Interview & Report

JUN OKAMOTO

JUN OKAMOTO 岡本 順

JUN OKAMOTO

1997年文化服装学院を卒業後、パリのStudio Bercot に入学。Arexandre Matthieuのアシスタントを経て、自身のブランドを2005年よりパリを拠点にスタート。2011年、故郷の熊本に自身初のショップ「wallflower bu jun okamoto」をオープン。アーカイブのパターンを中心にシーチングでサンプルを作り、ヨーロッパで買い付けた生地やJUN OKAMOTOのオリジナル生地、自身のセレクトした生地を選べるパターンオーダーのシステムで展開している。2012年1月パルコが主催する日本初のファッションにおけるファンド「FIGHT FASHION FUND(ファイト・ファッション・ファンド)」の2組のデザイナーの1人に選ばれる。

 

単身フランスに渡り、自らのブランド「JUN OKAMOTO」を立ち上げ、2010年に拠点を日本に移してからも着実にファンを増やしている岡本 順。シーズンテーマを自身が綴る「ストーリー」という形に置き換え、着る人それぞれが自らの思いや記憶を投影できる服作りを目指す彼は、まもなく開催されるMercedes-Benz Fashion Week TOKYO 2013 S/Sに、初めて参加することになった。パルコが主宰する日本初のファッション・ファンド「ファイト・ファッション・ファンド」の出資先デザイナーに選定されるなど、ますます注目度が高まっている岡本にインタビューを行った。

岡本さんはなぜファッション・デザイナーを志したのですか?

もともと母親が熊本でオーダーメイドのお店をやっていたんです。だから、ファッション・デザイナーという仕事があることは知っていたけど、実際に母の仕事場に行ったことはなくて。その後、高校生の頃にテレビでパリコレなどの映像を見て、これがデザイナーなんだということをようやく知り、高校卒業後に文化服装学院に進学しました。ただ、その当時はパタンナーやMDなど他の職種があるということも知らなくて、かなり漠然とデザイナーを志すようになったという感じでしたね。

その後、フランスに行くことになった経緯を教えて下さい。

専門学校在学中に、研修旅行でパリに行ったことが最初のきっかけです。ピカソ美術館に行くと、たくさんの小学生たちが作品の前に座っていて、先生と思しき人から話を聞いているんですね。僕たちが本などでしか見られない本物の作品を前にして、話を聞いていることに衝撃を受けて、僕もここで暮らしてみたいと思うようになりました。文化服装学院を卒業後、パリのステュディオ・ベルソーに留学し、アレキサンダー・マチューのアシスタントを経て、2005年にパリで自分のブランドを立ち上げました。

単身フランスに留学し、自分のブランドを運営していく中で、どんなことを感じましたか?

まず学校に通っている時に一番学んだことは、何をするにしても、まずは自分自身がファッションを楽しむという姿勢でした。どんなに良い仕事をしていても、寝巻同然の格好をしていたら、作品をちゃんと見てもらえないのですが、皆が自然に自分のファッションを楽しんでいるのが正直でいいなと感じました。また、たとえ多くのお金がなくても、皆生活や仕事を純粋に楽しんでいるんですね。ビジネスになるかわからないまま僕がひとりでブランドを始められたのも、そういう個人的なもの作りのできる環境があったからだと思います。ただ、それはすごく良い部分である一方、どうしても身内だけでやっている感覚があって、色んな意味で広がりが少ないなとも感じていました。

それが日本に拠点を移した理由にもつながっているのですか?

そうですね。ブランドを始めてしばらく経ってから、東京でも展示会をするようになったのですが、こっちで何か話をすると、それが本気で動き出していく感じがあって、とても刺激的だったんです。僕にとっての当時の居場所は完全にパリで、リラックスできて居心地も良かったのですが、何を話してもすべてが溶け込んでしまう感じで、刺激はなくなっていたんです。

日本に拠点を移したことで、クリエーションに何か変化はありましたか?

日本は、パーティやディナーなどに着て行く服も普段着もすべてが一緒くたになっていて、それらが全体的にある程度オシャレという感じがします。そうしたパリとの文化の違いは、自分のスタンスの変化にもつながっています。ちょっとわかりづらいかもしれないですが、向こうにいた時は「どうだ!」という感じで作っていたのが、今は「どうですか?」というニュアンスで作るようになりましたね(笑)。以前は、ヘルムート・ニュートンの写真の中に立っているような女性像を意識していましたが、東京に来てからはもっとリアルクローズ寄りの考え方になって、自分が作る物語の主人公がその洋服を着て動き回っている様子をイメージしながらデザインしています。

