Interview & Report

小林謙一 Kenichi Kobayashi

小林謙一 Kenichi Kobayashi D-VEC(ディーベック)

グローブライド執行役員

2017年3月にグローブライド株式会社からD-VECがローンチ。
同年同月、原宿キャットストリートに路面店D-VEC TOKYO(現在は閉店)をオープン。
2018年、外苑前の「ifs未来研究所」(Itochu Garden内)にショールームをオープン。
2019年2月、表参道ヒルズに「D-VEC TOKYO EXCLUSIVE」をオープン。
2021年春夏コレクションより、デザイナーズブランド出身のデザイナーが就任。

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2017年3月、釣り用品を主力とする総合スポーツメーカー・グローブライドより誕生したD-VEC。2017~2019年、Fashion Week TOKYOへ参加し、2018年以来、フィレンツェで開催されている世界最大のメンズファッションの展示会Pitti Immagine Uomoに5回連続出展している。2022SSシーズンでは、Rakuten Fashion Week TOKYOにて「FUSION」をテーマにランウェイショーを開催。フィッシングのフィールドで培った素材や縫製・加工技術を、都会のファッションへと昇華させ、機能性とデザイン性の融合に新たな価値を吹き込んだ。常に挑戦を続けるD-VECの歩みと今後の展望について、執行役員の小林謙一氏に話を伺った。

フィッシングをメインに、ゴルフやテニス用品などを手がけるグローブライドからD-VECが誕生した経緯を教えてください。

これまでダイワ精工株式会社という名で事業を行ってきましたが、創業50周年を機にコーポレートブランディングを手がけ、次の50年に向かうにあたり経営理念を一新することになりました。そこでクリエイティブディレクターの佐藤可士和さんに参画いただき、社名もグローバルなものに変更しようということになりました。これまでダイワとして取り扱ってきたフィッシング事業そのものは「DAIWA」としてリブライディングし、ロゴも一新。また、ブランドをより多くの方に知っていただくために、可士和さんとスタイリストの方に入っていただき、“釣り”のアパレルを刷新、よりストイックに、よりカジュアルなものとして大きくブラッシュアップしました。しかし、2011年に起きた震災の影響により、レジャーを楽しむという風潮に歯止めをかけざるを得ませんでした。しばらく積極的なプロモーショナルな動きを控えてきましたが、それから数年経ったころ、再びアパレルを強化しようということとなり、2017年にD-VECをローンチさせました。通常は釣り専門のウエアからアウトドアカジュアルへと順を追って進化させていくと思いますが、「当たり前のことをしても仕方がない」ということで、コレクションブランドへと一気に舵を切りました。

ブランドを立ち上げた2017年からニコファーレ(現在は閉店)やアークヒルズの屋外でもショーを実施されていますが、これはより一般の方の目にとまるようにという意図があるのでしょうか。

2017年に参加したFashion Week TOKYOは、1号店をオープンさせる数日前だったのですが、キャットストリートを封鎖して野外ランウェイを行いました。公共の道路なので、実現させるためには苦労もありましたが、多くの方に見ていただき反響も大きかった。弊社はファッション業界では新規参入組です。他社ブラントと差別化し、違いを出していかないといけない。D-VECはプレミアブランドとしてスタートしましたが、一方でアウトドアの一翼を担うブランドでもあります。B to Cを意識し、エンドユーザーの方々に良さを知っていただき、ブランドを大きくしていくことが大切だと考えています。お客様に「DAIWA」ブランドを知っていただくきっかけとなるショーやイベントは、これからも続けていきたいですね。

