and)”様々なことがつながって欲しいというご縁を願って付けました。「Sanctuary」というテーマは、僕のルーツも含め、IHNNとしてのクリエーションの本質を見せたいという思いから設定しました。

IHNN 2021 S/S collection runway show

この10月、TFAの凱旋ショーとしてRakuten Fashion Week TOKYO 2021 S/Sで、IHNNとして2回目となるショーを行いましたが、いかがでしたか?

2年ぶりのショーだったので、IHNNとして5年間活動し続けて確立した、ブランド独自の“色”を見せたいと思っていました。ショーでは「ロエベクラフトプライズ 2019」でファイナリストに残った信楽焼作家の橋本知成さんの作品とコラボレーションしましたが、橋本さんの長い時間をかけて、まるで生き物を育てるかのようにものづくりに向き合う姿勢に共感し、さらに丹精を込めた分だけ美しい色に仕上がる信楽焼にも魅了され、コラボレーションをオファーしたんです。当初は2020 A/Wコレクションでショーを開催する予定だったため、そのシーズンのテーマ「Sanctuary」で橋本さんとのコラボレーションをイメージしていましたが、コロナの影響でずれてしまい、改めて2021 S/Sシーズンのテーマ「The boundary between Daily and out of Daily」で橋本さんとのコラボレーションの内容を考えました。2021 S/Sコレクションは、コロナ禍で日常が非日常のようになっている状況で、改めて日常での服の在り方を考え、リアルな服で構成しました。ランウェイではリアルクローズと同じ空間に非日常的で不思議だけど素敵な物体が共存する、というちょっと緊張感があるムードを演出するために橋本さんの作品を象徴的に設置しました。橋本さんは大変ピュアなアーティストですが、作品はご覧の通り迫力があって、特に色については言葉で表現できない美しさがありますよね。当初の予定からは変わってしまいましたが、コラボレーションが叶って本当に良かったです。

最期に、今後のブランドの展望について聞かせてください。

まずは、TFA受賞というチャンスを生かして、ブランドの知名度をもっと上げ、国内、海外ともにアカウントを増やしてビジネス規模を大きくしたいと思っています。また、日本の産地の方々のお陰で服のクオリティも上がっているので、IHNNのファンの皆さんに長く着ていただけるような服を今後も作り続けていきたいです。先ほどもお話しましたが、韓国はトレンドに敏感ですが、一からオリジナルでものづくりをするという文化がないので、いつか日本での僕の活動が韓国のデザイナーに何か影響を与えられたら良いなと思っています。

Interview by Sonoko Mita
Photography by Yohey Goto

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