2012年春夏シーズンは「朝食・ シャンパン・日々の泡」をキーワードにした3つの物語をもとにコレクションを発表されましたね。

最近、これだけたくさん色んなものがあふれている中で、洋服を買うということに対する意識が少し雑になっているんじゃないかと思うことがあるんです。その中で、もし何かひとつの物語や思い出を持った洋服があったら、他のものとは違うものになるんじゃないかと思って、自分がもともと好きだった文章でストーリーを書いてみることにしたんです。「この洋服は、あの物語のこの場面のものなんだ」というように、それぞれの人に思い入れを持ってもらえる洋服が作れたらなと。これまではシーズン毎にテーマを考えていたのですが、自分が作る洋服はそんなに毎回変わるようなものじゃないから、そこに少し矛盾も感じていたんです。

「朝食・ シャンパン・日々の泡」をテーマにした2012年春夏シーズンのコレクション

「花束・マジック・グレングールド」をテーマにした2012-13年秋冬シーズンのコレクション

ストーリーはどのように洋服に落とし込まれていくのですか?

物語と服作りはほぼ同時進行です。思いついた言葉や場面などを具現化するために生地を作ったり、ちょっとした風合いを考えたりと、ディテールに反映されていくことが多いですね。今回は、花畑から1000個の風船がバラバラに飛んでいって、その一つひとつがそれぞれの夢や思いになるというイメージでストーリーを考えていきました。前回のショーでもたくさんの風船を使って、菜の花畑をイメージした空間を演出したのですが、これだけじゃ終われないという思いが強かったんです。

今回、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYOへ初参加になりますね。

すでに海外からのコンタクトもあるし、見てくれる人の数がやはり圧倒的に増えているのを実感しています。僕は、ブランドの先々までの計画を事前に立てるタイプではなくて、常に目の前の選択肢から良いものを捕まえて、そこから必死になるんです。今回もまさにそういう感じで、ファッション・ファンドに参加した時と同じように、スタートしてみて初めてその大きさがわかりました(笑)。でも、最初から色々考えてしまうと、怖いと思って何もできなくなってしまうかもしれないですよね。

ファッション・ファンドという新しい試みに関わることになり、何か発見などはありましたか?

最初は、パルコが日本初のファッション・ファンドを立ち上げるという話を聞いて、単純に面白そうだと思って応募したんです。ファンドというのはお金を借りるということだから、まずはその前にこちらの数字などをしっかり提示しないといけないんですよね。これまでずっと個人でやっていたこともあって、その辺はかなり曖昧になっていたので、とても良い勉強になっています。

制作に対する意識にも変化はありますか?

そうですね。出資者の人たちがいるので、ひとりではなくなった感じです。夏休みの宿題じゃないですが、毎日ちょっとずつでもやっていかないと、と思うようにもなりました(笑)。コスト面でも、これまではまずは自分が好きなものを作って、その結果として洋服の値段が決まっていた感じだったんですが、最近は、生地値が100円単位で変わった時に、それが上代にどう反映されるのかということも意識するようになりました。また、このファンドを通してパルコの人たちなどと出会って話ができたりと、新しいチャレンジのきっかけも増えたように感じます。

昨年、熊本にオープンしたセミオーダーライン「wallflower by jun okamoto」のショップについてもお話を聞かせてください。

UN OKAMOTOのパターン・サンプルを並べて、それをもとにお客さんが生地を選んだり、丈を伸ばしたりできるようになっています。母親は今もオーダーのお店をやっているのですが、オーダーの技術というのは既製服のものとはまったく違っていて、その技術を受け継いでいきたいという思いがあるんです。僕は普段、自分で形や生地を決めて量産品を作っているので、色などにしても無限に選べるわけではなく、制限が出てしまうんです。でも、このショップに来るお客さんは自分のための一着を作っているから、出来上がった洋服を見せてもらって、こんなやり方もあるんだと驚かされることもありますね。

「wallflower by jun okamoto」(熊本県熊本市)

お客さんとコラボレーションしながら作っていくような感じですね。

そうですね。うちのブランドは、毎回形を変えながら、常に若い人たちが着てくれるような洋服を作っていくというよりは、お客さんとともに歳を重ねながら、それぞれの気持ちや思いが反映されているような、消費されるだけではない洋服を作っていきたいと考えています。今回は、Mercedes-Benz Fashion Week TOKYOという場で発表することで、そういうお客さんがもっと増えてくれるとうれしいし、海外にも広がって欲しい。場所にはこだわらず、ただの取引先やお客さんとしてではなく、コラボレーション相手としての関係性を作っていけたらいいなと思っています。

INTERVIEW by Yuki Harada

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