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※2017 A/W コレクション

ブランドとして最も大切にしていることを教えてください。

「A Lifetime Sports Company」を自社の在り方としているのですが、釣りは過酷な環境との戦いでもあります。40度の炎天下やマイナス10度を超えるような極寒、大雨や暴風雨など様々な環境下で釣りを楽しむ人々に快適な衣類を提供し続けています。そしてプレミアアパレルであるD-VECでは、“釣り”で培ってきた機能性と華やかなファッション性の融合よる唯一無二の商品をお届けすることを大切にしています。機能性だけではなく、ファッションとして独自の要素を加えることで、ゲリラ豪雨や猛暑など気候変動による悪影響を受ける都会生活にも最先端の技術を用いたファッションをお届けする。“釣り”で培ってきた軽量化技術などを都会生活に転用し融合させることが唯一無二のブランド価値だと思っています。代表的なアイテムとしては、ファッション雑貨の傘ですね。「DAIWA」の基幹技術である釣り竿のカーボン成形のノウハウを活用し、卵約1個分の軽量さを実現させました。他には、衣服内の水蒸気や湿気などの気体だけを外に逃がして不快な“蒸れ”を防ぐ透湿防水素材を使ったウエアなども積極的に展開しています。

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※カーボンテクノロジー ポータブル アンブレラ

機能性を極限まで追求する一方、ファッション性も担保する。これを実現させるには技術面や価格帯などで苦悩されたことが多いのではと思いますが、いかがですか。

“釣り”では機能性が優先され、スペックが重視されます。しかしファッションの世界では風合いや肌触りが大事ですよね。ですから着心地の良い普通のニットに見えて超撥水の糸を使ったり、インナーには湿気を吸着して熱に変えたり、速乾性のある素材を取り入れています。普通の服に見えて「着てみると違いがわかる」、そういったアパレルを生み出すには苦労しましたね。縫製においても、通常の縫い合わせでは肌面に突起ができ、厚みを生み、重くなってしまう。そこでフィッシングウエアで行っている生地同士が平坦になるように融着する技術を用いて凹凸をなくし、軽量化を実現しました。加えて強度も保つ加工を施しています。価格は決して安いものではありませんが、知識が豊富な方には驚かれることはありますね。またD-VECはバーゲンを行いません。バーゲンでは値下げしても利益が出る価格設定をしますが、それをしない分、商品自体の価格を下げることができる。イタリアを代表するウールの高級生地メーカー「REDA」のREDA ACTIVEという素材を使ったようなアイテムでも、価格を抑えることができるようにしています。

※左から2018 S/S、2019 S/S、2020 S/S コレクション

2022 S/Sのコレクションテーマ「FUSION」に込められた想いを伺えますか。

日本語でいうと「融合」ですが、ランウェイには「D-VEC」と「DAIWA」のアイテムを融合させました。また、コロナ禍において、家で着用するホームウエアにラグジュアリーな素材感を用いてオンとオフの融合を表現。「REDA」のアクティブのニット生地を使ったセットアップはまさにそうですね。使ったニットはまさにそうですね。リラックスできるニットでありながら、リモートを活用したビジネスシーンにも対応できる。時代の変化に応じた融合をテーマに展開しています。

※2022 S/S コレクション

ショーのあとには表参道のギャラリーで作品を展示されたそうですね。

ショーでは素材の特徴を伝えきれない側面もあります。そこで、発表したアイテムをギャラリーで展示し、プレスやバイヤーの方々に見ていただく場を設けました。実際に羽織って軽さを実感していただいたり、素材の風合いなどを確かめていただいたり・・・。ランウェイだけでは伝えられなかった体感部分をお伝えできたと思います。

ブランドとして今後の展望を教えてください。

今回のように、ショーの後に直接作品に触れていただける機会を設けることで体験型の提案を行うことができました。今後はこの「体感」をもっとブラッシュアップしていきたいと思っています。ローンチの際、デジタルショーケースという形でデジタルショーを行ったのですが、服の素材感まで伝えることができませんでした。今は通信技術はもちろん、デバイスや アプリケーションソフトも旧型から最新型まで多様化しています。最新の技術を駆使したデジタルショーを行なったとしても、様々な状況によりコンテンツのデータ量が重くなり、快適な環境で見ていただくことが難しい可能性もあります。より多くの方が快適に見ることができるコンテンツを提供していかなければならないと考えています。また、ランウェイにバーチャルモデルを起用し、着用している服が変わっていくというような試みも良いんじゃないかとイメージを膨らませています。D-VECが持つブランドの世界観を追求しつつ、最新技術を取り入れたプロモーション活動を行っていきたいと思っています。

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