Interview & Report

松井 信之 Nobuyuki Matsui

松井 信之 Nobuyuki Matsui Nobuyuki Matsui(ノブユキマツイ)

Nobuyuki Matsui Designer

心理学を学びにイギリスに留学、現地のアート作品や環境などに影響を受け洋服製作を始める。テーラードに強い関心を持ち、ロンドンの若手ブランドなどで経験を経て2015年に帰国。2016 A/Wから表現のための服を製作し、2018 S/Sより本格的にReady to wearの生産をはじめ、伝統や職人技術から生まれる手仕事を大切にし、長く大切にできるような服を目指し製作している。

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ビスポークウェアをベースとした確かな技術と上質なクリエイションが評価され、TOKYO FASHION AWARD 2019を受賞したNobuyuki Matsui。世界的なパンデミックによりその後の積極的な海外展開は難しい中だが、今回2年ぶりのランウェイショーでRakuten Fashion Week TOKYOに参加を決めた。日本のメンズウェアにおいて独自のポジションを確立したブランドを率いるデザイナー松井氏に、間近に迫った22SSコレクション発表について、ブランドの現状について、話を伺った。

まず、TOKYO FASHION AWARD 2019を受賞されてから今に至るまで、ブランドのビジネス概況を聞かせていただけますか?

受賞後にパリで展示会、東京でランウェイショーを開催し、海外からの引き合いが始まり出したタイミングに世界的なパンデミックが始まってしまったので、具体的な海外でのビジネスはストップしてしまっている現状です。海外でショーや展示会は出来ないですが、クリエイションは常に海外市場を意識して制作を続けていますね。国内に関しては、伊勢丹新宿店を始めとしたポップアップや企画展示もやりながら、お取引先は20〜25アカウントくらいです。 少人数の体制でブランドを運営していて、まだまだ成長段階ですが、海外で展開するという目標に向かって今できる最大限のことに取り組んでいます。

これからという矢先のパンデミックでしたよね。そうした難しい状況で、今回2年ぶりに、Rakuten Fashion Week TOKYOでランウェイショーを開催されますね!このタイミングでのフィジカル発表を決めた理由を教えてください。

コロナ禍でどのように取引先と関係性を作って行けばいいのかずっと迷っていましたが、今回のSSシーズンからファッション・ウィーク会期が8月に早まったことは決め手になりました。ブランドとして海外に見せたいタイミングで発表することができるようになったのは大きいですね。ランウェイショーで発表することが海外市場に向けた一番のアピールになると僕は思っているんです。コレクションをまずしっかり見てもらうことが本当に大切なので、フィジカルなショーは自分の中でプラスの価値しかないですね。 また、尊敬するデザイナーが参加し作り上げた歴史ある東京のファッション・ウィークで発表出来ることはとても光栄です。ランウェイショーを見たときの高揚感に勝るものはないと思っていて、コレクションを発表し続けるのであればショー発表は必要不可欠なことだと思います。画面越しではわからない感覚があって、20SSシーズンではガラスの反響音を使ったショーをして、生の音を身体で感じてもらう仕掛けを取り入れました。ショーはブランドにとって重要な機会で、絶対に無くなって欲しくないものです。

お話いただける範囲で、ショーの構想も聞かせていただけますか?

今このタイミングにしか、そして自分たちにしか出来ないショーを計画しています。コロナ禍で人と人の関係は一見遠くなったように見えますが、実は逆に近くなっているようにも感じていて、そういう物理的、精神的な意味での距離感を今回のショーでも見せていけたらと。今回はメディア関係の招待客のみのご来場とさせていただきましたが、ライブ配信も予定していますので、そちらを通して多くの方にご覧いただけたらと思っています。ショー終了後には同会場で展示会も行いますので、ショーの余韻や世界観を感じていただきながらバイヤーの皆さまにはコレクションをご覧いただく予定です。

22SSコレクションのテーマについても教えてください。

コレクションのテーマは「カーテン」です。外でもあるし内でもあり、外からも内からの影響も受ける、曖昧な境界線であるカーテンは、不思議な存在でとても魅力的だなと感じて。コロナ禍で自由に色々な場所に行くことが出来なくなりインプットが減った反動で、毎日の些細なことに感銘を受けるようになった中で生まれたテーマですね。「これ本当に着ることが出来るの?」と思われるようなアイテムもあります。先入観やルールによって洋服を捉えるのではなく、カーテン越しに洋服を見るようなイメージで、モデルが着用して歩く姿を見てもらって、それが美しいかどうかを感じて欲しい。多様な解釈をファッションで発信することで固定化された考えが自由なものになり、洋服って美しいな、面白いなと思ってもらえるように、生地の選び方やサイジングなど、いろいろな境界を曖昧にした提案をしています。

これまでのコレクションとは異なるアプローチで発表がとても楽しみになります!Rakuten Fashion Week TOKYOとしては、持続可能なファッションのあり方を注視しているのですが、松井さんはどのように取り組まれているのでしょうか?

産業廃棄物や工場で使われなくなった金型をパーツ使いしたアイテムの制作などに取り組んでいます。とは言っても、洋服づくりで100%のサステナブルは出来ないのではないでしょうか。余白がないとアートが成立しないように、洋服にも必要な無駄があります。何度も裁断して、縫い直して、様々な工程をやり直した上で一つの洋服が出来上がるわけで、ゴミは正直出てしまう。その上で、長く大切に着用してもらえる洋服を作りたいと思っています。10年後のワードローブでも選んで着てもらえるように、ものづくりに真摯に向き合って本当に良いものを作りたいと考えていますね。

ブランドとして、デザイナーとして今後の展望を教えてください。

コロナ収束後にはすぐにでも拠点を海外に移したいと思っていますが、まずはマイペースに出来ることをやって、会社としても育って行きたいと考えています。ランウェイショーはどのような形になるにせよ、継続して開催していきたいですね。

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