Interview & Report

井野 将之 Masayuki Ino

井野 将之 Masayuki Ino doublet(ダブレット)

TOKYO FASHION AWARD 2017受賞デザイナー

1979年群馬県生まれ。東京モード学園卒業後、企業デザイナーとして経験を積み、その後MIHARAYASUHIROにて靴・アクセサリーの企画生産を務める。その後、パタンナー村上高士とともに、「doublet」を立ち上げ、2013 S/S展示会よりデビュー。2013年「2013 Tokyo新人デザイナーファッション大賞」プロ部門最優秀賞を獲得し、ビジネス支援デザイナーに選出される。 2017年TOKYO FASHION AWARD受賞。

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ベーシックなアイテムに、デザイナー独自の視点から生まれたユニークなアイデアを盛り込んだ「違和感のある日常着」を信条とするダブレット。ミハラヤスヒロで7年間にわたってシューズデザインを担当した後、2012年より自身のブランドを立ち上げた井野将之氏は、先日 TOKYO FASHION AWARD 2017を受賞し、単独では初となる東京でのショー、2シーズンにわたるパリでのショールーム展示を経験するなど、デザイナーとしてキャリアを着実に積み上げている。すでに海外の有名セレクトショップなどとも取引を行い、国内外から高く評価されている気鋭のデザイナーにインタビューを行った。

 

Masayuki Ino

まずは、井野さんがご自身でブランドを立ち上げるまでの経緯をお聞かせください。

僕は、専門学校を卒業してから、キャラクターブランドのデザイナーやベルト工場で革小物の制作などを経験した後、ミハラヤスヒロで7年ほど靴のデザインを担当していました。ほとんど何もできなかった当時の自分は、毎日のように三原(康裕)さんから怒られる日々でした(笑)。その経験がなければ今の自分はないので非常に感謝しているのですが、ある時期から三原さんにあまり怒られなくなりました。さらに、自分の提案も徐々に通るようになってきましたが、たまに提案が却下された時に「つくれば絶対良いものができるのに・・・」という気持ちが芽生えるようになってきたんです。もちろん、当時の自分には見えていなかった部分や、説明が下手だった部分も多かったと思いますが、徐々に自分のイメージを形にしたいというデザイナーとしての自我が強くなり、やがてブランドを立ち上げたいと思うようになりました。

 

それまで手がけていたシューズではなく、洋服のブランドを立ち上げたのはなぜですか?

最初は正直、どうしようか悩みました。ただ、もともと洋服をつくりたくて専門学校に入ったという経緯もあったし、三原さんの靴をあまりに近くで見ていたので、どうしても師匠の二番煎じにしかならないんじゃないかという思いもありました。それなら、洋服という新しいフィールドに挑んだ方が良いのではないかと考え、ベーシックなアイテムに新鮮なアイデアをひとつ入れて、違和感のある洋服をつくるというコンセプトのもと、ダブレットをスタートしました。服づくりに関しては経験も知識も足りませんでしたが、ブランドを続けているうちに少しずつ成長してきているのではないかと感じています。

 

Masayuki Ino

ブランド設立から現在に至るまでの間に、ターニングポイントはありましたか?

ブランドを始めてからしばらくは、モードを意識した洋服をつくろうとしていたところがありましたが、ある時に自分が本当に好きなものを思いっきりつくろうと吹っ切れ、そこでつくったものが世の中からも受け入れられたんです。それがきっかけとなり、自分らしさ、ブランドらしさというものを表現できるようになったのではないかと思います。例えば、専門学校時代に遊んでいたスケボーやBMXなどのカルチャーや、当時着ていた洋服、夢中になった映画などを思い出しながら、自分の実体験を形にするということを意識するようになりました。

 

これまでに影響を受けたデザイナーやクリエイターについてはいかがですか?

ファッションデザイナーだと、師匠の三原康裕さんはもちろん、アンダーカバーの高橋盾さんも大好きです。海外では、ウォルター・ヴァン・ベイレンドンクやジェレミー・スコットなど突き抜けたユーモアを持っているデザイナーから影響を受けました。また、ファッション以外の分野では、デヴィッド・リンチ、M・ナイト・シャマラン、ダーレン・アロノフスキーなどの映画監督、アンディ・ウォーホルなどのポップアートも好きですね。

 

毎シーズンのテーマはどのように決めていますか?

日常の中で疑問に感じたり、考えを巡らせたこと、あるいは自分が興味を持っているものの中から何かにフォーカスすることが多いです。例えば、2018春夏シーズンでは、「アンデッドストック」というテーマを掲げていて、生きる屍ならぬ「生きる在庫」をイメージしています。ファッション業界にはセールというものがありますが、割引された洋服を販売するという行為は、正規の金額で買ってくれているお客さんに対して申し訳ないという気持ちを持っていました。もちろん、仕方がない部分があることを頭では理解しているのですが、感覚的にモヤモヤするところがあって。そうした思いから着想したテーマのもと、「SALE」という文字が大々的にプリントされたTシャツや、古着屋に置かれたデッドストックのように密封されて試着ができないシャツやTシャツなどをつくりました。

2017年6月にパリで行われたTOKYO FASHION AWARD「showroom.tokyo S/S 2018」の様子

 

そうした遊び心はダブレットの洋服の大きな魅力ですね。

その洋服を見た時にクスッと笑えたり、会話が生まれるようなアイデアというのを大切にしています。そのアイデアの部分にフォーカスできるように、服づくりにおいては余計な要素はなるべく削ぎ落とすようにしています。やっぱりお客さんには楽しんでもらいたいですし、自分の服を着て人気者になってもらえたら良いなと思っています。

先日は、TOKYO FASHION AWARD 2017の受賞ブランドとして、2シーズンにわたるパリでのショールーム、さらに東京でのランウェイショーも経験するなど、ブランドとして次のステージに進んでいますが、今後の展望についてお聞かせください。

海外でのコレクション発表も、単独のショー開催もブランドとしては初めての機会だったので、非常に良い経験になりました。これらの経験を機に自分の中で変わった部分もあり、チャレンジ精神もより強まったので、海外での発表は継続していきたいと思っています。常に興味を持ってもらえるようなブランドになれるように毎シーズン新しい提案を意識しながら、地道に服づくりを続けていきたいですね。

2017年1月にパリで行われたTOKYO FASHION AWARD「showroom.tokyo A/W 2017」の様子

 

Interview by Yuki Harada
Photography by Yohey Goto

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