Interview & Report

渡部 宏一 Kohichi Watanabe

渡部 宏一 Kohichi Watanabe RAINMAKER(レインメーカー)

TOKYO FASHION AWARD 2019受賞デザイナー

RAINMAKERファウンダー/デザイナー
1980年生まれ。商業施設設計者である父の影響を受け、デザインを学ぶ。
1998年 MORIKAGE SHIRTS KYOTOにて就業、オーダーメイド及び既製服のデザイン/製造を学ぶ。
2008年AW N4 立ち上げ
2008年AW–2013年SS N4デザイナーとしてメンズコレクションを発表
2013年AW 自身のレーベルRAINMAKER立ち上げ


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2008 A/WシーズンにファッションブランドN4(エヌフォー)を立ち上げた渡部宏一氏と岸隆太朗氏が自身のレーベルとして、2013 A/WシーズンからスタートしたRAINMAKER(レインメーカー)。京都を拠点に独自のフィロソフィーを持って、地場メーカーとのコラボレーションを始めとしたユニークなコレクションを発表し続けている。TOKYO FASHION AWARDの受賞デザイナーとして海外市場へのアピールもこの度初めて果たした、ファウンダー兼デザイナーの渡部宏一氏に、ブランドのこれまでとこれからについて話を伺った。

ブランドを立ち上げるまでの経緯を教えてください。

私自身は高校2年生の頃からデザイナーを志望していました。京都の大学に進学して、モリカゲシャツで働き、洋裁学校に通いながらシャツ、パンツ、ブルゾンなどをオリジナルで製作していました。その後、N4というブランドを立ち上げて10シーズン発表した後に、2013 A/WシーズンにRAINMAKERを立ち上げました。ブランド立ち上げと同時に、京都市内に直営店をオープンしました。店舗は買い回りする立地にはあたりませんが、その分静かで、ちゃんと接客ができ、ゆっくり買い物をしていただける環境です。店舗と事務所が同じ建物にあり、お客さまの顔が見える場所でものづくりをしたいという私たちのイメージに叶う物件でした。

なぜ京都でものづくりを行っているのでしょうか?

RAINMAKERが京都を拠点にしているのは、落ち着いた環境でマイペースにものづくりが行えること、京都には昔ながらの技術を持つメーカーや老舗と呼ばれる名店が多く、自分たちのブランド観に沿う新しい挑戦に取り組みやすい場所であることが理由です。

ブランドのコアとなる、デザイン・ものづくりへのこだわりを教えてください。

RAINMAKERは、突拍子のないものや懐古主義的なクリエイションは行いません。歴史的なリソースや文脈のあるものを、現代的な視点、私たちが生きている今の文脈で解釈してものづくりに落とし込んでいます。スーツの歴史がリソースになっているTシャツであったり、ノーカラージャケットにVネックシャツを合わせて、着物の襦袢と半襟の関係性を表現したスタイリングだったり。これらは、京都の直営店では外国人観光客からも人気のあるアイテムです。表層としては和ですが、構造としては洋であり、こうした感覚は一部の海外バイヤーにも受け入れられると感じています。

そうした感覚があるから、京都の地場メーカーさんとのコラボレーションに取り組まれているのでしょうか?

そうですね。以前より交流のあった開化堂(茶筒)、金網つじ(京金網)、細尾(西陣織)などの京都地場メーカーとのコラボレーションは定期的に発表しています。いまは竹工芸の公長齋小菅さんと竹を使用したコインケースなどの雑貨の開発を進めています。元来、京都は世界的な遺産が多数保管される稀なエリアであり、世界のデータベースとしての機能も持ち合わせています。世界中が欲しがる宝が保管され続けている、そんな場所でものづくりを永続して行っていけるような仕組み作りも考えています。

RAINMAKER 2019 A/W collection runway show(ヒカリエホール Bにて)

毎シーズンのテーマはどのように決めていますか?

RAINMAKERとしてシーズンに対する明確なテーマを掲げてものづくりを行うことはしておらず、歴史的なリソースや文脈を現代的な視点で解釈するという姿勢のもと、一貫したものづくりを行っています。その中で、生地のバリエーションでシーズン性を表現したりすることはあります。

TOKYO FASHION AWARD 2019の受賞デザイナーとして、2シーズンにわたって「PITTI UOMO」への出展とパリでのショールーム、さらに東京でのランウェイショーも経験するなど、ブランドとして次のステージに進んでいますが、今後の展望についてお聞かせください。

RAINMAKERは、これまで一度も海外店舗との取引がなく、TOKYO FASHION AWARDでの取組が海外に向けた初めてのプレゼンテーションとなりました。ブランド立ち上げから6年目に入り、海外展開を目指したいという想いはあったので、ものづくりも海外スケジュールに合わせたりと準備は進めていました。とはいえ、海外での展開を特別に意識することなく、国内と同様に、自分たちらしいコレクションをまず見てもらおう、評価をしてもらおうという姿勢で2シーズン臨みました。先日パリで発表した2020 S/Sシーズンについては、ロンドン、カナダ、アメリカのバイヤーからシンプルなジャケットスタイルが高い評価を得て、数社と成約できそうです。

2019年1月にパリで行われたTOKYO FASHION AWARD「showroom.tokyo A/W 2019」の様子

 

2019年6月にパリで行われたTOKYO FASHION AWARD「showroom.tokyo S/S 2020」の様子

海外市場での展開の今後が楽しみですね。

海外でのコレクション発表の目標は、4シーズン目までに10アカウントを獲得することです。TOKYO FASHION AWARDのパリ・ショールーム出展支援がもう2シーズンありますので、それを継続しながら、現地のショールームと契約するのか、自前で地道にセールスを続けていくのか検討して、効果的な方法で展開していく予定です。

渡部さんはデザイナーでもあり経営者でもありますが、ブランドの将来的なビジョンをどのように描いていらっしゃるのでしょうか?

様々な形でブランドの持続が必要だと考えていて、最近、社内にMILL(ミル)という新しいブランドを立ち上げました。それは人材育成という面もありますが、将来的な構想としては、自分たちの地盤である京都に自社工場、工房、企画室、ショップを複合した施設を作り、RAINMAKERとしてのものづくりが永続的に続けられる環境を整えていきたいと考えています。洋服づくりに憧れる要素が少ない現代で、洋服づくりの工程、ブランドの価値観が視覚化された環境があれば、RAINMAKERとしてのものづくりが脈々と続いていく循環ができると思うのです。RAINMAKERの有形な部分だけではなく、ブランドとしての思想や背景つまり無形な部分を応援してもらえるような存在になれたら、と考えています。

Interview by Tomoko Kawasaki
Photography by Wataru Fukaya(インタビュー、パリ・ショールーム撮影)

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